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1月 15 2025 出産後の抜け毛の量が育児中の不安に独立して関連
出産後に抜け毛が多い女性は不安が強く、交絡因子を調整後にも独立した関連のあることが明らかになった。東京科学大学病院周産・女性診療科の廣瀬明日香氏らの研究によるもので、詳細は「The Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に10月27日掲載された。
個人差があるものの、出産後女性の多くが抜け毛を経験し、一部の女性は帽子やかつらを使用したり外出を控えたりすることがあって、メンタルヘルスに影響が生じる可能性も考えられる。産後の脱毛症の罹患率などの詳細は不明ながら、廣瀬氏らが以前行った調査では、育児中女性の91.8%が「抜け毛が増えた」と回答し、73.1%がそれに関連する不安やストレスを感じていることが明らかにされている。今回の研究では、その調査データをより詳しく解析し、産後脱毛と育児中のメンタルヘルスとの関連を検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。2021年6月~2022年4月に東京医科歯科大学病院(現在は東京科学大学病院)と東京都立大塚病院で出産した女性1,579人に対して、出産後10~18カ月時点にオンライン調査への回答協力を依頼。回答を得られた中から、多胎妊娠や出産以前に脱毛症の既往のあった女性を除外した331人を解析対象とした。なお、季節による脱毛量の変化を考慮し、回答依頼は8カ月の間隔をおいて2回実施された。
主な調査項目は、産後の脱毛量の質問(全くない/少し/かなり/非常に多いの四者択一)と、Whooleyの質問票、2項目の全般性不安障害質問票(GAD-2)、エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS)、およびアテネ不眠尺度(AIS)によるメンタルヘルス状態の評価。解析対象者の主な特徴は、出産時年齢が34.5±4.5歳で、経産婦が27.2%、経腟分娩65.8%であり、脱毛量は「全くない」8.2%、「少し」30.8%、「かなり」46.5%、「非常に多い」14.5%だった。
メンタルヘルス状態については、Whooleyの質問票の「気分が落ち込む」に33.5%、「何をしても楽しくない」に22.4%、GAD-2の「緊張や不安、神経過敏を感じる」に28.7%、「心配をコントロールできない」に16.6%が「はい」と回答していた。EPDSは、総合スコアが30点満点中6.5点、不安とうつのサブスケールはそれぞれ9点満点中2.9点、3.7点であり、AISは24点満点中6.8点だった。また、脱毛が「全くない」と回答した人以外に脱毛関連の不安やストレスを質問したところ、「全くない」が26.9%、「少し」が47.2%、「かなり」が18.9%、「非常に強い」が7.0%だった。
脱毛量とメンタルヘルス関連指標との関係性を単変量解析で検討した結果、脱毛量が「非常に多い」群では「全くない」群に比べて、GAD-2の「緊張や不安、神経過敏を感じる」の該当者が有意に多かった(オッズ比〔OR〕4.47〔95%信頼区間1.34~14.93〕、P=0.01)。また有意水準未満ながら、脱毛量が「非常に多い」群はGAD-2の「心配をコントロールできない」(OR4.17〔同0.86~20.26〕、P=0.08)の該当者が多く、EPDSの評価に基づく不安が強い傾向が見られた(係数1.06〔-0.14~2.25〕、P=0.08)。
上記の解析で有意な関連の見られたGAD-2の「緊張や不安、神経過敏を感じる」を従属変数とし、出産時年齢、分娩方法、不妊治療、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群、出生時体重、授乳状況、および脱毛量などを独立変数とするロジスティック回帰分析を行ったところ、脱毛量が「非常に多い」こと(調整オッズ比〔aOR〕4.86〔1.21~19.53〕、P=0.026)と、不眠症状(AISが1高いごとにaOR1.26〔1.17~1.35〕、P<0.001)が、それぞれ独立した正の関連因子として抽出された。なお、経産婦であることは、有意な保護的因子として示された(aOR0.53〔0.36~0.80〕、P=0.002)。
著者らは本研究を、「育児中の女性における産後の抜け毛とメンタルヘルスとの関連を示した初のエビデンスである」とした上で、「産後の脱毛量の多さは、GAD-2で評価した不安と独立した関連が認められる」と結論付けている。なお、脱毛を経験した女性がより積極的に回答した可能性があることによる選択バイアスの存在や、横断研究のため因果関係は不明といった限界点とともに、「産後の不安が強い女性ほど、脱毛量をより多く感じやすい可能性もある」との考察が加えられている。
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1月 15 2025 自傷行為に関する誤った認識が少なくない――日本人対象web調査
自傷行為に関する人々の認識を調査した結果が報告された。固定観念を持つ人が少なくないこと、自傷行為を行う人に適切に対応できる自信があると答えた人ほど、かえってその傾向が強いことなどが明らかにされている。お茶の水女子大学生活科学部心理学科の高橋哲氏らの研究であり、詳細は「PCN Reports」に11月5日掲載された。
青少年の6人に1人が自傷行為の経験を有するというデータがある。自傷行為自体は自殺を意図しない行為であり、用いられる方法や予期する結果や機能などの点で自殺と区別して考えられるものの、同時に、既往者はその後の人生で自殺を試みるリスクが高いとする報告があり早期の介入が重要とされる。しかし、自傷行為に関する誤った認識が人々の間で広くいきわたっているとされ、一例を挙げると、自傷行為は単に他者からの注目を集めたいがために行われるといったものがある。このような誤解は偏見を助長し、当事者がサポートを求める妨げとなる可能性がある。高橋氏らは、自傷行為に関する人々の認識を把握するとともにその認識に関連する要因を検討するため、webを用いた横断研究を実施した。
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解析対象者の主な特徴は、平均年齢が44.6±14.3歳、既婚者52.0%、子どもありが38.7%で、13.5%は家族や知人に自傷行為を繰り返している人がおり、5.3%は対人援助職(医師、看護師、教師、心理士、カウンセラーなど)としての勤務経験があり、9.1%は自傷行為を行う人がいたら適切に対応できる自信があると回答した。
14項目の誤解・信念への同意率は、21.0~68.7%の範囲だった。同意率が高い項目は、「自傷行為の経験を友人や知人に打ち明ける未成年者は非常に少ない(68.7%)」、「リストカットをはじめとする自傷行為は、自殺未遂の一形態である(68.3%)」、「自傷行為の大半はリストカットである(51.4%)」、「自傷行為は、精神疾患を患っている人の行為である(48.9%)」、「自傷行為はまわりの注目を集めるために行われる(40.8%)」などだった。
それぞれの誤解・信念を従属変数、性別、年齢層、および、家族や知人に自傷行為を繰り返している人の有無、対人援助職経験の有無、自傷行為を行う人への対応能力の自信の有無などを独立変数とするロジスティック回帰分析を施行。その結果、男性は「自傷行為は、めったにみられない現象である」への同意が女性より多く(調整オッズ比〔aOR〕1.45〔95%信頼区間1.17~1.79〕)、一方で女性は「自傷行為はもっぱら刺激を求めて行われる」(男性のaORが0.77〔同0.62~0.96〕)を含む複数の誤解・信念への同意が男性より多かった。
年齢層との関連を見ると、若年層は「自傷行為はもっぱら刺激を求めて行われる」と捉える傾向が認められた(20~29歳を基準として他の年齢層はaOR0.25~0.59で有意)。また、対人援助職経験を有することは、「自傷行為はまわりの注目を集めるために行われる」の同意と関連していた(aOR1.62〔1.07~2.46〕)。
このほか、自傷行為を行う人へ適切に対応する自信があると回答した人は、誤解にむしろ同意する傾向が強かった(14項目中10項目に関連)。この点について著者らは、自己能力の過大評価により複雑な現象を単純化して解釈しやすくなることなどが関与している可能性を指摘し、「偏った認識に基づく善意のサポートが当事者には逆効果になり得る」と注意を喚起。論文の結論は、「本研究により自傷行為の予防介入に関する新たな知見を得られた。自傷行為に関する固定観念を持つことや早急な解釈の一般化を避けること、および研究者からの正確な情報の発信が、この社会課題の解決と当事者のサポートに不可欠である」と述べられている。
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