• ドラム演奏で認知症の重症度が分かる――東京大学先端科学技術研究センター

     ドラムをたたく時の腕の上げ具合で、認知症の重症度を判定できる可能性が報告された。東京大学先端科学技術研究センターの宮﨑敦子氏らによるパイロット研究の結果であり、詳細は「Frontiers in Rehabilitation Sciences」に5月25日掲載された。著者らは、「この方法は簡便なだけでなく、既存の重症度評価ツールへの回答を拒否されるケースでも、ドラムたたきなら協力してもらえるのでないか」と述べている。

     現在、認知症の重症度は、ミニメンタルステート検査(MMSE)といった評価指標を用いて判定することが多い。ただし、認知症が重度になるほど、そのような検査の必要性を理解しにくくなり、検査への協力を得られなくなることが増える。また視覚や聴覚に障害のある場合も、その施行が難しくなったり、判定結果が不確かになりやすい。

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     一方、上肢の運動機能が認知症の重症度と関連しているとの既報研究がある。とはいえ上肢運動機能の評価にもハードルがある。そこで宮﨑氏らは、ドラム演奏中の腕の上げ具合によって、上肢運動機能を評価することを試みた。ドラム演奏には、スティックがドラムから跳ね返るためにほぼ筋力を使わずに行えること、リズム反応運動は認知症が重度になっても維持されていることが多いこと、ほかの人の動作の模倣が可能なため認知症の人にも何をすべきかが分かりやすいこと、などの長所がある。また同氏らは以前、ドラムをたたくことが認知機能の改善につながる可能性も報告している。

     この研究の解析対象は埼玉県内の特別養護老人ホームの居住者16人〔平均年齢86歳(範囲72~100)、女性12人〕。MMSEは平均14.56±6.89点で、認知症の重症度は軽度(MMSEが21~26点)が4人、中等度(同11~20点)が8人、重度(10点以下)が4人だった。

     参加者全員が輪になって座り、進行役の研究者が自分のドラムをたたきながらアイコンタクトや声掛けによって、ドラムたたきを促した。参加者は各自のペースでドラムをたたき始め、次第に周囲のリズムに合わせて、たたくスピードを変えていった。この間、腕時計型ウェアラブルセンサーにより、ドラムをたたく時に上肢がどれくらい高く上がっているか(挙上角度)と、たたくスピードを計測した。そのほか、認知機能と関連があり、かつ上肢運動機能に影響を及ぼし得る因子として、握力も測定した。

     年齢、性別、握力、上肢の挙上角度、ドラムをたたくスピードという五つの因子と認知症の重症度(MMSEスコア)との関連を検討すると、それらの因子は相互の関連が少なく、それぞれが個別にMMSEスコアへ影響を及ぼしていることが分かった(分散拡大係数が全て5未満)。

     次に、認知症の重症度判定に際して、それらのうちどの因子を用いた場合に、MMSEスコアをより正確に予測できるかを赤池情報量規準(AIC)という指標で検討。その結果、握力とともに上肢の挙上角度を予測モデルに組み入れた時に、最も予測能が高くなることが分かった(R2=0.6035、P=0.0009)。また、ドラムをたたくスピードはMMSEスコアとの関連が少なく、この手法による評価に影響がないことが確認された。

     以上より著者らは、「ドラム演奏時の腕の挙上角度から、認知症の重症度を評価できる可能性が示された」と結論付けている。また、「この評価法は簡便、安価、安全であり、医療や介護現場で容易に用いることができる。さらに、ドラム演奏による上肢運動機能や認知機能の改善も期待できるのではないか」と語っている。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2023年6月19日
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  • 感染防御対策が徹底した職場ほど独身者の恋愛活動が活発――国内での縦断的研究

     新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で、感染防止対策をより厳格に行っていた職場ほど、独身の人の恋愛活動が活発に行われていたことが明らかになった。産業医科大学環境疫学研究室の藤野善久氏らの研究によるもので、詳細は「Frontiers in Public Health」に2月16日掲載された。

     COVID-19パンデミック発生後、外出自粛などのために社会的交流が少なくなり、「孤独」が公衆衛生上の問題としてクローズアップされてきた。若年者や独身者において、より孤独感が強まったとする研究報告も見られる。独身者では、新たな恋愛関係を構築することで孤独感が抑制されると考えられるが、パンデミックによりそのハードルがより高くなったとも言える。例えば、労働者の場合は職場がパートナーとの出会いの場となることが少なくないが、在宅勤務の奨励をはじめとするさまざまな対策によって、出会いの機会が減った。

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     一方で、孤独感が募りがちな状況下では、その孤独感を解消しようとする目的のために、独身者の恋愛活動が活発になった可能性も考えられる。藤野氏らはその可能性を、産業医科大学が行っている「COVID-19流行下における労働者の生活、労働、健康に関する調査(CORoNaWork研究)」のデータを用いた縦断的研究により検証した。

     2020年12月に、インターネット調査パネル登録者を対象にアンケート調査を行い、20~65歳で独身の労働者2万7,036人から有効回答を得た。これをベースライン調査として、その1年後の2021年12月に追跡調査を実施。1万8,560人(68.7%)が回答した。

     追跡調査では、この1年間で「恋愛パートナーを探す活動を行ったか?」、「新しい恋愛パートナーができたか?」という二つの質問を行い、その回答内容と、職場での感染防御対策の厳格さとの関連を検討した。感染防御対策の厳格さは、職場で取られている対策(在宅勤務の奨励、出勤前の体温測定の推奨、マスク常時着用、パーテーション設置、屋内での飲食禁止など7種類)の実施状況、および、「勤務先の感染防御対策は十分だと思うか?」との質問(強い否定~強い同意の四者択一で回答)により評価した。

     追跡調査回答者の約6割が男性だった。恋愛活動と感染防御対策との関連の解析に際しては、年齢、性別、婚姻状況(未婚、離婚、死別)、職種、収入、教育歴、飲酒・喫煙習慣、主観的健康観、勤務先の従業員数などの影響を統計学的に調整。解析の結果、職場で実施された感染防御対策の種類が多いほど(傾向性P<0.001)、および、勤務先の感染防御対策が十分だと感じているほど(傾向性P=0.003)、「恋愛パートナーを探す活動を行った」割合が高いという有意な関連が認められた。さらに、実際に「新しい恋愛パートナーができた」割合についても、感染防御対策の種類が多いほどその割合が高いという有意な関連が認められた(傾向性P<0.001)。

     このような関連が生じた背景について著者らは、以下のように三つの可能性を考察として述べている。第一に、感染防御対策が厳格に行われている職場で働く人では、感染リスクをコントロールできるという自己効力感が高まり、恋愛行動に積極的になること。第二に、感染防御対策が厳格であることで職場での接触の機会が減り、それを補うために恋愛活動への意欲が高まること。第三に、感染防御対策を徹底した会社は、社員同士の交流を推進する活動も推進していた可能性が高いこと。

     以上を基に論文の結論は、「COVID-19パンデミック下で、職場の厳格な感染防御対策の実施とそれに対する満足感が、恋人のいない独身者の恋愛を後押ししたと考えられる。独身者は孤独のリスクが高いが、しっかりとした感染防御対策を取った上で恋愛パートナーとの関係を築くことが、精神的な健康の維持に重要な要素となるのではないか」と記されている。

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  • 医師によるうつ病の重症度評価と患者本人の苦痛の乖離に、幼少期の逆境体験などが関与

     医師が臨床的に評価した重症度よりも強い苦痛を感じているうつ病患者には、幼少期の逆境体験や自閉症傾向などが多く見られるとする、国立精神・神経医療研究センターの山田理沙氏、功刀浩氏(現在の所属は帝京大学医学部精神神経科学講座)らの研究結果が、「Clinical Psychopharmacology and Neuroscience」に5月30日掲載された。著者らは、「うつ病の重症度評価において、患者の主観的な苦痛の強さを把握することが、より重要なケースが存在する」と述べている。

     近年、患者中心の医療の重要性が認識されるようになり、精神科医療でも治療計画の決定などに患者本人の関与が推奨されるようになってきた。これに伴い、うつ病の重症度についても、医師が評価スケールなどを用いて判定した結果と、患者への質問票による評価結果が一致しないケースのあることが分かってきた。ただ、そのような評価の不一致に関連する因子はまだ明らかにされていない。

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     研究の対象は、2017年10月~2020年2月に国立精神・神経医療研究センター病院気分障害センターの外来を受診した、17歳以上の大うつ病性障害(MDD)患者60人および双極性障害(BD)患者40人、計100人〔年齢中央値33歳(四分位範囲24~46)、男性52%〕。診断は、米国精神医学会の診断基準の第4版(DSM-4)に即して行われた。

     医師によるうつ病の重症度評価には「ハミルトンうつ病評価尺度(HAMD-17)」、患者自身の主観的評価には「ベック抑うつ質問票(BDI)」を用いた。両者の評価結果の関連を検討したところ、有意な正相関(r=0.624、P<0.001)が認められた。

     次に、HAMD-17とBDIの回帰直線からBDIスコアまでの乖離の程度の四分位数で、全体を以下の3群に分類。BDIスコアが回帰直線より高値であり、その乖離幅の大きい25%の群を、医師の評価よりも主観的な苦痛の大きい群(BO群)とした。反対に、BDIスコアが回帰直線より低値であり、その乖離幅の大きい25%の群を、医師の評価よりも主観的な苦痛が少ない群(BU群)とし、残りの50%は両者の評価が一致している群(BC群)とした。これら3群間に、年齢、性別や疾患(MMD、BD)の分布、自殺未遂の既往、治療薬、教育歴、およびHAMD-17などに有意差はなかった。

     医師の重症度評価と患者の主観的評価に関連する可能性のある因子としては、幼少期の逆境体験(CTQ-6)、成人用対人応答性尺度(SRS-A)、問題への対処行動の傾向(WCCL)を評価した。それらの評価結果をBO群、BU群、BC群で比較すると、一部のスコアに有意な群間差が認められた。

     例えばCTQ-6については、合計スコア、および精神的虐待を表す下位尺度が、BU群よりBO群の方が高値だった。下位尺度のうち身体的虐待および情緒的ネグレクトについては、3群間に有意差がなかった。また、SRS-Aについては、合計スコアと自閉症傾向を表す下位尺度などが、BC群やBU群よりBO群の方が高値だった。WCCLに関しては、自責スコアはBC群やBU群よりBO群が高く、希望的観測と回逃・避避のスコアはBC群よりBU群の方が低かった。

     著者らは本研究の限界点として、サンプル数が十分でなく比較的若年の患者が多いこと、大半の患者が既に薬物療法が開始された状態で検討していること、BD患者の躁症状については主観的評価を行っていないことなどを挙げている。その上で、「幼少期の逆境体験や自閉症傾向、問題に対して自責の念を抱きやすい傾向などを有するうつ病患者は、臨床医が客観的に評価するよりも大きな苦痛を感じている可能性がある」と結論付け、「そのような懸念のある患者では、主観的評価を積極的に行うべきではないか」と提言している。

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  • 退職後には心疾患のリスクが低下する――35カ国の縦断研究

     退職後には心疾患のリスクが低下することが、世界35カ国で行われた縦断研究のデータを統合した解析の結果、明らかになった。京都大学大学院医学研究科社会疫学分野の佐藤豪竜氏らの研究によるもので、詳細は「International Journal of Epidemiology」に5月8日掲載された。著者らは、「退職年齢の引き上げで、新たな医療コストが発生する可能性もある」と述べている。

     現在、多くの国が人口の高齢化を背景に、退職年齢と年金支給開始年齢の引き上げを検討・実施している。しかし、退職による疾患リスクへの影響は十分検討されていない。仮に退職によって疾患リスクが変わるのであれば、国民医療費にも影響が生じることになる。これを背景として佐藤氏らは、退職前後での健康状態の変化を検討可能な世界各国の縦断研究のデータを用いて、特に心疾患とそのリスク因子に焦点を当てた解析を行った。

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     日本の「くらしと健康の調査(JSTAR)」や、米国、欧州、中国、韓国など35カ国の縦断研究の参加者のうち、退職というライフイベントが生じ得る50~70歳、計10万6,927人を平均6.7年間追跡。各国の年金給付開始年齢を操作変数とし(退職年齢と見なし)、その年齢の前後での疾患リスクなどの変化を解析した。

     その結果、退職により心疾患のリスクが2.2パーセントポイント低下することが明らかになった〔係数-0.022(95%信頼区間-0.031~-0.012)〕。また、運動不足(中~高強度運動の頻度が週1回未満)の該当者が3.0パーセントポイント減少することも示された〔同-0.030(-0.049~-0.010)〕。

     性別に検討すると、心疾患のリスク低下は男性と女性の双方で認められたが、女性でのみ、喫煙者〔-0.019(-0.034~-0.004)〕の減少が認められた。また、就業中の勤務内容が肉体労働か否かで二分した場合、心疾患のリスク低下や運動不足該当者の減少は、非肉体労働者でのみ観察された。さらに肥満の割合に関しては、非肉体労働者では退職後に低下が見られたのに対して〔-0.031(-0.056~-0.007)〕、肉体労働者では退職後に上昇していた〔0.025(0.002~0.048)〕。

     このほかに、教育歴の長さで全体を3群に層別化した検討では、心疾患のリスクは3群全てで退職後に低下していた。また、教育歴が最も長い群では、脳卒中リスクの低下〔-0.014(-0.026~-0.001)〕や、肥満の割合の低下〔-0.029(-0.057~-0.001)〕、運動不足該当者の減少〔-0.045(-0.080~-0.011)〕も観察された。

     以上を基に論文の結論は、「われわれの研究結果は、退職が心疾患リスクの低下と関連していることを示唆している。その一方、心疾患のリスク因子と退職との関連については、個人の特徴による影響の違いが認められた」とまとめられている。また、各国の政策立案者への提言として、「退職と年金給付開始年齢とを引き上げることの財政上のメリットだけでなく、退職を先延ばしすることで、高額な医療コストが発生することの多い心疾患患者が増加する可能性のあることも、考慮する必要があるのではないか」と述べられている。

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