• 高強度運動中は眼圧が低下する

     高強度の運動を行っている最中は眼圧が有意に低下するというデータが報告された。東都大学幕張ヒューマンケア学部理学療法学科の河江敏広氏らの研究によるもので、詳細は「Healthcare」に6月26日掲載された。低~中強度運動では有意な変化はなく、また高強度運動でも、負荷終了後の回復期間中の眼圧は負荷前と有意差がないという。

     血管新生緑内障や増殖糖尿病網膜症では、血圧や眼圧の変化が病状に影響を及ぼす可能性が指摘されている。一方、運動の習慣的な継続は血圧を下げるように働くが、運動の最中の血圧は上昇することが知られており、網膜の状態が不安定な場合、激しい運動を控えた方が良い場合もある。

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     他方、眼圧の変化も網膜や視神経に影響を及ぼす可能性があるが、運動中の眼圧の変化はほとんど検討されていない。数少ない既報研究の中には、中強度の有酸素運動によって眼圧が低下したとする報告がある一方、1RM(1回だけ実施可能な最大負荷量)の80%の負荷で4回のウエートリフティング後に眼圧が上昇したとする報告があり、結果に一貫性が見られない。河江氏らは、運動強度によって眼圧への影響が異なる可能性を想定して本研究を行った。

     研究対象は、眼疾患、心血管疾患、筋骨格系疾患などのない健康な18人の男性(平均年齢24.6±2.7歳、BMI21.2±1.1)。全員が非喫煙者であり、眼圧は10~21mmHgの範囲であることを適格条件とした。最大酸素摂取量(VO2max)は平均53.4±8.0mL/kg/分だった。

     運動の負荷には自転車エルゴメーターを用いた。運動強度を、VO2maxの30%(低強度)、50%(中強度)、70%(高強度)とする3条件とし、それを全員に試行。各条件の試行には少なくとも1日以上の間隔を設け、また眼圧の日内変動に配慮して全条件の試行を19時から開始した。運動負荷前と、20分間の運動中の5分ごと、および回復段階(負荷終了の3分後)に眼圧を測定。また、全身への血液供給を反映するとされる平均血圧を、収縮期血圧と拡張期血圧測定の結果から算出した。運動中は呼気ガスのモニタリングにより、運動強度を一定に維持した。

     検討の結果、3条件いずれの強度でも、運動中の酸素摂取量は安静時に比べて有意に上昇していた。眼圧については、VO2maxの30%と50%の条件では、運動中および回復段階でも、負荷前の安静時と有意な変化がなかった。それに対してVO2maxの70%という高強度の負荷をかけた時の眼圧は以下のように、運動中は安静時より有意な低値を示し(すべての時点でP<0.05)、回復段階では有意差が消失した。安静時14.2±2.6、負荷開始5分後12.4±2.8、10分後11.5±2.68、15分後11.5±2.58、20分後11.6±2.88、回復段階13.1±2.3(単位はmmHg)。

     平均血圧については、VO2maxの30%と50%の条件では眼圧と同様に、運動負荷中および回復段階でも負荷前の安静時と有意差がなかった。VO2maxの70%では以下に記すように、運動中に安静時より有意な高値を示し(すべての時点でP<0.05)、回復段階には有意差が消失した。安静時の平均血圧は94.3±10.4、負荷開始5分後は110.0±12.4、10分後103.3±9.9、15分後102.2±7.5、20分後100.3±7.1、回復段階94.1±11.2(単位はmmHg)。

     また、酸素摂取量が高いほど眼圧が低いという、有意な負の相関が認められた(r=-0.15、P=0.026)。一方、酸素摂取量と平均血圧の関連は非有意だった(P=0.193)。

     以上の結果を基に著者らは、「健康な男性では、高強度の有酸素運動中に眼圧が有意に低下するが、低~中強度の運動では有意な変化は生じない」と結論付け、「健康な男性以外を含む多様な集団での追試が求められる」と述べている。また、眼圧降下薬の一種であるβ遮断薬は交感神経の働きを抑制し房水(眼球内の水分)の産生を抑えることで眼圧を下げるが、運動中には交感神経が亢進するにもかかわらず高強度運動で眼圧が低下したことから、「高強度運動による眼圧低下は、交感神経系とは異なる経路に対する機序で生ずるのではないか」との考察を加えている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

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    HealthDay News 2022年9月12日
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  • 好中球とリンパ球の比が男性のうつ症状と関連

     一般的な健康診断の測定項目に含まれている白血球の分画である好中球とリンパ球の比(NLR)の値が、男性のうつ症状と独立して関連しているとする研究結果が報告された。弘前大学大学院医学研究科麻酔科学講座の木下裕貴氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に6月3日掲載された。同氏らは、NLRが男性のうつ状態の簡便なマーカーになり得るのではないかと述べている。

     うつ病の原因については不明点が多く残されているが、神経の炎症が関与しているケースがあることが知られている。その傍証として、うつ病患者ではインターロイキン-6(IL-6)や腫瘍壊死因子-α(TNF-α)などの炎症性サイトカインが高値であるとする報告がある。ただし、IL-6やTNF-αの測定にはコストがかかり、多くの人を対象とするスクリーニング目的で行える検査ではない。

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     一方、一般的な健診の結果から簡単に計算可能なNLRや、血小板とリンパ球の比(PLR)が、IL-6やTNF-αと正相関することが知られており、NLRやPLRも神経炎症が関連する疾患のマーカーと成り得る可能性がある。実際、NLRやPLRと、統合失調症やてんかんなどとの間に有意な関連があることも報告されている。ただし、うつ病との関連はまだ十分検討されていない。木下氏らはこの点について、国内の地域住民を対象とする研究を行った。

     研究には、弘前大学が中心となって行っている「岩木健康増進プロジェクト」のデータを用いた。同プロジェクトに登録された弘前市岩木地区住民1,073人のうち、うつ病と診断されている人および解析に必要なデータのない人を除外した1,051人(男性41%)を解析対象とした。

     うつ状態の評価に用いられているCES-Dという指標で60点中16点以上の場合を「うつ症状あり」と定義すると、19.7%が該当した。性別の有病率は、男性19.1%、女性20.4%だった。

     男性・女性ごとにうつ症状の有無で2群に分けて比較すると、男性の習慣的飲酒者がうつ症状のない群で有意に多く、また男性・女性ともにうつ症状のある群でCES-Dスコアが有意に高かった。しかし、年齢、BMI、現喫煙者の割合、高血圧・糖尿病・脂質異常症・冠動脈疾患・脳卒中の有病率、肝機能・腎機能・糖代謝指標などに有意差はなかった。

     男性のNLRは、うつ症状のない群が中央値1.54、うつ症状のある群が同1.76であり、後者の方が有意に高かった(P=0.005)。またPLRも同順に123.7、136.8であり、後者の方が有意に高かった(P=0.047)。一方、女性のNLRやPLRは、うつ症状の有無で有意差がなかった。

     次に、うつ症状ありを目的変数とし、うつ病との関連が報告されている、年齢、BMI、高血圧・糖尿病・脂質異常症・冠動脈疾患・脳卒中の既往、およびNLRとPLRなどを説明変数として、ロジスティック回帰分析を施行。その結果、男性のうつ症状ありに独立して関連する因子として、NLRが抽出された〔1増加するごとの調整オッズ比(aOR)1.570(95%信頼区間1.120~2.220)〕。NLR以外では、習慣的飲酒が負の関連因子〔aOR0.548(同0.322~0.930)〕として認められた以外、年齢やBMI、併存疾患、およびPLRは有意な関連が見られなかった。また、女性に関しては、NLRも含めて検討した項目の全てが非有意だった。

     以上より著者らは、「男性ではNLRの高さがうつ症状に関連している可能性が示された」と結論付けた上で、「男性のうつ状態のスクリーニングにNLRを使用可能かの確認のため、大規模なコホート研究が求められる。また両者の因果関係の解明には、前向き縦断研究が必要」と述べている。なお、女性では結果が非有意だった点については、「NLRに影響を与えるエストロゲンのレベルが閉経前後で大きく変わるためではないか」との考察を加えている。実際に本研究でも、女性の年齢とNLRとの間に弱いながら有意な負の相関が認められたという。

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    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年9月12日
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