• BMIと心血管疾患による院内死亡率との関連――日本人150万人のデータ解析

     心筋梗塞や心不全、脳卒中などの6種類の心血管疾患(CVD)による院内死亡率とBMIとの関連を、日本人150万人以上の医療データを用いて検討した結果が報告された。低体重は全種類のCVD、肥満は4種類のCVDによる院内死亡リスクの高さと、有意な関連が見られたという。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科先端医学分野の山下智也氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に11月7日掲載された。

     肥満が心血管代謝疾患などのリスク因子であることは広く知られており、肥満是正のための公衆衛生対策が長年続けられている。その一方、高齢者では肥満が死亡リスクに対して保護的に働くことを示すデータもあり、この現象は「肥満パラドックス」と呼ばれている。ただし、肥満の健康への影響は人種/民族により大きく異なると考えられることから、わが国でのエビデンスが必要とされる。そこで山下氏らは、日本循環器学会の患者レジストリ「循環器疾患診療実態調査(JROAD)」を用いて、日本人のBMIと急性心血管疾患による院内死亡率との関連を検討した。

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     JROADには、循環器専門医研修施設に認定されている全国1,086の病院から、2012~2019年度に合計502万464人の入院患者のデータが記録されていた。このうち、院内死亡率を算出するという目的のため、再入院の記録のある患者を除外。また、既往歴を含む患者情報が正確に記録されていない可能性があるため、入院期間が1日以下の患者も除外。その他、20歳未満の患者や、疾患別の症例数が10件以下の施設からの報告などを除外した。最終的な解析対象患者数は、急性心不全27万7,489人、急性心筋梗塞30万7,295人、急性大動脈解離9万6,114人、虚血性脳卒中58万8,382人、脳内出血20万1,243人、くも膜下出血6万2,420人だった。

     低体重や肥満の判定は、世界保健機関(WHO)によるアジア人の基準に基づき、18.5未満を低体重、18.5~23未満を普通体重、23~25未満を過体重、25~30未満をI度肥満、30以上をII度肥満と分類した。なお、6種類のCVDの全てで、年齢とBMIの逆相関が認められた。また、全てのCVDで経年的に平均BMIが増加していたが、平均BMI値が22~24の範囲を超えることはなかった。

     院内死亡率との関連の解析に際しては、年齢と性別を調整する「モデル1」、および、モデル1の調整因子に高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、慢性呼吸器疾患、心房細動などを加えた「モデル2」の2パターンで検討した。普通体重を基準とする解析の結果、低体重はモデル1・2のいずれでも、6種類全てのCVDによる院内死亡リスクが有意に高いという関連が認められた。一方、過体重やI度肥満ではCVDの種類によっては、普通体重よりも低リスクのケースも見られた。モデル2の解析結果は以下の通り。

     急性心不全は、低体重(OR1.41)で有意に高リスク、過体重(OR0.93)とI度肥満(OR0.91)では有意に低リスク、II度肥満は有意な関連がなかった。

     急性心筋梗塞は、低体重(OR1.27)で有意に高リスク、過体重は有意な関連がなく、I度肥満(OR1.17)やII度肥満(OR1.65)は有意に高リスクだった。

     急性大動脈解離は、低体重(OR1.23)、過体重(OR1.10)、I度肥満(OR1.34)、II度肥満(OR1.83)であり、普通体重に比べて全BMIカテゴリーが有意に高リスクだった。

     虚血性脳卒中は、低体重(OR1.45)で有意に高リスク、過体重(OR0.86)とI度肥満(OR0.88)は有意に低リスクであり、II度肥満は有意な関連がなかった。

     脳内出血は、低体重(OR1.18)で有意に高リスク、過体重(OR0.93)は有意に低リスク、I度肥満(OR1.05)やII度肥満(OR1.26)は有意に高リスクだった。

     くも膜下出血は、低体重(OR1.17)で高リスク、過体重は有意な関連がなく、I度肥満(OR1.27)やII度肥満(OR1.44)は有意に高リスクだった。

     著者らは、「全国規模の観察研究により、CVD患者の院内死亡率とBMIとの関連が明らかになり、低体重は全ての種類のCVD院内死亡リスクの高さと関連があって、肥満は心不全と虚血性脳卒中以外のCVD院内死亡リスクの高さと関連があった。この知見は、BMIに焦点を当てた公衆衛生対策の政策立案に寄与し得るのではないか」と総括している。

    肥満症のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

    肥満症の危険度をセルフチェック!一般的な肥満との違いは?

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年12月12日
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  • 健康経営と企業の業績の関連性

     労働者の健康を重視することで生産性の向上を期待するという「健康経営」が、実際に企業収益を押し上げている可能性を示唆するデータが報告された。滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門の矢野裕一朗氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiology and health」に9月23日掲載された。

     バブル崩壊以降続いている日本の競争力の低下の一因として、労働者の生産性の低さが指摘されている。労働者の生産性の向上には、健康で安心して働ける環境が必要と考えられることから、経済産業省は「健康経営」の普及を推進しており、例えば「健康経営銘柄」の選定などを行っている。ただし、従業員の健康への投資がその企業の業績向上に結び付いているのか否かは不明。矢野氏らは、経産省の健康経営に関する年次調査のデータと、企業が公表している財務指標との関連を調べるという手法で、この点を検討した。

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     調査対象は1,593社だった。その内訳は、2017年度の経産省調査と2017~2020年度の財務指標データの双方を得られた842社、および、2018年度経産省調査と2018~2020年度の財務指標データの双方を得られた751社。業種は、専門サービスが12.7%、電気通信12.4%、小売11.2%、金融サービス8.7%、卸売7.3%、電気製造5.9%、建設4.3%、化学4.1%、輸送機器3.8%、海運3.5%、食品3.3%など。これらの企業の従業員数は合計435万9,834人で平均年齢40.3±3.4歳、女性25.8%、勤続年数は14.2±4.9年だった。

     財務指標を基に従業員1人当たりの利益の増加が大きい上位25%の企業を“業績良好(=利益あり)”と定義し、それと関連性の強い健康経営調査の項目を抽出した上で、利益が上昇している企業を特定するためのモデルを作成。統計学的解析の結果、正確度0.997、精度0.993、再現性0.997という予測能の高いモデルを得られた。このモデルの中で、健康経営調査の各項目の重要度(企業利益ありに対する寄与度)をシャープレイ値(SHAP値)という指標で評価したところ、以下のように、健康経営指標と、従業員1人当たりの利益の増加との関連が明らかになった。なお、SHAP値は数値が大きいほど重要性が高いことを意味する。

     従業員1人当たりの利益の増加に最も強い関連のある健康経営指標は、現在の喫煙者の割合の低さであり、SHAP値は0.121だった。2位は従業員1人当たりの医療サービスコスト(SHAP値0.084)で、そのほかは、よく眠れる従業員の割合(同0.055)、定期的に運動する習慣がある従業員の割合(0.043)、1人当たりの年間福利厚生費(0.041)などだった。

     著者らは、本研究が観察研究であり因果関係の証明にはならないこと、例えば、企業業績が良好なために福利厚生に力を入れているという結果を表している可能性があることなどを、解釈上の限界点として挙げている。その上で、「企業従業員のライフスタイルに関連する健康リスク要因と、企業の収益性との間に関連があることが実証された。労働者の生産性を引き下げる健康上のリスクを特定して対処するという投資が、将来的な収益改善に貢献する可能性が想定される」と結論付けている。

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    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年12月15日
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