歯を失うと寿命にも影響?80歳女性で“咬合支持”の重要性が明らかに
                                
        高齢になると「歯が抜けても仕方ない」と思われがちだが、噛み合わせの力が寿命にまで影響する可能性がありそうだ。今回、地域在住の80歳高齢者を10年間追跡した研究で、咬合支持(噛み合わせの支え)を失った女性は、そうでない女性に比べて死亡リスクが有意に高いことが示唆された。研究は新潟大学大学院医歯学総合研究科口腔健康科学講座予防歯科学分野の田村浩平氏、濃野要氏、小川祐司氏によるもので、詳細は9月23日付けで「International Dental Journal」に掲載された。
咀嚼は全身の健康と長寿に重要であり、歯や義歯による安定した咬合支持が不可欠である。咬合支持の低下は咀嚼の満足度や効率を損ない、栄養不足や運動機能低下にも関連することが報告されている。また、フレイルは高齢者の死亡リスク因子として注目され、歯の喪失や咬合力低下などの口腔要因も関連する。日本では高齢者の歯の保存が重要視されているが、健康な高齢者を対象に残存歯数や咬合力と死亡率の関係を検証した研究は少ない。咬合と死亡率については、最大咬合力や機能歯の数が全死因死亡率の有力な予測因子であり、Eichner Index(アイヒナー指数:EI)がこれらの指標の代替になり得ると考えられる。このような背景を踏まえ、著者らは新潟市の高齢者を対象とした25年間のコホート研究の一環として、咬合支持の喪失が死亡リスク因子であるという仮説を検証した。具体的には、フレイルのない健康な地域在住の80歳高齢者において、EIで評価した咬合支持と10年間の死亡率との関連を調査した。

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本研究の解析対象は、新潟市在住のフレイルのない80歳の高齢者360人であり、追跡調査は2008年6月~2018年6月まで実施された。ベースライン時に、歯牙および歯周検査、唾液分泌量測定(ガム試験)、血液検査、および自記式アンケート(喫煙・飲酒習慣、運動習慣、既往歴など)が実施された。口腔検査票から、咬合支持はEIクラスA/B群(咬合支持あり/部分的にあり)およびC群(咬合支持なし)に分類され、歯周炎症表面積も算出された。生存解析にはKaplan–Meier法とログランク検定が用いられ、多変量解析にはCox比例ハザードモデルを用いてハザード比(HR)が算出された。
最終的な解析対象には297人(男性155人、女性142人)が含まれた。ベースライン時のEIクラスはA/B群が203人、C群が94人だった。10年間の累積生存率はA/B群とC群でそれぞれ79.8%および66.0%であり、有意な差が認められた(P=0.038)。
多変量Cox比例ハザードモデルでは、「EIクラスC」および「男性」が全死因死亡の有意な独立リスク因子であった。性別、BMI、喫煙状況、既往歴などの交絡因子で調整後のHRは、EIクラスCで1.88(95%信頼区間 [CI] 1.08~3.36、P<0.05)、男性で2.28(CI 1.23~4.26、P<0.05)であった。
男女別の層別解析では、EIクラスCは女性のみで有意な独立リスク因子となり、歯周炎症表面積、唾液分泌量、BMI、喫煙状況、既往歴などで調整後のHRは4.17(95%CI 4.17~11.79、P<0.05)であった。その一方、男性では統計的に有意な差は認められなかった。
著者らは、「地域在住の健康な80歳高齢者において、咬合支持の喪失は、特に女性で全死因死亡の独立したリスク因子であった。この結果は、咬合支持の維持が咀嚼機能や十分な栄養摂取を支えることで、長寿の促進に重要な役割を果たす可能性を示している。今後の研究では、咬合支持の喪失が死亡に至るまでの間接的な経路をさらに検討する必要がある」と述べている。
なお、結果に性差が出た理由として、男性は一般的に筋肉量や咀嚼筋力が大きく、咬合支持を失っても咀嚼機能や栄養摂取への影響が相対的に小さいこと、また、心理社会的要因(抑うつや孤立)の影響は女性でより顕著に現れやすいことが指摘されており、歯の喪失による審美的な変化が心理的に与える影響が、女性でより大きい可能性などが考察された。
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