高齢者の夜間頻尿、改善のカギは就寝時間か

夜間頻尿は特に高齢者を悩ませる症状の一つであり、睡眠の妨げとなるなど生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすことがある。今回、適切な時刻に規則正しく就寝する生活を送ることで、高齢者の夜間頻尿が改善する可能性があるとする研究結果が報告された。研究は、福井大学医学部付属病院泌尿器科の奥村悦久氏らによるもので、詳細は「International
Journal of Urology」に4月26日掲載された。
夜間頻尿は、夜間に排尿のために1回以上起きなければならない症状、と定義されている。主な原因としては、夜間多尿、膀胱容量の減少、睡眠障害が知られている。疫学研究により、夜間頻尿はあらゆる年齢層における主要な睡眠障害の一因であり、加齢とともにその有病率が上昇することが示されている。加齢に伴う睡眠障害の一つの特徴として、就寝時間が早まる傾向がある。その結果、高齢者では総睡眠時間は延長するものの眠りが浅くなり、軽い尿意で覚醒するようになる。しかし、睡眠障害の治療が夜間頻尿の改善につながることを示唆する前向き臨床試験の報告は限られている。このような背景を踏まえ著者らは、就寝時刻を調整することで高齢者の夜間頻尿が改善するという仮説を立てた。

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本研究では、睡眠・覚醒活動を測定するウェアラブルデバイスを患者に装着して就寝してもらった。得られた1週間分の就寝時刻、中途覚醒時間のデータから、最急降下法を応用して考案した独自のアルゴリズム(特許出願中)を用いて患者ごとに適切な就寝時刻を決定し、その時刻に就寝する生活を続けることによる夜間頻尿の変化を検証した。解析対象は、2021年4月~2023年12月にかけて、夜間頻尿を主訴として福井大学附属病院とその関連病院を受診した患者33名とした。患者を交互割り付けで4週間毎の介入→非介入群と非介入→介入群の2群に分け、それぞれに対し2週間のウォッシュアウト期間を設けるクロスオーバー試験を実施した。介入期間中は、上記方法で決定した個別の就寝時刻に就寝してもらい、排尿状態は各期間の前後3日に記録した排尿日誌を、睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いてそれぞれ評価した。主要評価項目は夜間排尿回数(Nocturnal
urinary frequency;NUF)の変化量とし、副次評価項目は夜間尿量(Nocturnal urine
volume;NUV)、就寝から第一覚醒までの時間(Hours of undisturbed sleep;HUS)、NUV(NUV per
hour;NUV/h)、PSQIなどの変化量と設定した。変化量はrepeated measures ANOVAで評価した。
解析対象は、新型コロナウイルス感染症流行に伴う移動制限、生活習慣の変化などの理由により9名を除外した24名となった。対象の平均年齢は79.7±5.6歳であり、男性17名、女性7名であった。介入前の対象群の平均就寝時刻は21時30分で、介入後は22時11分となり、24人中22人が就寝時間を遅らせる結果となった。
介入期間中のNUFは、非介入期間と比較して有意に減少した(-0.90回 vs
-0.01回、P<0.01)。さらに、Spearmanの順位相関検定の結果、NUFの変化量と就寝時間の変化量の間には有意な相関が認められた(r=-0.58、P=0.003)。
また非介入期間と比較して、介入期間においてHUSは有意に延長し(62.8分 vs.
12.7分、P=0.01)、NUVは有意に減少した(-105.6mL vs.
4.4mL、P=0.04)。特にHUSまでのNUV/hが有意に減少し(-28.4mL/h vs.
-0.17mL/h、P=0.04)、さらにPSQIも有意な改善を認めた(-2.4 vs. 1.2、P=0.02)。
本研究の結果について著者らは、「夜間頻尿を有する高齢者は最適な就寝時刻より早く就寝している傾向にある可能性が高い。しかし、適切な時刻に規則正しく就寝する生活を送ることで、睡眠の質にとって非常に重要な要素であるといわれる『就寝から第一覚醒までの時間』が有意に延長され、これに伴い夜間尿量、特に『就寝から第一覚醒までの時間』における単位時間あたりの尿量が有意に減少し、結果として夜間排尿回数が有意に減少する可能性がある。これらの結果は、就寝時刻の調整が夜間頻尿に対する有効な行動療法となる可能性を示唆している。また、実際の就寝時刻と最適な就寝時刻の差が大きい患者ほど介入の有効性が高い可能性がある」と述べている。

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