不妊治療、保険適用でアクセス改善も公平性に課題
不妊治療の保険適用で受療機会は広がったのか。日本の大規模レセプトデータ解析によりアクセス改善が示された一方、男性の診断・治療は依然少なく、生殖医療の公平性に課題が残ることが明らかになった。研究は、産業医科大学医学部公衆衛生学教室の大河原眞氏らによるもので、詳細は3月6日付の「Reproductive Medicine and Biology」に掲載された。
日本では少子化と高齢化が進み、出生数や合計特殊出生率は過去最低水準にある。不妊治療は進歩し、体外受精などの生殖補助医療(ART)による出生も増加してきたが、従来は高額な費用が障壁となり、社会経済的背景によるアクセス格差が指摘されていた。こうした状況を受け、2022年4月にはタイミング法や人工授精といった一般不妊治療、体外受精や顕微授精といったARTを含む不妊治療が公的医療保険の対象となり、受療機会の拡大が期待された。しかし、実際にどの年齢層でどの治療がどの程度利用されたか、また男性と女性での差などの実態は明らかでなかった。本研究はレセプトデータを用い、保険適用初年度における不妊診断の頻度と治療実態を明らかにすることを目的とした。

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本研究は、産業医科大学産業保健データサイエンスセンターに提供された医療レセプトデータを用いた観察研究である。2022年4月から2023年3月までの期間における14の健康保険組合のデータを解析し、18~69歳の女性約59万人、男性約62万人を対象とした。不妊症の診断や不妊治療の実施状況、関連する合併症については、診断コードや処置コード、薬剤コードに基づき特定した。また本研究では、不妊診断、特異的な不妊治療の実施、さらに薬物療法を含む広義の治療の3つの定義を設定し、レセプトデータの特性を踏まえて解析を行った。さらに、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)など不妊治療に関連する合併症についても評価した。
解析の結果、最も不妊診断や治療を受けたのは30~34歳の女性で、診断率は5.0%、治療受療率は3.9%、不妊特異的治療は2.6%だった。男性は同年齢で診断率1.9%、治療受療率0.5%、不妊特異的治療0.3%にとどまり、診断・治療の割合は依然低く、治療の種類や処方も限られていた。
治療の年齢別傾向として、若年女性ではART以外の一般不妊治療が中心で、35歳以上ではARTが主流となった。人工授精は20代後半に多く、採卵は30代後半から40代前半が中心であった。女性の主な処方は、ARTに伴う調節卵巣刺激や黄体機能不全に対して使用されるホルモン製剤であった。
OHSSは不妊治療を受けた女性のうち8.0%に認められ、ARTを受けた女性では9.6%に達した。この割合は特に20代で高かった。
これらの結果は、保険適用初年度における年齢・性別による治療選択や診断名登録によって記述された合併症の実態を示している。
著者らは、「本研究は、不妊治療の保険適用初年度における日本の臨床実態を示したものであり、今後の不妊治療研究の基礎となる知見である。30~34歳の女性のうち2.6~3.9%が何らかの不妊治療を受けていた一方で、男性の受療は女性より少なく、医療相談や検査・治療の認知向上、医療アクセスの改善、治療選択肢の拡充が求められる」と述べている。
なお、本研究は診療報酬データを用いた観察研究であるため、診断名や受療件数の正確性に限界があり、初年度データや対象集団の偏りにより実際の治療状況を正確に反映できていない可能性がある。著者らは、今後は複数年データや他のデータベースとの比較による検証が必要であると指摘している。
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