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3月 02 2026 日本の健康アウトカムに地域差、「へき地度」で示された疾患別死亡率との関連
日本では地域によって医療資源や人口構成が異なり、健康アウトカムの差が指摘されている。今回、こうした地域特性を定量的に評価する指標「へき地度(Rurality Index for Japan:RIJ)」を用いた全国規模の研究で、RIJが高い地域ほど脳血管疾患の死亡率や男性の自死率が高い傾向が示された。研究は、横浜市立大学大学院データサイエンス研究科ヘルスデータサイエンス専攻の金子惇氏、山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座の池田登顕氏によるもので、詳細は1月26日付で「BMJ Open」に掲載された。
世界的に都市と地方では健康状態や医療アクセスの格差が報告されているが、日本では「へき地性(rurality)」の定義や評価方法が研究ごとに異なり、統一指標による検討は十分に行われていなかった。離島や過疎地域、無医地区など医療アクセスに課題を抱える地域も存在する中、客観的な指標を用いた全国的評価の必要性が指摘されてきた。そこで本研究は、日本の医療におけるへき地尺度(RIJ)を用い、主要5疾患における地域差を評価するとともに、へき地性と高齢化率や社会経済状況との関連を検討した。
【治験について相談したい方へ】
治験情報の探し方から参加検討まで、専門スタッフが一緒にサポートします研究は、生態学的研究デザインを用い、日本の自治体および政令指定都市の行政区を対象に実施された。人口が0人の地域を除く1,897自治体・行政区、総人口約1億2,600万人を解析対象とした。地域のへき地度はRIJを用いて評価し、RIJスコアは分布に基づいて四分位(Q1〜Q4)に分類した。急性心筋梗塞(AMI)、脳血管疾患(脳卒中・脳出血)、がん、自死について標準化死亡比(SMR)を算出し、死亡データが利用できない糖尿病については外来診療の標準化受療比(SCR)を代替指標として用いた。
解析対象となった1,897の自治体・行政区の解析から、RIJが高い地域ほど、脳血管疾患および男性自死のSMRが高いことが示された。いずれもRIJの上昇に伴い段階的に増加する傾向(用量反応関係)が認められた。
男性の脳卒中・脳出血のSMRは、最もRIJが低い地域(Q1)を基準とすると、RIJのSMRに対する回帰係数がQ2で11.5、Q3で12.7、Q4で18.4と増加し、女性でも同様の傾向がみられた。また男性の自死のSMRでも同様に、Q2で8.7、Q3で12.9、Q4で14.1と、RIJが高いほど回帰係数が上昇した。
AMIでは、RIJが高い地域でSMRが高い傾向がみられたが、明確な段階的増加は確認されなかった。一方、がん死亡率および糖尿病外来受療のSCRについては、RIJとの有意な関連は認められなかった。
さらに、RIJは地域の高齢化率および地理的剥奪指標(ADI)と正の相関を示し、RIJが高いほど高齢者割合や社会経済的困難を抱える傾向が示された(Spearmanの相関係数はそれぞれ0.67、0.55)。これらの結果は、へき地度の高い地域では医療アクセスや社会的支援の面で課題が集中していることを示唆している。
著者らは、「これらの結果は、救急医療へのアクセス改善およびメンタルヘルス支援の強化を含む、へき地度の高い地域に焦点を当てた医療政策の重要性を示している」と述べている。
なお、本研究では自治体単位の解析で個人レベルの因果関係は示せない点や、人口2000人未満の地域が含まれておらず、最もへき地度の高い地域における格差を過小評価した可能性がある点などが限界として挙げられる。またSCRは受療行動や患者移動の影響を受けるため、医療ニーズを直接反映していない可能性もある。
地域差を単なる都市・地方の二分法ではなく、連続的な「へき地度」として捉えた点は、今後の地域医療政策や研究のあり方にも示唆を与える結果といえそうだ。
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3月 02 2026 子宮頸がん検診、受診率は制度で変わる? 東京都51自治体解析
日本では子宮頸がんの罹患が増加する一方、検診受診率の低さが課題となっている。今回、東京都内の51自治体を対象とした研究で、検診受診率には大きな地域差があり、医療機関数や予約制度、HPV検査導入などの制度的要因が関連していることが示された。研究は、東京科学大学公衆衛生看護学分野の原田伊織氏、月野木ルミ氏らによるもので、詳細は1月21日付で「The Asian Pacific Journal of Cancer Prevention」に掲載された。
日本では1990年代半ば以降、子宮頸がんの罹患率・死亡率が上昇しているにもかかわらず、検診受診率は欧米に比べ低い状況が続いている。子宮頸がんは前がん病変の段階で発見・治療すれば予防可能であり、細胞診やヒトパピローマウイルス(HPV)検査による検診は有効な予防手段とされるが、日本では自治体や職域など複数の仕組みが混在し、地域ごとの運用差が受診率の格差につながっている可能性がある。また、子宮頸がん検診への参加に影響する地域レベルの要因を明らかにすることは、参加率を改善し、全体の受診率向上および地域間格差の縮小につながる介入策の開発に寄与する可能性がある。そのような背景から、本研究は、東京都内における子宮頸がん検診受診率の地域差を明らかにし、それに関連する地域要因を検討することを目的とした。
【子宮頸がんの治験について相談したい方へ】
治験情報の探し方から参加検討まで、専門スタッフが一緒にサポートします本研究は後ろ向きの生態学研究として、東京都内51自治体のデータを用いて実施された。主要評価項目は検診受診率とし、データは2018年の東京都保健医療局のがん検診統計、人口統計、ならびに各自治体の公式ウェブサイトから収集した。各自治体について、就業女性の割合、検診申し込みの必要性(あり/なし)、子宮頸部細胞診とHPV検査の併用の有無など、地域要因の候補となる項目を収集した。検診受診率とこれらの要因との関連は、重み付き最小二乗法による線形回帰モデルを用いて検討した。
東京都における子宮頸がん検診の平均受診率は18.6%であり、自治体間で大きなばらつきが認められた(範囲8.1%〜85.8%)。自治体間で検診体制には差があり、就業女性割合は平均38.9%で、検診実施医療機関数にも大きなばらつきがみられた。無料検診は約6割の自治体で提供されていた一方、細胞診とHPV検査の併用はごく少数に限られた。また、約4割の自治体では保健センター等で検診申し込みが必要であった。
次に、検診受診率と地域要因候補との関連を線形回帰モデルにより解析した。その結果、対象女性1万人あたりの検診実施医療機関数(β=41.51、95%信頼区間〔CI〕:23.66〜59.36、P<0.001)、就業女性の割合(β=1.03、95%CI:0.43〜1.63、P<0.001)、検診申し込みの必要性(検診申し込み不要を基準)(β=−5.56、95%CI:−9.57〜−1.62、P=0.01)、およびHPV検査併用の導入(未導入を基準)(β=12.89、95%CI:5.42〜20.36、P<0.001)が検診受診率と有意に関連していた(βは各要因と受診率との関連の強さを示す回帰係数)。
本解析から医療機関数の多さやHPV検査導入は受診率の高さと関連していた一方、検診申し込みが必要な場合は受診率が低い傾向が示された。
著者らは、「子宮頸がん検診の受診率向上には、医療機関へのアクセス改善、検診受診手続きの簡略化、HPV検査併用の実施が関連している可能性が示された。これらの知見は、地域の子宮頸がん検診体制や公衆衛生政策の検討に役立つと考えられる」と述べている。
なお、本研究は東京都の自治体による子宮頸がん検診のみを対象としており、全国への一般化には限界がある。また、職域での任意の子宮頸がん検診は考慮されていない。
検診を受けない理由は「意識」だけではなく、「仕組み」にもある可能性が示された。検診を受けやすい環境づくりが、子宮頸がん予防の第一歩となりそうだ。
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