• 便秘で認知機能低下が速まる可能性――AD、MCI患者での検討

     便秘のあるアルツハイマー病(AD)や軽度認知機能障害(MCI)の患者は、認知機能低下速度が速い可能性を示すデータが報告された。評価指標により影響の程度は異なるものの、最大で2.74倍の低下速度の差が認められたという。東北大学加齢医学研究所の中瀬泰然氏らによる後方視的研究の結果であり、詳細は「CNS Neuroscience & Therapeutics」に8月8日掲載された。

     近年、腸の機能と脳の機能が互いに影響を及ぼし合う、「腸脳軸」または「腸脳相関」と呼ばれる関連が注目されており、例えば、腸内細菌叢の組成の変化が炎症反応などを介して中枢神経にダメージを与えることなどが報告されている。一方、便秘や認知症はともに高齢者に多く、両者が相互に関連して悪化・進行する可能性も考えられるが、その実態は不明な点が多い。

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     中瀬氏らの研究は、2015~2020年に東北大学病院加齢・老年病科の初診患者のうち、ADまたはMCIと診断され、脳MRI検査や認知機能の評価が2021年までに2回以上実施されていて経時的な変化を追跡可能であり、かつ便秘の有無が把握されている患者84人を対象に行われた。便秘については、ガイドラインの診断基準に則して20人が便秘あり、64人はなしと診断された。認知機能の変化は、認知症のスクリーニングに用いられているMMSEという指標と、ADの経過の把握に用いられるADAS-Cogという計2種類の指標で評価した。また脳MRI検査では、記憶に関わる海馬の体積と、虚血によって生じる深部白質病変などを評価した。

     解析対象者の主な特徴は、年齢77.4±6.5歳、女性57.1%、AD45.2%、要介護者23.8%、MMSE24.7±3.7、ADAS-Cog11.8±5.2であり、19.0%に副作用で便秘を起こしやすい抗コリン薬が処方されていた。便秘あり群となし群を比較すると、便秘あり群では心疾患が多い、脂質異常症が少ない、ホモシステインが高いという有意差が見られたが、その他に評価した、年齢、女性やAD・要介護者の割合、MMSE、ADAS-Cog、教育歴、海馬体積、深部白質病変などの群間差は非有意だった。

     平均17.4±10.7カ月の追跡期間中のMMSEの変化は、便秘の有無にかかわらず追跡期間との有意な相関が見られなかった。しかしADAS-Cogについては便秘あり群、なし群ともに、追跡期間の長い患者ほどより大きく低下しているという有意な相関が認められた。そしてADAS-Cog低下速度は、便秘なし群に比べてあり群の方が2.74倍速いと計算された。

     一方、脳MRI検査が2回施行されていた患者は67人(解析対象の79.8%)であり、便秘あり群17人、なし群50人だった。追跡期間中に海馬の体積は両群ともに有意に減少しており、減少速度に有意差はなかった。しかし深部白質病変については、その拡大速度が便秘あり群で1.65倍速いと計算された。

     次に、ADAS-Cogおよび深部白質病変の1年あたりの変化と、便秘、脂質異常症、心疾患、ホモシステイン、糖尿病との関連を検討。その結果、便秘のみが有意に相関することがわかった〔スピアマン順位相関係数がADAS-Cogは0.2387(P=0.0288)、深部白質病変は0.2252(P=0.0395)〕。ただし、混合効果モデルでは、便秘も含めて全てが非有意だった。

     著者らは、本研究について、単一施設での後方視的研究であり、認知機能に影響を及ぼし得る身体活動量やApoE4の影響を考慮していないといった限界点を挙げた上で、「ADおよびMCI患者の便秘と、深部白質病変拡大に伴う認知機能低下速度との間に、有意な相関が認められた」と結論付けている。この相関の背景については、AD患者では腸内細菌叢の組成が変化すること、またAD患者は身体活動量や水分摂取量の低下によって便秘になりやすく、便秘も腸内細菌叢の組成を変化させ、腸内細菌叢の組成の変化は炎症反応を惹起し、中枢神経に影響が及ぶ可能性が考えられるとしている。さらに、腸管粘膜の障害がホモシステイン高値、酸化ストレス亢進、血管内皮機能低下につながり、神経変性を加速させるという経路も想定されるとの考察を加えている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2022年10月24日
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  • 救急患者の低血糖の原因は副腎不全が意外に多い

     救急部門に収容された患者の低血糖の原因として、血糖降下薬、飲酒に続き、副腎不全が3番目に多いというデータが報告された。新小文字病院内分泌・糖尿病内科の河原哲也氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of the Endocrine Society」に8月4日掲載された。同氏は、「副腎不全による低血糖はわれわれが考えているよりもはるかに多い可能性がある。原因不明の低血糖症例では副腎機能を評価すべきと考えられる」と述べている。

     低血糖の大半は原因を特定可能なものの、救急患者の低血糖の約1割は原因不明との報告も見られる。一方、低血糖の既知の原因の一つとして副腎不全が挙げられ、適切に治療されない場合、副腎クリーゼなどの重篤な状態につながる可能性がある。ただし、救急患者の低血糖原因としての副腎不全の実態は明らかにされていない。河原氏らは、同院の救急部門で低血糖が認められた患者を対象として、この点の詳細な検討を行った。

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     2016年4月~2021年3月に同院救急部門に収容された患者のうち、低血糖症状の有無にかかわらず、血糖値70mg/dL未満であることが確認された18歳以上の患者528人を解析対象とした。妊婦や迅速ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)負荷試験施行の同意が得られなかった患者は除外されている。年齢中央値は62歳(範囲19~92)であり、52.1%が男性で、血糖値は平均48.5mg/dL(95%信頼区間31.5~54.7mg/dL)だった。96.0%にあたる507人は、発汗、動悸、振戦、空腹感、めまい、せん妄などの低血糖症状が出現していた。

     解析対象528人のうち389人(73.7%)は、血糖降下薬が処方されていた。そのほかの低血糖を来し得る原因として、35人(6.6%)に飲酒、19人(3.6%)に重症感染症または敗血症、18人(3.4%)に低栄養、15人(2.8%)に悪性腫瘍、13人(2.5%)に肝機能障害などが認められた。また、インスリン自己免疫症候群が4人(0.8%)、インスリノーマが3人(0.6%)、非糖尿病の血液透析症例が2人(0.4%)、非膵島細胞腫瘍が1人(0.2%)含まれていた。

     迅速ACTH負荷試験は、血糖降下薬が処方されていた糖尿病患者を除く139人に対して施行した。その結果、32人(解析対象全体の6.1%)が血清コルチゾールレベル18μg/dL未満であり、副腎不全と診断された。前記の低血糖を来し得る原因別に見た、副腎不全患者の割合は、飲酒者では35人中2人(5.7%)、重症感染症または敗血症では19人中7人(36.8%)、低栄養では18人中1人(5.6%)、悪性腫瘍では15人中4人(26.7%)だった。

     また、副腎不全患者は、副腎機能正常患者に比べて血清ナトリウム値が低く(132対139mEq/L、P<0.01)、好酸球比率が高く(14対8%、P<0.01)、収縮期血圧が低かった(120対128mmHg、P<0.05)。血糖値は有意差がなかった。インスリン負荷試験、CRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)負荷試験、持続的ACTH負荷試験などにより、副腎不全の原因を精査した結果、原発性(アジソン病)が32人中3人、下垂体性が27人、視床下部性が2人だった。

     以上より著者らは、「われわれの研究では、救急部門に収容された時点で低血糖を来している患者のその原因として副腎不全が3番目に多く、予想よりもはるかに高頻度に認められた」と結論付けている。また、迅速ACTH負荷試験は比較的簡便に施行でき、安全性も高く、かつ低コストであるとして、「原因不明の低血糖、特に低ナトリウム血症や低血圧、好酸球増多を伴う場合は、積極的に迅速ACTH負荷試験を行い副腎機能を確認すべきではないか」と提案している。

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    HealthDay News 2022年10月24日
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