• 高齢ドライバーの事故リスクとなり得る疾患有病率の実態――多施設共同研究

     高齢ドライバーの交通事故のリスクを高める可能性のある疾患の有病率を、多施設の外来患者を対象に調査した結果が報告された。岡山大学病院総合内科・総合診療科の萩谷英大氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に10月11日掲載された。

     高齢ドライバーの交通事故がしばしばニュースになる。そのような事故を減らすために、免許更新時の認知機能テストの施行や免許返納の働きかけなどが行われている。しかし、公共交通機関の少ない地方の高齢者の場合、自分で運転しなければ生活が困難なことが多いという問題もある。一方、高齢ドライバーの事故の原因として、医学的要因が関与しているケースが少なくないことが報告されている。具体的には、身体機能や認知機能の低下、多剤併用(ポリファーマシー)などが事故リスクを押し上げる可能性が指摘されている。ただし、国内の高齢ドライバーがそれらの問題をどのくらい抱えているのかは明らかでない。このような状況を背景として、萩谷氏らは医療機関受診者を対象とする多施設共同研究による実態把握を試みた。

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     この研究は、岡山県、広島県、香川県の11の医療機関が参加し、2021年1~5月に行われた。外来受診者に対する自記式アンケートにより、自動車運転や事故経験などに関する情報を把握。また、事故リスクを高める可能性のある医学的要因に関する情報を、簡単なテストや一般的な身体検査によって把握した。

     評価した医学的要因は、ポリファーマシー、サルコペニア、認知機能障害、フレイルおよびオーラルフレイル。このうち、ポリファーマシーは6種類以上の薬剤を1カ月以上服用していることで定義し、「お薬手帳」を医療スタッフが確認して評価。サルコペニアは、指輪っかテスト(両手の指で作った輪でふくらはぎを囲み隙間ができるか否か)、および30秒椅子立ち上がりテストで判定した。認知機能障害はMini-Cogテストに基づいて判定した。

     161人がこの調査に参加。そのうち既に免許を返納していた人や、ペーパードライバーなどを除外し、127人を解析対象とした。年齢は中央値73歳(四分位範囲70〜78)、男性64.6%、女性35.4%であり、介護保険の利用状況は、95.3%が未利用で、要支援認定1が1人(0.8%)、同2が3人(2.4%)だった。

     運転の頻度は、60.6%が「日常的に運転をする」と回答し、その他の39.4%は「時々運転する」と回答した。この2群で比較すると、年齢、性別、介護保険の利用状況に有意な群間差はなかったが、外出頻度は日常的に運転する群の方が有意に高かった。他方、同居家族数、歩行時間、自宅から最寄り駅やバス停までの距離、友人などとの交流の頻度、整形外科や眼科の受診頻度、補聴器の使用率などには有意差が認められなかった。

     ポリファーマシーの該当者率は27.6%で、そのうち眠気を催すことの多い薬剤として、ベンゾジアゼピン系薬(睡眠薬や抗不安薬の一種)は12.5%に、抗ヒスタミン薬(アレルギー症状などの治療薬)は3.1%に処方されていた。運転頻度別でポリファーマシー該当者率を見ると、日常的に運転をする群が31.2%、時々運転する群は22.0%で前者の方が高いものの、群間差は有意でなかった。

     サルコペニアの該当者率は全体で8.7%であり、日常的に運転をする群は13.0%、時々運転する群は2.0%であって前者の方が高かった。

     認知機能障害(Mini-Cogテストが3点以下)の該当者率は全体で16.4%であり、前記と同順に18.2%、14.0%だった。フレイルの該当者率は全体で15.0%、オーラルフレイルは54.3%であり、これらはいずれも運転頻度で比較した場合の群間差は非有意だった。

     過去の交通事故の体験については、62.2%が「経験あり」と回答した。その割合は、日常的に運転をする群が29.9%、時々運転する群は46.0%であって、後者の方が高いものの、群間差は有意でなかった。免許返納の意思がある人の割合は同順に2.6%、14.0%であり、時々運転する群で高いという有意差が見られた。

     著者らは本研究について、認知機能障害やサルコペニアなどを簡便な方法で判定しており確実な診断に基づく解析ではないことや、サンプル数が十分でないことを限界点として挙げている。その上で結論を、「地域在住高齢ドライバーの交通事故に関連する可能性のある医学的要因の有病率が明らかになった。多くの高齢者が何らかのリスクのある状態で運転している現状において、高齢ドライバーの交通事故抑止のために、より厳格なスクリーニングの実施などの措置が必要と考えられる。同時に、地方に住む高齢者の生活を守る手段も確保されなければならない」とまとめている。

    軽度認知障害(MCI)のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

    軽度認知障害(MCI)のリスクをセルフチェックしてみよう!

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    HealthDay News 2022年12月26日
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  • 人には聞こえない音が食後の血糖上昇を抑える可能性

     人の耳には聞こえない超高周波が含まれている音が流れている環境では、ブドウ糖負荷後(日常生活では食後に相当)の血糖値の上昇が抑制される可能性が報告された。国立精神・神経医療研究センター神経研究所疾病研究第七部の本田学氏、国際科学振興財団の河合徳枝氏らの研究によるものであり、結果の詳細は「Scientific Reports」に11月2日掲載された。

     メンタルヘルス関連の病気だけでなく、糖尿病や高血圧などの身体疾患の病状にもストレスが深く関与していることが知られている。そのため、ストレスを抑制する心理的なアプローチが試みられることもあるが、ストレスの原因や効果的な対処法は人それぞれ異なることから、実用性は限定的。一方、脳の情報処理メカニズムに着目し、音や光などの刺激を用いた新たな治療法の確立を目指す、「情報医学・情報医療」という研究が続けられている。

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     本田氏らは今回、人の耳には聞こえない20kHz以上の超高周波を含む音による糖代謝への影響を検討した。なお、同氏らは既に、そのような音が、脳内の報酬系神経回路の血流量を増やし、ストレスホルモンを低下させ、免疫能を高めることを報告している。また、超高周波は自然環境の音には含まれているものの、都市環境やデジタル音源にはほとんど含まれていないという。

     研究参加者は、糖尿病治療を受けていない健康な成人25人(平均年齢57.6±7.5歳、女性が12人、HbA1c5.52±0.41%)。設定した研究室内の環境音は、以下の3通り。超高周波が含まれている熱帯雨林の自然環境音、その自然環境音から超高周波を除去した音、および無音(研究室のファンの音などの雑音のみ)。血糖値への影響は、糖尿病の診断に用いられている経口ブドウ糖負荷試験(75gのブドウ糖溶液を飲んだ後、2時間にわたり血糖値の変化を見る検査)で評価した。なお、試行前日の夜からは絶食(水のみ摂取可)とし、3回の試行の時間帯は一致させ、全ての試行を10日以内に完了した。また、血糖値は静脈採血ではなく、間歇スキャン式持続血糖測定器(isCGM)で測定した。

     ブドウ糖負荷後の血糖値は、超高周波が含まれている音の環境では低値で推移していた。超高周波が除去された音の環境との比較では、血糖レベルが有意に低く(P=0.025)、ベースラインからの血糖値の上昇幅も有意に少なかった(P=0.000012)。無音条件との比較では、血糖レベルは有意差がないものの(P=0.16)、ベースラインからの血糖値の上昇幅は有意に少なかった(P=0.0018)。

     血糖上昇曲線下面積(AUC)の比較では、超高周波が含まれている音の環境はそれが含まれていない環境より有意に低値であり(P=0.039)、無音条件とは有意差がなかった(P=0.13)。また、超高周波の音が含まれていない環境と無音条件も有意差がなかった(P=0.66)。

     HbA1cの高低で二分して検討すると、超高周波が含まれている音による血糖上昇抑制効果はHbA1c5.5%以上の群でのみ認められた。また、年齢の高低で層別化した場合は、59歳以上の群でのみ、その効果が確認された。

     著者らは本研究の限界点として、血糖値を静脈血漿値で測定していないこと、主観的なストレスの変化との関連を検討していないことなどを挙げている。その上で、「高周波を含む音が耐糖能障害リスクのある人の糖代謝を改善し得る可能性が示された」と結論付け、「糖尿病患者の血糖管理や糖尿病発症予防への有用性を、大規模なサンプルで検証する必要がある」と、今後の展望を語っている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

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    HealthDay News 2022年12月26日
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  • 夜7時以降に温泉に入る人には高血圧患者が少ない――別府市民1万人の調査

     温泉入浴の習慣がある人には高血圧が少ないことが明らかになった。国内最大規模の温泉郷を有する別府市市民を対象とする、九州大学別府病院内科の山崎聡氏らの研究によるものであり、結果の詳細は「Scientific Reports」に11月14日掲載された。入浴時間帯別に解析すると、夜7時以降に温泉に入る習慣のある人で、高血圧該当者率の有意な低下が観察されたという。

     高血圧は日本の国民病とも言われるほど多い病気で、50歳以上の男性と60歳以上の女性の6割以上が高血圧に該当すると報告されている。一方、温泉入浴については古くからさまざまな健康上のメリットが報告されてきている。そこで山崎氏らは、2011年に別府で実施された、温泉入浴や疾患既往歴に関するアンケート調査の結果を用いて、温泉入浴と高血圧との関連を検討した。

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     このアンケートは、別府市民から無作為に抽出した2万人に対して回答協力を依頼。本研究ではそのうち65歳以上の高齢者1万428人の回答を解析対象とした。そのうち、高血圧の既往があると回答した人は4,001人(38.3%)だった。なお、調査時点で別府市に居住していた高齢者数は3万4,465人。

     単変量解析の結果、85歳以上は有意に高血圧の該当者率が高く〔65~69歳を基準とするオッズ比(OR)1.460(95%信頼区間1.230~1.740)〕、女性は有意に低かった〔OR0.923(同0.852~0.999)〕。併存疾患との関連については、痛風(OR1.860)、脂質異常症(OR1.650)、脳卒中(OR1.620)、不整脈(OR1.610)、腎疾患(OR1.520)、糖尿病(OR1.460)の既往のある人では高血圧該当者率が有意に高かった。反対に、慢性肝炎(OR0.656)の既往者は該当者率が有意に低かった。がんやうつ病、虚血性心疾患、喘息、膠原病との関連は非有意だった。

     温泉入浴の習慣との関連では、入浴時間が10~30分未満の群で高血圧該当者率が有意に低く〔10分未満を基準として10~19分はOR0.832、20~29分はOR0.765〕、30分以上では非有意だった。また入浴の時間帯については、13~19時に入浴する群では該当者率が有意に高く〔9時前に入る群を基準としてOR1.220〕、反対に19時以降に入浴する群では有意に低く(OR0.840)、9~13時に入る群は非有意だった。温泉の泉質については、高血圧該当者率と有意な関連のある泉質は特定されなかった。

     続いて、単変量解析で有意だった因子を説明変数とする多変量解析を施行。その結果、高血圧該当者率に独立して関連する因子として、85歳以上〔65~69歳を基準としてOR1.410(95%信頼区間1.170~1.680)〕に加え、単変量解析で有意だった疾患既往歴は全て有意性が保たれていた。入浴習慣関連では、19時以降に入浴する群で有意に低いオッズ比が観察され〔OR0.850(同0.768~0.940)〕、入浴時間の長さや入浴頻度、温泉入浴歴などは非有意だった。

     本研究について著者らは、疾患既往歴が自己申告によること、高血圧の治療の詳細が不明なこと、横断研究であり因果関係は不明であることなどの限界点を挙げている。その上で、「夜7時以降の温泉入浴は、高齢者の高血圧該当者率の低さと有意に関連している。高血圧治療における夜間の温泉入浴の有用性を検証する無作為化比較試験が期待される」と述べている。

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  • アルコール摂取と白内障リスクとの関連が明らかに――日本人約3万人の症例対照研究

     アルコールの摂取習慣と白内障リスクとの間に、有意な用量反応関係があることが、日本人約3万人のデータを用いた症例対照研究の結果として示された。飲酒をやめた人は白内障リスクが低下する可能性があることも明らかになった。東海大学医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学の深井航太氏、東京慈恵会医科大学眼科学の寺内稜氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に11月22日掲載された。

     白内障は眼のレンズである水晶体が混濁して視機能が低下する病気で、多くは加齢現象として生じる。詳細な検査を行えば高齢者の大半に認められるほど有病率の高い病気のため、仮に修正可能なリスク因子があるとすれば、公衆衛生対策の大きな効果が期待できる。これまでに、飲酒も白内障のリスク因子の一つである可能性が検討されてきているが、結果に一貫性が見られない。また、それらの研究は主に海外で行われており、超高齢社会の日本は白内障治療を受ける患者数が多いにもかかわらず、そのような視点での研究がほとんど行われていない。深井氏らの研究はこうした背景の下で行われた。

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     この研究には、国内最大級の入院患者レジストリである、34カ所の労災病院グループによる「入院患者病職歴調査(ICOD-R)」のデータが用いられた。2005~2019年度に同グループ病院へ加齢性白内障の手術治療のために入院した40~69歳の患者を「症例群」、性別、年齢(±5歳以内)、入院年などが一致する白内障以外の疾患での入院患者を「対照群」として抽出。各群1万4,861人からなる症例対照研究として実施した。なお、加齢性白内障は高齢であるほどハイリスクとなるため、飲酒量との関連を検討するという目的から、年齢上限を69歳とした。

     飲酒量については、飲酒の頻度(飲酒習慣なし、以前は飲酒習慣があったが現在はなし、週1~3回、週4~7回)、1日当たりの飲酒量〔飲まない、1日2ドリンク以下、2超~4ドリンク以下、4ドリンク超(1ドリンクはエタノール換算10g相当)〕を把握。さらに、両者の積により飲酒の生涯累積摂取量〔摂取なし、40以下、40超~60以下、60超~90以下、90超(単位はdrink-years)〕を算出した。また、飲酒以外の共変量として、喫煙習慣、生活習慣病(高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満)の有無、屋外作業の有無、職業上の放射性被曝リスクの有無などを把握した。

     症例群と対照群を比較すると、前者は飲酒習慣のある人や、高血圧・糖尿病患者や屋外作業をしている人の割合が有意に高かった。喫煙習慣や教育歴、職業上の放射性被曝リスク、脂質異常症、肥満の割合などは有意差がなかった。

     前述の共変量を全て調整したロジスティック回帰分析の結果、飲酒頻度、1日当たりの飲酒量、生涯累積摂取量のいずれについても、高値であるほど白内障手術を受ける人の割合が高いという有意な傾向性が認められた(全てP<0.01)。例えば、過去に飲酒習慣のない人を基準として飲酒頻度が週4~7回の群のオッズ比(OR)は1.30(95%信頼区間1.21~1.40)であり、また飲酒頻度が週に1~3日〔OR1.10(同1.03~1.17)〕や、1日当たりの飲酒量が2ドリンク以下〔OR1.13(1.06~1.20)〕であっても、有意なオッズ比の上昇が認められた。

     それに対して、以前は飲酒習慣があったものの現在は飲んでいない群はOR1.00(0.91~1.09)で、関連は非有意だった。なお、性別に解析した結果は、男性・女性ともに全体解析の結果と同様であり、全て有意な傾向性が認められた。生涯累積摂取量については、男性では90超〔OR1.26(1.14~1.39)〕で有意なオッズ比上昇が見られたのに対して、女性では40超~60以下〔OR1.31(1.14~1.51)〕でもオッズ比上昇が認められた。

     感度分析として、既知の白内障リスク因子である糖尿病患者を除外した解析では、以前は飲酒習慣があったものの現在は飲んでいない群でオッズ比低下が認められ、特に女性でその傾向が強かった〔男性はOR0.93(0.81~1.06)、女性はOR0.86(0.74~1.00)〕。

     著者らは、本研究では白内障リスクを入院での手術症例のみで判断しており、日帰り手術が含まれていないためリスクを過小評価している可能性があることなどを、限界点として挙げている。その上で、「日本人ではエタノール換算20g/日程度の低用量の飲酒であっても白内障リスクが上昇する可能性が示された。また、飲酒量と白内障リスクとの間に用量反応関係が認められた。白内障患者に対しては、飲酒量を抑えるという生活習慣の改善が推奨される」と結論付けている。

     なお、飲酒が白内障の進行を促すメカニズムについては、「アルコール代謝は酸化ストレスと関連があり、その過程で発生する活性酸素種が水晶体タンパク質の変性を引き起こすといった経路が考えられる」と考察している。

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  • BMIと心血管疾患による院内死亡率との関連――日本人150万人のデータ解析

     心筋梗塞や心不全、脳卒中などの6種類の心血管疾患(CVD)による院内死亡率とBMIとの関連を、日本人150万人以上の医療データを用いて検討した結果が報告された。低体重は全種類のCVD、肥満は4種類のCVDによる院内死亡リスクの高さと、有意な関連が見られたという。神戸大学大学院科学技術イノベーション研究科先端医学分野の山下智也氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に11月7日掲載された。

     肥満が心血管代謝疾患などのリスク因子であることは広く知られており、肥満是正のための公衆衛生対策が長年続けられている。その一方、高齢者では肥満が死亡リスクに対して保護的に働くことを示すデータもあり、この現象は「肥満パラドックス」と呼ばれている。ただし、肥満の健康への影響は人種/民族により大きく異なると考えられることから、わが国でのエビデンスが必要とされる。そこで山下氏らは、日本循環器学会の患者レジストリ「循環器疾患診療実態調査(JROAD)」を用いて、日本人のBMIと急性心血管疾患による院内死亡率との関連を検討した。

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     JROADには、循環器専門医研修施設に認定されている全国1,086の病院から、2012~2019年度に合計502万464人の入院患者のデータが記録されていた。このうち、院内死亡率を算出するという目的のため、再入院の記録のある患者を除外。また、既往歴を含む患者情報が正確に記録されていない可能性があるため、入院期間が1日以下の患者も除外。その他、20歳未満の患者や、疾患別の症例数が10件以下の施設からの報告などを除外した。最終的な解析対象患者数は、急性心不全27万7,489人、急性心筋梗塞30万7,295人、急性大動脈解離9万6,114人、虚血性脳卒中58万8,382人、脳内出血20万1,243人、くも膜下出血6万2,420人だった。

     低体重や肥満の判定は、世界保健機関(WHO)によるアジア人の基準に基づき、18.5未満を低体重、18.5~23未満を普通体重、23~25未満を過体重、25~30未満をI度肥満、30以上をII度肥満と分類した。なお、6種類のCVDの全てで、年齢とBMIの逆相関が認められた。また、全てのCVDで経年的に平均BMIが増加していたが、平均BMI値が22~24の範囲を超えることはなかった。

     院内死亡率との関連の解析に際しては、年齢と性別を調整する「モデル1」、および、モデル1の調整因子に高血圧、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病、慢性呼吸器疾患、心房細動などを加えた「モデル2」の2パターンで検討した。普通体重を基準とする解析の結果、低体重はモデル1・2のいずれでも、6種類全てのCVDによる院内死亡リスクが有意に高いという関連が認められた。一方、過体重やI度肥満ではCVDの種類によっては、普通体重よりも低リスクのケースも見られた。モデル2の解析結果は以下の通り。

     急性心不全は、低体重(OR1.41)で有意に高リスク、過体重(OR0.93)とI度肥満(OR0.91)では有意に低リスク、II度肥満は有意な関連がなかった。

     急性心筋梗塞は、低体重(OR1.27)で有意に高リスク、過体重は有意な関連がなく、I度肥満(OR1.17)やII度肥満(OR1.65)は有意に高リスクだった。

     急性大動脈解離は、低体重(OR1.23)、過体重(OR1.10)、I度肥満(OR1.34)、II度肥満(OR1.83)であり、普通体重に比べて全BMIカテゴリーが有意に高リスクだった。

     虚血性脳卒中は、低体重(OR1.45)で有意に高リスク、過体重(OR0.86)とI度肥満(OR0.88)は有意に低リスクであり、II度肥満は有意な関連がなかった。

     脳内出血は、低体重(OR1.18)で有意に高リスク、過体重(OR0.93)は有意に低リスク、I度肥満(OR1.05)やII度肥満(OR1.26)は有意に高リスクだった。

     くも膜下出血は、低体重(OR1.17)で高リスク、過体重は有意な関連がなく、I度肥満(OR1.27)やII度肥満(OR1.44)は有意に高リスクだった。

     著者らは、「全国規模の観察研究により、CVD患者の院内死亡率とBMIとの関連が明らかになり、低体重は全ての種類のCVD院内死亡リスクの高さと関連があって、肥満は心不全と虚血性脳卒中以外のCVD院内死亡リスクの高さと関連があった。この知見は、BMIに焦点を当てた公衆衛生対策の政策立案に寄与し得るのではないか」と総括している。

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    肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

    肥満症の危険度をセルフチェック!一般的な肥満との違いは?

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    HealthDay News 2022年12月12日
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  • 健康経営と企業の業績の関連性

     労働者の健康を重視することで生産性の向上を期待するという「健康経営」が、実際に企業収益を押し上げている可能性を示唆するデータが報告された。滋賀医科大学社会医学講座公衆衛生学部門の矢野裕一朗氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiology and health」に9月23日掲載された。

     バブル崩壊以降続いている日本の競争力の低下の一因として、労働者の生産性の低さが指摘されている。労働者の生産性の向上には、健康で安心して働ける環境が必要と考えられることから、経済産業省は「健康経営」の普及を推進しており、例えば「健康経営銘柄」の選定などを行っている。ただし、従業員の健康への投資がその企業の業績向上に結び付いているのか否かは不明。矢野氏らは、経産省の健康経営に関する年次調査のデータと、企業が公表している財務指標との関連を調べるという手法で、この点を検討した。

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     調査対象は1,593社だった。その内訳は、2017年度の経産省調査と2017~2020年度の財務指標データの双方を得られた842社、および、2018年度経産省調査と2018~2020年度の財務指標データの双方を得られた751社。業種は、専門サービスが12.7%、電気通信12.4%、小売11.2%、金融サービス8.7%、卸売7.3%、電気製造5.9%、建設4.3%、化学4.1%、輸送機器3.8%、海運3.5%、食品3.3%など。これらの企業の従業員数は合計435万9,834人で平均年齢40.3±3.4歳、女性25.8%、勤続年数は14.2±4.9年だった。

     財務指標を基に従業員1人当たりの利益の増加が大きい上位25%の企業を“業績良好(=利益あり)”と定義し、それと関連性の強い健康経営調査の項目を抽出した上で、利益が上昇している企業を特定するためのモデルを作成。統計学的解析の結果、正確度0.997、精度0.993、再現性0.997という予測能の高いモデルを得られた。このモデルの中で、健康経営調査の各項目の重要度(企業利益ありに対する寄与度)をシャープレイ値(SHAP値)という指標で評価したところ、以下のように、健康経営指標と、従業員1人当たりの利益の増加との関連が明らかになった。なお、SHAP値は数値が大きいほど重要性が高いことを意味する。

     従業員1人当たりの利益の増加に最も強い関連のある健康経営指標は、現在の喫煙者の割合の低さであり、SHAP値は0.121だった。2位は従業員1人当たりの医療サービスコスト(SHAP値0.084)で、そのほかは、よく眠れる従業員の割合(同0.055)、定期的に運動する習慣がある従業員の割合(0.043)、1人当たりの年間福利厚生費(0.041)などだった。

     著者らは、本研究が観察研究であり因果関係の証明にはならないこと、例えば、企業業績が良好なために福利厚生に力を入れているという結果を表している可能性があることなどを、解釈上の限界点として挙げている。その上で、「企業従業員のライフスタイルに関連する健康リスク要因と、企業の収益性との間に関連があることが実証された。労働者の生産性を引き下げる健康上のリスクを特定して対処するという投資が、将来的な収益改善に貢献する可能性が想定される」と結論付けている。

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  • パンデミック下での職場いじめと精神的苦痛や希死念慮の実態――全国オンライン調査

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で実施された、職場いじめと労働者のメンタルヘルスの実態に関する調査の結果が報告された。労働者の15%が職場いじめに遭っていたこと、在宅勤務の開始は職場いじめに遭う確率を下げるものの、男性では精神的苦痛や希死念慮の増加につながっていたことなどが明らかになった。神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科の津野香奈美氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に11月2日掲載された。

     職場でのいじめは労働者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことが想定されるが、その実態は明らかになっていない。また、COVID-19パンデミックに伴い人々の生活はそれまでと一変し、特に労働者では雇用環境の悪化や在宅勤務の開始などにより、新たなメンタルヘルスへの負荷が加わったと考えられる。津野氏らはこれらの点について、COVID-19パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」のデータを解析し検討した。

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     JACSIS研究は、国内でのパンデミック第2波から第3波の合間にあたる2020年8~9月にwebを用い、性別、年齢、居住地を人口構成に一致させた上で無作為に抽出された調査パネルに回答を依頼し実施された。2万8,000人が回答した時点で受付を締切り。本研究では無職の人や不自然な回答を除外して、有職者1万6,384人を解析対象とした。その主な特徴は、平均年齢45.7±13.8歳、男性58.6%であり、経営者が5.7%、管理職12.3%、管理職以外の正社員44.0%、契約または派遣社員8.7%、アルバイト18.7%など。業種は製造業が16.8%で最も多く、その他は全て10%未満だった。

     「パンデミックに伴い身体的負荷が増えたか?」に「はい」と答えた人が20.7%で、心理的負荷については33.1%が「増えた」と回答した。26.5%の人は在宅勤務を行っており、そのうちの8.4%はパンデミックに伴い在宅勤務を開始し、18.1%はパンデミック前から行っていた。「2020年4月から半年間で職場いじめに遭ったか?」との質問には14.9%が「はい」と回答し、17.9%は「職場いじめを目撃した」と答えた。また、8.8%は精神的苦痛が重度と判定され(K6という評価スコアが24点中13点以上)、11.5%は過去半年間に「死にたいと思ったことがある」と回答した。

     職場いじめに遭った人の特徴を、性別、年齢、居住地、婚姻状況、教育歴、世帯収入、職位・業種・企業規模・勤務内容、うつ病の既往歴などの交絡因子を調整して解析。すると、以下の有意な関連因子が浮かび上がった。男性(該当者率が女性より+32%)、若年(65歳未満は65歳以上より+64~171%)、低収入(世帯収入600万円未満は1000万円以上より+16~82%)、経営者(アルバイトより+76%)、管理職(同+40%)、管理職以外の正社員(同+27%)、身体的負荷の増加(増加なしに比べて+40%)、心理的負荷の増加(同+21%)。その一方、パンデミック後に在宅勤務を開始した人は、職場いじめの該当者率が有意に低かった(-19%)。

     次に、職場いじめに遭遇したことと重度の精神的苦痛および希死念慮との関連を、前記と同様の交絡因子を調整して検討。すると、自分がいじめに遭った場合には、重度の精神的苦痛に該当する割合が184%、希死念慮を有する割合が113%、それぞれ有意に多いことが分かった。さらに自分が職場いじめに遭わなくても、その場面を目撃しただけで、同順に90%、41%、それぞれ該当者率が有意に高いことが示された。

     続いて、重度の精神的苦痛や希死念慮に関連する因子を性別に検討したところ、男性では、パンデミック後に在宅勤務を開始したことが、有意な関連因子の一つとして抽出された(重度の精神的苦痛は+20%、希死念慮は+23%)。女性ではこの関連は非有意だった。

     論文の考察の中で著者らは、本研究結果のうち注目すべき点として、女性より男性、非正規雇用者よりも正社員や管理職・経営者の方が、より多くの職場いじめに遭遇していた点を挙げている。これらは以前の研究報告にはあまり見られない結果であり、パンデミックにより状況が変化した可能性があるという。その背景として、「パンデミックに伴う勤務環境の変化への不満が、職位がより高い人に向けられた可能性があること、職位が高い人に女性よりも男性が多いことが影響しているのではないか」と推測している。

     結論は、「職場でのいじめやメンタルヘルスの問題を減らすには、以前から明らかになっていたリスク因子を有する労働者だけでなく、ハンデミックに伴う環境の変化の影響を受けている労働者にも焦点を当てる必要がある」とまとめられている。

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  • 睡眠が不規則な人は全死亡リスクが最大1.5倍高い――日本人8万人の縦断的研究

     自分の睡眠が不規則だと自覚している人は、睡眠時間を含む多数の交絡因子を調整後も全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが高いというデータが報告された。京都府立医科大学大学院医学研究科地域保健医療疫学の大道智恵氏、小山晃英氏らの研究によるもので、詳細は「Sleep Health」に10月10日掲載された。

     睡眠時間の長短がさまざまな疾患の発症や全死亡のリスクと関連のあることは、多くの研究により明らかになっている。また近年では、シフト勤務などによる不規則な睡眠も健康リスクとなり得ることが示唆されている。小山氏らも既に、主観的な評価に基づく不規則な睡眠が、メタボリックシンドロームのリスクと有意な関連のあることを報告している。主観的な評価は客観性に欠けるという欠点があるものの、煩雑な検査を必要としないため、一般住民など大人数の睡眠に関連する健康リスクを、簡便かつ低コストで評価できるというメリットがある。今回、小山氏らは、主観的な評価による不規則な睡眠と全死亡リスクとの関連の有無を、「日本多施設共同コーホート研究(J-MICC研究)」のデータを用いて検討した。

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     J-MICC研究は、日本人の生活習慣病リスクの解明を目的として2005年から14拠点で継続されている前向きコホート研究。2004~2014年に35~69歳の成人9万2,527人がベースライン登録されている。そのうち、習慣的に睡眠薬を服用している人や追跡期間が1年未満の人を除外して8万1,382人(男性44.2%)を解析対象とした。睡眠の規則性については、ベースライン時の自記式アンケートに含まれていた「就床・起床時刻は規則的か?」の回答から判定。9,768人(12.0%)が「不規則」と回答した。なお、平均睡眠時間は6.6±1.0時間だった。

     73万6,319人年(平均9.01年)の追跡で、3,376人が死亡。1,000人年当たりの死亡率は4.59だった。睡眠時間と睡眠が規則的か否かによって全体を6群に分け死亡率を比較すると、長時間睡眠群と睡眠が不規則な群で高いことが分かった。具体的には、睡眠時間6時間未満で規則的な場合は4.5、不規則な場合5.1、睡眠時間6~8時間未満では同順に4.1、5.2、睡眠時間8時間以上では6.3、7.6だった。

     死亡リスクに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、飲酒・喫煙・運動習慣、教育歴、虚血性心疾患・脳卒中・がんの既往、および調査拠点)を調整後の全死亡リスクは、睡眠時間6~8時間未満に比較し8時間以上の群で15%高く〔ハザード比(HR)1.15(95%信頼区間)1.05~1.25〕、睡眠が規則的な群より不規則な群は30%高かった〔HR1.30(同1.18~1.44)〕。性・年齢別に解析すると、男性は年齢(60歳未満/以上)にかかわらず、睡眠が不規則な群は有意に死亡リスクが高かった。一方、女性では睡眠が不規則なことと死亡リスク上昇との関連が有意なのは60歳未満のみであり、60歳以上や女性全体では有意な関連がなかった。

     次に、睡眠時間が6~8時間未満でかつ規則的な群を基準として、他の5群の死亡リスクを比較。その結果、睡眠が規則的な場合は睡眠時間が8時間以上の群で有意なリスク上昇が認められ〔HR1.14(1.04~1.24)〕、睡眠が不規則な場合は睡眠時間にかかわらず、全てのカテゴリーで有意な死亡リスク上昇が認められた。具体的には、6時間未満はHR1.21(1.02~1.44)、6~8時間未満はHR1.23(1.09~1.40)、8時間以上はHR1.52(1.18~1.96)であり、最大で52%ハイリスクだった。

     著者らは本研究を、「睡眠の規則性に対する主観的な評価と、全死亡リスクとの関連性を示した初の報告」としている。結論は、「睡眠障害を含む慢性疾患の既往歴が不明のため、交絡因子の調整が十分でない可能性などが限界点として挙げられるものの、死亡リスクの評価には睡眠時間の長短だけでなく、睡眠の規則性も把握する必要があることが明らかになった」とまとめられている。

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  • 重症ED患者はアディポネクチン高値だが心血管リスクが高い可能性

     勃起障害(ED)の重症度が高い男性は、“善玉”のサイトカインとされているアディポネクチンが高値であるというデータが報告された。ただし、それにもかかわらず、重症ED患者をアディポネクチン値の高低で比較すると、低値群の方がBMIや体脂肪率が高く、糖・脂質代謝は悪化しているという。金沢大学大学院医薬保健学総合研究科泌尿器集学的治療学の重原一慶氏らが、性腺機能低下症の男性を対象に行った研究の結果であり、詳細は「The Aging Male」に10月3日掲載された。

     EDは近年、心血管イベントの関連因子の一つとして位置付けられており、ED患者では血管内皮機能が低下したり、糖・脂質関連指標が悪化していることが多い。一方、アディポネクチンは脂肪細胞から分泌されているサイトカインであり、インスリン感受性を高めたり炎症を抑制する作用があり、一般的には“善玉”と呼ばれている。ただ、EDとアディポネクチンとの関連はよく分かっていない。重原氏らは、金沢大学附属病院の患者データを後方視的に解析し、この関連を検討した。

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     解析対象は、2008~2015年に同院にて治療を受けた性腺機能低下症〔遊離テストステロン(FT)が11.8pg/mL未満〕の患者のうち、解析に必要なデータのある218人。ED治療薬や男性ホルモン製剤などが処方されている患者、心不全・腎不全患者などは除外されている。解析対象者の平均年齢は65.1±8.3歳、FTは7.4±2.2pg/mL、腹囲長86.8±9.4cm、BMI23.6±3.3、体脂肪率22.8±6.7%であり、男性用性健康調査票(SHIM)のスコアは11.1±6.3だった。なお、SHIMスコアは低いほどED重症度が高いと判定される。

     SHIMスコアが12点以上をEDなし~中等症EDと定義すると104人(47.7%)が該当し、12点未満の重症EDは114人(52.3%)だった。両群を比較すると、年齢とアディポネクチンに有意差が認められた一方、BMIや腹囲長、体脂肪率、FT、糖・脂質代謝関連指標、併存疾患の有病率には有意差がなかった。

     具体的には、年齢は重症ED群の方が高く(67.4±7.6対62.5±8.5歳、P<0.001)、アディポネクチンも重症ED群の方が高かった(6.9±5.1対5.6±3.5μg/mL、P=0.0168)。重回帰分析からも、重症EDの有意な関連因子として抽出されたのは、年齢とアディポネクチンレベルのみだった。心血管イベントリスクが高いと考えられる重症ED群の方がアディポネクチンレベルが高いという結果について、著者らは「驚くべきことであり、このような関連を示したデータは本研究が初めてではないか」と述べている。

     次に、重症ED群(114人)をアディポネクチン7.0μg/mLをカットオフ値として、低値群36人(31.6%)と高値群78人(68.4%)に二分して比較。すると、この検討では全体的に、アディポネクチン低値群の方が検査指標〔BMI、腹囲長、体脂肪率、空腹時血糖、中性脂肪、HDL-コレステロール、動脈硬化指数(AI)〕の悪化を示しており、有意差が認められた。年齢についてはアディポネクチン低値群の方が若年だった(65.9±7.2対70.5±7.7歳、P=0.00156)。

     著者らは本研究の対象者が性腺機能低下症の患者に限られていること、EDの重症度を自己評価に基づき判定していることなどを限界点として挙げている。その上で、「非EDまたは中等症以下のED患者よりも、重症ED患者の方がアディポネクチンレベルが高かった。それにもかかわらず、さまざまな心血管代謝関連指標は、アディポネクチンレベルが低い重症ED患者の方が、有意にハイリスクであることを示していた。アディポネクチン低値の重症ED患者は、心血管イベントリスクが高い可能性がある」と結論付けている。

     なお、重症ED患者の方がアディポネクチンレベルが高いという意外な結果の背景については、「不明」としながらも以下のような考察を述べている。まず、CKD患者ではアディポネクチン高値の方が心血管イベントリスクが高いといった、アディポネクチンを“善玉”とは言い切れないことを示すデータが報告されているという。また、透析患者ではアディポネクチンレベルは上昇するがその受容体は減少しているという報告もあり、アディポネクチンの作用が低下した代償としてアディポネクチン高値となる現象も想定されるのではないかとしている。ただし、「これは仮説であり、今後の研究による検証が求められる」と記されている。

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  • 収入の低い糖尿病男性は食物繊維摂取量が少ない

     2型糖尿病患者の世帯収入と食習慣との関連を調査した研究から、収入の低い男性は食物繊維の摂取量が少なく、食事性酸負荷が高いという有意な関連が報告された。京都医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科の高橋芙由子氏、福井道明氏、松下記念病院糖尿病・内分泌科の橋本善隆氏、京都府立大学大学院生命環境科学研究科の小林ゆき子氏らの研究によるもので、詳細は「Nutrients」に8月7日掲載された。

     健康的な食習慣は2型糖尿病治療の根幹であり、食物繊維の摂取量と血糖コントロールや酸負荷の高い食事と腎機能低下などの関連が報告されている。一方、世帯収入がさまざまな疾患のリスクと関連しており、その一因として健康的とされる食品は高価なことが多く、収入が低い場合はそれらの食品の摂取が限られることの関連が考えられている。ただし、これまでのところ、2型糖尿病患者の世帯収入と食物繊維摂取量や食事性酸負荷レベルとの関連は明らかになっていない。高橋氏らは、京都府立医科大学などが外来糖尿病患者を対象に行っている前向きコホート研究「KAMOGAWA-DMコホート」のデータを横断的に解析し、この関連を検討した。

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     解析対象者は同コホート研究参加者のうち、食習慣や世帯収入に関するアンケートに回答し、データ欠落のない201人(平均年齢69.0±8.8歳、男性63.7%、BMI23.8±3.5kg/m2、HbA1c7.3±0.9%、糖尿病罹病期間17.7±11.0年)。食習慣・栄養素摂取量は簡易型自記式食事歴法質問票(BDHQ)で評価した。その結果、食物繊維摂取量は、男性12.1±5.0g/日、女性12.3±4.9g/日だった。また、食事性酸負荷の指標として評価したPRALスコア(潜在的腎臓酸負荷の指標)は、男性7.6±12.2mEq/日、女性3.7±13.1mEq/日、NEAPスコア(内因性酸産生量の指標)は同順に50.1±10.7mEq/日、47.0±10.6mEq/日だった。なお、PRALスコアやNEAPスコアは、肉や魚などの酸性食品の摂取が多いことや、野菜や果物などのアルカリ性食品の摂取が少ないことで上昇する。

     世帯収入については500万円をカットオフ値として二分した。男性の32.8%、女性の16.4%が高収入に該当した。高収入群は低収入群に比べて有意に若年で(65.3±10.4対70.4±7.7歳)、男性が多かった(77.8対58.5%)。なお、BMIやHbA1cには有意差がなかった。

     一方で、食物繊維摂取量は高収入群の方が多かった(13.5±5.9対11.7±4.7g/日)。ただし男女別に解析すると、男性では全体解析と同様に高収入群の食物繊維摂取量が有意に多かったが、女性では世帯収入の多寡による有意差は見られなかった。一方、食事性酸負荷の指標(PRALスコアとNEAPスコア)は、いずれも全体解析では有意差がなく、性別の解析では男性のみ、高収入群の方が低いという有意差が認められた。

     次に、これらの関係に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、糖尿病罹病期間、HbA1c、中性脂肪、高血圧、摂取エネルギー量)を調整し、世帯収入の多寡と食物繊維摂取量、NEAPスコアとの関連を検討。すると、女性では世帯収入と食物繊維摂取量およびNEAPスコアとの間に有意な関連が示されなかったが、男性では、高収入群は食物繊維摂取量が多く(P=0.010)、NEAPスコアは低い(P<0.001)という関連が認められた。

     以上より著者らは、「世帯収入は、男性の食物繊維摂取量と食事性酸負荷に関連していた。糖尿病診療を行う臨床医や栄養士は、世帯収入の低い男性の食事の質に注意を払う必要がある」と結論付けている。

     なお、女性でこの関連が有意でなかったことの理由については、「女性は男性よりも食事に関するセルフケアの意識が高く、収入に関わらず野菜や果物を男性より多く取る傾向があるためではないか」と考察している。また、既報研究で示されていた世帯収入とHbA1cとの関連が本研究では有意でなかったことに関しては、「本研究では参加者の大半が長期間外来受診を継続しており、血糖管理が一定水準以上に達していたためと考えられる」と述べている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

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