がん患者の自殺リスクは診断直後が特に高い――全国がん登録データの解析

 がん診断後には、自殺や自殺以外の外因死(病気以外での死亡)、心血管死のリスクが有意に高く、特に診断後1カ月間の自殺リスクは一般人口の4倍以上に上るというデータが報告された。国立がん研究センターがん対策研究所と東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学の栗栖健氏、藤森麻衣子氏らの研究結果であり、「Cancer Medicine」に8月8日、論文が掲載された。

 国内では2016年に全国がん登録事業がスタートし、現在はがんと診断された全ての患者のデータが収集され、がんの実態把握や治療・サポート体制の改善に生かされている。栗栖氏、藤森氏らはこのデータを用いて、がんと診断された後の自殺リスクなどを検討した。解析対象は、2016年の年始から年末までの1年間に、がんと診断された患者107万876人であり、死亡後にがんと診断された患者や年齢・性別が不明の患者、居住地が国外の患者などは除外されている。

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 2年間の追跡期間中に、自殺による死亡が66​​0人、自殺以外の外因死が1,690人、心血管死が1万2,705人記録されていた。自殺による死亡のリスクを、年齢と性別を調整した標準化死亡比(SMR)として一般人口と比較すると、84%ハイリスクであることが分かった〔SMR1.84(95%信頼区間1.71~1.99)〕。また、自殺以外の外因死〔SMR1.30(同1.24~1.37)〕や心血管死〔SMR1.19(1.17~1.21)〕も、有意なリスク上昇が認められた。なお、自殺による死亡の72%は、死亡場所が自宅だった。

 がんの診断直後には、特にリスクが高いことも明らかになった。例えば追跡1カ月以内の自殺による死亡のSMRは4.40(3.51~5.44)と4.4倍ハイリスクであり、一方、2年目(診断から13~24カ月)のSMRは1.31(1.14~1.50)と依然有意ではあるものの、一般人口との差は31%まで低下していた。同様に、自殺以外の外因死のSMRは、診断後1カ月以内が2.27(1.94~2.63)、2年目が1.27(1.18~1.37)、心血管死は同順に2.38(2.27~2.50)、1.07(1.04~1.10)だった。

 年齢、性別、原発巣、単発がん/重複がん、腫瘍の範囲を変数とするポアソン回帰モデル(心血管死については二項回帰モデル)による解析の結果、自殺による死亡リスクは、原発巣別では食道〔結腸を基準とする相対リスク(RR)2.01(1.33~3.04)〕で有意に高く、前立腺がんでは有意に低かった〔RR0.62(0.43~0.89)〕。腫瘍の範囲については、限局性を基準として、隣接部位への浸潤ありでRR1.49(1.21~1.83)、転移ありでRR2.37(1.89~2.99)だった。年齢や性別、重複がんか否かは自殺による死亡リスクと有意な関連がなかった。

 自殺以外の外因死については、80歳以上で低リスク(50代を基準としてRR0.54)、女性でハイリスク(RR1.14)であり、白血病(RR2.19)や脳・中枢神経のがん(RR2.10)を含む複数のがんで有意なリスク上昇が認められた。心血管死については若年層でRRが高い一方、高齢者層では低く、また女性や重複がんなどで有意なリスク上昇が認められた。また、自殺以外の外因死、心血管死ともに、自殺による死亡と同様、腫瘍の範囲が大きいほどハイリスクだった。

 一連の結果を基に著者らは、「がん診断後には自殺や自殺以外の外因死、心血管死のリスクが高く、特に診断直後や病期の進行した患者でハイリスクだった。そのようなハイリスク患者に対するケアと自殺予防対策が必要とされる」と結論付けている。また、「本研究では長期的リスクの検討ができておらず、ハイリスク要因分析では原発巣ごとの事例数が少ないなどの課題もあるため、継続的な評価が求められる」と付け加えている。

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HealthDay News 2022年10月31日
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