• ハンズフリーでも油断禁物、会話が運転中の目の動きを妨げる

     道路交通法上、運転中のハンズフリー通話に問題はないが、脳には一定の負荷がかかる可能性があるようだ。最新の研究で、健常成人に眼球運動課題を行ってもらったところ、話しながら課題を行った場合に反応開始時間や眼球移動時間に遅れが生じる傾向があることがわかった。研究は、藤田医科大学病院リハビリテーション部の鈴木卓弥氏、藤田医科大学保健衛生学部リハビリテーション学科の鈴木孝治氏(現所属:金城大学医療健康学部作業療法学科)、上原信太郎氏によるもので、詳細は10月6日付けで「PLOS One」に掲載された。

     注意の分散は運動行動に影響を与え、正確な動作や協調が必要なタスクで遅れや誤差を生じることが知られている。特に運転中の通話は、手に持つかハンズフリーかに関わらず周囲の視覚情報への反応を遅らせ、事故リスクを高めることが報告されている。これは、会話による認知的負荷が運転に必要な注意資源(attentional resources)を奪い合うためと考えられる。運転には眼球運動、物体認識、動作の準備、実行といった視覚運動処理が必要であり、会話はこれら、特に周辺視野への眼球運動に干渉する可能性がある。本研究では、健常成人に中心から周辺への眼球運動課題を実施し、会話をする、音声クリップを聞く、課題のみの3つの条件で比較し、会話による眼球運動の反応遅延を検討した。

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     本研究では、2019年7月11日から2020年8月13日の間に合計30人の健常成人が募集された。参加者は、21インチのコンピュータディスプレイの前に座り、画面中央から周辺に現れる8か所のターゲットに対して、できるだけ速く正確に視線を向けてもらう眼球運動課題を行った。目の動きはアイ・トラッカーで精密に記録した。参加者は、眼球運動課題を3つの条件で実施した。会話条件では、WAIS-IIIやオリジナルの質問計45問(「イタリアの首都はどこですか?」や「昨日の夜は何時に寝ましたか?」など)に答える形式をとった。聴覚条件では、夏目漱石の小説「吾輩は猫である」の朗読音声を聞き、その内容の理解に集中した。対照条件では、眼球運動課題のみを行い、追加の認知的負荷は課さなかった。3つの実験条件が眼球運動に与える影響を調べるため、各運動パラメータについて、条件(会話、聴覚、対照)および方向(8方向)を被験者内要因とした反復測定分散分析(ANOVA RM)を適用した。

     3つの実験条件を比較した結果、ターゲットの位置にかかわらず、会話条件では他の条件より反応開始時間が長いことが分かった。事後比較では、会話条件(平均279.7ミリ秒〔ms〕、標準偏差〔SD〕32.8)は、聴覚条件(平均260.4 ms、SD 29.7、P=0.07、効果量〔d〕=0.62)および対照条件(平均261.3 ms、SD 32.8、P=0.09、d=0.56)と比べて、反応時間が長くなる傾向を示した。

     視線移動に要する時間についても同様で、会話条件(平均260.1 ms、SD 107.6)は、聴覚条件(平均141.5 ms、SD 58.9、P<0.05、d=1.37)および対照条件(平均160.8 ms、SD 102.1、P<0.05、d=0.95)より有意に長かった。

     さらに、視線調整に要する時間も同様の傾向を示し、会話条件(平均1226.5 ms、SD 723.3)は、聴覚条件(平均493.2 ms、SD 361.5、P<0.05、d=1.28)および対照条件(平均548.9 ms、SD 461.2、P<0.05、d=1.12)より有意に延長していた。

     著者らは、「本研究では、迅速かつ正確な視線移動と会話を同時に求められる負荷の高い状況において、視線行動の時間的パラメータが遅れることを示した。これらの結果は、会話に伴う認知的負荷が、視覚運動処理の最初のステップである視線行動の開始や制御に関わる神経プロセスに影響を与える可能性を示唆している」と述べている。

     なお、本研究の限界点として、個人ごとの認知負荷を定量化できず、会話そのものか負荷の影響かの区別もつかないため、干渉の閾値や程度は明らかでない点を挙げており、今後の取り組むべき研究課題であるとした。

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    HealthDay News 2025年11月17日
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  • ピロリ菌が重いつわりを長引かせる可能性、妊婦を対象とした研究から示唆

     妊娠中の「つわり」は多くの人が経験する症状であるが、中には吐き気や嘔吐が重く、入院が必要になるケースもある。こうした重いつわり(悪阻)で入院した妊婦164人を解析したところ、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)に対する抗体(IgG)が陽性である人は入院が長引く傾向があることが分かった。妊娠前や妊娠初期にピロリ菌のチェックを行うことで、対応を早められる可能性があるという。研究は、日本医科大学武蔵小杉病院女性診療科・産科の倉品隆平氏、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は10月6日付けで「Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に掲載された。

     妊娠悪阻は妊娠の0.3〜2%にみられる重度のつわりで、持続する嘔吐や体重減少により入院を要することも多い。進行すると電解質異常や肝・腎機能障害、ビタミンB₁欠乏によるウェルニッケ脳症(意識障害やふらつきを伴う急性脳症)などを生じることがある。原因としてヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)や胎盤容積の大きさなどが知られるが、近年はピロリ菌感染との関連も指摘されている。しかし、日本人妊婦における感染と重症度や入院期間との関係は十分に検討されていない。本研究では、重度妊娠悪阻で入院した症例を対象に、入院時の各種指標とピロリ菌に対するIgG抗体の有無が入院期間に及ぼす影響を後ろ向きに検討した。

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     本研究では、2011年1月~2023年6月までに日本医科大学付属病院または日本医科大学武蔵小杉病院で入院治療を要した重度妊娠悪阻患者164人が含まれた。患者はまず、抗H. pylori IgG抗体の有無(陽性群 vs 陰性群)に基づき2群に分けられた。その後、すべての患者を長期入院群(21日以上)と短期入院群(21日未満)に分類して、二次解析が行われた。統計手法には、マン・ホイットニーのU検定、t検定、フィッシャーの正確確率検定、ロジスティック回帰分析が適宜用いられた。

     解析対象164人中、抗H. pylori IgG抗体陽性の患者は23人(14.0%)、陰性は141人(86.0%)であった。これら2群の入院期間を比較したところ、抗H. pylori IgG抗体陽性群の入院中央値(範囲)は24日(6〜70日)であり、陰性群の中央値15日(2〜80日)と比べて有意に長かった(P=0.032)。

     次に長期入院群と短期入院群を比較したところ、長期入院群では尿ケトン体強陽性(3≦)の割合(P=0.036)や抗H. pylori IgG陽性の割合(P=0.022)が有意に高かった。入院時の検査所見を比較すると、長期入院群では血清遊離サイロキシン(FT4)値が有意に高かったが、その他の検査項目に有意差は認められなかった。

     多変量ロジスティック回帰分析の結果、単変量解析で有意だった因子を調整後も、入院長期化の独立したリスク因子として確認されたのは抗H. pylori IgG陽性のみであった(オッズ比〔OR〕 4.665、95%信頼区間〔CI〕 1.613~13.489、P=0.004)。尿ケトン体強陽性は入院期間延長の傾向を示したが、統計的有意差は認められなかった(OR 2.169、95%CI 0.97~4.85、P=0.059)。一方、尿ケトン体強陽性の有無で患者を層別すると、陽性群の入院中央値は19日(4〜80日)、陰性群の12日(2〜55日)であり、有意に入院期間が延長されていた(P=0.001)。

     著者らは「今回の研究結果から、抗H. pylori IgG抗体の検査で、重度の悪阻で入院が長引きやすい妊婦を特定できる可能性が示唆された。抗体陽性の妊婦は、入院中により注意深く観察されることで、体調管理の助けになると考えられる。また、妊娠前からの準備(プレコンセプションケア)が、悪阻の予防策として有効かもしれない」と述べている。

     また、著者らは、妊娠前のピロリ菌スクリーニングや除菌の有効性については現時点では仮説にすぎず、本研究はその可能性を示すにとどまると説明している。今後は、ガイドラインや保険制度の見直しを含め、前向き研究で有効性や費用対効果を検証することが重要だとしている。

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    HealthDay News 2025年11月17日
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