• 日本人COVID-19患者で見られる肥満パラドックス

     日本人では、肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスク因子ではない可能性を示唆するデータが報告された。肥満ではなく、むしろ低体重の場合に、COVID-19関連死のリスク上昇が認められるという。下関市立市民病院感染管理室の吉田順一氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Medical Sciences」に9月11日掲載された。

     古くから「肥満は健康の敵」とされてきたが近年、高齢者や心血管疾患患者などでは、むしろ太っている人の方が予後は良いという、「肥満パラドックス」と呼ばれる関連の存在が知られるようになってきた。COVID-19についても同様の関連が認められるとする報告がある。ただし、それを否定する報告もあり、このトピックに関する結論は得られていない。吉田氏らは2020年3月3日~2022年12月31日までの同院の入院COVID-19患者のデータを用いて、この点について検討した。

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     解析対象は1,105人でほぼ全員(99.3%)が日本人であり、半数(50.1%)が男性だった。主要評価項目は入院から29日以内の全死亡(あらゆる原因による死亡)とし、副次的評価項目として侵襲的呼吸管理(IRC)の施行を設定。年齢、性別、BMI、体表面積、ワクチン接種の有無、レムデシビル・デキサメタゾンの使用、化学療法施行、好中球/リンパ球比(NLR)などとの関連を解析した。なお、IRCは酸素マスクによる5L/分以上での酸素投与にもかかわらず、SpO2が93%未満の場合に施行されていた。また、年齢、BMI、NLRなどの連続変数は、ROC解析により予後予測のための最適な値を算出した上で、年齢は72.5歳、BMIは19.6、NLRは3.65をカットオフ値とした。

     入院後29日目までに死亡が確認された患者は32人(2.9%)であり、COVID-19による死亡が20人、細菌性肺炎7人、心血管イベント3人、および敗血症性ショック、尿路感染症が各1人だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別に死亡者数をプロットすると、死亡者数のピークはBMI11~15の範囲にあり、BMI22にも小さなピークが認められた。多変量解析から、死亡リスク低下に独立した関連のある因子として、BMI19.6超(P<0.001)とレムデシビルの使用(P=0.040)という2項目が特定された。反対に、年齢72.5歳超(P<0.001)、化学療法施行中(P=0.001)、NLR3.65超(P=0.001)は、死亡リスクの上昇と有意に関連していた。

     IRCが施行されていたのは37人(3.3%)だった。年齢と性別の影響を調整後に、BMI別にIRC施行者数をプロットすると、BMI11~25の範囲で施行者数の増加が認められた。多変量解析から、IRC施行リスクの上昇と有意な関連のある因子として、年齢72.5歳超(P=0.031)、デキサメタゾンの使用(P=0.002)、NLR3.65超(P=0.048)が特定された。IRC施行リスクの低下と有意な関連のある因子は抽出されなかった。

     著者らは、BMI19.6以下がCOVID-19患者の全死亡リスク増大に独立した関連があるという結果を基に、「日本人COVID-19患者で認められる肥満パラドックスは、BMI高値が保護的に働くというよりも、BMI低値の場合にハイリスクである結果として観察される現象ではないか」との考察を述べている。また、レムデシビルが死亡リスク低下の独立した関連因子である一方、デキサメタゾンがIRC施行リスク上昇の独立した関連因子であったことについては、「サイトカインストームに伴う呼吸不全にデキサメタゾンが使用された結果であり、同薬がIRC施行リスクを高めるわけではない」と解説している。

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    HealthDay News 2023年11月27日
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  • コロナ緊急事態宣言は国内大学生の抑うつレベルに影響を及ぼさなかった?

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下での大学生の抑うつレベルの推移を解析した結果、計4回発出された緊急事態宣言は、大学生の抑うつレベルに有意な影響を及ぼしていなかった可能性を示すデータが報告された。むしろ、4月の新年度のスタートが、大学生の抑うつレベルに影響を与えていることが確認されたという。名古屋市立大学大学院医学研究科精神・認知・行動医学分野の白石直氏らの研究によるもので、詳細は「Annals of General Psychiatry」に10月10日掲載された。

     大学生の抑うつ状態にある割合は、一般人口に比べて高いことが知られている。例えば一般人口におけるうつ病の有病率は13%という報告があるのに対して、大学生では32%という報告が見られる。COVID-19パンデミックが人々に強いストレスを与えたことが多くの研究から明らかになっており、大学生のうつレベルもより高まっていた可能性が考えられる。白石氏らは、緊急事態宣言発出時に講義がリモートで行われるなど特異な環境にあったタイミングで、大学生の抑うつレベルが特に上昇していたのではないかとの仮説の下、以下の研究を行った。学年度が切り替わる新年度のタイミングの抑うつレベルへの影響も、併せて検討した。

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     この研究は、大学生のメンタルヘルス上の問題を、モバイルアプリを用いた認知行動療法(CBT)で予防し得るかを検証するために、パンデミック前からスタートしていた無作為化比較試験「ヘルシーキャンパストライアル(HCT)」のデータを二次的に解析するという手法で行われた。HCTでは、国内5大学の学生が参加し、2018年度後期(秋)に最初のコホートが設定され、その後、2019年度前期(春)/後期(秋)、2020年度前期/後期、2021年度後期という計6件のコホートが組まれた。各コホートの最初の8週間はアプリを用いたCBTによる介入が行われ、その後52週目まで(スタートから1年間)は追跡期間とされた。

     HCT参加者は、介入期間は毎週、追跡期間は4週ごとにPHQ-9という指標(27点満点でスコアが高いほど抑うつ症状が強いと判定される)により、抑うつレベルの経時的な変化が評価された。なお、研究参加の適格基準は、年齢が18~39歳の大学生または大学院生でスマートフォンを所有していること。PHQ-9スコアが15点以上または10~14点で希死念慮がある学生、およびメンタルヘルス上の問題のため受療中の学生は除外されている。6件のコホート全体の参加者数は1,626人であり、平均年齢は21.5歳で男子学生がやや少なかった(性比0.74)。

     研究ではまず、パンデミック下の緊急事態宣言に着目した検討が行われた。4回の緊急事態宣言発出後に顕著なPHQ-9スコアの上昇が認められたのは、2020年度後期コホートにおける28~32週時点(3回目の緊急事態宣言発出後)のみであり、24週目が5.3点であるのに対して28週目は5.8点、32週目は6.0点と推移していた。ただ、各年度の後期にスタートしたコホートの28~32週は、翌年の4月ごろに該当する。よってこのタイミングでのPHQ-9スコアの上昇は、緊急事態宣言発出の影響のみでなく、新年度がスタートした直後であることの影響も考えられた。

     次に、前期スタートのコホート3件(1,104人)、後期スタートの3件(522人)をそれぞれ統合して全体を2群に分け、PHQ-9スコアの推移を解析。その結果、前期スタート群のPHQ-9スコアは、全期間を通して4週ごとに0.02点(95%信頼区間―0.03~―0.01)ずつ有意に低下していた(P=0.008)。それに対して後期スタート群では、中断時系列分析により、新年度スタート時期の28週目までは4週ごとに0.07点(同0.02~0.11)ずつ上昇する傾向が見られた(P=0.12)。ところが、その傾向は急に中断され、28週目時点で0.60点(0.42~0.78)抑うつレベルが悪化したことが推定された(P<0.001)。28週を超えると4週ごとに0.16(―0.21~―0.10)ずつ低下していた(P=0.003)。

     以上の結果から著者らは、「当初の仮説に反して、緊急事態宣言発出による大学生のうつレベル上昇は確認されなかった。一方で学年度が切り替わるタイミングで、大学生のメンタルに大きなストレスが加わることが示唆された」と総括している。

     なお、COVID-19パンデミックが大学生のメンタルヘルスを悪化させたとする国内発の先行研究が複数存在する。緊急事態宣言発出の影響に焦点を当てた今回の研究が、それらとは異なる解釈が可能な結果となった理由について、以下のような考察が述べられている。先行研究では同一対象への継続的な調査でなく、パンデミック後の調査にはメンタルへの影響を強く感じた学生がより積極的に回答していた可能性があり、また、調査を行うタイミングが年度替わりを考慮せずに設定されていたことの影響もあるのではないかとのことだ。一方、本研究にも、交絡因子の調整が十分でないことや、新年度のスタートは花粉症の時期であるため、その症状がメンタルに影響を及ぼしていた可能性も否定できないといった限界点があるとしている。

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    HealthDay News 2023年11月20日
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  • パンデミックで急性アルコール中毒による救急搬送が有意に減少――高知県のデータ

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの最中に、急性アルコール中毒による救急搬送件数が有意に減少していたことが明らかになった。住民の飲酒量が多いことで知られる高知県のデータを解析した結果であり、高知大学医学部環境医学の南まりな氏、災害・救急医療学の宮内雅人氏らによる論文が、「Alcohol」に9月20日掲載された。

     COVID-19パンデミックにより人々の生活が一変し、それにより救急搬送される患者の傾向にも変化が生じている。例えば交通事故による外傷が減り、ストレスが発症に関与しているたこつぼ心筋症が増えたことなどが報告されている。一方、飲酒行動に関しては、飲食店の時短営業や入店制限などによる飲酒機会の減少と、ストレス負荷による自宅での飲酒量の増大という相反する影響が考えられるが、南氏らが2020年春というパンデミック初期に高知県で行った研究では、急性アルコール中毒による救急搬送が減少していたことが明らかになっている。今回の研究では、パンデミックが長期化した以降もそのような傾向が継続しているのか否かを検証した。

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     この研究には、高知県救急医療・広域災害情報システム「こうち医療ネット」のデータが用いられた。2019~2021年の救急搬送の記録12万49件のうち、データ欠落、および急性アルコール中毒患者が発生していない10歳未満と80歳以上を除外した6万2,138件を解析対象とした。このうち926件(1.5%)が急性アルコール中毒によるものだった。

     年次推移を見ると、2019年は2万2,289件中412件(1.9%)が急性アルコール中毒によるもので、2020年は1万9,775件中268件(1.4%)、2021年は2万74件中246件(1.2%)だった。全体として、急性アルコール中毒による救急搬送は、性別で比較した場合は男性に多く(66.1%)、年齢層では20代が最も多くを占めていた(37.2%)。

     ポアソン回帰モデルにて、2019年を基準とする急性アルコール中毒による救急搬送件数の発生率比(IRR)を検討すると、2020年はIRR0.78(95%信頼区間0.67~0.91)と有意に低く、2021年もIRR0.73(同0.63~0.86)であり有意に低値だった。つまり、パンデミック初期に認められた急性アルコール中毒による救急搬送件数の減少は、パンデミックが長期化した2年目にも継続していたことが明らかになった。

     著者らは本研究について、救急搬送以外の手段で受診した急性アルコール中毒患者も存在する可能性があること、県民の酒量が多く飲酒に寛容な高知県での調査であり、解釈の一般化が制限されることなどの留意点を挙げている。ただし後者については、「研究の限界点であると同時に、特異な飲酒文化で得られた貴重なデータでもある」と述べている。また、「パンデミックによって急性アルコール中毒による救急搬送が減少したという事実は、換言すれば、パンデミック以前の人々の飲酒行動に問題があったことを示唆している」との考察を加えている。

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    HealthDay News 2023年11月13日
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  • 侵襲的⼈⼯呼吸を要したCOVID-19患者は退院半年後も健康状態が不良

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が重症化してICUで長期にわたる侵襲的⼈⼯呼吸(IMV)を要した患者は、退院後6カ月経過しても、身体的な回復が十分でなく、不安やふさぎ込みといった精神症状も高率に認められることが明らかになった。名古屋大学大学院医学系研究科救急・集中治療医学分野の春日井大介氏らの研究結果であり、詳細は「Scientific Reports」に9月4日掲載された。

     IMVの離脱後には身体的・精神的な後遺症が発生することがある。COVID-19急性期にIMVが施行された患者にもそのようなリスクのあることが、既に複数の研究によって明らかにされている。ただし、それらの研究の多くはICU退室または退院直後に評価した結果であり、かつ評価項目が限られており、COVID-19に対するIMV施行後の長期にわたる身体的・精神的健康への影響は不明。春日井氏らは、同大学医学部附属病院ICUに収容されたCOVID-19患者を対象とする前向き研究により、この点を検討した。

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     2021年3~9月に同院ICUにてIMVが24時間以上施行された患者から、18歳未満、気管挿管がなされなかった患者、ICU死亡などを除外した64人を研究対象とした。なお、酸素投与量が4L/分未満となった時点で、ICUからCOVID-19一般病棟に転棟されていた。64人全員についてICU退室時に身体機能と精神症状が評価された上、32人は退院時にもそれらが評価された。さらに全員に対して退院6カ月後に、健康状態を確認するためのアンケートを郵送し、42人から回答を得た。

     解析対象者の主な特徴は、年齢中央値60歳(四分位範囲52~66)、男性85.9%で、ICU患者の重症度の指標であるSOFAは同10(8~11)、APACHE IIは21(19~24)、IMV施行期間は9日(6~15)だった。IMV施行期間9日以下/超で二分し比較すると、年齢、男性の割合、BMI、基礎疾患有病率、SOFA、APACHE II、および腎機能、炎症マーカー、凝固マーカーなどには有意差はなかった。ただし、IMV施行期間9日超の群(以下、長期IMV群)は、体外式膜型人工肺(ECMO)や気管切開の施行率と、肺のダメージを表すKL-6が高く、鎮静期間が長いという有意差があった。

     ICU退室時点の状態を比較すると、長期IMV群は、MRCという全身の筋力を評価するスコアが低く(60点満点で51対60点)、握力が弱い(10.6対18.0kg)という有意な群間差が見られた。抑うつや痛み、倦怠感などの9種類の身体的・精神的症状を評価するESASというスコアには、有意差がなかった。

     退院時の状態については、MRCスコアはICU退室時と同様に長期IMV群の方が有意に低かった(56対60点)。一方、ICU退室時には有意差がなかったESASスコアは、長期IMV群が高値で有意な群間差が認められた〔90点満点で17対4点(ESASはスコアが高いほど状態が良くないことを意味する)〕。

     退院6カ月後の状態は、EQ-5D-5LというアンケートとEQ-VASという指標で評価。その結果、EQ-5D-5Lでは5項目の評価項目(移動の程度、身の回りの管理、普段の活動、痛み/不快感、不安/ふさぎ込み)のうち、痛み/不快感を除く4項目は全て長期IMV群の方が不良であることを示し、総合評価(0.025~1の範囲で評価)にも有意差が存在した〔0.82対0.89(P=0.023)〕。また、0~100の範囲で健康状態を自己評価するEQ-VASでも有意差が確認された〔80対90(P=0.046)〕。

     著者らは、「本研究には、単一施設の研究でありサンプル数が十分でないといった限界点がある」とした上で、「COVID-19急性期に長期間IMVを要した患者は退院時に十分回復しておらず、さらに6カ月後にも健康状態の改善が不十分だった。重症COVID-19患者に対しては長期間のフォローアップと、積極的かつ学際的な治療アプローチが必要と考えられる」と述べている。

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    HealthDay News 2023年11月6日
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  • Long COVIDの倦怠感・ME/CFSにフェリチン高値が関与?

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)急性期以降に症状が遷延する、いわゆる「long COVID」における筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)に、高フェリチン血症が関与している可能性を示唆するデータが報告された。岡山大学学術研究院医歯薬学域総合内科学の大塚勇輝氏、山本幸近氏、大塚文男氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of Clinical Medicine」に7月18日掲載された。

     Long COVID患者の多くが倦怠感を呈するが、その一部は、強い症状のために日常生活にも支障が生じて、ME/CFSに類似した状態に移行することがある。一般人口におけるME/CFSの有病率は1%未満であるのに対して、long COVID患者では16.8%に上るというデータもある。ME/CFSの原因として、感染症、免疫応答の異常、内分泌機能不全などが想定されているが詳細は未解明であり、臨床医にとってME/CFSの診断は容易でない。Long COVID患者のME/CFSに何らかの特徴を見いだせれば、それを手掛かりとしてME/CFSの診断・治療へとつなげられる可能性が広がる。

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     一方、COVID-19の急性期ではその重症度とフェリチンとの間に関連があり、long COVIDでもフェリチンの上昇が臨床的特徴の一つになり得ることが示唆されている。フェリチンは鉄貯蔵のマーカーだが、感染症や炎症によって高値となることも知られている。これらの知見を背景として大塚氏らは、岡山大学病院総合内科・総合診療科のコロナ・アフターケア(CAC)外来の患者データを用いて、フェリチン値を含めた臨床検査指標とME/CFSとの関連を横断的に解析した。

     解析対象は、2021年2月22日~2022年5月31日のCAC外来受診者312人から、COVID-19罹患後4週間未満のlong COVIDの診断基準を満たさない患者、COVID-19罹患以前から高フェリチン血症だった患者などを除外した234人。このうち139人(59.4%)が倦怠感を訴え、さらにその中の50人はME/CFSの診断基準を満たした。95人(40.6%)は倦怠感を訴えていなかった。なお、ME/CFSは、国内外で用いられている3種類の診断基準を全て満たす場合と定義した。

     ME/CFS群、ME/CFSの基準を満たさないが倦怠感のある群(非ME/CFS群)、倦怠感なし群を比較すると、年齢や性別の分布、BMI、COVID-19急性期の重症度には有意差がなかった。ただし、COVID-19罹患から受診までの期間は有意差があり、ME/CFS群が最も長く中央値128日、倦怠感なし群は106日、非ME/CFS群は最も短く73日だった。6種類の自覚症状評価スケールの評価結果は全て、ME/CFS群が最も重度であり、非ME/CFS群、倦怠感なし群の順に軽度となることを示していた。

     血液検査値に着目すると、貧血の有無や重症度を表すヘモグロビン、炎症マーカーのCRPや白血球数、凝固マーカーのDダイマーやフィブリノゲン、腎機能、肝機能、アルブミンなどの検査値には有意差は認められず、フェリチンのみME/CFS群が有意に高値であった(ME/CFS群は中央値193.0、非ME/CFS群98.2、倦怠感なし群86.7μg/L)。またフェリチン値は、6種類の自覚症状評価スケールのうち3種類(FASという倦怠感評価スケールなど)のスコアとの有意な相関も認められた。なお、フェリチン値を性別で比較すると女性の方が低値だが、ME/CFS群と非ME/CFS群との比較では、女性で群間差がより顕著で(中央値68.9対43.8μg/L)、男性は群間差が非有意となった。

     このほか、内分泌学的検査からは、成長ホルモン(GH)がME/CFS群は倦怠感なし群より有意に低いこと(0.22対0.37ng/mL)、インスリン様成長因子I(IGF-I)とフェリチン値との間に有意な負の相関(r=-0.328)があることなどが示された。

     これらの結果を総括して著者らは、「long COVIDに伴うME/CFSの特徴としてフェリチン高値が特定された」と結論付けている。なお、フェリチンは感染症や炎症で上昇するが、本研究の対象はCOVID-19罹患から長期間経過後であること、およびフェリチン以外の炎症マーカーは上昇していないこと、さらにCOVID-19急性期の重症度とME/CFSリスクとの間に関連がないことなどから、「急性期の炎症が遷延しているだけとは言いにくく、long COVIDに伴う鉄代謝への影響や、高血圧、睡眠障害、抑うつ、ホルモン分泌の変化などが病態に関連している可能性がある」との考察が加えられている。

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    HealthDay News 2023年10月23日
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  • ワクチン接種回数や年齢層によるCOVID-19症状の違い――札幌市での調査で明らかに

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種回数が多いほど感染時に全身症状が現れにくい一方で、咽頭痛や鼻汁などの上気道症状が現れやすいことなどが明らかになった。北海道大学医学研究院呼吸器内科の中久保祥氏らが、札幌市のCOVID-19療養判定システムなどのデータを解析した結果であり、詳細は「The Lancet Infectious Diseases」に6月30日掲載された。オミクロン株BA.2とBA.5の症状の特徴や、高齢者と非高齢者の違いも示されている。

     この研究に用いられた札幌市のCOVID-19療養判定システムは2022年4月にスタートし、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)陽性判定を受けた同市市民が登録して症状などを記録している。記録されている情報は、発症日、食事摂取状況、12種類(発熱、咳、咽頭痛、呼吸困難、鼻汁、頭痛、倦怠感、関節や筋肉の痛み、下痢、味覚・嗅覚異常など)の症状、年齢、性別、基礎疾患など。これらの情報と、感染者等情報把握・管理支援システム、ワクチン接種記録システムのデータを統合して解析が行われた。

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     解析対象は、2022年4月25日~9月25日にデータが記録されていた15万7,861人。主な特徴は、年齢が中央値33歳(四分位範囲17~47)、65歳以上6.9%、男性47.7%、BMI中央値21.1、BMI30以上4.3%、ワクチン未接種者38.0%、感染既往者3.7%など。また、オミクロンBA.2の感染者が21.8%、BA.5が78.2%を占めていた。重症化した(酸素投与と入院を要した)のは142人、30日以内の死亡は4人だった。

     最も一般的な症状は咳(62.7%)であり、次いで咽頭痛(60.7%)、鼻汁(44.3%)、頭痛(42.1%)、38度以上の発熱(38.8%)、痰(36.1%)、関節や筋肉の痛み(29.1%)、食思不振(28.1%)などだった。BA.2流行期と比較してBA.5流行期には発熱や食思不振などの全身症状が多く、これはワクチン接種歴や基礎疾患などの影響を除外した解析でも同様だった。

     ワクチン接種歴との関連では、3回以上接種した人は全身症状が現れにくく、反対に鼻汁や咽頭痛といった上気道症状が現れやすいことが分かった。またワクチン接種の影響は、接種日から日数が経過するに従い小さくなること、2回接種よりも3回接種の方がより強い影響が持続することも示された。

     年齢との関連については、高齢者は若年者と比較して、全体的に症状が現れにくいものの、いったん発熱や倦怠感などの全身症状が出現すると、その後に重症化しやすくなる傾向が認められた。例えば、呼吸困難、発熱、食思不振、倦怠感という4症状がある場合、それらがない場合に比べて重症化のオッズ比は40.26(95%信頼区間14.60~110.98)に上った。一方で、咽頭痛や鼻汁が出現した高齢者は、その後の重症化リスクが低い傾向が見られた。例えば、咽頭痛と鼻汁の双方がある場合、その後の重症化のオッズ比は0.19(同0.08~0.45)だった。

     著者らは、「これまでの研究から、SARS-CoV-2の武漢株、アルファ株、デルタ株、オミクロン株では、感染時の症状が異なることが知られていたが、オミクロン株の亜株(BA.2とBA.5)の間でも、症状の特徴が異なることが明らかになった。また、ワクチン接種者では上気道症状が現れやすくなるという点も、今回初めて示された」と総括。さらに、「高齢者では上気道症状ではなく、全身症状が重症化の前兆と考えられるという知見は、今後の治療介入の判断に有用な情報となり得る」と付け加えている。

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    HealthDay News 2023年8月28日
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