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6月 30 2025 2型糖尿病のHbA1cコントロールにピアサポートアプリが有効か
糖尿病患者の血糖管理においてHbA1cは重要な指標となるが、今回、デジタルピアサポートアプリの活用により2型糖尿病患者のHbA1cが統計学的に有意に低下する可能性が示唆された。アプリ内のチャットを通じたコミュニケーションが患者個人の意思決定や行動に影響を与えている可能性があるという。研究は北里大学大学院 医療系研究科の吉原翔太氏によるもので、詳細は「JMIR Formative Research」に5月20日掲載された。
HbA1cは過去2~3か月間の平均血糖値を反映し、糖尿病合併症のリスクを予測するためのゴールドスタンダードとされている。しかし、2型糖尿病患者にとっては、健康的な行動を自ら採用し維持することが困難な場合もあり、HbA1cの適切な管理が難しい患者も少なくない。ピアサポートは、共通の経験や課題を持つ個人同士が互いに支援し合うことと定義されており、2型糖尿病患者の健康的な行動を促進するための効果的な戦略となる可能性が示唆されている。デジタルヘルスの技術進歩により、ピアサポートもアプリ上で行うことが可能となりつつある。しかし、このようなアプリが2型糖尿病の管理に及ぼす影響については、十分な検討がなされていない。このような背景を踏まえ、著者らは2型糖尿病患者のHbA1cコントロールに対するデジタルピアサポートアプリの効果を検証するために、前向きの単群パイロット研究を実施した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究は、「TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業」の一環として、2021年12月から2022年6月にかけて実施された。解析対象は、スマートフォンを所有する、山梨県内の医療機関を受診した2型糖尿病患者とした。参加者は医師からデジタルピアサポートアプリ「みんチャレ」(エーテンラボ株式会社)を紹介され、アプリ内の糖尿病管理グループに登録した。介入期間は3ヵ月間とし、参加者は糖尿病の標準治療に加え、このアプリの使用を奨励された。このアプリは、参加者がチャット機能を通じて活動記録や懸念を共有し、相互の関与と励ましによってHbA1c値の改善を図ることを可能にした。主要評価項目は、ベースラインからのHbA1cの変化量とした。
本研究には、21名の参加者(年齢中央値56歳)が含まれ、うち13名(61.9%)が女性だった。3ヵ月間の介入の結果、参加者のHbA1cはベースラインの7.1(±0.6)%から6.9(±0.1)%へと有意に減少した(P<0.05、ウィルコクソンの符号順位検定)。同様に、体重も70.7(±12.7)kgから69.9(±12.4)kgに減少した(P<0.05、ウィルコクソンの符号順位検定)。血圧に関しては、128.2(±12.5)mmHgから126.0(±12.9)mmHgへとわずかに減少したものの、統計的に有意ではなかった。また、1日1時間以上の身体活動を行う参加者の割合は、23.5%から58.5%へと増加した(P<0.05、マクネマー検定)。
本研究について著者らは、「2型糖尿病の標準治療に加え、デジタルピアサポートアプリを使用することで健康的な行動が促進され、患者のHbA1c値が改善する可能性があることが示唆された。この結果は、リマインダーやチャット機能といったアプリの特定の機能に起因している可能性がある。チャットを通じたコミュニケーションは、個人の意思決定や行動に影響を与え、健全な行動を維持するためのオンラインコミュニティ内での行動規範形成に寄与している可能性もある」と述べている。
本研究の限界点については、サンプル数の少ない単群介入研究であったこと、主要評価項目にHbA1c値を採用したため、行動変化と検査値の間にタイムラグがあることなどを挙げている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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6月 30 2025 腹腔鏡下手術vs.ロボット支援下手術、直腸がんの術後転帰に差
直腸がんの手術では、狭い骨盤内での作業が必要となる。そのため、多関節アームやモーションスケーリング機能を備えたロボット支援下手術(RALS)を採用するメリットは大きい。今回、直腸がんにおけるRALSは、従来の腹腔鏡下手術(CLS)と比較して術後転帰が改善されるとする研究結果が報告された。出血量、術後C反応性蛋白(CRP)値、入院期間の点でCLSよりも有意な転帰の改善を示したという。研究は神戸大学大学院医学研究科外科学講座食道胃腸外科学分野の安藤正恭氏、松田武氏らによるもので、詳細は「Langenbeck’s archives of surgery」に5月21日掲載された。
直腸がんに対する低侵襲手術としてはCLSが導入されてきたが、骨盤の狭い患者や肥満の患者に対しては、直腸間膜の全切除や適切な環状切除マージンの確保が難しいケースがある。この課題を解決するためにRALSが確立された。しかし、過去に行われたCLSとRALSの比較を目的とした複数のランダム化比較試験では、短期的な転帰について一貫した結果が得られていない。そのため、RALSの安全性と実行可能性には、なお議論の余地があることが示唆されている。このような背景を踏まえ、著者らは直腸がんに対するRALSの安全性と実行可能性をCLSと比較するため、過去にCLSまたはRALSを受けた患者を対象に後ろ向き研究を実施した。
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本研究では、リンパ節郭清、多発がん、データ欠損などの理由で症例を除外した結果、CLS群は313名、RALS群は75名が解析対象となった。PSM後、最終的にCLS群とRALS群でそれぞれ140名と70名がマッチングされた。両群間の患者および腫瘍特性は均衡しており、受けた手術の割合(前方切除またはハルトマン手術)も同程度であった。CLS群と比較すると、RALS群では手術時間の中央値が延長されたものの、出血量の中央値は有意に少なかった(P<0.001)。
術後の短期転帰の解析において、RALS群のCRP値の中央値はCLS群と比較して、術後1日目(4.00 vs. 5.24mg/dL、P<0.001)および術後3日目(5.49 vs. 7.08mg/dL、P=0.006)で有意に低下していた。術後入院期間の中央値は、RALS群で12.5日、CLS群で15.0日であり、RALS群では有意に短縮されていた(P=0.006)。また、グレード1以上の合併症(Clavien-Dindo分類)の発生頻度は両群間で有意な差は認められなかった。
中期転帰の解析において、CSS、RFS、LRRのいずれのKaplan-Meier曲線でも、統計的に有意な群間差は認められなかった。
本研究について著者らは、「RALS群の手術時間の延長は、初期導入の学習期間が含まれていた点を考慮する必要があるが、CLS群と比較して手術時の出血量と術後のCRP値の減少、術後入院期間の短縮というベネフィットが認められた。また、中期的な腫瘍学的転帰もCLS群と同様に良好であった。今後は、大規模かつ長期にわたる研究が必要だが、今回の知見は、直腸がんに対するRALSの実行可能性と安全性を支持するものと考える」と述べている。
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