衝突被害軽減ブレーキは歩行者の重傷事故リスクを低減させる

乗用車に搭載されている衝突被害軽減ブレーキ(AEB)は、警告音や自動のブレーキ制御によって、衝突事故の回避や被害の軽減を支援する装置である。国内では、2021年11月から国産の新型車にAEBの搭載が義務化されている。今回、AEBは事故発生時に歩行者の重傷度を軽減する可能性があるとする研究結果が報告された。東京大学医学部・大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学の稲田晴彦氏らの研究によるもので、詳細は「Accident
Analysis & Prevention」に5月10日掲載された。
2023年のWHOの報告では、交通事故による年間死亡者数は119万人(人口10万人あたり15人)と推定されている。これらの死亡者のうち、約30%は歩行者および自転車利用者が占めているが、日本国内でも同様の傾向が見られる。2024年に警察庁交通局の発表したデータによると、2023年の衝突事故後30日以内に死亡した3,263人のうち、1,211人(37%)が歩行者であり、500人(15%)が自転車利用者だった。こうした交通事故の被害軽減のため、自動車メーカーはAEBのような衝突回避システムを搭載した車両の開発・普及を進めてきた。過去には、AEBが歩行者や自転車利用者の事故の重傷度を軽減することがシミュレーション研究では示されているものの、現実世界の事故データを用いた研究ではサンプルサイズや効果推定値の信頼区間の問題から決定的な結論を出すには至っていない。このような背景を踏まえ、筆者らは、AEBが交通事故における歩行者と自転車利用者の負傷重傷度を軽減しているかどうかを検証するために、警察庁の報告データを用いた横断研究を実施した。

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警察に報告された交通事故に巻き込まれた歩行者と自転車利用者数に関するデータは、公益財団法人交通事故総合分析センターを通じて入手した。本研究では、2016年~2019年までの車両対歩行者および車両対自転車のうち、車両の運転手に主な過失が認められた負傷事故データに限定した。対象車種はオプションでAEBシステムを搭載するベストセラーの6車種(具体的な車種名は非公開)とした。
調査期間中、4,131人の歩行者と6,659人の自転車利用者が対象6車種のいずれかで負傷事故に巻き込まれていた。歩行者4,131人のうち、2,760人がAEB搭載車、1,371人がAEB非搭載車と衝突事故を起こしていた。歩行者の「死亡または重傷」の割合は、AEB搭載車で16.7%(461/2,760)非搭載車で21.3%(292/1,371)だった。自転車利用者については、この割合は、AEB搭載車、非搭載車でそれぞれ8.0%(350/4,392)、8.1%(184/2,267)だった。
次に、AEBの有無と事故による負傷重傷度(死亡または重傷)との関連を検討した。車種、運転者の性・年齢、回避操作時の速度、歩行者または自転車利用者の性・年齢、時間帯、天候、路面状況を調整し、多変量ロジスティック回帰分析を行った。その結果、歩行者ではAEBと「死亡または重傷」との関連性を示す調整オッズ比は0.80(95%信頼区間
0.64~0.996)であり、衝突車両にAEBが搭載されていた場合、歩行者の「死亡または重傷」のオッズが20%低減することが示された。一方自転車利用者では、この調整オッズ比は0.91(95%信頼区間
0.74~1.14)であり、AEBと「死亡または重傷」の間に有意な関連は認められなかった。
本研究の結果について著者らは、「本研究より、AEBシステムは、現実世界の歩行者に対して、衝突が避けられない場合でも傷害の重傷度を軽減する可能性が示唆された。今後の研究では、自転車利用者を検知する新しいAEBシステムの効果を評価するとともに、運転者の特性による効果の違いについても検討する必要がある」と述べている。

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