• 妊娠中のチーズ摂取が子どもの発達に好影響?

     日本の大規模研究データを用いて、妊娠中の発酵食品の摂取と、子どもの3歳時点の発達との関連を調べる研究が行われた。その結果、妊婦の発酵食品の摂取量が多いことは子どもの発達の遅れのリスク低下と関連し、この関連は、特にチーズで強いことが明らかとなった。富山大学医学部小児科の平井宏子氏らによる研究であり、「PLOS ONE」に6月21日掲載された。

     母親の腸内細菌叢は、新生児の腸内細菌叢の構成に影響し、さまざまな微生物が産生する神経伝達物質の作用を通じて、神経系に影響を及ぼすと考えられる。著者らは過去の研究で、妊娠中に母親が摂取する発酵食品(味噌、納豆、ヨーグルト、チーズ)と、子どもの1歳時点の発達との関係を調査し、妊娠中の発酵食品の摂取が子どもの発達に有益な影響を及ぼす可能性を報告している。

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     今回の研究で著者らは、日本全国規模の出生コホート研究である「子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)」のデータ(リクルート期間:2011年1月から2014年3月)を用いて、妊娠中の発酵食品の摂取と、3歳時点の子どもの発達との関係を調査した。「食事摂取頻度調査票」を用いて、妊娠中の味噌、納豆、ヨーグルト、チーズの摂取量を算出した。子どもの3歳時点の発達は、「ASQ-3」という指標を母親に回答してもらい、5つの発達領域(コミュニケーション、粗大運動、微細運動、問題解決、個人・社会)を評価した。解析対象者は、母子6万910組だった。

     妊娠中の発酵食品の1日当たりの摂取量を四分位で4群(Q1~Q4)に分類し、妊婦の背景因子を調整した上で、3歳時点の発達との関連を多変量ロジスティック回帰で解析した。その結果、チーズの摂取量は、Q1群(0~0.7g)と比べ、Q2群(1.3~2.0g)、Q3群(2.1~4.3g)、Q4群(5.0~240.0g)で、5つの領域全てにおいて、発達の遅れのリスク低下と関連していた。また、味噌のQ4群(147~2,063g)とヨーグルトのQ4群(94~1,440g)は、コミュニケーション領域でのみ、発達の遅れのリスク低下と関連していた。これらの関連については、摂取していた母親から生まれた子どもでは、リスクが低いという有意な傾向が認められた。一方、納豆については、摂取量と発達との関連は認められなかった。

     今回の研究の結論として著者らは、「妊娠中にチーズを摂取することと、子どもの3歳時点における発達の遅れのリスクが逆方向の関連を有することが明らかになった」としている。また、発酵食品の種類により異なる結果が得られたことに関しては、栄養成分などが発酵食品ごとに異なり、健康促進効果も異なると考えられることなどに言及。今後さらなる研究が必要とした上で、「発酵食品の摂取により妊婦の腸内環境を改善することは、子どもの発達に有益な影響を及ぼす可能性がある」と述べている。

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  • 主食・主菜・副菜をとる頻度と栄養素摂取量の関係

     主食・主菜・副菜を組み合わせた食事をとる頻度が、さまざまな栄養素の習慣的な摂取量とどのように関係するかを詳細に調べる研究が行われた。その結果、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度は栄養素摂取量の適切さと関連し、その頻度が低いほど、たんぱく質やビタミンなど、いくつかの栄養素の摂取量が低いこと、習慣的な摂取状況が不足の可能性の高い栄養素の数が多いことが示された。神戸学院大学栄養学部の鳴海愛子氏らによる研究であり、「Nutrients」に5月26日掲載された。

     食事バランスを考える料理区分として、「主食」はごはん・パン・麺など、「主菜」は魚・肉・卵・大豆・大豆製品を主材料とする料理、「副菜」は野菜・いも・海藻・きのこを主材料とする料理とされる。健康日本21(第三次)では、「主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日がほぼ毎日の者の割合」を増やすことが目標とされている。一方、これらと習慣的な栄養素摂取状況の適切度との関連はこれまで検討されてこなかった。加えて、食事習慣は他の生活習慣とも関連し、例えば、定期的に運動している人ほど食事の質は高い。食事の内容や頻度と栄養素摂取量との関係は、生活習慣を含め他の要因の影響も考慮に入れて検討する必要がある。

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     著者らは今回、無作為に抽出した30~69歳の日本人を対象とする横断研究を行い、調査票を用いて、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度や、直近1カ月間の食事内容などを調査し、栄養素摂取量を算出した。解析に必要なデータの得られた対象者は331人(平均年齢48.8±10.2歳、男性62.8%)だった。

     対象者のうち、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事が1日2回以上の日が「ほぼ毎日」だった人は132人(39.9%)、「週に4~5日」は65人(19.6%)「週に2~3日」は74人(22.4%)、「週に1回以下」は60人(18.1%)だった。「ほぼ毎日」の人は、女性、既婚者の割合が高く、年齢も高かった。一方、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度は、BMI、教育歴、世帯年収、喫煙の有無、1日の歩行時間、睡眠時間、飲酒頻度とは関連していなかった。

     たんぱく質の摂取量の不足の確率が50%以上である人の割合を比較したところ、「ほぼ毎日」の人では31.8%、「週に4~5日」は33.8%、「週に2~3日」は47.3%、「週に1回以下」は56.7%であり、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が少ないほど摂取量が不足の可能性が高い者が多い傾向が認められた(傾向性P<0.01)。この傾向は、ビタミンB2、B6、葉酸、ビタミンCについても同様に認められた。また、摂取量が不足の確率50%以上である栄養素の数(平均値)が、「ほぼ毎日」の人では2.0、「週に4~5日」は2.1、「週に2~3日」は2.7、「週に1回以下」は3.1であり、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が少ないほど習慣的な摂取状況が不足の可能性が高い栄養素の数が多い傾向が認められた(傾向性P<0.01)。一方、頻度にかかわらず、食物繊維の摂取量が生活習慣病予防のための摂取量の下限値未満である人(全体で86.1%)と食塩の摂取量が過剰の人(同98.5%)の割合は高かった。

     今回の研究結果について著者らは、「高齢者の低栄養の予防や、若い女性のやせに対する介入など、栄養不足を予防するための介入に役立つ可能性がある」と述べている。また、主食・主菜・副菜を組み合わせた食事の頻度が低い人ほど海藻、魚介類、卵の摂取量が少なかったことや、頻度にかかわらず食物繊維や塩分の摂取量が適正でない人が多かったことを挙げ、適切な食材選択などについて、さらなる研究が必要だとしている。

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  • ICU入室前のソーシャルサポートは退室後の抑うつと関連

     集中治療室(ICU)で治療を受けた患者を対象とする単施設前向きコホート研究の結果、ICU入室前のソーシャルサポートが少ないほど、ICU退室後の抑うつが生じやすいことが明らかとなった。駒沢女子大学看護学科の吉野靖代氏らによる研究であり、「BMJ Open」に6月19日掲載された。

     ICU在室中・退室後、退院後に生じる認知・身体機能の障害やメンタルヘルスの問題は、集中治療後症候群(post-intensive care syndrome;PICS)と呼ばれる。集中治療の進歩により患者の生存率は向上している一方で、PICSによりQOLが低下し、元の生活に戻ることのできない患者も多い。メンタルヘルスに関しては、がん患者や心疾患患者を対象とした研究で、ソーシャルサポートと抑うつの軽減との関連が報告されている。ただ、ICU患者におけるソーシャルサポートとICU退室後のメンタルヘルスに関しては、研究結果が一貫していなかった。

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     そこで著者らは今回、2020年12月から2022年6月の期間に、国内1施設のICU(内科・外科8床)に2日間以上在室した患者で、中枢神経疾患や精神疾患などの患者を除いた153人を対象とし、ICU入室前のソーシャルサポート(ICU入室2日後から退室2週後の間に調査)と、ICU退室3カ月後の心的外傷後ストレス障害(PTSD)症状、不安、抑うつ症状との関連を検討した。ソーシャルサポートは「Duke Social Support Index(DSSI-J)」、PTSD症状は「Impact of Event Scale-Revised(IES-R)」、不安と抑うつ症状は「Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)」という自記式質問票を用いて評価した。

     ICU退室3カ月後の追跡調査データの得られた解析対象患者は115人であり、年齢中央値は74.0歳(四分位範囲64.5~80.0歳)、男性が61人(53.0%)だった。患者の73.9%が予定手術のため入院し、57.3%が心臓手術のためICUに入室した。ICU在室日数の中央値は7日(四分位範囲5~8日)だった。ICU退室3カ月後、PTSDの疑いのある人の割合は11.3%、不安症状のある人は14.0%、抑うつ症状のある人は24.6%だった。

     PTSD症状、不安、抑うつ症状について、説明変数をソーシャルサポート尺度とし、年齢、性別、教育年数を調整した多変量線形回帰分析を行った。その結果、PTSD症状および不安症状の重症度とソーシャルサポートに関連は認められなかった。しかし、抑うつ症状に関しては、ソーシャルサポート(β=-0.018、95%信頼区間-0.029~-0.006、P=0.002)は、抑うつ症状の重症度と独立して関連することが明らかとなった。また、抑うつ症状とソーシャルサポートとの関連には性差が認められ、男性の方が関連は強かった(交互作用P=0.056)。

     今回の研究結果から著者らは、「ICU入室前のソーシャルサポートは、ICU退室後の抑うつ症状と関連するが、PTSD症状とは関連しなかった」と総括している。女性は抑うつと関連していた一方で、ソーシャルサポートが少ない男性は女性よりも抑うつ症状を生じやすいことなどを指摘し、「ICU入室前のソーシャルサポートが少ない患者は、ICU退室後の抑うつ症状に注意する必要がある」と述べている。

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  • 糖尿病黄斑浮腫へのSGLT2阻害薬使用で注射回数減

     糖尿病黄斑浮腫患者に対するSGLT2阻害薬の使用は、ステロイド薬のトリアムシノロンアセトニド(TA)注射頻度の減少と関連しており、非侵襲的かつ低コストの補助療法となる可能性があるとの研究結果が発表された。君津中央病院糖尿病・内分泌・代謝内科の石橋亮一氏と千葉大学眼科、糖尿病・代謝・内分泌内科、人工知能(AI)医学による研究チームによる研究であり、「Journal of Diabetes Investigation」に6月14日掲載された。

     増殖糖尿病網膜症による失明は、近年減少傾向ではあるが、糖尿病黄斑浮腫は、中高年の社会生活の質を低下させる重要な視力障害の原因となっている。糖尿病黄斑浮腫の第一選択薬は抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射だが、眼球への頻回の注射と、高額な医療費が患者の負担となり、また奏功しない患者の存在も次第に明らかとなり、ステロイドテノン嚢下注射(STTA)なども選択される。ただし、TA投与も侵襲的な局所注射療法であり、眼圧上昇などの特有の副作用がある。

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     一方、2型糖尿病などに広く用いられている経口薬のSGLT2阻害薬は、糖尿病黄斑浮腫への治療効果が報告されている。著者らの過去の研究では、抗VEGF薬投与歴のある糖尿病黄斑浮腫患者において、SGLT2阻害薬の使用が抗VEGF薬の投与頻度の減少と関連することを明らかにした。

     著者らは今回の研究では、糖尿病黄斑浮腫へのTA投与に着目し、SGLT2阻害薬の有効性を評価するため、日本の保険請求データベースを用いた後ろ向きコホート研究を行った。糖尿病黄斑浮腫を合併する糖尿病患者を対象とし、他の眼疾患(加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞症、脈絡膜新生血管など)への抗VEGF薬投与歴のある患者などは除外した。2014年以降のSGLT2阻害薬または他の糖尿病治療薬の使用開始日を指標日とし、指標日以降のTAのテノン嚢下または硝子体への投与頻度などを解析した。

     傾向スコアマッチングを行い、SGLT2阻害薬使用群1,206人(平均年齢54±9歳、男性63%)と非使用群1,206人(同54±10歳、61%)が選択された。平均追跡期間はSGLT2阻害薬使用群が2.3±1.5年(2,727人年)、非使用群が3.4±2.1年(4,141人年)だった。観察開始時点で糖尿病関連眼疾患を合併していた患者は、SGLT2阻害薬使用群で852人(71%)、非使用群で858人(71%)、抗VEGF薬投与歴のある患者は同順に46人(3.8%)、15人(1.2%)、TA投与歴のある患者は55人(4.6%)、56人(4.6%)だった。

     TAの投与頻度は、SGLT2阻害薬使用群で1,000人年当たり63.8回、非使用群で同94.9回だった。生存時間解析を行ったところ、SGLT2阻害薬は、初回のTA投与(ハザード比0.66、95%信頼区間0.50~0.87)、2回目のTA投与(同0.53、0.35~0.80)、3回目のTA投与(同0.44、0.25~0.80)が必要となるリスクをそれぞれ有意に低下させることが明らかとなった。さらに、さまざまな臨床背景によりサブグループ解析を行った結果、SGLT2阻害薬によるTAの投与頻度の減少効果は一貫して認められた。また硝子体手術の頻度も初回は2群間で差はなかったものの、2回目で有意に減少していた(同0.51、0.29~0.91)。

     以上の結果から著者らは、「SGLT2阻害薬は、糖尿病黄斑浮腫に対する新たな非侵襲的かつ低コストの補助療法となる可能性がある」と結論付けている。SGLT2阻害薬の効果の基礎となるメカニズムとしては、局所代謝の改善、虚血の改善、浮腫の軽減などが考えられると説明した上で、SGLT2阻害薬の併用は糖尿病黄斑浮腫の発症予防などの報告もされていることから、より早期の糖尿病黄斑浮腫でより有効な可能性を指摘し、今後さらなる研究が必要だとしている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

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  • 食育プログラムが子どもと大人の孤独を改善

     地域における多世代を対象とした食育プログラムを実施した結果、参加した子どもと大人の孤独感に対して肯定的な影響が認められ、食育が孤独を改善する手段として有効である可能性が示唆された。昭和女子大学大学院生活機構研究科の黒谷佳代氏らが行った研究の成果であり、「Nutrients」に5月28日掲載された。

     孤独対策では、人と人との「つながり」を実感できる地域作りが重要である。つながりを感じられる場所を確保する手段の一つとして、日本では食育が推進されている。例えば、子ども食堂は地域の子どもたちと大人が一緒に食事をすることができ、多世代が集うコミュニケーションの場所となっている。しかし、地域における多世代を対象とした食育について、その効果をまとめた研究報告は少ない。

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     そこで著者らは、多世代を対象に、孤独感の緩和を目的とした1日完結型の食育プログラムを実施する単群介入研究を行った。プログラムは東京都調布市において、2022年12月、2023年7月と8月に実施した。参加者の数は全体で、小学生の子どもが21人、保護者が16人、大学生が3人、高齢者が6人だった。無料のパン作り体験としてプログラムを設計し、発酵の時間にはバター作りやシャーベット作りを行い、自作のパンの試食会を行った。世代の異なる参加者とペアになってもらい、参加者同士が会話を楽しめるようにスタッフがサポートした。

     小学生の子ども21人の特徴は、低学年が多く(1~2年生10人、3~4年生7人)、女子の割合が66.7%で、パン作りの経験割合は71.4%だった。大人25人の年齢範囲は20歳から84歳で、女性の割合が88.0%だった。

     「さみしさを感じる」など5項目の質問からなる「子ども用孤独感尺度(Five-LSC)」を用いて、子どもの孤独感を評価したところ、介入前後で合計得点が有意に低下し、孤独感が軽減していることが示唆された。項目それぞれの得点の変化については有意ではなかった。

     大人については、孤独を感じることが「決してない」と回答した人の割合が、介入前の12.5%から介入後は20.8%へと有意に上昇した。しかし、3項目からなる「UCLA孤独感尺度」の合計得点による評価では、有意な変化はなかった。各項目のうち、仲間付き合いがないといつも感じている人は減少した一方で、疎外されていると時々感じる人は増加していた。また、ソーシャルキャピタルのうち、地域の人が他の人の役に立とうとすると思うことや地域への愛着について、大人において評価が向上した。

     参加後に知り合いや友人を作ることができた人の割合は、大人が70%、子どもが43%で、参加者全員がプログラムを楽しんだと回答した。楽しんだ人の割合が高かった内容は、バター作り(子ども88.9%、大人93.3%)、シャーベット作り(子ども77.8%、大人80.0%)、自分で焼いたパンを食べる(子ども77.8%、大人73.3%)、世代間交流(子ども55.6%、大人93.3%)だった。

     今回の結果から著者らは、「日本では、多世代を対象とする食育プログラムが子どもの孤独感に肯定的な影響を及ぼし、大人の孤独感には部分的に肯定的な影響を及ぼすことが示唆された」と結論付けている。また、今後はさらに、長期的影響について対照群を設定したサンプル数の多い介入研究により検討する必要性を指摘している。

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  • 入院中の移動能力の変化が大腿骨近位部骨折リスクと関連

     日本の急性期病院に入院している高齢患者を対象に、患者の状態の変化に着目し、大腿骨近位部骨折(PFF)リスクの予測因子を検討する研究が行われた。その結果、入院中に移動能力が改善した患者は骨折リスクが高く、移動能力の変化をモニタリングすることで骨折の予測精度が向上する可能性が示唆された。獨協医科大学産科婦人科学講座の尾林聡氏、東京医科歯科大学病院クオリティ・マネジメント・センターの森脇睦子氏、鳥羽三佳代氏らによる研究の成果であり、「BMJ Quality and Safety」に6月20日掲載された。

     身体機能が低下する高齢者は転倒リスクが高い。転倒のリスク因子として、筋力、日常生活動作やバランス能力の低下などが挙げられるが、これらの能力は入院中の患者の歩行安定性により変化する可能性がある。転倒によるPFFは、患者の予後、QOL、医療費などに大きな影響を及ぼす。そのため、患者の状態や経過を考慮した、より正確な骨折予測モデルの開発が求められている。

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     そこで著者らは、DPCデータと「重症度、医療・看護必要度」データを用いて、2018年4月から2021年3月に入退院した65歳以上の患者のうち、寝たきりや病的骨折などの患者を除いた851万4,551人(1,321施設)を解析対象とする研究を行った。ロジスティック回帰分析を用いて、入院中のPFFと関連する因子を、移動能力の変化などを含めて詳細に検討した。

     対象患者のうち、入院中のPFFの発生(骨折群)は1,858人(0.02%)だった。骨折群は非骨折群と比べて、平均年齢(82.6±7.8対77.4±7.7歳)、女性の割合(65.3%対42.7%)、BMI 18.5未満の割合(30.3%対14.3%)が高かった。また、併存疾患、手術や救急治療の有無、看護師配置や施設規模などの多くの変数についても、骨折群と非骨折群で有意差が認められた。

     患者の移動能力について、骨折前日の介助の必要性および入院時から骨折前日の移動能力の変化を組み合わせて比較すると、骨折群は非骨折群と比較して、「介助なし×改善」(33.0%対15.7%)、「一部介助×変化なし」(25.8%対13.9%)、「一部介助×改善」(11.4%対4.4%)に分類される人の割合が高かった。

     PFFリスクとの関連を検討した結果、入院時の移動能力については、「全介助」を基準として、「一部介助」のオッズ比(OR)は1.75(P<0.01)、「介助なし」のORは1.49(P<0.01)だった。入院時から骨折前日の移動能力の変化については、「変化なし」のORは1.58(P<0.01)、「改善」のORは2.65(P<0.01)であり、移動能力が改善した患者は、変化しなかった患者よりもPFFのリスクが高いことが示唆された。

     今回の研究の結果、入院中に移動能力が改善した患者はPFFのリスクが高かったことから、著者らは、特に高齢患者は状態が変化しやすいことを指摘し、「患者の日々の移動状態の把握とその変化のモニタリングが、入院中の骨折予防に役立つ」と述べている。

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  • 便秘薬を使用する人ほど排便満足度が低い

     便秘に悩む日本人を対象として、使用している便秘薬の種類や便秘薬に支払う金額などと排便に対する満足度との関連が検討された。その結果、便が硬い人、複数の便秘薬を使用している人、支払い金額の多い人ほど、排便満足度は低いことが明らかとなった。愛知医科大学消化管内科の山本さゆり氏、春日井邦夫氏らによる研究であり、「Journal of Clinical Medicine」に5月30日掲載された。

     便秘は一般的な消化器疾患であるが、慢性便秘は睡眠やメンタルヘルス、生活の質(QOL)のみならず、仕事の生産性などにも悪影響を及ぼすことが報告されている。便秘の治療には、処方薬だけでなく市販薬も使用される。また、医師は便の性状や排便回数などから治療効果を客観的に評価する傾向があるが、患者の治療満足度には主観的評価も含まれ、便秘の問題とその治療については個人差が大きい。

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     著者らは今回、インターネット調査データから日本全国の便秘に悩んでいる人を3,000人抽出し、男性1,503人(平均年齢46.1±13.4歳)、女性1,497人(同46.2±13.3歳)を対象とする研究を行った。排便満足度の評価には「IBS-QOL-J」という指標を用いた(スコアが高いほど満足度が高いことを示す)。便の形状・硬さは「ブリストル便形状スケール(BSFS)」により7タイプに分類した。また、使用している便秘薬の種類や入手方法、便秘薬への1カ月間の支払い金額(または支払い可能金額)などを調査した。

     便秘薬の種類として、刺激性下剤、浣腸・座薬、塩類下剤、不明(覚えていない)に分けて検討した結果、どの種類でも、便秘薬を使用していた人は使用していなかった人に比べ、IBS-QOL-Jのスコアが有意に低いことが明らかとなった。浣腸・座薬と塩類下剤の併用はスコアが最も低く、刺激性下剤と浣腸・座薬の併用を除き、他の便秘薬の単独使用または併用と比べてスコアが有意に低かった。また、便秘薬の入手方法別に検討したところ、医師処方による購入、薬局購入、インターネット購入のいずれも、スコアがわずかながら有意に低かったことから、排便満足度は便秘薬の入手方法とは無関係であることが示唆された。

     さらに、1カ月間の支払い金額について、1,000円未満(男性の73.7%、女性の75.7%)、3,000円未満(同18.7%、19.1%)、5,000円未満(同5.0%、3.6%)、5,000円以上(同2.6%、1.6%)で比較した結果、1,000円未満のIBS-QOL-Jスコアが最も高く、金額が高くなるにつれて排便満足度は低下していた。また、BSFSタイプ1(兎糞状便)とタイプ2(硬便)の人は、タイプ3以上の人に比べ、スコアが有意に低かった。

     今回の研究結果から著者らは、「治療の種類や費用を含むさまざまな因子が排便満足度と関連していることが示唆された」と総括。患者が不適切な下剤を選択する、用法用量が不正確であるという場合や、治療により便の形状などが改善しても腹部膨満感など他の症状が悪化する可能性があることなどを指摘する。また、少数の適切な治療薬かつ最小限の費用で十分な排便が得られると患者の満足度が向上しやすいことから、「適切な治療薬を見極め、食習慣や運動習慣を改善することが望まれる」と述べている。 便秘に悩む日本人を対象として、使用している便秘薬の種類や便秘薬に支払う金額などと排便に対する満足度との関連が検討された。その結果、便が硬い人、複数の便秘薬を使用している人、支払い金額の多い人ほど、排便満足度は低いことが明らかとなった。愛知医科大学消化管内科の山本さゆり氏、春日井邦夫氏らによる研究であり、「Journal of Clinical Medicine」に5月30日掲載された。

     便秘は一般的な消化器疾患であるが、慢性便秘は睡眠やメンタルヘルス、生活の質(QOL)のみならず、仕事の生産性などにも悪影響を及ぼすことが報告されている。便秘の治療には、処方薬だけでなく市販薬も使用される。また、医師は便の性状や排便回数などから治療効果を客観的に評価する傾向があるが、患者の治療満足度には主観的評価も含まれ、便秘の問題とその治療については個人差が大きい。

     著者らは今回、インターネット調査データから日本全国の便秘に悩んでいる人を3,000人抽出し、男性1,503人(平均年齢46.1±13.4歳)、女性1,497人(同46.2±13.3歳)を対象とする研究を行った。排便満足度の評価には「IBS-QOL-J」という指標を用いた(スコアが高いほど満足度が高いことを示す)。便の形状・硬さは「ブリストル便形状スケール(BSFS)」により7タイプに分類した。また、使用している便秘薬の種類や入手方法、便秘薬への1カ月間の支払い金額(または支払い可能金額)などを調査した。

     便秘薬の種類として、刺激性下剤、浣腸・座薬、塩類下剤、不明(覚えていない)に分けて検討した結果、どの種類でも、便秘薬を使用していた人は使用していなかった人に比べ、IBS-QOL-Jのスコアが有意に低いことが明らかとなった。浣腸・座薬と塩類下剤の併用はスコアが最も低く、刺激性下剤と浣腸・座薬の併用を除き、他の便秘薬の単独使用または併用と比べてスコアが有意に低かった。また、便秘薬の入手方法別に検討したところ、医師処方による購入、薬局購入、インターネット購入のいずれも、スコアがわずかながら有意に低かったことから、排便満足度は便秘薬の入手方法とは無関係であることが示唆された。

     さらに、1カ月間の支払い金額について、1,000円未満(男性の73.7%、女性の75.7%)、3,000円未満(同18.7%、19.1%)、5,000円未満(同5.0%、3.6%)、5,000円以上(同2.6%、1.6%)で比較した結果、1,000円未満のIBS-QOL-Jスコアが最も高く、金額が高くなるにつれて排便満足度は低下していた。また、BSFSタイプ1(兎糞状便)とタイプ2(硬便)の人は、タイプ3以上の人に比べ、スコアが有意に低かった。

     今回の研究結果から著者らは、「治療の種類や費用を含むさまざまな因子が排便満足度と関連していることが示唆された」と総括。患者が不適切な下剤を選択する、用法用量が不正確であるという場合や、治療により便の形状などが改善しても腹部膨満感など他の症状が悪化する可能性があることなどを指摘する。また、少数の適切な治療薬かつ最小限の費用で十分な排便が得られると患者の満足度が向上しやすいことから、「適切な治療薬を見極め、食習慣や運動習慣を改善することが望まれる」と述べている。

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  • スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と関連

     日本人高齢者を対象とした大規模研究により、スタチンの使用はパーキンソン病リスクの低下と有意に関連することが明らかとなった。LIFE Study(研究代表者:九州大学大学院医学研究院の福田治久氏)のデータを用いて、大阪大学大学院医学系研究科環境医学教室の北村哲久氏、戈三玉氏らが行った研究の結果であり、「Brain Communications」に6月4日掲載された。

     パーキンソン病は年齢とともに罹患率が上昇し、遺伝的要因や環境要因などとの関連が指摘されている。また、脂質異常症治療薬であるスタチンとパーキンソン病との関連を示唆する研究もいくつか報告されているものの、それらの結果は一貫していない。血液脳関門を通過しやすい脂溶性スタチンと、水溶性スタチンの違いについても、十分には調査されていない。

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     そこで著者らは、LIFE Studyの2014年~2020年の健康関連データを用いて、コホート内症例対照研究を行った。65歳以上の高齢者で、追跡中にパーキンソン病を発症した人を症例、症例1人に対してコホート参加時の年齢、性別、市町村、参加年をマッチさせた対照5人を選択し、解析対象は症例9,397人と対照4万6,789人とした(女性53.6%)。スタチンは脂溶性(アトルバスタチン、フルバスタチン、ピタバスタチン、シンバスタチン)と水溶性(プラバスタチン、ロスバスタチン)に分類し、コホート参加時からの累積投与量の指標として、標準化1日投与量の合計(total standardized daily dose;TSDD)を算出した。

     条件付きロジスティック回帰を用い、先行研究に基づいて併存疾患の有無を調整して解析した結果、スタチン使用は非使用と比較して、パーキンソン病リスクの低下(オッズ比0.61、95%信頼区間0.56~0.66)と有意に関連していることが明らかとなった。この関連は性別にかかわらず、男性(同0.62、0.54~0.70)と女性(同0.60、0.54~0.68)ともに認められた(交互作用P=0.71)。また、年齢層ごとに検討した場合も、65~74歳(同0.57、0.49~0.66)、75~84歳(同0.60、0.53~0.68)、85歳以上(同0.73、0.59~0.92)のいずれも同様の関連が認められた(交互作用P=0.17)。

     全体として、スタチンの累積投与量が多いほどパーキンソン病リスクが低いことも明らかとなった。具体的には、TSDD 0(投与なし)の人と比較して、TSDD 1~30ではリスク上昇(同1.30、1.12~1.52)と関連していた一方で、TSDD 31~90(同0.77、0.64~0.92)、TSDD 91~180(同0.62、0.52~0.75)、TSDD 181以上(同0.30、0.25~0.35)ではリスク低下と関連していた。また、脂溶性スタチン(同0.62、0.54~0.71)と水溶性スタチン(同0.62、0.55~0.70)のどちらも、パーキンソン病リスク低下と関連していることが示された。

     以上から著者らは、「日本人高齢者において、スタチン使用とパーキンソン病リスク低下との間に有意な関連が認められた。スタチンの累積投与量が多いほど、パーキンソン病の発症に対して予防効果を示した」と述べている。スタチンによる予防効果のメカニズムについては、脳動脈硬化の低下やドーパミン作動性神経細胞の生存などによる可能性が考えられるとして、この予防効果をより正確に評価するため、さらなる研究の必要性を指摘している。

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  • 日本の大学院生の自殺に関する実態調査

     日本の大学院の自殺に関する20年間の調査データを分析した結果から、男子学生、工学専攻、留年歴があることなどの特徴が、自殺率の高さと関連していることが明らかとなった。また、自殺の動機として多かったのは就職活動の失敗だったという。お茶の水女子大学保健管理センターの丸谷俊之氏らによる研究であり、「Psychiatry and Clinical Neurosciences Reports」に3月8日掲載された。

     大学院生の自殺既遂例に関する研究報告は少ないが、大学院生はさまざまなストレスにさらされており、メンタルヘルスに関する問題を抱えやすいといえる。海外での研究では、指導教員からのプレッシャーや抑うつ症状などが自殺の要因として指摘されている。

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     著者らは今回、全国の国立大学の大学院生を対象として国立大学保健管理施設協議会が実施している死因に関する調査データを用いて、2002年度から2021年度までの20年間における大学院生の自殺について分析した。学歴(修士・博士)、専攻(7種類)、休学歴、留年歴などと自殺リスクとの関連や、自殺に関連する情報を詳細に検討した。

     20年間の累積学生数は238万3,858人(男子171万6,590人、女子66万7,268人)であり、そのうち347人(男子292人、女子55人)が自殺していた。自殺時の平均年齢は26.2±5.1歳、年齢中央値は24.0歳だった。

     男子学生は女子学生と比べ、自殺率が高かった(学生10万人当たり17.0対8.2)。性別と修士・博士課程で比較すると、修士課程の男子学生の自殺率が最も高かった(調整済み残差:6.2)。専攻別では、工学、理学、人文科学を専攻する学生は自殺リスクが高く(調整済み残差:それぞれ3.9、2.6、2.1)、医歯薬看護・健康科学、教育学、農学、社会科学を専攻する学生はリスクが低かった(調整済み残差:それぞれ-4.1、-3.1、-1.5、-0.9)。また、留年歴のある学生は留年歴のない学生より自殺率が高かった。しかし、留年歴のない男子学生の自殺リスクは、留年歴のある女子学生よりも高かった(調整済み残差:それぞれ2.9、-0.1)。

     精神医学的診断が報告されていた44人の診断名は、気分障害が27人で最も多かった(うつ病19人、双極性障害2人、下位分類不明6人)。また、自殺の推定動機が報告されていた36人のうち、最も多かったのは就職活動の失敗(13人)であり、次いで学業不振(9人)、恋愛関係の問題(5人)が続いた。2020年度には、1人の日本人学生が新型コロナウイルス感染症に関連した就職活動の問題を抱えており、留学生2人はパンデミックに伴う渡航制限が影響していた。

     今回の研究で就職活動の失敗が自殺の動機として最も多かったことに関して、著者らは、修士課程・博士課程ともに定員数が大幅に増やされてきた一方で、学術的なポストの数は不足しており、就職活動が困難になっていることに言及している。また、研究結果から、「大学院生における自殺の高リスク群を認識することの重要性」を指摘している。

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  • 妊娠・乳幼児期の大気汚染物質の複合曝露が小児喘息と関連

     妊娠期、子どもの乳幼児期における大気汚染物質への曝露と小児喘息の発症との関連が、日本全国のデータを用いて詳細に検討された。その結果、低濃度の大気汚染物質への複合曝露が、持続性小児喘息の発症と関連していることが明らかとなった。昭和大学医学部リウマチ・膠原病内科の城下彰宏氏らによる研究の成果であり、「Ecotoxicology and Environmental Safety」に6月20日掲載された。

     小児喘息の発症は、環境的、社会経済的、遺伝的要因の影響を受ける。大気汚染は喘息の発症や悪化と関連するが、大気汚染物質は複雑な混合物である。比較的低濃度の大気汚染物質の複合曝露による影響については十分に研究されておらず、海外と日本では大気汚染の状況も異なり、エビデンスが不足している。

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     そこで著者らは、株式会社JMDCの保有するデータベースを用いて、2010年1月~2017年1月に出生した児とその母親のデータを抽出し、妊娠中、乳幼児、幼児期における大気汚染物質への曝露と4~5歳時点の喘息との関連を調べた。大気汚染については国立環境研究所のデータより、微小粒子状物質(PM2.5)、浮遊粒子状物質(SPM)、窒素酸化物(NOx)、一酸化窒素(NO)、二酸化窒素(NO2)、一酸化炭素(CO)、光化学オキシダント(Ox)、二酸化硫黄(SO2)、全炭化水素(THCs)、非メタン炭化水素(NMHCs)の各濃度を調べた。

     その結果、大気汚染物質の分布は、PM2.5とSPMは九州地方と瀬戸内海地方に多く、NOとNO2は関東地方に多かった。また、SO2は瀬戸内海地方と鹿児島湾地方に多いことが分かった。

     解析対象の母親(年齢中央値32.0歳)と子どものペアは5万2,526組(1,149市町村)であり、そのうち1万2,703人(24.2%)の子どもが4~5歳時点で喘息を有していた。

     次に、weighted quantile sum(WQS)regressionモデル(各大気汚染物質ごとに重み付けを行い、複合曝露の影響をサマリースコアとして算出する方法)で解析したところ、妊娠期、乳児期、幼児期の大気汚染物質の複合曝露が10パーセントタイル上昇するごとに、それぞれ喘息発症のオッズが1.04倍(95%信頼区間1.02~1.05)、1.02倍(同1.01~1.03)、1.03倍(同1.01~1.04)となることが明らかとなった。

     今回の研究の結論として著者らは、「比較的低濃度の大気汚染物質の複合曝露が、小児持続性喘息と関連している」と述べている。また、日本では交通関連の大気汚染は減少しているが、自動車以外からのPM2.5排出を削減することの重要性や、日本のエネルギー生産が化石燃料に依存していることなどの問題を指摘した上で、さらなる大気汚染濃度の改善が必要だとしている。

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    喘息の症状からセルフチェックに関連する基本情報を掲載。風邪の症状のように明確には判断がしにくい病気。医師の診断にかかるのが一番最善ですが、自分自身が該当するのか?気になった人に向けて、一つの判断となる情報を紹介しています。

    喘息の症状からセルフチェックに関連する基本情報

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    HealthDay News 2024年7月22日
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