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10月 20 2025 医療用麻薬の量が睡眠の質に関連か、非がん性慢性疼痛患者の新知見
オピオイド鎮痛薬(以下、オピオイド)はその多くが医療用麻薬に指定され、強い鎮痛作用を持つ。今回、がん以外の慢性的な痛みを抱える患者(非がん性慢性疼痛)において、オピオイドの使用量が睡眠の質と関連する可能性が示された。オピオイド未使用と比較して、高用量のオピオイド使用では総睡眠時間が短く、夜中に目が覚める時間が長い傾向がみられた一方、低用量のオピオイド使用では、睡眠の質が良好な傾向がみられたという。順天堂大学医学部麻酔科・ペインクリニック講座の池宮博子氏らによる研究で、詳細は9月8日付けで「Neuropsychopharmacology Reports」に掲載された。
非がん性慢性疼痛の治療においても医療用麻薬が用いられることがあるが、その使用には慎重な判断が求められる。特に、高用量を長期間使用することの有益性は限定的とされ、睡眠への影響についても様々な報告があり、専門家の間でも一定の見解は得られていない。睡眠は生活の質に大きく影響するため、臨床的意義は大きい。このような背景を踏まえ、著者らは非がん性慢性疼痛で強オピオイドを6か月以上の長期にわたり使用している患者の睡眠状態を明らかにするため、比較研究を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、順天堂大学医学部附属順天堂医院の麻酔科・ペインクリニックを定期受診している慢性の非がん性疼痛患者29人を対象とした。患者はオピオイドの使用状況に基づき、オピオイド未使用群(11人)、弱オピオイド使用群(8人)、強オピオイドを1日モルヒネ換算量60mg未満で使用する群(5人)、および60mg以上で使用する群(5人)の4群に振り分けられた。痛みの強度や不安・抑うつ(HADS)、痛みを悲観的に考える傾向(PCS)、ストレス(JPSS)などの心理状態を質問票で評価した。また、主観的な睡眠状態も質問票であるAISで評価した。そして、総睡眠時間、中途覚醒時間、睡眠効率などの客観的睡眠指標は、ウェアラブル機器を用いて7晩にわたり測定した。睡眠データは、オピオイド未使用群を基準群として線形混合効果モデルで解析した。モデル1は年齢、性別、痛みの強度、測定日で補正し、モデル2ではさらにPCS、HADS、JPSSを加えて補正した。
弱オピオイド使用群の患者は全員トラマドール塩酸塩を使用していた。強オピオイド群で1日60mg未満の患者はフェンタニル貼付剤またはモルヒネ塩酸塩を使用し、1日60mg以上の患者はフェンタニル貼付剤、オキシコドン塩酸塩、またはモルヒネ塩酸塩を使用していた。
解析の結果、モデル1では高用量群で総睡眠時間が短く(平均411 vs. 290分、P<0.001)、中途覚醒時間が長く(平均106 vs. 189分、P<0.01)、睡眠効率が低い(平均79.8 vs. 64.0%、P<0.001)ことが示された。モデル2でも同様の傾向は維持されたが、一部で統計的有意性がみられなかった。一方で、低用量群では、モデル2で中途覚醒時間が短く(平均121.4 vs. 47.6分、P<0.001)、睡眠効率が高い(平均77.1 vs. 88.8%、P<0.001)傾向がみられた。
主観的な不眠症状は、強オピオイド使用群の両群で認められ、とくに高用量群で顕著だった。
本研究について著者らは、「今回の結果は、非がん性慢性疼痛の患者さんで高用量の強オピオイドを使用する場合、睡眠への影響を評価する重要性を示している。一方、強オピオイド低用量群で見られた、睡眠効率が比較的高く、中途覚醒時間が短いという結果は、オピオイドの鎮痛効果と良好な睡眠を両立させるためには、慎重な用量調整が重要である可能性を示唆している」と述べている。
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肺がんは初期の自覚症状が少ないからこそ、セルフチェックで早めにリスクを確かめておくことが大切です。セルフチェックリストを使って、肺がんにかかりやすい環境や生活習慣のチェック、症状のチェックをしていきましょう。
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10月 20 2025 がんサバイバーに潜む脳卒中リスク、年齢・高血圧・血液検査値がカギ
がんと診断された人(がんサバイバー)は、そうでない人と比較して脳卒中を発症するリスクが高いことが報告されている。今回、大阪大学の大規模研究で、がんサバイバーにおける脳梗塞の発症率とそのリスク因子が明らかになった。年齢以外に血圧や血液の数値といった身近な健康指標が関わっているという。研究は大阪大学医学部4回生の寺田博昭氏、中村賢志氏、同大学大学院医学系研究科神経内科学講座の権泰史氏らによるもので、詳細は9月7日付けで「THROMBOSIS RESEARCH」に掲載された。
がんサバイバーは脳卒中のリスクが高く、治療中断や予後不良につながることが報告されている。一般人口と比べ脳卒中関連死亡は約2倍で、臨床上の大きな課題となっている。既存研究では、がんサバイバーにおけるがん診断後1年以内の脳梗塞累積発症率は0.9~4%程度と報告され、著者らが行った日本の大規模研究でも同様の傾向が示された。脳梗塞発症リスクは男性や進行がん、心房細動、高血圧などで高く、脳転移も一因となる可能性がある。がんサバイバーの予後改善に伴い動脈血栓塞栓症への関心が高まっており、さらなる疫学的データの蓄積が求められている。こうした背景を踏まえ、著者らはがんサバイバーにおける脳梗塞の発症率を調査し、この集団におけるリスク因子を特定することを目的とした、後ろ向きの単施設観察研究を実施した。
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最終的な解析対象は3万5,862人(年齢中央値 65歳、男性 50.3%)となった。最も多かったがん種は乳がん(10.3%)であり、ついで子宮がん(9.6%)、大腸がん(8.2%)などであった。追跡期間中、188人の患者が脳卒中を発症した。そのうち最も多かったのは脳梗塞で143人(76.1%)が発症し、次いで脳内出血が38例(20.2%)、くも膜下出血が7例(3.7%)であった。がん診断後1年間の脳梗塞累積発生率は0.42%であった。
次にFine and Grayの競合リスクモデルを用いて脳梗塞発症のリスク因子を分析した。多変量解析では、脳梗塞発症の独立したリスク因子として、高齢(調整後SHR 1.01、95%CI 1.00~1.03)、高血圧(1.59、95%CI 1.10~2.30)、脂質異常症(1.60、95%CI 1.09~2.36)、心房細動(2.42、95%CI 1.54~3.81)、進行がん(1.74、95%CI 1.12~2.70)が同定された。さらに、がん診断時の白血球数(≥11,000/μL:2.36、95%CI 1.35~4.14)および血小板数(≥350,000/μL:2.24、95%CI 1.05~4.79)の上昇も独立した予測因子であった。
本研究について著者らは、「今回の結果は、高齢、⾼血圧、脂質異常症、心房細動、進行がん、ならびに白血球数および血小板数の上昇が、がんサバイバーにおける脳梗塞の潜在的なリスク因子である可能性を示唆している。今後の研究では、増加するこの集団において高リスク者を特定し、脳梗塞発症を予測するツールの開発を目指すべきである」と述べている。
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肺がんは初期の自覚症状が少ないからこそ、セルフチェックで早めにリスクを確かめておくことが大切です。セルフチェックリストを使って、肺がんにかかりやすい環境や生活習慣のチェック、症状のチェックをしていきましょう。