• 自転車通勤で糖尿病を防げる――J-ECOHサブスタディ

     自転車通勤をしている人は糖尿病発症リスクが2割以上低いことが報告された。職域多施設研究(J-ECOHスタディ)の運動疫学サブスタディのデータを、帝京大学大学院公衆衛生学研究科の桑原恵介氏らが前向きに解析した結果であり、「Diabetes Care」にレターとして10月17日掲載された。

     近年、環境保護や健康増進の観点から、自転車を利用した通勤への関心が高まっており、海外からは自転車通勤が糖尿病リスクを抑制する可能性を示す研究結果も報告されている。ただしアジア人での研究は行われていないことから、桑原氏らはJ-ECOHスタディのデータを用いてこの点を検討した。

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     J-ECOHスタディは、国立国際医療研究センターが主体となり、国内十数社の企業と共同で行っている疫学研究で、今回の研究は身体活動の詳細なデータがある1社での運動疫学サブスタディとして実施。2006年度に企業内健診を受診し、以後2017年度まで健診を受けていて、糖尿病発症の有無を把握し得た労働者3万1,678人(平均年齢44.0±9.8歳、男性84.9%)を解析対象とした。ベースライン時点で、糖尿病、心血管疾患、脳卒中、がんの既往のある人や、解析に必要なデータが欠落している人は除外されている。

     健診時に主な通勤手段を質問し、自転車、徒歩、電車またはバス、車またはバイクの四者択一で回答を得て、自転車通勤だった群とその他の群に二分した上で、2017年度までの糖尿病発症リスクを比較した。解析に際しては、年齢や性別の影響を調整し、それら以外に、喫煙・飲酒習慣、睡眠時間、婚姻状況、役職、交代勤務の有無、高血圧、糖尿病の家族歴で調整した「モデル1」、余暇時間の身体活動、仕事中の身体活動、通勤中の歩行時間も調整因子に加えた「モデル2」、さらにBMIでも調整した「モデル3」という計4通りで検討。また、性別の解析、および年齢が30~64歳の2万9,121人でのサブグループ解析も行った。

     自転車通勤をしていた群での糖尿病発症率は2万6,602人年中219人、その他の群では23万939人年中2,812人だった。年齢と性別のみの調整では、自転車通勤群の糖尿病発症ハザード比(HR)が0.77(95%信頼区間0.68~0.88)であり、その他の群に比べてリスクが有意に低く、全ての交絡因子を調整したモデル3でもHR0.78(同0.63~0.96)と、22%有意に低リスクであることが示された。

     性別の解析では、男性はモデル2でHR0.78(0.62~0.98)と有意なリスク低下が示されたが、BMIを調整因子に加えたモデル3ではHR0.81(0.65~1.02)で非有意となった。女性に関しては、調整因子が年齢のみでもHR0.77(0.54~1.09)で非有意だった。一方、年齢30~64歳の群では、モデル3でHR0.78(0.63~0.97)と、全体解析と同様に22%のリスク低下が観察された。

     著者らは、糖尿病発症リスクに影響を及ぼす食事摂取状況が調整されていないこと、解析対象が特定の業種の労働者に限られていることなどを本研究の限界点として挙げた上で、「自転車通勤が糖尿病リスクの低下と有意に関連していることが分かった。この研究結果は、アジア人の糖尿病予防における自転車通勤の重要性を示している」と述べている。なお、女性のみでの解析結果が非有意であった点に関しては、「サンプル数が少なかったことの影響ではないか」としている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

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  • 除脂肪量でサルコペニアの低筋肉量をスクリーニング

     比較的簡便な体組成の評価方法である、生体インピーダンス(BIA)法で測定した除脂肪量指数〔FFMI(除脂肪量(kg)を身長(m)の二乗で除した値)〕が、サルコペニアの低筋肉量スクリーニングに利用できる可能性を示唆するデータが報告された。早稲田大学スポーツ科学研究センター招聘研究員・明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Medical Directors Association」に9月27日掲載された。

     サルコペニアは筋肉量や筋力が低下した状態のことで、要介護などのリスクが上昇するため、早期介入による是正が重要。サルコペニア診断の低筋肉量判定には、二重X線エネルギー吸収測定(DXA)法または生体インピーダンス法による四肢筋肉量(ASM)の測定が必要とされる。このうち特に前者のDXA法は、測定機器が大型で可動性が乏しく健診会場などへ移動が困難なことや、コストや被曝の懸念があることが、現場での利用のハードルとなっている。後者のBIA法は機器に可動性があり、比較的低コストで被曝の懸念もないものの、ASMの測定が可能な機器はあまり普及していない。その一方で、除脂肪量指数(FFMI)であれば家庭用に普及している体組成計でも評価可能である。

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     これまで、FFMIが四肢筋量指数〔ASMI(四肢筋量(kg)を身長(m)の二乗で除した値)〕と相関するとの報告がある。ただし、FFMIでサルコペニアの低筋肉量スクリーニングが可能か否かという視点での研究は、まだ行われていない。川上氏らの研究は、このような背景の下で実施された。

     この研究には、早稲田大学の卒業生の健康状態を長期間観察している「WASEDA’S Health Study」のデータが用いられた。2015年3月~2020年2月に、BIA法とDXA法の両方で体組成が評価されていた、40~87歳の日本人成人1,313人が解析対象で、平均年齢は55±10歳、男性66.4%、BMI23.0±3.1、握力33.4±8.1kg、ふくらはぎ周囲長36.5±2.9cm。体組成の測定は、12時間以上の絶食後の午前中に実施した。

     アジアサルコペニアワーキンググループのサルコペニア診断基準に基づく低筋肉量該当者の割合は、BIA法で5.2%、DXA法で9.9%だった。BIA法によるFFMIとBIA法によるASMI(r=0.96)、およびBIA法によるFFMIとDXA法によるASMI(r=0.95)は、ともに強固な相関が見られた。より詳細に、年齢(60歳未満/以上)、肥満の有無(DXA法による体脂肪率が男性は25%以上、女性は30%以上を肥満と定義)でサブグループ化した解析の結果も、FFMIとASMIの相関係数(r)は0.93~0.95の範囲であり、いずれのサブグループでも強固な相関が認められた。

     次に、DXA法によるASMIで定義された低筋肉量該当者を、BIA法によるFFMIでどのくらいスクリーニングできるかをROC解析で検討。その結果、ROC曲線下面積(AUC)は、男性で0.95(95%信頼区間0.93~0.97)、女性では0.91(同0.87~0.94)と高い値を示した。低筋肉量該当者スクリーニングのためのFFMIの最適なカットオフ値は、男性17.5kg/m2(感度89%、特異度88%)、女性14.6kg/m2(感度80%、特異度86%)と計算された。

     以上より著者らは、「FFMIは年齢や肥満の有無にかかわりなく、BIA法やDXA法で測定されたASMIと強い正の相関を示した。FFMIを、サルコペニアの低筋肉量スクリーニングの代替マーカーとして利用できるのではないか。その際のFFMIのカットオフ値は男性18kg/m2未満、女性15kg/m2未満と推定される」と結論付けている。なお、本研究の限界点としては、対象者が単一大学の卒業生であり一般住民から無作為に抽出されたサンプルではないこと、使用したBIA測定器が1タイプのみであって他の機種では結果が異なる可能性のあることなどを挙げている。

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  • 日本人では重症COVID-19にもレムデシビルが有効の可能性

     ICU入室を要する重症の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者にも、抗ウイルス薬のレムデシビルが有効であることを示すデータが報告された。発症9日以内に同薬が投与されていた場合に、死亡リスクの有意な低下が観察されたという。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of Medical Virology」に9月23日掲載された。

     COVID-19に対するレムデシビルの有効性はパンデミックの早い段階で報告されていた。同薬は現在までに流行した全ての変異株に有効とされてきており、世界保健機関(WHO)のCOVID-19薬物治療に関するガイドラインの最新版でも、軽症患者への使用が推奨されている。ただし重症患者での有効性のエビデンスが少なく、同ガイドラインでも条件付きの推奨にとどまっている。

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     他方、日本国内では機械的人工呼吸や体外式膜型人工肺(ECMO)を要するような重症COVID-19患者の死亡率が、他国よりも低いことが報告されている。このような日本の医療環境下であれば、海外とは異なる治療戦略が有効な可能性も考えられる。これを背景として藤原氏らは、同大学病院の医療記録を用いて、重症患者でのレムデシビルの有効性を後方視的に検討した。

     解析対象は、2020年4月~2021年11月に同院に入院しICU入室を要した患者のうち、新型コロナウイルス検査が陽性のCOVID-19患者で、ステロイド治療が行われた168人。このうち131人(78%)は、観察開始日(入院日または発症日のどちらか遅い日)に高流量酸素または人工呼吸器による治療を受けていた。

     解析対象者168人中、96人は発症9日以内にレムデシビルが投与され、37人は発症10日目以降に同薬が投与されていた。他の35人には同薬が投与されていなかった。全期間の院内死亡率は19.0%であり、前記の3群で比較すると、同順に10.4%、16.2%、45.7%だった。なお、解析対象期間の2020年4月~2021年11月は、パンデミック第1波から第5波に相当するが、院内死亡率については大きな違いはなかった。

     入院日、併存疾患数、腎機能・肝機能障害、酸素需要量、胸部CT検査による肺炎の重症度などの交絡因子を調整したCox回帰モデルで、レムデシビルが投与されていなかった群を基準として院内死亡率を比較。その結果、同薬を発症9日以内に投与されていた群では院内死亡率が9割低いことが示された〔ハザード比(HR)0.10(95%信頼区間0.025~0.428)〕。一方、発症10日目以降に同薬が投与されていた群では、有意な死亡率低下は観察されなかった〔HR0.42(同0.117~1.524)〕。

     重症のCOVID-19患者ではレムデシビルの有効性が認められないとするこれまでの研究の多くは、アジア人以外の人種での研究だった。一方、今回の研究の解析対象は大半が日本人であり、日本人以外(対象の4.8%)も全てアジア人だった。著者らは、「アジア人種の重症COVID-19患者にはレムデシビルが有効である可能性を、実臨床で示すことができた意義は大きい」と述べている。

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  • 肥満の有病率が高い都道府県は透析導入率が高い

     都道府県ごとの肥満の有病率が、透析導入率と有意な関連のあることが報告された。また女性に関しては、タンパク尿の有病率とも有意な関連があるという。新潟大学大学院医歯学総合研究科臓器連関学寄附講座の若杉三奈子氏らの研究によるもので、詳細は「Clinical and Experimental Nephrology」に10月8日掲載された。

     肥満は慢性腎臓病(CKD)や末期腎不全(ESKD)の重要なリスク因子の一つであり、また日本人は欧米人に比べて腎機能が低く、ESKDの罹患率が高いことが知られている。一方、日本国内の肥満の有病率には地域差があり、それがESKD罹患率の差となり透析導入率の差として現れている可能性が考えられる。ただし、これまでそのような視点での研究は行われていない。若杉氏らはこの点について、日本透析医学会のレジストリ、特定健診データ・医療費請求データなどを利用して検討した。なお、透析導入率には性差が存在するため、解析は性別に行った。

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     解析の基礎データとなる2016~2017年の透析導入率は、男性1,000人年当たり0.42、女性0.18だった。また特定健診の対象である40~74歳での肥満(BMI25以上)の有病率は、男性33.7%、女性19.7%、タンパク尿(1+以上)の有病率は同順に5.0%、2.6%だった。

     各都道府県の人口構成の違いを調整した標準化透析導入比は、男性は0.72~1.24の範囲、女性は0.69~1.41の範囲に分布していて、全体的に男性の方が高いものの、男性と女性で強い相関があった(r=0.83)。同様に、肥満の有病率(r=0.87)や、タンパク尿の有病率(r=0.88)、および一般住民の標準化死亡比(r=0.74)も、男性と女性で強く相関していた(全てP<0.001)。

     次に、研究の主題である、各都道府県の肥満の有病率と標準化透析導入比との関連を見ると、男性では中程度の相関が認められ(r=0.46、P<0.001)、タンパク尿の有病率とも弱い有意な相関が確認された(r=0.30、P=0.04)。また、肥満の有病率(r=0.35、P=0.02)やタンパク尿の有病率(r=0.33、P=0.02)は、一般住民の標準化死亡比とも弱い有意な相関があった。

     女性については、各都道府県の肥満の有病率と標準化透析導入比との間に弱い相関があり(r=0.37、P=0.01)、タンパク尿の有病率とは中程度の相関が認められた(r=0.41、P=0.004)、また、肥満の有病率は標準化死亡比とも弱い有意な相関があった(r=0.33、P=0.03)。ただし男性と異なり、タンパク尿の有病率と一般住民の標準化死亡比との関連は非有意だった(r=0.005、P=0.97)。

     肥満の有病率とタンパク尿の有病率、および各都道府県の医師数に占める腎臓病専門医の割合を説明変数とする回帰分析の結果、男性では肥満の有病率のみが標準化透析導入比と有意な関連が認められ(β=0.42、P=0.004)、タンパク尿は有意な関連がなかった。一方、女性では肥満の有病率(β=0.39、P=0.004)とともに、タンパク尿の有病率(β=0.41、P=0.003)も標準化透析導入比と有意な関連が認められた。

     パス解析からも、男性の標準化透析導入比に有意に関連するのは肥満有病率のみであり(β=0.43、P<0.001)、女性では肥満有病率(β=0.40、P<0.001)とタンパク尿の有病率(β=0.33、P=0.01)が、それぞれ独立して標準化透析導入比に関連していることが示された。

     以上を基に著者らは、肥満の有病率が高い都道府県は標準化透析導入比が高いという有意な関連が明らかになった。これは、一般住民および医療専門職者に向けた、普通体重を維持することが腎臓を守るために重要であるという明確なメッセージとなり得る」と結論付けている。

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    肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
    今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。

    肥満症の危険度をセルフチェック!一般的な肥満との違いは?

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    HealthDay News 2022年11月14日
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  • 明るい寝室で寝ることが肥満やうつ症状、全身性炎症と関連

     約3,000人の一般住民を対象に、睡眠中の寝室の明るさと健康指標との関連を検討した研究(平城京スタディ)から、明るい寝室で寝ている人には、肥満、脂質異常、全身性炎症、うつ症状、睡眠障害が多いという結果が報告された。奈良県立医科大学疫学・予防医学講座の大林賢史氏らの研究であり、詳細は「Environmental Research」に9月21日掲載された。

     寝室の明るさが健康リスクとなる可能性を示した研究は、過去にも報告されているが、それらは対象者数が限られていた。今回、大林氏らが実施した研究は、奈良県に居住する40歳以上の一般成人3,012人を対象とする大規模な疫学研究であり、照度計を用いて2日間にわたり睡眠中の寝室の明るさを測定した。

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     解析対象は、照度計の設置位置が適当でないと判断された対象者などを除く2,947人(平均年齢69.3±7.8歳、女性60.6%)。睡眠中の寝室照度の中央値は1.0ルクスだった。照度の四分位値で全体を4群に分類すると、第1四分位群は0.2ルクス未満、第2四分位群は0.2~1.0ルクス、第3四分位群は1.0~4.0ルクス、第4四分位群は4.0ルクス以上だった。

     これら4群の健康指標を比較すると、以下の有意な関連が認められた。睡眠中の寝室照度が明るい群ほど、BMI、腹囲長、中性脂肪が有意に高値であり、HDL(善玉)コレステロールは有意に低値だった。また、睡眠障害(ピッツバーグ睡眠スコア6点以上)やうつ症状(老年期うつ尺度スコア6点以上)の割合が有意に高かった。これらの健康指標に影響を及ぼし得る因子(年齢、性、喫煙・飲酒・運動習慣、収入、教育歴、入床時刻、就床時間、睡眠薬・抗うつ薬の使用など)を調整した多変量解析でも、睡眠中の寝室の明るさがさまざまな健康リスクとなっている可能性が浮かび上がった。

     第4四分位群(最も寝室が明るい上位25パーセント)は第1四分位群(最も寝室が暗い下位25パーセント)に比べて、BMI(P=0.007)、腹囲長(P<0.001)、LDL(悪玉)コレステロール(P=0.015)が有意に高く、睡眠障害の割合も有意に高かった〔第4四分位群ではオッズ比(OR)1.43(95%信頼区間1.14~1.79)〕。さらに、10ルクスをカットオフ値として二群に分けて比較すると、寝室の明るさが明るい群は前述の指標に加えて白血球数が高値(P=0.041)で全身性炎症の亢進が示唆され、また、うつ症状を有するオッズ比が有意に高かった(P=0.047)。

     以上の結果から大林氏らは「3,000人規模の横断研究により、交絡因子を調整後も寝室の明るさが、肥満、脂質異常、全身性炎症、睡眠障害、うつ症状と有意に関連していることが示された。今後の追跡調査による縦断的研究が必要とされる」と総括。また、「寝室の明るさと白血球数の関連を示した研究は、本研究が初めて。白血球数は心血管死や全死亡の予測因子である」としている。なお、両者の関連のメカニズムについては、「夜間の光曝露による睡眠障害やメラトニン分泌の減少が白血球数を増加させたのではないか」と考察している。

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  • 肥満はCOVID-19に伴う血栓症リスクに影響なし?――CLOT-COVID研究

     肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)重症化のリスク因子ではあるものの、COVID-19に伴う血栓症リスクへの影響は統計的に有意でないとするデータが報告された。三重大学医学部付属病院循環器内科の荻原義人氏らの研究であり、詳細は「Journal of Cardiology」に8月28日掲載された。

     肥満は入院患者に発生する血栓症のリスク因子であることが以前から知られている。またCOVID-19が血液の凝固異常を引き起こし血栓症のリスクを上げることも、既に明らかになっている。ただし、肥満がCOVID-19に伴う血栓症のリスク因子であるか否かは明らかにされていない。荻原氏らはこの点について、COVID-19患者の血栓症や抗凝固療法に関する国内16施設の共同研究「CLOT-COVID研究」のデータを後方視的に解析し検討した。

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     CLOT-COVID研究には2021年4~9月のCOVID-19入院患者2,894人が登録されており、BMIデータのない患者と18歳未満の未成年を除外した2,690人を解析対象とした。国際的な基準であるBMI30以上を肥満と定義すると17%が該当した。

     肥満群は非肥満群に比較して若年で(平均47対55歳、P<0.01)、高血圧、糖尿病の有病率が高いという有意差が見られた。一方、性別(男性の割合)、入院時のDダイマー、静脈血栓塞栓症(VTE)や大出血の既往者の割合などには有意差がなかった。また、肥満群はCOVID-19の重症度が高く(P=0.02)、血栓症に対するヘパリンなど抗凝固薬の予防的投与が行われていた割合も高かった(55%対42%、P<0.01)。

     入院中の血栓症は、54件(2.0%)発生していた。その内訳は、VTE(画像検査などで確認された肺塞栓症、深部静脈血栓症)が最も多く39件であり血栓症の72%を占めていた。ほかには、動脈血栓イベント(心筋梗塞、虚血性脳卒中など)が12件、その他の血栓症が6件だった。大出血イベントは56件(2.1%)、全死亡は145人(5.4%)だった。

     肥満群と非肥満群の血栓症発生率を比較すると、同順に2.6%、1.9%であり有意差はなく(P=0.39)、VTEは2.2%、1.3%(P=0.15)、大出血2.4%、2.0%(P=0.59)、全死亡4.4%、5.6%(P=0.29)であり、いずれも有意差がなかった。その一方で、全死亡および機械的人工換気または体外式膜型人工肺(ECMO)の施行で構成される複合エンドポイントの発生率は、20.1%、15.0%(P<0.01)で肥満群の方が高かった。

     年齢、性別、高血圧・糖尿病・心疾患・呼吸器疾患・活動性がんの影響を調整したロジスティック回帰分析の結果、非肥満群に対する肥満群の血栓症のオッズ比(OR)は1.39(95%信頼区間0.68~2.84)となり、肥満による有意なリスク上昇は示されなかった。一方、全死亡や機械的人工換気、ECMOの複合エンドポイントはOR1.85(同1.39~2.47)であり、肥満が有意なリスク因子と考えられた。

     著者らは、本研究の限界点として、ワクチン接種状況が把握されていないこと、COVID-19に対する治療や抗凝固薬予防投与が各医師の裁量で決定されていたこと、肥満該当者が少なかったことなどを挙げた上で、「肥満はCOVID-19の重症度と関連があるものの、COVID-19に伴う血栓症の発症とは有意な関連がなかった」と結論付けている。なお、本研究以外にも、VTEを発症したCOVID-19患者はBMI高値だがCOVID-19の重症度も高いとする国内の既報研究があることから、「COVID-19に伴う血栓症はCOVID-19の重症度の高さに関連するものであり、肥満に起因するものではないのではないか」との考察を加えている。

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  • 糖尿病黄斑浮腫への抗VEGF治療が血糖管理改善の糸口に

     糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF薬による治療が、患者の血糖コントロールのモチベーション向上につながる可能性が報告された。福井大学医学部眼科学教室の高村佳弘氏らが行った、国内多施設共同研究の結果であり、詳細は「Journal of Clinical Medicine」に8月9日掲載された。

     糖尿病黄斑浮腫は、糖尿病による目の合併症の一つで、網膜の中でも視力にとって重要な「黄斑」に浮腫(むくみ)が生じ、視力が低下したり、物がゆがんで見えたりする病気。かつては有効な治療法が少なかったが現在は、血管から血液が漏れ出すのを抑えたり、新生血管を退縮させる「抗VEGF薬」が第一選択薬として使われ、視力を回復・維持できることが増えている。

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     ただし、抗VEGF薬は高額であり、治療効果を維持するために注射を継続する必要があるため、患者の経済的、心理的負担が大きいと考えられている。また糖尿病黄斑浮腫による視力低下は比較的急な経過をたどり、両眼性であることにより、生活に支障を来す視覚障害に陥るのではないかという不安もつきまとう。高村氏らは、こうしたストレスに対して、患者がそれを克服しようと、むしろ食事療法や運動療法といった血糖コントロールに積極的になる可能性を想定し、以下の検討を行った。

     この研究は、国内5カ所の大学病院が参加する多施設共同の後方視的研究として実施された。対象は、2015~2021年に黄斑浮腫に対して抗VEGF療法が施行された成人2型糖尿病患者112人。治療後2年間の視力や中心網膜厚(CRT)の変化を追うとともに、2年経過時点に実施したアンケートから治療モチベーションを把握した。アンケートの質問内容は、「抗VEGF療法を受けてから食事・運動療法を積極的に行うようになったか?」、「抗VEGF薬は高価と感じるか?」などの4項目。

     黄斑浮腫はCRT300μm以上と定義。初回治療後にCRTが350μmを超えた場合、抗VEGF薬の再投与が検討された。なお、眼内炎併発、糖尿病以外の原因による網膜疾患、制御されていない緑内障、半年以内に網膜光凝固が施行されている患者、角膜疾患や白内障などによりOCT検査を施行できない患者、脳卒中既往者などは対象から除外した。

     解析対象112人は、平均年齢67±10.3歳、男性71.4%、HbA1c7.4±1.08%であり、2年間の抗VEGF薬平均投与回数は6.4±4.5回(うち2年目が2.5±2.5回)だった。2年間の観察期間中、CRTは有意に減少し、矯正視力は有意に改善していた。

     HbA1cは、ベースライン値が7.4%と、高齢者の多い集団として比較的良好なこともあり、観察期間を通じて全体では有意な変化がなかった。ただし、ベースラインのHbA1cの中央値で二分した高値群(平均HbA1c8.23±0.85%)では、治療後3カ月、12カ月、18カ月時点のHbA1cが治療前より有意に低値だった。なお、観察期間中に血糖降下薬による治療が強化されていたのは7人(6.25%)のみであり、薬物治療によるHbA1cへの影響は全体ではわずかであるため、観察されたHbA1cの低下は患者の食事・運動療法の効果によるものと考えられた。

     一方、観察期間中に矯正視力が低下した患者が19人存在した。これらの患者では、HbA1cの上昇と矯正視力の低下が有意に相関していた(R2=0.299、P=0.0155)。

     アンケートの回答との関連を見ると、「抗VEGF療法を受けてから食事・運動療法を積極的に行うようになったか?」に「はい」と答えた群(59.8%)は「いいえ」の群に比較し、治療後6カ月、12カ月、18カ月時点のHbA1cが有意に低値だった。また、「抗VEGF薬は高価と感じるか?」に「はい」と答えた群(67.9%)は「いいえ」の群に比較し、治療後18カ月時点のHbA1cが有意に低値だった。

     著者らは、これら一連の結果を総括して、「糖尿病黄斑浮腫に対する抗VEGF療法が、患者の血糖管理のモチベーションを高める機会となることがあり、それがHbA1cを改善する可能性も想定される」と結論付けている。また、「従って抗VEGF治療を行う眼科医は患者に対して、そのような変化につながるような心理的なケアを行うことを考慮する必要があるのではないか」と付言している。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

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    HealthDay News 2022年10月31日
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  • がん患者の自殺リスクは診断直後が特に高い――全国がん登録データの解析

     がん診断後には、自殺や自殺以外の外因死(病気以外での死亡)、心血管死のリスクが有意に高く、特に診断後1カ月間の自殺リスクは一般人口の4倍以上に上るというデータが報告された。国立がん研究センターがん対策研究所と東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学の栗栖健氏、藤森麻衣子氏らの研究結果であり、「Cancer Medicine」に8月8日、論文が掲載された。

     国内では2016年に全国がん登録事業がスタートし、現在はがんと診断された全ての患者のデータが収集され、がんの実態把握や治療・サポート体制の改善に生かされている。栗栖氏、藤森氏らはこのデータを用いて、がんと診断された後の自殺リスクなどを検討した。解析対象は、2016年の年始から年末までの1年間に、がんと診断された患者107万876人であり、死亡後にがんと診断された患者や年齢・性別が不明の患者、居住地が国外の患者などは除外されている。

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     2年間の追跡期間中に、自殺による死亡が66​​0人、自殺以外の外因死が1,690人、心血管死が1万2,705人記録されていた。自殺による死亡のリスクを、年齢と性別を調整した標準化死亡比(SMR)として一般人口と比較すると、84%ハイリスクであることが分かった〔SMR1.84(95%信頼区間1.71~1.99)〕。また、自殺以外の外因死〔SMR1.30(同1.24~1.37)〕や心血管死〔SMR1.19(1.17~1.21)〕も、有意なリスク上昇が認められた。なお、自殺による死亡の72%は、死亡場所が自宅だった。

     がんの診断直後には、特にリスクが高いことも明らかになった。例えば追跡1カ月以内の自殺による死亡のSMRは4.40(3.51~5.44)と4.4倍ハイリスクであり、一方、2年目(診断から13~24カ月)のSMRは1.31(1.14~1.50)と依然有意ではあるものの、一般人口との差は31%まで低下していた。同様に、自殺以外の外因死のSMRは、診断後1カ月以内が2.27(1.94~2.63)、2年目が1.27(1.18~1.37)、心血管死は同順に2.38(2.27~2.50)、1.07(1.04~1.10)だった。

     年齢、性別、原発巣、単発がん/重複がん、腫瘍の範囲を変数とするポアソン回帰モデル(心血管死については二項回帰モデル)による解析の結果、自殺による死亡リスクは、原発巣別では食道〔結腸を基準とする相対リスク(RR)2.01(1.33~3.04)〕で有意に高く、前立腺がんでは有意に低かった〔RR0.62(0.43~0.89)〕。腫瘍の範囲については、限局性を基準として、隣接部位への浸潤ありでRR1.49(1.21~1.83)、転移ありでRR2.37(1.89~2.99)だった。年齢や性別、重複がんか否かは自殺による死亡リスクと有意な関連がなかった。

     自殺以外の外因死については、80歳以上で低リスク(50代を基準としてRR0.54)、女性でハイリスク(RR1.14)であり、白血病(RR2.19)や脳・中枢神経のがん(RR2.10)を含む複数のがんで有意なリスク上昇が認められた。心血管死については若年層でRRが高い一方、高齢者層では低く、また女性や重複がんなどで有意なリスク上昇が認められた。また、自殺以外の外因死、心血管死ともに、自殺による死亡と同様、腫瘍の範囲が大きいほどハイリスクだった。

     一連の結果を基に著者らは、「がん診断後には自殺や自殺以外の外因死、心血管死のリスクが高く、特に診断直後や病期の進行した患者でハイリスクだった。そのようなハイリスク患者に対するケアと自殺予防対策が必要とされる」と結論付けている。また、「本研究では長期的リスクの検討ができておらず、ハイリスク要因分析では原発巣ごとの事例数が少ないなどの課題もあるため、継続的な評価が求められる」と付け加えている。

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    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

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    HealthDay News 2022年10月31日
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