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5月 30 2023 7項目でメタボ発症を予測可能な日本人向けリスクスコア
向こう5年間でのメタボリックシンドローム(MetS)発症リスクを、年齢や性別、BMIなど、わずか7項目で予測できるリスクスコアが開発された。鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心臓血管・高血圧内科のSalim Anwar氏、窪薗琢郎氏らの研究によるもので、論文が「PLOS ONE」に4月7日掲載された。
MetSの有病率は、人種/民族、および、その国で用いられているMetSの定義によって異なる。世界的には成人の20~25%との報告があり、日本では年齢調整有病率が19.3%と報告されている。これまでにMetSの発症を予測するためのいくつかのモデルが提案されてきているが、いずれも対象が日本人でない、開発に用いたサンプル数が少ない、検査値だけを検討していて生活習慣関連因子が考慮されていないなどの限界点がある。著者らはこれらの点を考慮し、日本人の大規模なサンプルのデータに基づく予測モデルの開発を試みた。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。研究には、2008年10月~2019年3月に鹿児島厚生連病院で年次健康診断を受けた19万8,292人のうち、ベースラインとその5年後(範囲3~7)にも健診を受けていた30~69歳の成人5万4,198人(平均年齢54.5±10.1歳、男性46%)のデータを用いた。全体を無作為に2対1の割合で二分し、3万6,125人のデータをMetS発症予測モデルの開発に用い、1万8,073人のデータはそのモデルの精度検証に用いた。観察期間中のMetS発症率は、開発コホートが6.4%、検証コホートが6.7%だった。
健診項目の中から、多変量解析にてMetS発症リスクに有意な関連の認められた11項目を抽出し、そのβ係数を基に各評価項目をスコア化するという手法により、合計27点のリスクスコアが完成した。評価項目とスコアは、例えば年齢は30代は0点、40~60代は2点、性別は女性0点、男性3点、喫煙2点、習慣的飲酒1点などであり、その他、BMI、収縮期/拡張期血圧、中性脂肪、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、空腹時血糖値が含まれている。
このリスクスコアの開発コホートにおける向こう5年間でのMetS発症予測能は、スコア13点をカットオフ値とした場合、感度87%、特異度74%、スコア14点では感度、特異度ともに81%であり、ROC曲線下面積(AUC)は0.81だった。検証コホートでは、スコア13点で感度89%、特異度74%、スコア14では感度、特異度ともに81%であり、AUCは同じく0.81だった。
次に、臨床現場でより簡便に使用できるように、採血を要さない項目のみに絞り込んだ簡易版を検討。以下のように7項目からなる合計17点のリスクスコアを開発した。その評価項目とスコアは、年齢は40~60代2点、男性3点、BMIは21~22.9が4点、23以上は5点、収縮期血圧は120mmHg以上で2点、拡張期血圧は80mmHg以上で2点、喫煙で2点、習慣的飲酒で1点というもの。
この簡易版リスクスコアの開発コホートにおける向こう5年間でのMetS発症予測能は、スコア15点をカットオフ値とした場合、感度83%、特異度77%、AUC0.78、検証コホートでは、スコア15点で感度82%、特異度77%、AUCは同じく0.78だった。
このほかに、各評価項目の検査値に係数を掛けて加算するという方程式モデルも開発。そのAUCは開発コホート、検証コホートともに0.85だった。
著者らは、「日本人の健診データから開発された3種類のMetS発症予測モデルは、いずれも予測能が高く、特に簡易版は利便性に優れ、大規模な集団からMetSリスクの高い対象者を簡便に抽出する際に有用。これらを臨床の現場に応じて使い分けてほしい」と語っている。
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肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。
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5月 30 2023 CKDに対する集学的治療で腎機能低下が抑制される――国内多施設共同研究
慢性腎臓病(CKD)に対する集学的治療(MDC)の有効性を示すエビデンスが報告された。MDC介入後には腎機能(eGFR)低下速度が有意に抑制されるという。国内多施設共同研究の結果であり、日本大学医学部腎臓高血圧内分泌内科の阿部雅紀氏らによる論文が「Clinical and Experimental Nephrology」に3月31日掲載された。MDCに携わるスタッフの職種数や介入回数が多いほど、腎代替療法や全死亡のリスクが低下するというデータも示されている。
CKDが進行すると生命維持のために腎代替療法(透析または腎移植)が必要となるなど、患者本人のQOLが低下するだけでなく医療経済的な負担も大きくなる。日本は人口当たりの透析患者数が台湾に次いで世界2位であり、CKDの進行を抑える治療戦略の確立が喫緊の課題となっている。CKDの進行抑制には、薬物療法に加えて食事療法や運動療法が重要で、それらをサポートする看護師、管理栄養士、薬剤師や理学療法士などを含む多職種によるMDCが有効と考えられる。国内では2017年に腎臓病療養指導士制度がスタートするなど、MDCを積極的に行う環境が整ってきた。阿部氏らは、国内24施設の多施設共同後方視的コホート研究として、MDCがどのように行われているかという実態の把握と、その有効性を評価した。
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解析対象者のMDC介入時点(ベースライン)の主な特徴は、平均年齢70.5±11.6歳、男性74.2%、eGFRは中央値23.5mL/分/1.73m2(四分位範囲15.1~34.4)、尿タンパクは同1.13g/gCr(0.24~3.1)であり、CKDステージは3が34.5%、4が41.4%、5が24.1%だった。
MDC介入は58.7%が入院で行われ、41.3%は外来で行われていた。入院日数または介入回数(外来)は、入院の場合は中央値7日(四分位範囲6~12)、外来では4回(1~11)で、関与していたスタッフの職種は4職種(3~5)であり、医師以外のスタッフでは管理栄養士(90.4%)、看護師(86.2%)、薬剤師(62.3%)、理学療法士(25.9%)、臨床検査技師(5.9%)、ソーシャルワーカー(2.3%)などが関与していた。
MDC介入前の1年当たりのeGFR低下速度(mL/分/1.73m2/年)は平均-6.02だった。それに対してMDC介入後の6カ月は-0.34、12カ月では-1.40、24カ月では-1.45であり、いずれの時点でも介入前より低下速度が有意に抑制されていた。CKDの原因(糖尿病と糖尿病以外)やベースライン時のCKDステージで層別化した解析でも、全てのサブグループでMDC介入後にeGFR低下速度が有意に抑制されていた。副次的評価項目として設定されていた尿タンパク(g/gCr)も、MDC介入時点で中央値1.13であったものが、介入6カ月後は0.96、12カ月後は0.82、24カ月後は0.78と、いずれの時点でも有意に改善を示していた。
中央値35カ月(20~50)の観察期間中に、24.8%に腎代替療法が行われ、4.9%が死亡していた。それら両者を複合エンドポイントとしたCox比例ハザードモデルによる解析の結果、MDCに関与するスタッフの職種〔1職種多いごとにハザード比(HR)0.85(95%信頼区間0.80~0.89)〕や、介入回数〔1回多いごとにHR0.97(同0.96~0.98)〕の多さが、エンドポイント発生リスクの低さと関連していた。また、MDCに栄養士〔HR0.49(0.36~0.66)〕、理学療法士〔HR0.46(0.22~0.93)〕が関与している場合は、それらのスタッフが関与していない場合よりもエンドポイント発生リスクが有意に低いことが分かった。
以上より著者らは、「CKD患者に対するMDCは、原疾患にかかわりなく効果的であり、また比較的初期の段階での介入も有効と考えられる」と結論付けている。
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糖尿病の3大合併症として知られる、『糖尿病性腎症』。この病気は現在、透析治療を受けている患者さんの原因疾患・第一位でもあり、治療せずに悪化すると腎不全などのリスクも。この記事では糖尿病性腎病を早期発見・早期治療するための手段として、簡易的なセルフチェックや体の症状について紹介していきます。
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5月 30 2023 富士登山で高山病になる人とならない人の違い
富士登山で高山病になった人とならなかった人の血圧、心拍数、乳酸、動脈血酸素飽和度、心係数などを比較した、大阪大学医学部救急医学科の蛯原健氏らの研究結果が、「Journal of Physiological Anthropology」に4月13日掲載された。測定した項目の中で有意差が認められたのは、心係数のみだったという。
毎年20万人前後が富士登山に訪れ、その約3割が高山病を発症すると報告されている。高山病は一般に標高2,500mを超える辺りから発症し、主な症状は吐き気や頭痛、疲労など。多くの場合、高地での最初の睡眠の後に悪化するものの、1~2日の滞在または下山により改善するが、まれに脳浮腫や肺水腫などが起きて致命的となる。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。高山病のリスク因子として、これまでの研究では到達高度と登山のスピードの速さが指摘されている一方、年齢や性別については関連を否定するデータが報告されている。また、心拍数や呼吸数の変化、心拍出量(1分間に心臓が全身に送り出す血液量)も、高山病のリスクと関連があると考えられている。ただし、富士登山におけるそれらの関連は明らかでない。蛯原氏らは、高地で心拍出量が増加しない場合に低酸素症(組織の酸素濃度が低下した状態)となり、高山病のリスクが生じるというメカニズムを想定し、以下のパイロット研究を行った。
研究参加者は、年に1~2回程度、2,000m級の山を登山している11人の健康なボランティア。全員、呼吸器疾患や心疾患の既往がなく、服用中の薬剤のない非喫煙者であり、BMI25未満の非肥満者。早朝に山梨県富士吉田市(標高120m)から車で登山口(同2,380m)に移動し登山を開始。山頂の研究施設(旧・富士山測候所)に一泊後に下山した。この間、ポータブルタイプの測定器により、心拍数、血圧、動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定し、ベースライン時(120m地点)と山頂での就寝前・起床後に、心係数(心拍出量を体表面積で除した値)、1回拍出量を測定。またベースライン時と山頂での就寝前に採血を行い、乳酸値、pHなどを測定した。
高山病の発症は、レイクルイーズスコア(LLS)という指標で評価した。これは、頭痛、胃腸症状、疲労・脱力、めまい・ふらつきという4種類の症状を合計12点でスコア化するもので、今回の研究では山頂での起床時に頭痛があってスコア3点以上の場合を高山病ありと定義した。
11人中4人が高山病の判定基準を満たした。高山病発症群と非発症群のベースライン時のパラメーターを比較すると、高山病発症群の方が高齢であることを除いて(中央値42対26歳、P=0.018)、有意差のある項目はなかった。登山中に両群ともSpO2が約75%まで低下したが、その群間差は非有意だった。また、登山中や山頂で測定された心拍数、1回拍出量、乳酸値などのいずれも有意な群間差がなかった。唯一、心係数のみが以下のように有意差を認めた。
高山病発症群の山頂での就寝前の心係数(L/分/m2)は中央値4.9、非発症群は同3.8であり、発症群の方が有意に高かった(P=0.04)。つまり、研究前の仮説とは反対の結果だった。心係数のベースライン値からの変動幅を見ると、睡眠前は高山病発症群がΔ1.6、非発症群がΔ0.2、起床後は同順にΔ0.7、Δ-0.2であり、いずれも発症群の変動幅の方が大きかった(いずれもP<0.01)。
このほかに、LLSで評価した症状スコアは、高山病非発症群の7人中4人は睡眠により低下したのに対して、発症群の4人は全員低下が見られないという違いも示された。
以上より著者らは、「山頂到着時の心係数が高いこと、およびベースライン時からの心係数の上昇幅が大きいことが、富士登山時の高山病発症に関連していた。心拍出量の高さが高山病のリスク因子である可能性がある」と結論付けている。ただし、高山病発症群は非発症群より高齢であったことを含め、パイロット研究としての限界点があることから、「高山病発症のメカニズムの解明にはさらなる研究が必要」としている。
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5月 30 2023 女性の腰痛にはストレスから来る“冷え”が関与?――日本人対象横断研究
女性の腰痛に関連のある因子をWeb調査で検討した結果が報告された。敦賀市立看護大学の萬代望氏と関西医療大学の渡邉真弓氏、武田時昌氏、新潟大学の富山智香子氏、福島県立医科大学の二階堂琢也氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Research Notes」に1月30日掲載された。“冷え”を訴え、実際に体温が低い人に腰痛が多く、その背後には精神的ストレスが関係している可能性が想定されるという。
腰痛は、日本人女性が訴える慢性症状として肩こりに次いで2番目に多いと報告されている。整形外科的疾患の症状として腰痛が現れることもあるが、詳しい検査をしても原因が見つからない「非特異的腰痛」が少なくない。非特異的腰痛の予防・改善には、その発症に関連のある因子を特定することが求められる。そこで萬代氏らは、食事・運動・睡眠習慣、メンタルヘルス状態、女性に多い貧血、および日本独特な表現であって、やはり女性に多い“冷え”という症状などとの関連を、Web調査により横断的に検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。Web調査パネルの登録者30万人から、年齢と居住地を人口構成にマッチさせた上で無作為に抽出した1,000人の回答を解析対象とした。そのうち354人(35.4%)が腰痛を有していた。
交絡因子を考慮せずに、腰痛なし群とあり群を比較すると、腰痛あり群は高齢であり、BMI・呼吸数・鎮痛薬使用頻度・喫煙率・短時間睡眠・何らかの食事制限を行っている割合が高く、夜間排尿回数が多くて貧血や月経不順の有病率が高かった。また、メンタルヘルスの不調(倦怠感や怒りなど)を有する割合が高かった。そのほかに、“冷え”があるとする割合、暖房器具やサウナの利用状況などにも群間差が認められた。
次に、これらの中で有意差の認められた因子を説明変数とする多変量解析を施行。その結果、腰痛のあることに独立して関連する因子として、鎮痛薬の使用頻度、貧血でありながら治療を受けていないことなどのほかに、“冷え”を有すること〔オッズ比1.201(95%信頼区間1.047~1.378)〕や、サウナを利用しないこと〔OR2.854(同1.662~4.900)〕が抽出された。
このほか、測定部位別の体温・皮膚温の比較では、腋窩〔36.18±0.36対36.13±0.42℃、P<0.000〕と額〔36.11±0.35対36.03±0.39℃、P=0.003〕の温度が、腰痛のある群の方で有意に低値であることが分かった。手足の温度は有意差がなかった。
著者らは、「腰痛のある女性は体温が低く、“冷え”という症状は腰痛の独立した関連因子であり、腰痛のある女性にはメンタルヘルス不調が多く見られた。精神的ストレスが、血液循環の低下や体温の低下を引き起こし、“冷え”や腰痛につながっている可能性があるのではないか」との考察を述べている。また、「これまで“冷え”をテーマとした研究はあまり行われていないが、腰痛との関連を示唆する報告もあり、腰痛の予防と治療において、メンタルヘルス状態と“冷え”という症状の評価と介入が必要と考えられる」と付け加えている。
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5月 15 2023 歯科治療の中断が全身性疾患の悪化と有意に関連――JACSIS研究のデータ解析
歯科治療の中断と、糖尿病や高血圧症、脂質異常症、心・脳血管疾患、喘息という全身性慢性疾患の病状の悪化が有意に関連しているとする研究結果が報告された。近畿大学医学部歯科口腔外科の榎本明史氏らの研究によるもので、詳細は「British Dental Journal」に4月11日掲載された。
近年、口腔疾患、特に歯周病が糖尿病と互いに悪影響を及ぼしあうことが注目されている。その対策のために、歯科と内科の診療連携が進められている。また、糖尿病との関連に比べるとエビデンスは少ないながら、心・脳血管疾患や高血圧症なども、歯周病と関連のあることが報告されている。歯周病とそれらの全身性疾患は、どちらも治療の継続が大切な疾患であり、通院治療の中断が状態の悪化(歯周病の進行、血糖値や血圧などのコントロール不良)につながりやすい。榎本氏らは、歯科治療を中断することが全身性疾患の病状に影響を及ぼす可能性を想定して、以下の横断的研究を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。研究には、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模Web調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」のデータが用いられた。パンデミック第5波に当たる2021年9月27日~10月30日に、Web調査登録者パネルを利用して、年齢、性別、居住都道府県を人口構成にマッチさせた上で無作為に抽出した3万3,081人に回答協力を依頼。2万7,185人(年齢範囲15~79歳、男性49.7%)から有効回答を得た。
このトピックに関する質問は、「過去2カ月間に、全身性疾患の病状は悪化したか」、「過去2カ月間に、歯科治療を受けることができたか」という二つで構成されていた。前者は「はい」か「いいえ」、後者は歯科治療を「継続していた」、「中断した」、および「該当しない(以前から継続的な歯科治療は受けていない)」から選んでもらった。
全身性疾患の検討対象者は、もともと内科疾患を放置している人やコロナ禍のもと内科疾患の通院を中断した人は除外。最終的には、糖尿病1,719人、高血圧症5,130人、脂質異常症2,998人、心・脳血管疾患833人、喘息677人、アトピー性皮膚炎792人、うつ病などの精神疾患1,638人を対象者とした。これら各疾患の患者のうち、50~60%は歯科治療を継続しており、4~8%は中断していた。いずれの疾患においても、歯科治療継続群より中断群の方が、病状が悪化したとの回答が多かった。
糖尿病患者を例にとると、1,719人のうち88人が歯科治療を中断しており、そのうち16人(18.2%)が糖尿病の悪化を報告。歯科治療を継続していた1,043人ではその割合が5.6%だった。年齢、性別、喫煙習慣、教育歴、収入、居住環境(独居か否か、持ち家か否か)を共変量として調整した解析でも、病状悪化率の群間差は有意だった(P=0.0006)。
同様の解析で、高血圧症(P=0.0003)、脂質異常症(P=0.0036)、心・脳血管疾患(P=0.0007)、喘息(P=0.0094)も、歯科治療を中断した群の病状悪化率の方が有意に高かった。アトピー性皮膚炎とうつ病などの精神疾患に関しては、有意差が見られなかった。
著者らは「本研究は横断研究であるために因果関係は不明」とした上で、「歯科治療の中断がいくつかの全身性疾患の状態を悪化させる可能性が示された。つまり、歯科治療の継続が全身性疾患の進展を抑制し得るのではないか。また、全身の内科的疾患の症状悪化によって、将来的に医療において必要となる人的労力や経済的負担が、口腔の健康の維持のための比較的軽度な負担によって抑制可能かもしれない。この結果はわが国における医歯学連携の推進を後押しする、有意義な知見と考えられる」と結論付けている。
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5月 15 2023 抑うつ症状の強い女性には下部尿路症状が多い――国内ネット調査
日本人女性では、頻尿や尿失禁などの下部尿路症状と抑うつ症状との間に有意な関連のあることが明らかになった。特に若年女性で、より強固な関連が認められたという。横浜市立大学附属市民総合医療センター泌尿器・腎移植科の河原崇司氏らが行ったインターネット調査の結果であり、詳細は「Lower Urinary Tract Symptoms」に3月30日掲載された。
頻尿、尿意切迫感、尿失禁、排尿後の尿漏れといった下部尿路症状(LUTS)は加齢とともに増え、特に女性では尿失禁や尿漏れが男性に比べて起こりやすい。LUTSは命にかかわるものではないものの、生活の質(QOL)を大きく低下させる。一方、うつ病も女性に多い疾患であり、かつ、うつ病は時に命にかかわることがある。これまで海外からは、女性のLUTSがうつ病リスクに関連していることを示す研究結果が報告されている。ただし、それを否定する研究もあり、また日本人女性対象の研究報告はまだない。河原氏らの研究は以上を背景として行われた。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。インターネット調査のパネル登録をしている日本人女性5,400人に、LUTSと抑うつ症状を把握するためのアンケートへの回答を呼びかけ、4,151人(76.9%)から有効回答を得た。LUTSは、過活動膀胱症状質問票(OABSS)と尿失禁症状に関する質問票(ICIQ-SF)により評価。抑うつ症状は、簡易抑うつ症状尺度(QIDS-J)という指標で評価した。
解析対象4,151人の主な特徴は、平均年齢48.3±13.8歳、配偶者のいる女性64.2%、子どものいる女性52.7%であり、過活動膀胱の有病率が14.2%、切迫性尿失禁は20.3%だった。QIDS-Jで評価した抑うつ症状は、若年層ほど重症度の高い人の割合が高く、20代では重度が12.7%、極めて重度が7.9%を占めていた。
抑うつ症状(QIDS-J)と過活動膀胱の症状(OABSS)の関連を解析した結果、QIDS-Jスコアが高いほどOABSSスコアが高いという、有意な正相関が認められた(P<0.001)。具体的には、QIDS-Jが正常群のOABSSスコアは1.43±1.76点、軽度群は2.16±2.22点、中等度群2.55±2.58点、重度群3.11±3.05点、極めて重度群4.49±4.44点だった。また、過活動膀胱や切迫性尿失禁の有病率も、抑うつ症状が強い群ほど高いという結果だった。
これらの関係を年齢層別に解析すると、全ての年齢層で有意な関連が認められたが、若年層ほど、抑うつレベルが高いこととLUTSの関連が強いことが分かった。例えば、60~80歳の高年者では、QIDS-J正常群を基準として、極めて重度群では過活動膀胱や切迫性尿失禁のリスクが3~4倍〔相対リスク(RR)が同順に3.73、3.05〕であるのに対して、20~39歳では同じ比較で7倍以上のリスク差が見られた(過活動膀胱はRR7.42、切迫性尿失禁はRR7.44)。なお、40~59歳の抑うつレベルとLUTSの関係は、若年者と高年者の中間だった(同順にRR4.71、3.58)。
以上より著者らは、「日本人女性では、LUTSの悪化が抑うつ症状と相関しており、特に若年層でその関連が強く認められる」と結論付けている。なお、高年者より若年者で抑うつとLUTSとの関連が強固であることの理由については、既報文献に基づく考察から、「高年者ではLUTSに影響を及ぼし得る婦人科系疾患や糖尿病などの有病率が高いために、抑うつの影響が相対的に弱まる。反対に若年者はそれらの影響が少ないために、抑うつによる血管内皮機能や膀胱平滑筋への影響などを介したLUTSリスクが、より明確に現れるのではないか」と推察している。
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5月 08 2023 補完代替医療を利用している2型糖尿病患者は健康関連QOLが低い
通院中の2型糖尿病患者の4割弱が何らかの補完代替医療を利用しており、利用者は非利用者に比べて健康関連QOLが有意に低いという調査結果が報告された。香川大学医学部衛生学教室の森喜郎氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiologia」に1月20日掲載された。
補完代替医療(complementary and alternative medicine;CAM)は、標準的な現代医療と合わせて、または単独で実施される、非標準的な医療のこと。具体的には、健康食品やサプリメント、マッサージ、アロマセラピー、ヨガ、処方によらない漢方、鍼灸、温熱療法、音楽療法、森林療法などが該当し、一般的に医師の判断ではなく患者自身の意思によって利用される。
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調査対象は、2021年7月12日~9月17日に坂出市立病院の外来を受診した2型糖尿病患者のうち、CAMおよびHRQOLに関する自記式アンケートに回答した421人。HRQOLは、国際的に用いられている「EQ-5D」という質問票の日本語版を用いて評価した。これは、痛み、不快感、不安、うつなどの程度、日常生活活動などを0~1点の範囲にスコア化して判定するもの。数値が高いほど健康であることを意味し、完全に健康な状態の場合は1となる。
対象者の主な特徴は、平均年齢67.3±12.8歳、男性58.7%、BMI25.3±4.6、糖尿病罹病期間5,863.9±3,711.7日、HbA1c7.5±1.5%、eGFR61.3±19.6mL/分/1.73m2で、46.3%がインスリン療法を行っており、HRQOLは0.860±0.200だった。
全体の38.2%の患者が、何らかのCAMを利用していた。最も利用率が高かったのは、サプリメントや健康食品であり、26.6%が利用していた。性別に見た場合、男性のCAM利用率は32.8%、女性は46.0%であり、女性の方が有意に高かった(P=0.006)。ただし、年齢、BMI、罹病期間、HbA1c、eGFRには、CAM利用の有無による有意な群間差は観察されなかった。
次に、CAMの種類ごとに、利用している患者と利用していない患者のHRQOLを比較すると、漢方や磁気療法、カイロプラクティック、温熱療法、スパセラピーについては、それらを利用している患者群の方がHRQOLが有意に低かった。また、何らかのCAMを利用している患者群のHRQOLは0.829±0.221、利用していない患者群は0.881±0.189であり、前者の方が低値だった。HRQOLに影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、BMI、罹病期間、HbA1c)を調整後の比較でも、有意な群間差が認められた(P=0.014)。
喘息患者や炎症性腸疾患などの患者を対象に海外で実施された同様の調査では、CAM利用患者はHRQOLが低いことが報告されている。今回の国内2型糖尿病患者を対象とした研究も、それらの既報研究と同様の結果となった。この理由について論文中には、「CAMを利用したことでHRQOLが低下したのではなく、HRQOLを低下させるような併存疾患や症状がある患者が、標準的な治療に加えてCAMを必要としているという実態を反映しているのではないか」と記されている。
これらの結果と考察に基づき、著者らは、「CAMを利用している2型糖尿病患者は、利用していない患者よりもHRQOLが有意に低かった。CAMの健康転帰への寄与に関するエビデンスは限られているため、CAMに関する適切な情報提供が重要と考えられる」と総括。また、本研究が単施設で実施された横断研究であるため、「因果関係の理解や他の地域・医療機関の患者群での実態を把握可能なデザインでの研究が必要」と付け加えている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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5月 08 2023 尿酸値の低さとCOVID-19重症化リスク上昇の関連には炎症が関与
尿酸値が低い新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者は重症化リスクが高く、そのメカニズムとして、尿酸値の低さのために炎症反応が亢進していることの関与が想定されるとする研究結果が報告された。大阪公立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学の藏城雅文氏らの研究によるもので、詳細は「Biomedicines」に3月10日掲載された。
尿酸値は高すぎると痛風などのリスクとなるが、一方で尿酸には強力な抗酸化作用があるため、低すぎることでも腎機能低下などのリスクが上昇することが分かっている。またCOVID-19パンデミック以降は、尿酸値の低さとCOVID-19重症化リスクの高さとの関連を示唆する研究結果も報告されている。ただし、そのメカニズムについてはまだ不明点が多い。藏城氏らは、COVID-19重症化リスク因子である、炎症、肺胞損傷、凝固能亢進という3点と、尿酸値の低さとの関連に焦点を当て、患者データを用いた後方視的観察研究を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。研究対象は、2020年10月~2021年5月に大阪市立十三市民病院に入院した、非重症COVID-19患者から、高尿酸血症(7mg/dL以上)、三次医療機関での治療後に転院搬送された元重症患者、免疫抑制薬投与中、妊婦、自主退院、データ欠落に該当する患者を除外した488人。主な特徴は、年齢が中央値76歳(四分位範囲57~82)、男性52.0%で、尿酸値は4.4mg/dL(同3.6~5.4)で11.1%が尿酸降下薬を服用していた。炎症はCRPで評価し入院時に3.33mg/dL(0.58~6.77)、肺胞損傷を表すKL-6は252U/mL(198~337)、凝固能亢進を表すD-ダイマーは0.8μg/mL(0.6~1.2)だった。
入院後にICU入室や人工呼吸管理を要した場合を重症化症例と定義すると、19.5%が該当した。入院から重症COVID-19に進行するまでの期間は中央値7日(4~14)だった。
年齢や性別、BMI、eGFR、喫煙、基礎疾患などと尿酸値を調整する多変量解析の結果、重症化に独立して関連する因子として、高齢〔10歳ごとにハザード比(HR)1.342(95%信頼区間1.096~1.642)〕、男性〔女性に対してHR2.103(1.232~3.589)〕とともに、尿酸値の低さ〔-1mg/dLごとにHR1.279(1.021~1.602)〕が抽出された。
また、尿酸値は対数変換したCRP(logCRP)との間に有意な負の相関関係があり(r=-0.165、P<0.001)、尿酸値が低いほど炎症が亢進していることが明らかになった。それに対して、logKL-6やlogD-ダイマーは尿酸値との有意な相関は観察されなかった。
次に、前記の多変量解析の調整因子に、尿酸値、logCRP、logKL-6、logD-ダイマーをそれぞれ単独で追加して、各指標が1標準偏差(SD)異なる場合の重症化リスクを検討。その結果、尿酸値が1SD低いと重症化リスクは約1.3倍になり〔標準化ハザード比1.337(1.025~1.743)〕、logCRPが1SD高いと重症化リスクは約2倍〔同2.079(1.389~3.113)〕、logKL-6は1SD高いごとに約1.3倍〔同1.292(1.040~1.606)〕となった。logD-ダイマーは有意な関連が示されなかった。
続いて、尿酸値と同時にlogCRP、logKL-6、logD-ダイマーを調整因子として追加。すると、logKL-6やlogD-ダイマーを追加した場合には、尿酸値の標準化ハザード比に有意な変化を認めなかった。それに対して、logCRPを追加した場合は、尿酸値の標準化ハザード比が1.233(95%信頼区間0.941~1.616)と非有意になり、logCRPを追加しない場合と結果が有意に異なっていた(P=0.041)。
以上の結果の総括として著者らは、「高尿酸血症に該当しない場合、尿酸値が低いことが、炎症反応の亢進を介してCOVID-19重症化のリスクとなることが示唆された」と結論付けている。そのメカニズムについては既報論文を基に、「尿酸値が低い場合、尿酸の持つ抗酸化作用が低下し、活性酸素によって生じる炎症の抑制が十分になされないためではないか」と考察を述べている。
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治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。
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5月 08 2023 認知症の人に配偶者の死を伝えるべきか?――ケアマネージャー対象調査
認知症の人の配偶者が亡くなった場合に、その事実を伝えるべきだろうか。また、伝えた場合や伝えなかった場合に、どのような問題が発生し得るのだろうか。このような疑問について、国内のケアマネージャーを対象に行った調査の結果が、「European Journal of Investigation in Health, Psychology and Education」に2月8日掲載された。東京大学医学部医学倫理学分野・秩父市立病院の加藤寿氏らの研究によるもの。
認知症の人に対しても自律的な人間として接し、患者本人の知る権利に配慮する必要がある。一方で、配偶者の死という人生で最大級のつらい出来事を知らされることで、認知症に伴う行動・心理症状(BPSD)が悪化したり、うつリスクが増大したり、記憶力低下のために配偶者の死という情報の伝達が繰り返されるという状況も起こり得る。介護の現場では、こうした問題への対応は、しばしばケアマネージャー(CM)がキーパーソンとなって判断されている。そこで加藤氏らは、2019年3~12月に国内で開催された介護関連学会の会場で、CM対象の質問紙調査を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。質問紙は、3人の臨床医と24人のCMによるパイロット研究によって妥当性を確認した後に使用した。回答方法は自記式で匿名とした。707人に配布され、513人(72.6%)から回答を得られ、508人の回答を解析対象とした。75.8%が女性であり、7割以上が10年以上の経験を有していた。
CMの81.3%が、認知症の人の配偶者の死の経験を有していた。その中で、本人への配偶者の死の伝達(以下、情報開示)をした割合は、0~30%が28.1%、40~70%が30.5%、80~100%が34.9%であり、広い範囲に均等に分布していた。情報開示経験のある人の中で、BPSDの悪化に遭遇した経験のある割合は18.4%、うつ病悪化に遭遇した経験のある割合は26.0%だった。
次に、情報開示に関する考え方を問うと、「開示すべき」が39.6%、「開示した方が良い」が43.1%、「開示の必要はない」が14.4%、「開示しない方が良い」が1.2%となった。情報開示の際に考慮すべき事柄を複数回答で選択してもらうと、家族の意向(51.0%)、患者の知る権利(48.2%)、認知症のステージ(25.0%)、本人の性格(24.8%)、うつ病の有無(24.4%)、BPSDの有無(23.2%)、夫婦関係(20.1%)、家族構成(6.1%)、医療提供者の意見(5.3%)などとなった。また、家族が開示に否定的な場合の対応については、「家族の意向を尊重する」が38.6%、「開示のメリットとデメリットを伝えて再考を促す」が39.8%、「患者の知る権利を尊重して開示を提案・説得する」が15.4%だった。
続いて、認知症の人の配偶者の死の経験を有するCMを、情報を開示する頻度が高い(60%以上)群と低い(50%以下)群に二分した上で、属性や上記の質問への回答の傾向を検討。その結果、年齢や性別、CM経験年数に有意差はなく、また、配偶者の死の経験数、開示によるBPSDやうつ病の悪化に遭遇した経験を有する割合にも有意差が見られなかった。
ただし、情報開示の際に考慮すべき事柄として、「本人の性格」を挙げた割合は、開示頻度が高い群は21.7%であるのに対して、開示頻度が低い群は37.2%であり、後者で多く選択された(P=0.007)。同様に「BPSDの有無」を考慮する割合も17.1%、38.8%の順であり、開示頻度が低い群で高かった(P<0.001)。反対に「夫婦関係」を挙げた割合は、開示頻度が高い群が34.9%、開示頻度が低い群は19.8%であり、前者の群で高かった(P=0.007)。
著者らによると本研究は、認知症の人の配偶者の死の情報開示に関する初のCM対象調査だという。結論としては、「情報開示は家族の意向が反映されることが多いが、BPSDやうつ病悪化のリスクも考慮されているようだ。回答者の8割以上が開示に肯定的であるにもかかわらず、実際に開示する頻度はそこまで高くなかったことは、現場のジレンマを表しているのではないか」と総括されている。
軽度認知障害(MCI)のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら
軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。
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5月 08 2023 新型コロナウイルスに感染した医療従事者の3割は未診断――国立国際医療研究センターでの調査
国立国際医療研究センターの職員を対象とする血清疫学調査の結果、2022年12月時点で4割近くの職員がこれまでに新型コロナウイルスに感染しており、その3割は未診断、すなわち感染に気付いていないことが明らかになった。同センター臨床研究センター疫学・予防研究部の溝上哲也氏らの研究によるもので、詳細は「Epidemiology and Infection」に3月8日掲載された。
国内の感染症治療の基幹病院である同センターは、COVID-19パンデミック発生以来、東京都新宿区の本院と千葉県市川市の国府台病院とで、職員の抗体陽性率を定期的に調査してきている。その調査には毎回、職員のほぼ80%が参加しており、悉皆性の高いデータを得られている。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。医療従事者はCOVID-19患者と接する機会が多いため感染リスクが高いと考えられるものの、パンデミック初期の同調査では、同センター職員の抗体陽性率はむしろ一般住民よりも低く、感染防御対策の徹底が奏功していることが示されていた。ただしその後、感染力の強いオミクロン株が出現するという状況の変化が生じている。今回の論文は、昨年12月に実施された調査データを含めた最新の報告。
この調査では、自己申告に基づき院内レジストリと照合して確認されたCOVID-19の診断歴がある場合と、ロシュ社またはアボット社の定性試薬を用いて測定した血中のヌクレオカプシドタンパク質に対する抗体が陽性の場合のいずれかに該当する場合を、「新型コロナウイルス感染歴あり」と定義している。その定義による累積感染率は、2021年6月時点では2.0%だったが、デルタ株が優勢になった後の2021年12月では5.3%に増加した。2022年1月からのオミクロン株による流行拡大を受け、累積感染率は3月には8.7%、6月には16.9%に達した。
オミクロン株はその後も少しずつ変異を繰り返していたが、同年(昨年)夏にはオミクロンBA.5が大流行し、患者数の急拡大を招いた。そして、同年12月の最新の調査では、同センター職員の累積感染率は39.0%と、ほぼ4割となった。また、新型コロナウイルスの感染歴ありとされた職員の約3割(29.7%)が、自分自身が感染していたことを自覚していなかった。
職種別に見た場合、オミクロン株出現以前は、特に感染率の高い職種は特定されていなかった。しかしオミクロン株出現以降は、若年の職員、事務職より医師や看護師、感染リスクが高い部門に勤務する職員で、感染率が高くなる傾向が認められた。
以上の結果に基づいて著者は、「都心に位置する当センターでは、オミクロン株出現後に職員の間で感染が急速に拡大したことが示された。2022年12月の時点で、職員の4割近くが感染していた可能性がある」とまとめている。また、感染の既往が再感染リスクや再感染時の重症化リスクを低下させる可能性があることを踏まえ、同センターで継続的に行っている職員対象の血清疫学調査が、「未診断を含めた新型コロナウイルス感染のモニタリングにとどまらず、いわゆる『ウィズコロナ』時代に向けて、個人および集団の免疫の評価にも役立つのではないか」と付け加えている。
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