• 下肢反応検査で高齢ドライバーの事故リスクを予測可能

     高齢ドライバーのアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故リスクの予測には、現在、免許更新時に行われている認知機能検査よりも、簡単なシミュレーションによるテストの方が優れている可能性が報告された。東北大学未来科学技術共同研究センター/高齢者高次脳医学研究プロジェクトの目黒謙一氏、熊居慶一氏の研究によるもので、詳細は「Dementia & Neuropsychologia」に11月4日掲載された。

     高齢ドライバーの交通事故対策は、喫緊の社会的課題となっている。対策の一環として現在、75歳以上で免許を更新する際に認知機能テストと、一定の交通違犯歴がある高齢者には技能検査も行われる。ただし、現行の制度で把握可能な認知機能や運転技能の低下で、高齢者事故の原因の全てを説明できるとは限らない。目黒氏らは、高齢者の交通事故多発の原因の一つとして、アクセルとブレーキの踏み間違いや、その動作の反応時間の延長が関連している可能性を想定し、以下の研究を行った。

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     研究対象は、物忘れ外来を受診した高齢者のうち、40年以上前に免許を取得し現在も週に1~2回以上、運転をする必要があるが、本人や家族が運転を続けることに不安を感じている人66人(うち男性が44人)。麻痺や感覚異常、整形外科的疾患を有する患者、および認知症治療薬や抗てんかん薬、抗うつ薬が処方されている患者は除外されている。また全員が認知機能テスト以外の免許更新試験に合格していることから、視機能は良好と判断された。

     下肢反応検査(アクセルとブレーキの踏み間違いや反応速度の測定)は、オリジナルのシミュレーターにより評価した。パソコンの画面上に信号が表示され、青に切り替わったらアクセルペダルを、赤に切り替わったらブレーキペダルを、いずれも右足で踏んでもらった。また、信号が青でも歩行者が飛び出したらできるだけ速くブレーキを踏んでもらった。このテストの結果と、実際の過去の事故体験の有無、認知機能検査〔ミニメンタルステート検査(MMSE)など3種類〕、および、免許更新時の認知機能テストの判定結果との関連を検討した。なお、過去に事故経験があるのは66人中32人だった。

     まず、過去の事故経験の有無で二分すると、年齢、男女比、教育歴、MMSEを含む3種類の認知機能検査のスコアは、いずれも有意差がなかった。免許更新時の認知機能テストの判定に関しては、2022年4月までの分類に則して、第1分類(認知症の可能性あり)と、第2分類(認知機能低下の可能性あり)および第3分類(認知機能低下の可能性なし)に分けて比較。その結果、第1分類の群は過去の事故経験を有する割合が他群より高い傾向が見られたが、有意でなかった〔オッズ比(OR)1.88、P=0.20)〕。

     一方、下肢反応検査の結果の良否で二分して比較すると、アクセルとブレーキの踏み間違いが多い群は少ない群より、過去の事故経験を有する割合が有意に高かった(OR6.82、P=0.0003)。同様に、ペダルを踏む動作の反応時間が長い群は短い群より、過去の事故経験を有する割合が有意に高かった(OR5.00、P=0.017)。

     次に、過去の事故経験の有無と関連のある因子をロジスティック回帰分析で検討。その結果、年齢や性別、教育歴、認知機能検査のスコアはいずれも有意な関連が示されず、下肢反応検査の結果のみが有意な関連を示した(踏み間違いの頻度はP=0.008、反応速度はP=0.006)。

     以上の結果を基に著者らは、「高齢者の免許更新時に下肢反応検査を施行することによって、交通事故のリスクを現在より正確に予測可能となるのではないか」と結論付けている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2023年3月13日
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  • 男性、ピロリ菌感染などの胆石リスク因子が明らかに――静岡県内60万人超の縦断的解析

     日本人を対象とする大規模な縦断的研究から、胆石のリスク因子が報告された。ピロリ菌感染などの従来あまり知られていなかった因子が、胆石発症に関連していることや、女性よりも男性の方がハイリスクであることなどが明らかになったという。静岡社会健康医学大学院大学の東園和哉氏、中谷英仁氏、藤本修平氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS ONE」に12月30日掲載された。

     胆のうや胆管にできる結石「胆石」は、詳しい検査をすると成人の10人に1人に見つかるとされるほど多いもので、大半は無症状。ただし、膵炎や胆道閉塞、胆のうがんのリスクと関連していることが知られており、また感染を引き起こして強い痛みや発熱が生じ緊急手術が必要になったり、時に命にかかわることもある。よって、仮に修正可能な胆石のリスク因子があるのなら、それらに対して予防的に介入することのメリットは少なくない。しかしこれまでのところ、胆石のリスク因子に関する日本人での大規模研究は実施されておらず詳細は不明であり、胆石予防のための積極的介入を行うという公衆衛生対策もなされていない。この状況を背景として東園氏らは、静岡県の国民健康保険および後期高齢者医療制度のデータを用いた後方視的縦断研究を実施し、日本人の胆石発症リスク因子を探索した。

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     解析対象は、2012年4月~2020年9月に特定健診または後期高齢者健診を受けた人から、ベースライン時に胆石の既往のあった人と追跡期間が1年に満たなかった人を除外した61万1,930人。中央値5.68年(最長7.5年)の追跡で、2万3,843人(3.9%)が胆石を新規発症していた。

     多変量回帰分析の結果、男性〔ハザード比(HR)1.09(95%信頼区間1.06~1.12)〕や、高齢であること〔40歳未満を基準とするハザード比が50代1.94、60代2.54、70代3.34、80代3.97〕は、胆石発症に関連のあることが明らかになった。検査値関連では、BMI〔1kg/m2ごとにHR1.04(同1.04~1.05)〕、HbA1c〔1%ごとにHR1.03(1.01~1.04)〕、GGT〔100U/LごとにHR1.15(1.13~1.16)〕の高さが、胆石リスクの上昇と関連していた。また既往症としては、高血圧、糖尿病、腎臓病、肝疾患、ピロリ菌感染、慢性肺疾患、脳血管疾患、心不全、がん、認知症、リウマチ性疾患が、胆石の発症に関連していた。

     反対に、習慣的な運動は、胆石リスクの低下と関連していた〔週に1時間以上のウォーキングでHR0.91(0.89~0.94)〕。また、LDL-C〔10mg/dLごとにHR0.98(0.98~0.99)〕や収縮期血圧〔10mmHgごとにHR0.98(0.97~0.99)〕が高いことも、胆石リスクの低下と関連していたが、これは著者によると、脂質低下薬や降圧薬による治療を受けている人の存在が結果に影響を及ぼしている可能性があるという。

     以上の結果のうち、著者らは既報研究には見られない新たな知見をいくつかピックアップし、考察を加えている。

     まず、従来は男性より女性の方が胆石リスクは高いとされており、その理由として女性ホルモンが胆石の形成を促すように働くためといった解釈がされていた。今回の研究で男性の方がハイリスクという結果が示されたことを説明可能な一つの理由として、「近年、男性の肥満化傾向が続いているために胆石リスクが上昇してきているのではないか」と記されている。このほか、ピロリ菌感染や腎臓病、慢性肺疾患、がん、リウマチ性疾患と胆石との関連も、大規模な縦断的解析の結果として示したのは、本研究が初めてのことだという。

     論文の結論は、「胆石の発症リスクを抑制するための対策に、これらの研究結果を活用できるのではないか」とまとめられている。

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    HealthDay News 2023年3月13日
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