• 日本人高齢者は「高めの普通体重」が最適の可能性――説明可能なAIの分析

     「説明可能な人工知能(AI)」を用いた分析の結果、日本人高齢者では、body mass index (BMI)が標準体重の範囲内でやや高めの場合に、最も死亡リスクが低い可能性があるとする研究結果が報告された。日本女子大学家政学部食物学科臨床医学・代謝内科学研究室(研究時点の所属は神奈川県立保健福祉大学)の中島啓氏らの研究によるもので、詳細は「Geriatrics」に6月16日掲載された。

     一般的にはBMIが18.5~25.0kg/m2未満の「普通体重」が最も健康的とされているが近年、高齢者や慢性疾患患者では、BMI25kg/m2以上の肥満者の方がむしろ長寿であることを示唆する研究結果が報告されるようになった。このような「肥満パラドックス」とも呼ばれる現象のメカニズムはよく分かっていないが、それらの研究対象が健康な一般住民ではなく、何らかの疾患のある人を対象とした研究が多いことが、理由の一つと考えられている。そこで中島氏らは、神奈川県大和市の地域在住高齢者の健診データを用いて、BMIと死亡リスクとの関係を検討した。

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     2011年度に同市で健診を受けた高齢者5,958人からデータ欠落者を除外した5,699人(平均年齢79歳、男性43.0%)を対象とし、分析には説明可能なAIシステムを用いた。説明可能なAIとは、従来のAIでは結論を導き出した過程を全く知ることができなかったが、その一部を理解できるようにしたAIのこと。例えば、多数の因子と寿命との関連の分析に際して、AIがどの因子をどの程度重視したかを知ることが可能(特徴量重要度という指標がその一つ)。本研究では、BMI以外の死亡リスクに関連し得る因子として、年齢、性別、喫煙習慣、身体活動量、飲酒量、高血圧・糖尿病・脂質異常症の薬物治療、心血管疾患の既往を共変量として設定した。

     平均7.22年の追跡で1,413人(24.8%)が死亡。上記の共変量を考慮しないモデルでは、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが最も低いBMIは25.9~28.4kg/m2であり、肥満(欧米の基準では肥満の一歩手前の過体重)と死亡リスク低下との関連が認められた。全死亡リスクが最も高いBMIは12.8~18.7kg/m2だった。

     しかし、上記の共変量を調整したモデルで分析すると、全死亡のリスクが最も低いBMIは22.7~23.6kg/m2となり、肥満ではなく標準体重の範囲内でやや高めの体重が最適であることが示された。全死亡リスクが最も高いBMIは前記の分析と同様に12.8~18.7kg/m2だった。AIが何らかの因子を過大評価してしまう「過剰適合」を補正する「交差検定」を行うモデルで分析しても、この結果は変わらなかった。

     AIが死亡リスクの判定に際して最も重視していた因子は年齢であり、共変量を調整した交差検定モデルでも変わらなかった(特徴量重要度0.253)。2番目に重視していた因子は性別(男性)であった(特徴量重要度0.129)。年齢、性別に続いてBMIが3番目に重視されており(同0.099)、その中でもBMI22.7~23.6kg/m2が死亡リスクの負の因子として大きく関与しており(同0.046)、BMI12.8~18.7kg/m2は正の因子として大きく関与していた(同0.091)。4番目以降の因子は、喫煙習慣、身体活動量、心血管疾患の既往、高血圧・糖尿病・脂質異常症の薬物治療、飲酒量の順だった。

     年齢層や性別に分析すると、80代まではBMIと死亡リスクの関連が負の線形、またはL字型となる傾向が見られた(いずれもBMI低値で死亡リスクが高いことを意味する)。一方、90歳以上の男性では、U字型の関係が見られた。

     以上を基に著者らは、「説明可能なAIを用いた分析の結果、日本人の地域在住高齢者では、低体重が全死亡リスクの高さに関連していることは明らかだ。ただし、過体重や肥満であることが死亡リスクの抑制に最適とは言えない可能性がある。年齢、性別、併存疾患によって異なるが、普通体重の範囲内でやや高めのBMIであることが最適ではないか」と結論を述べている。

     なお、本研究は、神奈川県大和市と神奈川県立保健福祉大学との「保健・医療・福祉事業の推進に関する連携協定」に基づく取り組みの一環として実施された。

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    肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

    肥満症の危険度をセルフチェック!一般的な肥満との違いは?

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年7月25日
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  • 爪の変色が再入院リスクと独立して関連――国内単施設前向き研究

     入院患者の爪の色から、退院後の再入院リスクを予測可能であることを示すデータが報告された。爪の半月(非高齢者の大半に見られる爪の根元の白い部分)がなくなっているのに爪の色が白く変化している高齢者は、交絡因子を調整後も再入院リスクが有意に高いという。雲南市立病院地域ケア科診療科の太田龍一氏らの研究によるもので、研究成果が「Cureus」に4月19日掲載された。

     爪の色は、メカニズムの理解は不十分ながら、慢性疾患患者や低栄養状態では白く変化するケースのあることが知られている。爪の色は簡単に確認できる上に、変化した色は短期間では変わらないため、急性疾患患者の入院前の状態の推測や管理強化・予後予測の指標となる可能性もある。ただし、それらの関連の実態は明らかでない。太田氏らは、入院患者に見られる白い爪と再入院リスクとの関連について、単施設前向きコホート研究により検討した。

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     2020年4月~2021年3月に同院一般内科に入院した65歳超の患者から、爪白癬・欠損などのため評価不能の症例や院内死亡症例を除外した637人を検討対象とした。トレーニングを受けたスタッフが患者の爪の色を評価し、白く変化している群と変化していない群の2群に分類して、2021年6月30日まで追跡した。なお、第1指(親指)は高齢者でも半月が残っていることが多いため、評価の対象外とした。また、評価を行うスタッフは、患者の疾患名や病状の詳細を知らされていなかった。

     解析対象者637人の主な特徴は、平均年齢81.20±14.03歳、男性43.2%、BMI20.76、eGFR58.86mL/分/1.73m2、アルブミン3.55g/dL、ヘモグロビン11.93g/dL、退院時のFIMスコア(機能的自立度の指標)92.00、認知症18.1%など。入院中に158人(24.8%)が、爪が白く変化していると判定された。

     爪が白く変化している群とそうでない群を比較すると、前者は高齢で、BMI、アルブミン、ヘモグロビン、FIMスコアが有意に低く、チャールソン併存疾患指数、および認知症や脳血管疾患の有病率が有意に高いといった群間差が認められた。性別(男性の割合)やeGFR、および認知症・脳血管疾患以外の慢性疾患(心筋梗塞、心不全、糖尿病、COPD、肝疾患、腎疾患、がんなど)の有病率は有意差がなかった。

     追跡期間中に183人(28.7%)が再入院した。なお、同院は雲南地域の中核病院であり、同院退院後の患者は雲南市内の医療機関で継続的に管理され、再度入院が必要とされた全ての患者(転居者以外)が同院へ再入院していた。

     再入院率は、爪が白く変化している群41.1%、対照群24.6%であり、前者が有意に高かった(P<0.001)。Cox回帰分析の結果、心不全〔ハザード比(HR)1.53(95%信頼区間1.06~2.21)〕、がん〔HR1.52(同1.03~2.22)〕、認知症〔HR1.52(同1.03~2.25)〕とともに、爪が白く変化していること〔HR2.07(同1.45~2.97)〕が、それぞれ独立した再入院のリスク因子であることが分かった。反対に、初回入院時の在院日数が短いことや自宅退院は、再入院リスクの低さと関連していた。

     再入院の原因疾患としては、腎盂腎炎(18.0%)、心不全(16.9%)、肺炎(12.6%)、脳卒中(6.0%)、骨折(4.9%)などが多く見られた。また、再入院患者の4人に3人以上に当たる77.1%が退院後90日以内に再入院し、95.1%が180日以内に再入院していた。

     以上より著者らは、「さらなる研究が必要ではあるが、高齢入院患者の爪の色を評価することで、再入院リスクを予測できる可能性がある。爪の変色に関する情報を医療と介護のスタッフが共有することで、ケアの質を向上できるのではないか」と総括。また爪の変色の原因について、「毛細血管の血流障害などによる爪床の異常や物質の沈着といった機序が考えられるが詳細は不明であり、その解明も求められる」と付け加えている。

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    心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。

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    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年7月25日
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