• 出所受刑者の再犯率と一般市民の認識に乖離

     法務省では、広く国民に再犯防止についての関心と理解を深めてもらうため、毎年7月を「再犯防止啓発月間」として定めている。再犯の背景には孤立・貧困・障害・高齢・依存症などの「生きづらさ」があることが多いとされる。新たな被害者を生まないためにも社会全体での理解と支援が不可欠とされているところ、今回、日本人の一般市民の認識と実際の再犯率との間に大きな乖離があるとする研究結果が報告された。この乖離は、性犯罪、強盗、薬物犯罪で顕著だったという。研究はお茶の水女子大学コンピテンシー育成開発研究所/生活科学部心理学科の高橋哲氏によるもので、詳細は「International Journal of Offender Therapy and Comparative Criminology」に6月20日掲載された。

     法務省は、刑務所を出所した受刑者が一定期間内に再び犯罪を犯し再収監された割合(再入率)で再犯を集計している。2019年に刑期を終えて出所した約2万人の元受刑者の追跡調査では、5年以内の再入率は34.1%だった。2022年に出所した元受刑者では、2年以内の再入率は男性13.2%、女性10.8%で、高齢者ほど高い傾向が見られた。犯罪を行った者の社会復帰には地域住民の支援が不可欠であるが、誤った認識が更生支援に悪影響を与えることがある。再犯率を過大評価すれば厳罰化が進み、かえって更生を妨げる可能性がある。一方、過小評価は安全対策の欠如を招きかねない。こうした背景から高橋氏は、日本において一般市民が推定する再犯率の値と公式統計の値の乖離を明らかにするため、ウェブ調査を実施した。

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     オンライン調査会社によって実施された本調査は、登録モニターから男女200人ずつ計400人を,20~60歳代の年齢層別に均等になるよう抽出し実施された。また、質問に対して十分な注意を払っていない回答者を除外するための設問も含まれていた。調査では、参加者に7種の犯罪(殺人、強盗、放火、覚せい剤取締法違反〔薬物犯罪〕、強制性交・強制わいせつ致傷〔性犯罪〕、傷害・暴行〔暴力犯罪〕、窃盗〔財産犯罪〕)および犯罪全般の再犯率を推定させた。その際、犯罪白書の再入率の定義と同一になるよう平易に書き下し、公式統計の定義に則り、再犯は必ずしも同一罪名に限定されるものではなく、また、未遂事案も含まれることを明示して回答を求めた。推定再犯率は性別・年齢層別に算出され、令和5年版『犯罪白書』(法務省、2023)の出所受刑者の5年以内再入率の値と比較された。推定値は平均と95%信頼区間(CI)で示され、CIに公式値が含まれない場合は「乖離している」と判断した。

     最終的に381人(平均年齢44.85±13.83歳)から有効な回答を得た。性別ごとの調査結果では、男女ともに7種類の犯罪すべてにおいて参加者の推定再犯率が公式統計を上回った。特に性犯罪、強盗、薬物犯罪で乖離が顕著で、それぞれ27.35、23.11、18.54パーセントポイントの差が認められた(全体集団との比較)。年齢層別に見ると、40代・50代の推定再犯率は全般的に公式統計を上回った。特に50代における性犯罪の推定再犯率が54.62%と高く、公式統計の21.0%と比べて33.64パーセントポイントの大きな乖離が認められた。

     性別および年齢層を独立変数とする二要因分散分析の結果、いずれの犯罪においても、推定再犯率に性別による有意な影響は認められなかった。一方、年齢層は薬物犯罪の推定再犯率に有意な影響を与えていた(F〔4,371〕=3.13、P=0.015、η²=0.033)。事後検定の結果、40代の推定再犯率は20代と比較して有意に高いことが明らかになった。

     また、分散分析の結果、放火、暴力犯罪、財産犯罪の推定再犯率には、性別と年齢の交互作用が認められた。特に40代男性は、同年代の女性や30代男性と比べて、放火の再犯率を高く見積もる傾向があった。暴力犯罪や財産犯罪においても、40代男性は同年代の女性や20代男性より再犯率を高く見積もる傾向があり、複数の犯罪にわたって再犯率を過大評価する傾向が40代男性に認められた。

     本研究について高橋氏は、「本研究は、日本においても犯罪種別を問わず再犯率が過大推定される傾向があることを示した。特に性犯罪での過大推定が顕著で、中年男性が特定犯罪の再犯率を高く見積もる傾向があった。欧米の先行研究は再犯の定義が不明確であったり、比較対象となる公式統計が全国的には整備されていなかったりするなど方法論上の不備があるところ、本研究はそれらの結果を補うものであり、また、日本の文化的特徴を踏まえた貴重な知見を提供していると考える。元受刑者の円滑な社会復帰を促進させるためには、こうした認識のギャップを解消するためのさらなる研究が必要である」と述べている。

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    HealthDay News 2025年7月28日
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  • 重度irAE後のICI再治療、名大実臨床データが安全性と有効性を示唆

     免疫チェックポイント阻害剤(ICI)はがん治療に革命をもたらしたが、重度の免疫関連有害事象(irAE)を引き起こす可能性がある。今回、irAE発現後にICIによる再治療を行った患者でも、良好な安全性プロファイルと有効性が示されたとする研究結果が報告された。研究は、名古屋大学医学部附属病院化学療法部の水野和幸氏、同大学医学部附属病院消化器内科の伊藤隆徳氏らによるもので、詳細は「The Oncologist」に6月14日掲載された。

     抗CTLA-4抗体、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体を含むこれらのICIは、単剤または併用療法として患者の予後を大きく改善してきた。ICIは抑制性シグナル伝達経路を阻害することで抗腫瘍免疫応答を高める一方、重度のirAEを引き起こす可能性がある。irAEは一般的に内分泌腺、肝臓、消化管、皮膚などに発生する。グレード3以上の重度の非内分泌irAEに対しては、現行のガイドラインに基づき、ICIの一時的または恒久的な中止が推奨される。このため、重度のirAE発症後のICI再治療は、効果と再発リスクのバランスが課題となる。過去の報告ではirAE再発率は約30%とされているが、患者背景や重症度の詳細が不十分だった。既存のメタ解析も、研究間の異質性やイベント報告の不備が課題とされている。こうした背景から、著者らは重度のirAE後のICI再治療の安全性と有効性を明らかにすることを目的に、ICI再治療後のirAE発生と患者の転帰に焦点を当てた後ろ向き解析を実施した。

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     解析対象には、2014年9月~2023年6月までに名古屋大学病院で悪性腫瘍に対してICIによる治療を受けた患者1,271名が含まれた。PD-1/PD-L1阻害剤および/またはCTLA-4阻害剤を、単独療法または他の薬剤との併用療法として少なくとも1サイクル投与された患者を適格とした。CTCAE(Ver 5.0)に従い、グレード3以上のirAEを「重度」と定義した。連続変数はt検定またはMann-WhitneyのU検定、カテゴリ変数はカイ二乗検定またはFisherの正確確率検定を用いて、それぞれ群間比較を行った。

     解析対象1,271人のうち、重度のirAEは222人(17.5%)に発現した。これらのirAEには内分泌障害、肝毒性、皮膚炎などが含まれた。そこから単独の内分泌障害を有する患者60人が除外され、162人のうち46人(28.4%)がICIによる再治療を受けた。再治療後、14例(30.4%)でirAEの再発または新たなグレード2以上のirAEが発現した。初回ICI治療時に肝毒性(グレード3)を発現した1人でグレード4の再発が認められた。

     抗腫瘍効果については、ICI再治療を受けた46人の客観的奏効率は28.3%(13人)であり、完全奏効が10.9%(5人)、部分奏効が17.4%(8人)だった。病勢安定は30.4%(14人)、病勢進行は34.8%(16人)に認められた。再治療後のICI投与期間の中央値は218日(95%信頼区間〔CI〕84~399)であり、全生存期間および無増悪生存期間の中央値はそれぞれ665日(95%CI 443~929)、178日(95%CI 70~301)だった。

     競合リスクモデルによる再治療1年後の治療中止理由の内訳は、irAEが15.4%(95%CI 6.8〜27.4)、病勢進行が44.4%(95%CI 29.7〜58.1)、投与スケジュール完了が6.6%(95%CI 1.7〜16.3)だった。また、33.4%(95%CI 20.3~47.2)の患者でICI治療が継続された。

     本研究について著者らは、「本研究は、名古屋大学病院内の診療科の垣根を越えて実施され、重度のirAE後のICI再治療に関する重要な指針を示した。再治療は、グレード2以上のirAEの再発・新規発現リスクが30.4%ある一方で、客観的奏効率は28.3%と一定の有効性も確認された。本研究の知見は、臨床医がICI再治療の可否をより十分な情報に基づいて判断する一助となり、重度のirAEを経験したがん患者に対する治療機会の拡大につながる可能性がある」と述べている。

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    HealthDay News 2025年7月28日
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