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6月 02 2025 歯周病の進行が動脈硬化と相関か
歯周病は40歳以上の成人における歯の喪失の主な原因と考えられているが、2000年代の初頭からは他の全身疾患との関連性も報告されるようになった。今回、アテローム性動脈硬化と歯周病の進行が相関しているとする研究結果が報告された。研究は鹿児島大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学分野の玉木直文氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に4月18日掲載された。
アテローム性動脈硬化は血管疾患の主な原因の一つであり、複数のメタ解析により歯周病との関連が報告されている。長崎大学は2014年に、離島における集団ベースの前向きオープンコホート研究である長崎諸島研究(Nagasaki Islands Study;NaIS)を開始した。このコホート研究でも以前、動脈硬化が歯周病の進行に影響を与えるという仮説を立て、横断研究によりその関連性を調査していた。しかし、両者の経時的な関連性を明らかにする縦断研究はこれまで実施されていなかった。そこで著者らは、追跡調査を行い、動脈硬化と歯周病の関連性を検討する3年間のコホート研究を実施した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究は長崎県五島市で実施されたフィールド調査で口腔内検査を受けた40歳以上の成人597人のうち、ベースライン時の健康診断と3年後に実施された追跡健康診断の両方のデータ(潜在性動脈硬化症、潜在的交絡因子、口腔内検査)がそろっている222人を最終的な解析対象とした。潜在的なアテローム性動脈硬化の指標として、頸動脈内膜中膜厚(cIMT)が1mm以上、足関節上腕血圧比(ABI)が1.0未満、心臓足首血管指数(CAVI)が8以上の者を、高リスク者と定義した。歯周病の進行は、歯肉辺縁から歯周ポケット底部までのプロービング ポケット デプス(PPD)と、セメントエナメル境から歯周ポケット底部までのクリニカル アタッチメント レベル(CAL)を測定することで評価した。
ベースライン時における参加者の平均年齢は64.5±10.3歳であり、歯周病が進行した対象者58人(26.1%)が含まれた(進行群)。歯周病進行群と非進行群のベースライン時点での比較では、性別が男性であること、年齢が高いこと、現存歯数が少ないこと、PPDとCALが深いこと、喫煙者、高血圧、cIMTの厚さ、cIMTが1mm以上の者の割合、およびCAVIの値に有意な差が認められた。
3年間の追跡調査におけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)の変化を調べたところ、CAVIの値は歯周病進行群(P<0.001)、非進行群(P=0.007)でともに有意に増加していたが、CAVIが8以上の者の割合は進行群でのみ62.1%から81.0%へ有意に増加していた(P=0.024)。
次に、年齢と性別を調整した上で、多重ロジスティック回帰分析を実施し、アテローム性動脈硬化(前述の通りcIMT、ABI、CAVIによって定義)に対する歯周病進行のオッズ比(OR)を算出した。その結果、cIMTが1mm以上であった群は歯周病進行のORが有意に高かった(OR2.35、95%信頼区間〔CI〕:1.18, 4.70、P<0.05)。この有意傾向は、喫煙状況や高血圧などの追加の共変量を調整した後も維持された。
また、多重線形回帰分析により、ベースラインにおけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)とPPDおよびCALの変化との相関を検証した。年齢および性別で調整した結果、CAVIはCALの変化と正の相関(β=0.046、95%CI:0.008, 0.083、P=0.017)を示し、ABIはPPDの変化と負の相関(β=-0.667、95%CI:-1.237, -0.097、P=0.022)を示した。この有意傾向は、すべての共変量を調整した後も維持された。
本研究の結果について著者らは、「本研究より、日本の地域在住の中高齢者において、歯周病の進行とアテローム性動脈硬化が有意に関連していることが示唆された。従って、潜在性のアテローム性動脈硬化を予防することで、歯周病の状態を改善できる可能性がある。」と述べている。
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6月 02 2025 AIは眼科医の緑内障診断に影響を与える
近年、人工知能(AI)による画像診断アルゴリズムは眼科疾患の診断精度を向上させているが、医師の判断に影響を及ぼし、バイアスを引き起こす可能性もある。今回、眼底写真に基づく緑内障診断において、AIの診断結果は医師の判断に影響を及ぼすという研究結果が報告された。特に、経験の浅い医師ほどAIの診断結果の影響を受けやすいことが示されたという。研究は、山梨大学医学部眼科学教室の柏木賢治氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に4月16日掲載された。
緑内障は自覚症状が少ない場合が多く、疾患による障害は不可逆的であるため、早期発見が極めて重要だ。近年、緑内障の診断においてAIが有用であることを示す研究報告が多数発表されている。しかし、AIの利用が拡大するにつれ、眼科医の診断がAIの結果に影響を受け、診断を誤ってしまう可能性も懸念される。実際、皮膚病変の診断においてAIが誤診した際、その診断に異議を唱える皮膚科医は少なかったとの報告がある。一方、緑内障に関しては、AIの診断が医師の判断に及ぼす影響について十分な検証が行われてこなかった。こういった背景を踏まえ、著者らは眼底写真を用いた緑内障の検出および重症度評価に対するAIの影響を検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、2021年1~6月の間に山梨大学医学部附属病院眼科を受診した40~70歳の患者の眼底写真が用いられた。画像は各30枚ずつ正常眼、軽度緑内障眼、中等度緑内障眼、重度緑内障眼の4つの重症度に振り分けられた。画像評価には45名の眼科専門医(臨床経験5年以上)および眼科研修医(臨床経験2年以内)が参加した。
45名の眼科医は、まず4つの重症度分類に属する画像(各分類30枚、計120枚)をランダムに提示され、その重症度を評価した。この試験より少なくとも1週間後に、2回目の試験を行った。2回目の試験では眼底画像の横に「AIによる診断結果」を追記し、同様に重症度の評価を行った。この「AIによる診断結果」には意図的に誤った情報が30%含まれた。群間比較の有意水準はP<0.05とした。
全参加者の1回目の試験の正答率は48.4±24.8%だったが、2回目の試験では59.6±20.3%となり、その正答率は大幅に改善された(P<0.001)。正答率の改善は、専門医(8.6±11.4%)よりも研修医(14.2±19.0%)で大幅に大きくなっていた(P=0.04)。
次に、「AIによる診断結果」の正誤別の正答率を比較した。全参加者のAI診断が正しかった場合の正答率(63.9±20.6%)は、誤っていた場合(47.9±26.6%)よりも大幅に高くなっていた(P<0.0001)。研修医と専門医に分けて比較したところ、研修医では、AI診断が正しかった場合の正答率(66.5±18.5%)は、誤っていた場合の正答率(41.5±18.5%)よりも大幅に高かった(P<0.0001)。一方専門医では、AI診断が正しかった場合と誤っていた場合の正答率の変化は研修医よりも軽度であった(62.3±22.4% vs 52.7±27.1%、P=0.017)。
また参加者の画像診断にかかる時間を調べたところ、参加者全体で1回目の試験(10.8±4.3秒)よりも2回目の試験(9.0±2.5秒)で有意に短縮されていた(P=0.0005)。この傾向は、専門医より研修医で顕著に認められた。AIが正答を示した場合(8.2±2.0秒)に比べて誤答を示した場合(9.7±2.7秒)の方が回答時間は有意に長かった(P=0.003)。
本研究の結果について著者らは、「今回の結果から、AIによる診断が眼科医の診断に影響を与える可能性が示唆された。AI診断の正誤に関わらず、研修医の診断にかかる時間は専門医よりも短かった。これは、研修医がAIの判断に頼りがちになることを示しているのかもしれない。医師は、AIの診断システムが完全ではないことを十分に理解したうえで、適切に活用することが重要である」と述べている。
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