• パンデミック中に糖尿病患者の受診頻度が有意に減少

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックに伴い、定期的に受診していた糖尿病患者の受診や処方頻度が有意に減少したことが明らかになった。特に女性患者に、より大きな変化が認められるという。福岡大学医学部衛生・公衆衛生学教室の前田俊樹氏らの研究によるもので、詳細は「Medicine」に7月22日掲載された。

     COVID-19パンデミック発生後に外来受診者数が減少したことについては、既に複数の報告がある。ただしそれらの研究の多くは、パンデミック前後での受診者数を比較したものであり、パンデミック以前から定期的に受診をしていた患者の受療行動の変化を検討した研究は少ない。糖尿病は受診中断が疾患コントロールの悪化につながり、合併症リスクを押し上げるという疾患特性があるため、患者の受療行動の変化の把握が重要と言える。そこで前田氏らは、糖尿病診療にかかわる医療費請求データを縦断的に解析して、この点を検討した。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     研究に用いたデータは、都内の運輸業関連健康保険組合の2017年10月~2020年9月の医療費請求情報。2019年度時点の被保険者8万4,907人のうち、3,753人に血糖降下薬が処方されており、このうち前記の追跡期間に切れ目なく保険に加入していたのは3,014人だった。その中より2017年度中に1~3カ月おき、もしくは年に4回以上受診の上、血糖降下薬が処方された1,118人を研究対象とした。

     パンデミック前からの経時的な変化を把握するため6カ月ごとに期間を区切り、2018年10月~2019年3月(1期)、2019年4~9月(2期)、2019年10月~2020年3月(3期)、および、緊急事態宣言が発出されパンデミック第1波に当たる2020年4~9月(パンデミック期)という、計4期に分けて比較した。なお、パンデミックの第1波は、患者数はわずかであったものの、COVID-19の感染力や死亡リスクが明らかでなく、また治療法が確立されておらずワクチンもなかったことから、医療も含めて社会の混乱が大きかった。

     2018年10月時点での研究対象者の特徴は、平均年齢56.2±8.6歳、女性22.3%、被保険者83.5%(被扶養者16.5%)で、平均月収37.00±1.87万円だった。

     受診・処方の間隔が3カ月以上空いた場合を「受診・処方の遅延」と定義してその発生状況を見たところ、パンデミック前は1期が52件、2期63件、3期73件、パンデミック期は152件であり、発生率はパンデミック前が5.6%、パンデミック期は11.2%と有意差が見られた(P<0.001)。年齢、性別、被保険者/被扶養者、月収、季節による受診間隔の変動、および処方内容を調整後も、パンデミック期は受診・処方の遅延が約3.7倍多く発生していた〔調整オッズ比(aOR)3.68(95%信頼区間2.24~6.04)〕。感度分析のため、受診・処方の間隔が4カ月以上空いた場合で検討した結果からも、同様の関係が確認された〔aOR4.95(同2.54~9.66)〕。

     次に、年齢(平均値の57歳で二分)、性別、被保険者/被扶養者、月収(平均値の37万円で二分)、処方薬の種類などで層別化したサブグループ解析を施行。その結果、性別でのみ有意な交互作用が認められ、女性患者で受診・処方の遅延がより多く発生していた〔男性はaOR2.65(95%信頼区間1.55~4.52)、女性はaOR19.31(同5.24~71.15)、交互作用P=0.013〕。なお、57歳以上や被扶養者は非有意ながら、受診・処方の遅延の発生が多い傾向があった。

     著者らは、本研究ではHbA1cやBMIなどの臨床検査データを利用し得なかったこと、ワクチン普及後には状況が変化している可能性があることなど、解釈上の留意点を挙げた上で、「定期的に受診を継続していた糖尿病患者に、COVID-19パンデミックが及ぼした影響が明らかになった。受診・処方の遅延は女性患者でより多く発生していた」と結論付けている。また、「パンデミックにより発生した受診・処方の遅延が、糖尿病合併症罹患率をはじめとする臨床転帰に及ぼす影響を引き続き観察していく必要がある」と述べている。

     なお、男性に比較して女性にパンデミックの影響が強く表れていることの理由について、著者らは「不明」としながらも、「女性は男性よりリスク回避行動をとる傾向があること、女性は被扶養者であることが多いため、産業医からの受診継続の働きかけが届きにくいことなどが背景にあるのではないか」と考察している。

    糖尿病のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年9月5日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • ホタテ養殖への従事が納豆アレルギーの潜在的リスクの可能性――道北での調査

     北海道の漁業従事者を対象に行った調査研究から、ホタテガイ(ホタテ)の養殖で使う網などを素手で取り扱うことが、納豆アレルギーのリスクを高める可能性が浮かび上がった。北海道大学大学院医学院社会医学講座公衆衛生学教室の黒鳥偉作氏らの研究によるもので、詳細は「Allergology International」に7月8日掲載された。ただし黒鳥氏は、「一般の人がホタテを食べたり触ったりすることは納豆アレルギーと関係がなく、漁業従事者もリスクにはならない。また養殖に携わる人でも、網の修繕などの作業時に手袋をするといった対策により予防可能」として、誤解しないよう呼びかけている。

     近年、サーフィンなどのマリンスポーツを行っている人は、納豆を食べることによるアレルギー反応(納豆アレルギー)の有病率が高いことが知られるようになった。これは、クラゲなどが産生する、ポリ-γ-グルタミン酸(PGA)という物質が原因とされている。クラゲに刺されることによって、極めてまれながらPGAの感作が成立する。そして、納豆のねばねばの成分にもPGAが含まれていることから、クラゲに刺される機会が多いと納豆アレルギーになるリスクが高まる。納豆アレルギーは特異的な検査法がないことに加え、食べてから症状発現までの時間が通常の食物アレルギーよりも長いため、診断が困難なことが多い。さらに病状が遷延し、アナフィラキシーになりやすい。

    アレルギーに関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     道北の日本海岸に位置する道立羽幌病院では、同地がマリンスポーツの盛んな土地ではないにもかかわらず、納豆アレルギーの患者が散発的に発生している。そこで黒鳥氏らは、2009年4月~2020年8月の同院入院患者の受療記録、および、2021年2~5月に同地区の漁業従事者を対象に行った匿名アンケートの結果を用いた解析により、納豆アレルギーの実態の把握とリスク因子の特定を試みた。

     前記期間の入院患者は7,789人で、このうち29人が食物アレルギーによるアナフィラキシーショックでの入院だった。この29人中6人に納豆アレルギーによる遅発性アナフィラキシーショックが見られ、全員がホタテ養殖の経験を有していた。全員が生存退院し、退院時に納豆を回避するように指導。平均31カ月の追跡期間中に、食物アレルギーによるアナフィラキシーの再発はなかった。

     アンケート調査は、ホタテ養殖関連団体に所属する223人と漁協組合員155人から回答を得た。後者のうち、ホタテの養殖にも携わり、かつ、両方のアンケートに回答した人や、必要なデータが欠落している人なども除外し、ホタテ養殖従事者211人、ホタテ養殖に携わっていない漁業従事者106人を解析対象とした。

     回答を集計した結果、ホタテ養殖従事者の23人(10.9%)、その他の漁業従事者の4人(3.8%)、計27人が「納豆アレルギーあり」と回答した。ロジスティック回帰分析の結果、交絡因子未調整モデルで、ホタテ養殖従事者の納豆アレルギーのオッズ比(OR)が3.18(95%信頼区間1.07~9.43)と有意な関連が見られた。年齢、性別、クラゲに刺された経験、気管支喘息・花粉症・アトピー性皮膚炎・小児期の食物アレルギーの既往を調整したモデルでは、OR5.73(同1.46~22.56)と、より強い関連が認められた。また、「納豆アレルギーあり」と回答した漁業従事者の4人中3人(75%)が、発症時にホタテ養殖に従事していたと回答した。

     次に、ホタテ養殖従事者を「納豆アレルギーあり」と回答した23人と、「納豆アレルギーなし」と回答した181人に二分して比較した結果、前者は高齢で(P=0.01)、ふだん網の修繕作業をしており(P<0.01)、ホタテ養殖歴が長い(P<0.001)という項目で後者と違いが見られた。また、納豆アレルギーがあると回答した23人中22人(95.7%)は、ホタテ養殖に従事する以前は納豆摂取によるアレルギー症状発現の経験がなかった。

     著者らは本研究の限界点として、横断研究であり因果関係は不明であること、食物アレルギーの診断のゴールドスタンダードである経口負荷試験を実施していないこと、アンケート調査では納豆アレルギーの有無を自己申告により判定していること、未調整の交絡因子が存在する可能性のあることなどを挙げている。その上で、「ホタテ養殖では特殊な網を海中に長期間沈め、かつ、繰り返し使う。とくに、小さな稚貝を扱う網は細かく、修繕などを素手で行っている。その際に、クラゲに刺されることとは別の経路でPGAに感作されている可能性がある」とし、「ホタテ養殖従事者に対しては、素手で網に触れる作業を避けるなどの健康指導が必要ではないか」と結論付けている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年9月5日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。