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10月 10 2023 筋肉量の多寡にかかわらずタンパク質摂取量が高齢者の全死亡リスクに関連
日本人高齢者を対象とする研究から、タンパク質の摂取量が多いほど全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが低いという関連が示された。この関連は、筋肉量や血清アルブミンなどの影響を統計学的に調整してもなお有意であり、独立したものだという。東京都済生会中央病院糖尿病・内分泌内科の倉田英明氏(研究時点の所属は慶應義塾大学医学部腎臓内分泌代謝内科)らの研究によるもので、詳細は「BMC geriatrics」に8月9日掲載された。
タンパク質摂取量と健康リスクとの関連については、動脈硬化や腎機能、またはサルコペニア(筋肉量・筋力の低下)、フレイル(要介護予備群)などの観点から研究されてきている。しかし、食文化の違いによるタンパク源の相違などの影響のため、それらの研究結果は一貫性が見られない。また、国内発の知見はいまだ少なく、かつサルコペニアやフレイルリスクを有する高齢者の筋肉量とタンパク質摂取量との関連を検討した研究が主体であって、地域在住一般高齢者の死亡リスクとの関連は明らかになっていない。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。以上を背景として倉田氏らは、慶應義塾大学と川崎市が共同で行っている「川崎元気高齢者研究(Kawasaki Aging and Wellbeing Project;KAWP)」のデータを用いて、この関連を縦断的に解析した。KAWPは、日常生活動作(ADL)が自立した身体障害のない85~89歳の地域住民対象前向きコホート研究として2017年にスタート。今回の研究ではKAWP参加者のうち、簡易型自記式食事歴質問票(BDHQ)を正しく回答でき、認知機能の低下(MMSE24点未満)がなく、解析に必要なデータに欠落のない833人を対象とした。主な特徴は、平均年齢86.5±1.36歳、女性50.6%、BMI23.1±3.16で、骨格筋量指数(SMI)は7.33kg/m2、血清アルブミンは4.16±0.28mg/dL。BDHQにより把握された摂取エネルギー量は2,038±606kcal/日であり、その17.0±3.18%をタンパク質から摂取していた。
摂取エネルギー量に占めるタンパク質の割合の四分位で全体を4群に分類して比較すると、その割合が高い群ほど高齢(傾向性P=0.042)で女性が多い(同0.002)という有意な関連が認められた。一方、BMI、腎機能(eGFR)やそのマーカー(BUN、尿アルブミン)、心血管疾患(CVD)既往者の割合には有意差がなかった。血清アルブミンは傾向性P値が0.056と非有意ながら、タンパク質エネルギー比が高い群で高値となる傾向にあった。SMIについては全体解析では、タンパク質エネルギー比が高い群ほどSMIが低いという負の有意な関連があったが(傾向性P=0.018)、性別に解析すると、男性、女性ともに非有意となった。
タンパク質の摂取源に着目すると、タンパク質エネルギー比が最も低い(平均13.1%)第1四分位群は、魚の摂取量が20.3g/1,000kcalであるのに対して第4四分位群(同21.2%)は68.6g/1,000kcalと、約3.5倍であった。タンパク質以外の主要栄養素については、タンパク質エネルギー比が高い群ほど炭水化物摂取量が少なく、脂質の摂取量が多かった(いずれも傾向性P<0.001)。
平均1,218日(約3.5年)の観察で、89人の死亡が記録されていた。タンパク質エネルギー比の第1四分位群を基準として、共変量(年齢、性別、SMI、血清アルブミン、教育歴、がん・CVDの既往)を調整したCox回帰モデルにより、タンパク質摂取量が多いほど全死亡リスクが低いという有意な関連が明らかになった。具体的には第4四分位群ではハザード比(HR)0.44(95%信頼区間0.22~0.90)と56%低リスクであり、全体の傾向性P値が0.010だった。共変量のSMIをBMIに置き換えた場合も結果は同様だった。
魚の摂取量の多寡の影響に着目して、その四分位数で4群に群分けして検討すると、第4四分位群で有意なリスク低下が認められたが〔HR0.48(95%信頼区間0.23~0.97)〕、全体の傾向性は非有意だった(傾向性P=0.13)。その他、肉類、卵、乳製品に分けて行った解析からは、全死亡リスクとの有意な関連は示されなかった。
著者らは、本研究が観察研究であるために解釈に限界があるとした上で、「ADLが自立している85歳以上の高齢者では、タンパク質摂取量が多いことが全死亡リスクの低下と関連しており、この関連は筋肉量にかかわらず認められた」と結論付けている。また、タンパク質エネルギー比が高い群ほど魚の摂取量が多かったことから、「魚には抗炎症作用や発がん抑制作用が報告されているn-3系多価不飽和脂肪酸が豊富に含まれており、健康に対して多面的なプラス効果を期待できる。高齢アジア人の健康アウトカム改善には、魚を中心とするタンパク質の摂取量を増やすことも重要なポイントではないか」と述べている。
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6月 06 2023 薬剤師による運動介入でフレイル予防
処方薬を受け取りに薬局を訪れた慢性疾患のある高齢者に対して、薬剤師が運動に関する簡単な情報提供を行うことが、フレイルの予防につながる可能性が報告された。一般社団法人大阪ファルマプラン社会薬学研究所の廣田憲威氏(研究時点の所属は武庫川女子大学薬学部臨床薬学研究室)らによる研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に4月7日掲載された。
フレイルはストレスに対する耐性が低下した状態で、介護リスクの高い「要介護予備群」。介護が必要な状態になってからの回復は困難なことが多いが、フレイル段階であれば、運動や食事の習慣を改善することで元の状態に戻ることができるため、早期介入が重要とされる。他方、地域の薬局には近年、調剤業務にとどまらず、地域住民の健康を支える機能が求められるようになってきた。フレイル予防に関しても、薬局での栄養評価などの試みの報告がなされてきている。ただし、運動介入の報告はまだない。今回の廣田氏らの研究は、以上を背景とするもの。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この研究は、大阪府内の11の薬局における無作為化比較試験として実施された。対象は、処方薬の受け取りのため薬局を毎月訪れる慢性疾患のある70~79歳の高齢者。無作為に2群に分け、1群に対しては、服薬指導に加えて「ナッジ」を利用した運動の勧めを行った。ナッジとは、わずかに後押しする行為のことで、本人の気づきを促し行動変容につなげることを狙うもの。本研究では、薬局を訪れるたびに、自宅でできる簡単な運動の方法(4分の1スクワット、つま先立ちなど)が書かれたプリントを手渡したり、運動を行っているか確認したりした。ただし、実際に運動を行うか否かや、どのような運動を行うかは、患者の判断に任せた。一方、他の1群に対しては、通常の服薬指導のみを行った。
2021年1~3月の間に薬局を訪れた患者のうち103人が研究参加に同意した。骨粗鬆症・がん・メンタルヘルス疾患・認知症の治療薬やステロイド薬が処方されている患者、BMI30以上または低栄養、医師から運動制限が指示されている患者は除外されている。評価項目は、登録時点と6カ月後の体組成計で測定した筋肉量と、椅子立ち上がりテスト(椅子に座って立つという動作をなるべく速く5回繰り返す)の所要時間の変化など。
研究登録時点で両群間に、年齢や性別の分布などに有意差はなかった。研究期間中に、介入群の15人、対照群の18人が受診間隔の延長などの理由で脱落し、解析は介入群46人、対照群24人を対象に行われた。
6カ月間での筋肉量の変化は、介入群が1.08±7.83%(95%信頼区間-1.24~3.41)、対照群は-0.43±2.73%(同-1.58~0.72)であり、介入群において増加傾向があったものの有意でなく、群間差も非有意だった(P=0.376)。それに対して椅子立ち上がりテストについては、介入群の65.2%で所要時間の短縮が認められ、対照群ではその割合は29.2%であり、群間に有意差が認められた(所要時間短縮のオッズ比4.48、P=0.00563)。
椅子立ち上がりテストでは介入効果が示唆されたのに対して筋肉量には有意差が生じなかったことについて著者らは、「サンプルサイズが小さすぎたこと、ナッジを利用するのみでは介入期間が短すぎたことなどが理由として考えられる」と述べている。論文の結論は、「フレイル予防が社会的な課題となる中で、地域の薬局薬剤師によるナッジを利用した簡単な運動介入が、高齢者の行動変容につながる可能性を示すことができた」とまとめられている。また著者らは、「高齢者が毎月医療機関や地域薬局のサービスを利用することが、社会とのつながりを維持する上でいかに重要かを裏付けるものであり、地域薬局が高齢者の『通いの場』として活用できる」と付け加えている。
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軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。
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4月 12 2023 身長が5mm低くなっただけで死亡リスクが有意に上昇――日本人での縦断研究
加齢に伴い、わずかに身長が低くなっただけで、死亡リスクが有意に高くなる可能性を示唆するデータが報告された。2年間で5mm以上低くなった人は、そうでない人より26%ハイリスクだという。福島県立医科大学医学部腎臓高血圧内科の田中健一氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に3月3日掲載された。
身長は椎間板の変形や椎骨骨折などの影響を受けて、歳とともに徐々に低くなる。そのような身長短縮の影響は骨粗しょう症との関連でよく検討されており、また死亡リスクとの関連も検討されている。ただし後者については、2cm以上という顕著な身長短縮が見られた場合を評価した研究が多く、わずかな身長短縮と死亡リスクの関連は明らかになっていない。田中氏らは、特定健診研究(J-SHC study)のデータを用いて、軽微な身長短縮の死亡リスクへの影響を縦断的に検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。福島や大阪、沖縄などの7府県の2008年、2010年両年の特定健診受診者から、データ欠落者や測定誤差と見なされる身長の変化(2年間で5cm以上)が記録されていた人を除外した22万2,392人(平均年齢63.4±7.3歳、男性39.7%)を解析対象とした。このうち31.2%が、2年間で身長が5mm以上低くなっていた。身長短縮幅が5mm以上の群は5mm未満の群(対照群)に比べて、高齢で女性が多かった。また、ベースライン時データに関しては、身長が対照群より低く体重は軽くて、ウエスト周囲長が大きいという有意差が見られた。BMIについては同等だった。
平均4.8±1.1年の観察で、1,436人が死亡。死亡リスクの評価に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、ベースライン時の身長、BMI、喫煙習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中・心血管疾患の既往)を調整後、身長短縮幅が5mm以上の群は、主要評価項目の全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが26%有意に高いことが示された〔対照群を基準とする調整ハザード比(aHR)1.26(95%信頼区間1.13~1.41)〕。性別に見ても、男性はaHR1.24(同1.08~1.43)、女性はaHR1.28(1.07~1.52)であり、ともに有意なリスク上昇が認められた。
二次評価項目として設定されていた心血管死については、全体解析〔aHR1.34(1.04~1.72)〕と女性〔aHR1.60(1.08~2.37)〕では、身長短縮幅が5mm以上の場合に有意なリスク上昇が認められたが、男性はこの関連が非有意だった〔aHR1.18(0.85~1.64)〕。男性では非有意となった理由として著者らは、心血管死が少なかったこと(全体で279人、男性は172人)が一因ではないかとの考察を加えている。
これらの結果を基に論文の結論は、「日本人を対象とする研究から、2年間でわずか5mmの身長短縮も全死亡リスクと関連のあることが明らかになった。身長の変化は、死亡リスクを層別化して評価するための、低コストで簡便なマーカーとして利用できるのではないか」とまとめられている。
なお、身長短縮が全死亡リスクを上昇させるメカニズムについては、既報研究に基づき、骨粗しょう症による骨折リスクや骨格筋量の減少、サルコペニア、フレイル、心肺機能や消化器機能への影響などを介した機序に言及。また、身長短縮を防ぐための介入として、骨粗しょう症の治療や身体活動が有効なのではないかとしている。ただし、身長短縮を防ぐという目的での介入が全死亡リスクを低下させ得るかは、「今後、検討されるべき課題」と述べている。
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3月 15 2023 下肢反応検査で高齢ドライバーの事故リスクを予測可能
高齢ドライバーのアクセルとブレーキの踏み間違いによる事故リスクの予測には、現在、免許更新時に行われている認知機能検査よりも、簡単なシミュレーションによるテストの方が優れている可能性が報告された。東北大学未来科学技術共同研究センター/高齢者高次脳医学研究プロジェクトの目黒謙一氏、熊居慶一氏の研究によるもので、詳細は「Dementia & Neuropsychologia」に11月4日掲載された。
高齢ドライバーの交通事故対策は、喫緊の社会的課題となっている。対策の一環として現在、75歳以上で免許を更新する際に認知機能テストと、一定の交通違犯歴がある高齢者には技能検査も行われる。ただし、現行の制度で把握可能な認知機能や運転技能の低下で、高齢者事故の原因の全てを説明できるとは限らない。目黒氏らは、高齢者の交通事故多発の原因の一つとして、アクセルとブレーキの踏み間違いや、その動作の反応時間の延長が関連している可能性を想定し、以下の研究を行った。
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下肢反応検査(アクセルとブレーキの踏み間違いや反応速度の測定)は、オリジナルのシミュレーターにより評価した。パソコンの画面上に信号が表示され、青に切り替わったらアクセルペダルを、赤に切り替わったらブレーキペダルを、いずれも右足で踏んでもらった。また、信号が青でも歩行者が飛び出したらできるだけ速くブレーキを踏んでもらった。このテストの結果と、実際の過去の事故体験の有無、認知機能検査〔ミニメンタルステート検査(MMSE)など3種類〕、および、免許更新時の認知機能テストの判定結果との関連を検討した。なお、過去に事故経験があるのは66人中32人だった。
まず、過去の事故経験の有無で二分すると、年齢、男女比、教育歴、MMSEを含む3種類の認知機能検査のスコアは、いずれも有意差がなかった。免許更新時の認知機能テストの判定に関しては、2022年4月までの分類に則して、第1分類(認知症の可能性あり)と、第2分類(認知機能低下の可能性あり)および第3分類(認知機能低下の可能性なし)に分けて比較。その結果、第1分類の群は過去の事故経験を有する割合が他群より高い傾向が見られたが、有意でなかった〔オッズ比(OR)1.88、P=0.20)〕。
一方、下肢反応検査の結果の良否で二分して比較すると、アクセルとブレーキの踏み間違いが多い群は少ない群より、過去の事故経験を有する割合が有意に高かった(OR6.82、P=0.0003)。同様に、ペダルを踏む動作の反応時間が長い群は短い群より、過去の事故経験を有する割合が有意に高かった(OR5.00、P=0.017)。
次に、過去の事故経験の有無と関連のある因子をロジスティック回帰分析で検討。その結果、年齢や性別、教育歴、認知機能検査のスコアはいずれも有意な関連が示されず、下肢反応検査の結果のみが有意な関連を示した(踏み間違いの頻度はP=0.008、反応速度はP=0.006)。
以上の結果を基に著者らは、「高齢者の免許更新時に下肢反応検査を施行することによって、交通事故のリスクを現在より正確に予測可能となるのではないか」と結論付けている。
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1月 30 2023 日本人のサルコペニア予防には地中海食より日本食?
日本人中高齢者の食生活と握力との関連を検討したところ、より日本食らしい食事パターンの人ほど、握力低下が少ないことが明らかになった。一方、地中海食らしい食事パターンは、握力低下に対する保護的な効果は見られなかったという。長野県立大学健康発達学部の清水昭雄氏、神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部の遠又靖丈氏、三重大学医学部附属病院リハビリテーション部の百崎良氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Environmental Research and Public Health」に10月3日掲載された。
日本食と地中海食はどちらも健康的な食事パターンとして知られており、それらを順守している人ほど心血管疾患や全死亡リスクが低いことが報告されている。ただ、日本を含む先進諸国では人口の高齢化を背景に、筋力や筋肉量が低下した状態であるサルコペニアを予防することの重要性が増している。そこで清水氏らは、日本食または地中海食の順守と、サルコペニアの主要な関連因子である握力低下との関連を横断的に検討した。
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日本食らしさは、「日本食指数改訂版(rJDI12)」という指標で評価。これは、12種類の食品群の摂取量を基に0~12点の範囲でスコア化し、高得点であるほどより日本食らしい食事パターンと判定する。地中海食らしさは、「代替地中海食(aMED)スコア」という指標で評価。これは、9種類の食品群の摂取量を基に0~8点の範囲でスコア化し、高得点であるほどより地中海食らしい食事パターンと判定する(ただし、aMEDスコアの算出に必要なナッツの摂取量が本調査では把握されていなかったため、8種類の食品群の摂取量で評価した)。握力は、アジアサルコペニアワーキンググループのサルコペニア診断基準に基づき、男性は28kg未満、女性は18kg未満を「握力低下」と判定した。
rJDI12スコアの四分位数で4群に分類すると、より日本食らしい食事パターンの群は、高齢で喫煙者が少なく、歩行時間が長く、摂取エネルギー量が多かった(傾向性P<0.001)。性別(女性の割合)やBMI、飲酒習慣とは有意な関連がなかった。一方、aMEDスコアの四分位数で4群に分類すると、より地中海食らしい食事パターンの群は、高齢で摂取エネルギー量が多く(傾向性P<0.001)、喫煙者が少ない(傾向性P=0.001)という点ではrJDI12スコアでの分類と同様だが、女性の割合が少なく、習慣的飲酒者が多かった(傾向性P<0.001)。また歩行時間とは有意な関連が認められなかった。
握力低下の該当者率を、rJDI12スコアの第1四分位群を基準として、年齢と性別のみを調整して比較すると、第2四分位群でもオッズ比が有意に低く、全体としてrJDI12スコアが高い群ほどオッズ比が低下するという有意な関連が認められた(傾向性P<0.001)。一方、aMEDスコアの第1四分位群を基準として比較すると、第3四分位群のオッズ比のみが有意に低く、全体としてaMEDスコアと握力低下該当者率との関連は有意性が認められなかった(傾向性P=0.191)。
次に、握力低下に影響を及ぼし得る交絡因子〔年齢、性別、BMI、手段的日常生活動作(IADL)スコア、歩行時間、飲酒・喫煙習慣、摂取エネルギー量、脳血管疾患・冠動脈性心疾患・糖尿病・がんの既往〕を調整するモデルで検討。その結果、rJDI12では第4四分位群で有意に低いオッズ比となり、年齢・性別のみを調整した解析結果と同様に、rJDI12スコアが高い群ほどオッズ比が低下するという有意な関連が認められた(傾向性P=0.031)。aMEDスコアと握力低下該当者率との関連は、年齢・性別のみを調整したモデル同様、非有意だった(傾向性P=0.242)。
以上より著者らは、「地中海食ではなく、日本食らしい食事パターンが、筋力低下の該当者率の低さと関連していた。日本人の食生活の評価にはaMEDスコアよりもrJDI12スコアの方が優れている可能性がある」と結論付けている。ただし、本研究が横断研究であること、aMEDスコアでの評価にナッツの摂取量を考慮しなかったことなどの限界点を挙げ、「日本食らしい食事パターンが日本人の筋力低下につながるのか否か、さらなる研究が必要とされる」と付け加えている。
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12月 27 2022 高齢ドライバーの事故リスクとなり得る疾患有病率の実態――多施設共同研究
高齢ドライバーの交通事故のリスクを高める可能性のある疾患の有病率を、多施設の外来患者を対象に調査した結果が報告された。岡山大学病院総合内科・総合診療科の萩谷英大氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Geriatrics」に10月11日掲載された。
高齢ドライバーの交通事故がしばしばニュースになる。そのような事故を減らすために、免許更新時の認知機能テストの施行や免許返納の働きかけなどが行われている。しかし、公共交通機関の少ない地方の高齢者の場合、自分で運転しなければ生活が困難なことが多いという問題もある。一方、高齢ドライバーの事故の原因として、医学的要因が関与しているケースが少なくないことが報告されている。具体的には、身体機能や認知機能の低下、多剤併用(ポリファーマシー)などが事故リスクを押し上げる可能性が指摘されている。ただし、国内の高齢ドライバーがそれらの問題をどのくらい抱えているのかは明らかでない。このような状況を背景として、萩谷氏らは医療機関受診者を対象とする多施設共同研究による実態把握を試みた。
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評価した医学的要因は、ポリファーマシー、サルコペニア、認知機能障害、フレイルおよびオーラルフレイル。このうち、ポリファーマシーは6種類以上の薬剤を1カ月以上服用していることで定義し、「お薬手帳」を医療スタッフが確認して評価。サルコペニアは、指輪っかテスト(両手の指で作った輪でふくらはぎを囲み隙間ができるか否か)、および30秒椅子立ち上がりテストで判定した。認知機能障害はMini-Cogテストに基づいて判定した。
161人がこの調査に参加。そのうち既に免許を返納していた人や、ペーパードライバーなどを除外し、127人を解析対象とした。年齢は中央値73歳(四分位範囲70〜78)、男性64.6%、女性35.4%であり、介護保険の利用状況は、95.3%が未利用で、要支援認定1が1人(0.8%)、同2が3人(2.4%)だった。
運転の頻度は、60.6%が「日常的に運転をする」と回答し、その他の39.4%は「時々運転する」と回答した。この2群で比較すると、年齢、性別、介護保険の利用状況に有意な群間差はなかったが、外出頻度は日常的に運転する群の方が有意に高かった。他方、同居家族数、歩行時間、自宅から最寄り駅やバス停までの距離、友人などとの交流の頻度、整形外科や眼科の受診頻度、補聴器の使用率などには有意差が認められなかった。
ポリファーマシーの該当者率は27.6%で、そのうち眠気を催すことの多い薬剤として、ベンゾジアゼピン系薬(睡眠薬や抗不安薬の一種)は12.5%に、抗ヒスタミン薬(アレルギー症状などの治療薬)は3.1%に処方されていた。運転頻度別でポリファーマシー該当者率を見ると、日常的に運転をする群が31.2%、時々運転する群は22.0%で前者の方が高いものの、群間差は有意でなかった。
サルコペニアの該当者率は全体で8.7%であり、日常的に運転をする群は13.0%、時々運転する群は2.0%であって前者の方が高かった。
認知機能障害(Mini-Cogテストが3点以下)の該当者率は全体で16.4%であり、前記と同順に18.2%、14.0%だった。フレイルの該当者率は全体で15.0%、オーラルフレイルは54.3%であり、これらはいずれも運転頻度で比較した場合の群間差は非有意だった。
過去の交通事故の体験については、62.2%が「経験あり」と回答した。その割合は、日常的に運転をする群が29.9%、時々運転する群は46.0%であって、後者の方が高いものの、群間差は有意でなかった。免許返納の意思がある人の割合は同順に2.6%、14.0%であり、時々運転する群で高いという有意差が見られた。
著者らは本研究について、認知機能障害やサルコペニアなどを簡便な方法で判定しており確実な診断に基づく解析ではないことや、サンプル数が十分でないことを限界点として挙げている。その上で結論を、「地域在住高齢ドライバーの交通事故に関連する可能性のある医学的要因の有病率が明らかになった。多くの高齢者が何らかのリスクのある状態で運転している現状において、高齢ドライバーの交通事故抑止のために、より厳格なスクリーニングの実施などの措置が必要と考えられる。同時に、地方に住む高齢者の生活を守る手段も確保されなければならない」とまとめている。
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7月 31 2022 日本人高齢者は「高めの普通体重」が最適の可能性――説明可能なAIの分析
「説明可能な人工知能(AI)」を用いた分析の結果、日本人高齢者では、body mass index (BMI)が標準体重の範囲内でやや高めの場合に、最も死亡リスクが低い可能性があるとする研究結果が報告された。日本女子大学家政学部食物学科臨床医学・代謝内科学研究室(研究時点の所属は神奈川県立保健福祉大学)の中島啓氏らの研究によるもので、詳細は「Geriatrics」に6月16日掲載された。
一般的にはBMIが18.5~25.0kg/m2未満の「普通体重」が最も健康的とされているが近年、高齢者や慢性疾患患者では、BMI25kg/m2以上の肥満者の方がむしろ長寿であることを示唆する研究結果が報告されるようになった。このような「肥満パラドックス」とも呼ばれる現象のメカニズムはよく分かっていないが、それらの研究対象が健康な一般住民ではなく、何らかの疾患のある人を対象とした研究が多いことが、理由の一つと考えられている。そこで中島氏らは、神奈川県大和市の地域在住高齢者の健診データを用いて、BMIと死亡リスクとの関係を検討した。
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平均7.22年の追跡で1,413人(24.8%)が死亡。上記の共変量を考慮しないモデルでは、全死亡(あらゆる原因による死亡)のリスクが最も低いBMIは25.9~28.4kg/m2であり、肥満(欧米の基準では肥満の一歩手前の過体重)と死亡リスク低下との関連が認められた。全死亡リスクが最も高いBMIは12.8~18.7kg/m2だった。
しかし、上記の共変量を調整したモデルで分析すると、全死亡のリスクが最も低いBMIは22.7~23.6kg/m2となり、肥満ではなく標準体重の範囲内でやや高めの体重が最適であることが示された。全死亡リスクが最も高いBMIは前記の分析と同様に12.8~18.7kg/m2だった。AIが何らかの因子を過大評価してしまう「過剰適合」を補正する「交差検定」を行うモデルで分析しても、この結果は変わらなかった。
AIが死亡リスクの判定に際して最も重視していた因子は年齢であり、共変量を調整した交差検定モデルでも変わらなかった(特徴量重要度0.253)。2番目に重視していた因子は性別(男性)であった(特徴量重要度0.129)。年齢、性別に続いてBMIが3番目に重視されており(同0.099)、その中でもBMI22.7~23.6kg/m2が死亡リスクの負の因子として大きく関与しており(同0.046)、BMI12.8~18.7kg/m2は正の因子として大きく関与していた(同0.091)。4番目以降の因子は、喫煙習慣、身体活動量、心血管疾患の既往、高血圧・糖尿病・脂質異常症の薬物治療、飲酒量の順だった。
年齢層や性別に分析すると、80代まではBMIと死亡リスクの関連が負の線形、またはL字型となる傾向が見られた(いずれもBMI低値で死亡リスクが高いことを意味する)。一方、90歳以上の男性では、U字型の関係が見られた。
以上を基に著者らは、「説明可能なAIを用いた分析の結果、日本人の地域在住高齢者では、低体重が全死亡リスクの高さに関連していることは明らかだ。ただし、過体重や肥満であることが死亡リスクの抑制に最適とは言えない可能性がある。年齢、性別、併存疾患によって異なるが、普通体重の範囲内でやや高めのBMIであることが最適ではないか」と結論を述べている。
なお、本研究は、神奈川県大和市と神奈川県立保健福祉大学との「保健・医療・福祉事業の推進に関する連携協定」に基づく取り組みの一環として実施された。
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8月 07 2020 フレイルとBMIにU字型の関係――亀岡スタディ
フレイルの有症率はBMIが低くても高くても上昇することが、日本人対象の研究から明らかになった。国立健康・栄養研究所身体活動研究部の渡邉大輝氏らが「Journal of Clinical Medicine」5月6日オンライン版に報告した。
フレイルとは、さまざまなストレスへの耐性が低下した「要介護予備群」の状態で、死亡リスクの上昇とも関連する。フレイルの有症率は加齢に伴い上昇するが、BMIとはU字型の関係があるとのデータが海外から報告されている。ただしBMIの分布は人種や民族によって異なり、日本人でもそのような関係があるかどうかは明らかでなかった。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。渡邉氏らの研究は、京都府亀岡市で2011年から継続中の高齢者を対象とした外傷予防と介護予防を推進・検証するための前向きコホート「亀岡スタディ」のデータを横断的に解析したもの。ベースライン調査の回答者から要支援・要介護認定者などを除いた1万1,985人のうち、調査票の回答を元にフレイル判定が可能で、BMIが14未満または40以上の人を除いた7,191人を対象とした。平均年齢は73.4±6.2歳で、女性が52.7%を占めた。
BMIは以下の六つのカテゴリーに分類した。18.5未満(7.8%)、18.5~19.9(10.9%)、20.0~22.4(30.5%)、22.5~24.9(30.8%)、25.0~27.4(14.0%)、27.5以上(5.9%)。平均BMIは22.7±3.5だった。
フレイルは、Friedらの表現型モデル(FPモデル)では5点中3点以上、厚生労働省の基本チェックリストでは25点中7点以上とそれぞれ定義した。その結果、フレイル有症率は、FPモデルでは15.2%、基本チェックリストでは36.6%だった。
BMIカテゴリーごとのフレイル有症率を見ると、FPモデルでは、前記のカテゴリー順に、25.3%、19.6%、14.3%、12.4%、12.6%、19.4%であり、BMI22.5~24.9の群を底値として、U字型の関係が認められた。基本チェックリストで判定した有症率は、同順に55.5%、37.7%、34.2%、32.6%、34.3%、49.2%であり、やはりBMI22.5~24.9の群を底値とするU字型の関係が見られた。
続いて、ロジスティック回帰分析により、フレイルの有症率に影響を及ぼす可能性のある因子(年齢、性別、喫煙・飲酒習慣、身体活動量、学歴、服用している薬剤の数、高血圧・糖尿病・脂質異常症・脳卒中・心臓病の既往、家族構成、経済状態、義歯の使用など)で調整後のオッズ比を、BMI22.5~24.9の群を基準として比較した。
FPモデルのフレイル判定による結果は、BMI18.5未満でオッズ比(OR)2.04(95%信頼区間1.58~2.63)、同18.5~19.9でOR1.69(1.33~2.14)、同20.0~22.4でOR1.16(0.96~1.41)、同25.0~27.4でOR1.00(0.78~1.27)、同27.5以上でOR1.54(1.15~2.07)と、低体重者と肥満者の双方で有意なリスク増大が認められた。基本チェックリストの判定に基づいた検討結果も、ほぼ同様のU字型関係が認められた。
フレイル有症率のオッズ比が最も低いBMIは、FPモデルの場合24.7〜25.7、基本チェックリストでは21.4〜22.8だった。
今回の研究では、基本チェックリストのチェック項目に含まれている手段的日常生活動作(食事や排泄などの基本的日常生活動作よりも高次に当たる、家事や買い物などの生活機能)や抑うつ症状とBMIの関連についても検討を加えた。その結果、フレイルの有症率と同様にBMIが低くても高くても手段的日常生活動作が低下し、うつ症状のスコアは上昇するというU字型関係が認められた。また、BMIが低いことは口腔フレイル、社会的フレイルの有症率の高さと関連し、一方、BMIが高いことは身体的フレイルの有症率の高さと関連していた。
これらの結果から著者らは、「日本人高齢者におけるフレイル有症率とBMIのU字型の関係が明らかになった」と結論づけるとともに、「日本を含め、低体重と肥満という栄養障害の二重負荷が進行している国では、フレイルの増加を防ぐためにもその対策を推進すべきと考えられる」と述べている。また、国立健康・栄養研究所では現在、大阪府と連携し「働く世代からのフレイル予防」の実現を目指した取り組みを進めているが、「本研究成果はその取り組みを推進するための貴重なエビデンスとなる」としている。
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2月 19 2020 ゴルフ好き男性、ウォーキング好き女性は、いつも笑顔で健康?
身体を動かすことを心がけている高齢者は少なくないが、日本人高齢者を対象とした研究から、ゴルフ好きの男性やウォーキング好きの女性は健康に対する自己評価が高く、抑うつ症状が少なく、生活の中で笑う頻度が多いことが明らかになった。千葉大学予防医学センターの辻大士氏らが日本老年学的評価研究(JAGES)のデータを横断的に解析した結果で、詳細は「Journal of Sports Sciences」12月26日オンライン版に掲載された。
調査対象は自立した生活を送っている65歳以上の高齢者13万1,962人。グループに参加して日常行っているスポーツの種類とその頻度、主観的健康感、日常生活での笑いの頻度、および老年期うつ病スコア(GDS-15)を測定した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。その結果、男性の33.6%、女性の37.4%がグループに参加し何かしらのスポーツを実践していた。スポーツの種目としては、男性はゴルフ(11.3%)、ウォーキング(8.4%)、グランドゴルフ(6.3%)、女性はフィットネス体操(13.8%)、ウォーキング(8.3%)、筋力トレーニング(6.2%)が上位を占めた。
続いて、グループに参加し実践しているスポーツと、健康感やうつ病スコア、笑いの頻度との関連を検討した。結果に影響を与える可能性のある、性別、年齢、飲酒・喫煙習慣、婚姻状況、学歴、世帯収入、および高血圧、脂質異常症、糖尿病、心血管疾患、脳卒中、がん、筋骨格疾患の既往とフレイルスコアで調整の上、逆確率加重法により関連の強さを比較した。
有意な関連がみられた項目を性別に挙げると、グループに参加しゴルフをしている男性は参加していない男性に比べて主観的健康感が「非常に良い」と回答した割合が1.13倍多く、「うつ傾向あり(GDS-15が5点以上)」の割合は0.70倍と少なく、「ほぼ毎日笑う」人の割合が1.12倍多いという結果で、評価した項目の全てにおいて良好な状態と有意に関連していた。またハイキングをする男性は主観的健康感が「非常に良い」人が1.95倍で、「うつ傾向あり」は0.62倍であり、ウォーキングをする男性は「うつ傾向あり」が0.82倍、「ほぼ毎日笑う」が1.06倍で有意な関連がみられた。
続いて女性では、グループに参加しウォーキングをしている人は参加していない人に比べて主観的健康感が「非常に良い」と回答した割合が1.23倍多く、「うつ傾向あり」は0.79倍と少なく、「ほぼ毎日笑う」が1.06倍だった。またゴルフをしている女性も同順に、1.78倍、0.72倍、1.13倍であり、いずれも良好な結果と有意に関連していた。なお、女性において実践者が最も多かったフィットネス体操は、主観的健康感やうつ傾向、笑う頻度との有意な関連は見られなかった。
これらの結果から研究グループは、「年齢や収入に関係なく、男性にはゴルフ、女性にはウォーキングが人気であり、グループに参加してそれらを実践している人はそうでない人に比べ、健康に関する自己評価が高く、うつ傾向が少なく、笑い声の多い生活をしている。よってゴルフやウォーキングは、高齢者に推奨するスポーツとして第一の候補となり得る」と述べている。
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9月 23 2019 幼少期の逆境体験が高齢者の疾患リスクに――日本とフィンランドで同じ結果
子どもの頃に逆境体験(過酷な体験)をした人は成人後の主観的健康観が低く、生活習慣病の有病率が高いとする国際研究の結果が明らかになった。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究グループの報告で、詳細は「BMJ Open」に8月20日オンライン掲載された。
この研究は高齢者を対象に、現在の主観的健康観や既往症(がん、心臓病または脳卒中、糖尿病)、BMI、喫煙歴と、幼少期の逆境体験(adverse childhood experiences;ACE)との関連を質問票により調査したもの。ACEは、親の離婚、家族内の恐怖(本人への身体的虐待や家庭内暴力の目撃)、経済的困窮という3項目をカウントした。
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まず幼少期のACE体験の有無を見ると、日本では50.0%、フィンランドでは37.2%が1つ以上のACEを体験していた。次に、体験したACEの数と主観的健康観との関連を検討。年齢と性別で調整した[モデル1]では、日本のオッズ比(OR)1.43、フィンランドのORは1.39で、ACEを多く体験しているほど主観的健康観が低いという有意な関連が認められた。調整因子に教育歴、配偶者の有無、就労状況を追加した[モデル2]でもやはり有意だった(ORは、日本1.35、フィンランド1.34)。
ACEの数と既往症の関連も認められた。具体的には、日本における各疾患のORがモデル1で、がん1.16、心臓病または脳卒中1.14、糖尿病1.08であり、モデル2でも、がん1.20、心臓病または脳卒中1.10であって、それぞれACE数が多いほどリスクが上昇する有意な関連があった。フィンランドでは、モデル1で心臓病または脳卒中のORが1.14、糖尿病は1.18で有意に関連しており、糖尿病はモデル2でも有意だった(OR1.17)。このほか、ACE数が多いほどBMIが高値で現喫煙者・前喫煙者の割合が高いという有意な関連が、日本・フィンランドの双方で見られた。
ACEと成人後の疾患リスクの関連については、米国などの社会格差が大きい国からは既に報告されているが、その他の地域、特に日本からの報告は少ない。今回の研究で、日本とフィンランドという比較的格差が少なく、かつ平等な義務教育や医療保険制度が存在する両国においても同様の傾向が示された。著者らは「ACEと主観的健康観の低下、生活習慣病および健康行動との関連は、日本とフィンランド双方の高齢者で類似していた。この国際比較研究は、健康に対するACEの影響が文化的・社会的環境を問わず一貫していることを示唆している」とまとめている。
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