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12月 02 2025 健康診断から見える、糖尿病予測の未来
糖尿病は日本人の主要な生活習慣病である一方、予防可能な側面も大きく、発症リスクの理解と適切な介入の実現が課題である。この課題に対し、静岡県の国民健康保険データベースを用いて、健康診断データから2型糖尿病発症リスクを予測する新たなモデルが開発された。Cox比例ハザードモデルを基礎に構築した予測スコアは、検証データセットで良好な識別能を示したという。研究は静岡県立総合病院消化器内科の佐藤辰宣氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏、静岡社会健康医学大学院大学の臼井健氏らによるもので、詳細は10月30日付で「Scientific Reports」に掲載された。
日本では13人に1人程度が2型糖尿病と診断されているが、生活習慣改善や早期介入が発症リスクの低減に寄与し得ることが指摘されている。地域コホートや各種健康診断制度によって大規模な一般住民データが得られている一方、既存の予測モデルは病院データや職域健診を基盤とするものが多く、一般住民の健診データを活用したモデルは十分に整備されていない。このような背景を踏まえ、本研究では一般住民の健診データを用い、発症までの期間や打ち切り症例を考慮したCox比例ハザードモデルで2型糖尿病発症を予測するモデルを開発・検証した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、登録者数250万人以上を有する静岡国保データベース(SKDB)の2023年度版データ(2012年4月1日~2021年9月30日)を用いて解析を行った。解析対象は、ベースラインの健康診断時点で2型糖尿病(またはHbA1c値6.5%以上)やがんの既往がなく、年1回の健康診断歴を有する40歳以上の成人46万3,248人とした。対象者は2:1の比率で、モデル構築用(30万8,832人)と検証用(15万4,416人)に無作為に分割した。まずモデル構築用コホートにおいて、年齢、性別、BMI、血圧、健診で測定可能な各種血液検査値、喫煙・飲酒・運動習慣などの健康情報を用いてCox比例ハザードモデルにより糖尿病発症に関連する要因を解析し、予測モデルを構築した。続いて、その予測性能を検証コホートにおいてHarrellのc指数を用いて評価した。
モデル構築用データセットでは、中央値5.17年の観察期間中に5万2,152人(16.9%)が2型糖尿病と診断された。このデータセットにおいて、2型糖尿病発症に対する単変量および多変量Cox比例ハザード回帰解析を行った結果、高齢、男性、体格や血圧などの臨床指標、各種血液検査値や肝腎機能の異常、尿蛋白の存在、高血圧・脂質異常症に対する薬物使用、ならびに生活習慣(運動不足や過度の飲酒)が、いずれも発症リスクの上昇と関連していた。次いで、その結果をもとに、2型糖尿病発症を予測するスコアリングモデルを開発した。このモデルではスコアが高いほど発症リスクが高く、モデル構築用データセットではC指数0.652、検証用データセットではC指数0.656と、個人のリスクを良好な識別能をもって判別できることが示された。スコアごとの3年間での累積発症率は、スコア0.5未満で3.0%、スコア2.5以上では32.4%と大きく差があり、健診結果から算出される本スコアを用いることで個人を低リスクから高リスクまで明確に層別化できることが示された。これらの結果は検証用データセットでも同様に確認できた。
著者らは、「今回作成した予測スコアリングモデルは、検証用データセットで良好な識別能を示し、将来的な糖尿病発症リスクの層別化に応用可能である。また、本モデルは日常的に収集される健康診断の変数のみを使用しているため、識別能はやや低下する可能性があるが、実用性は高い」と述べている。さらに今後の展開として、「糖尿病患者では膵臓がんの発症リスクが高いことが報告されている。今後は、糖尿病発症の予防が膵臓がんの発症抑制につながるかといったテーマにも取り組む予定である」としている。
なお本研究の限界については、データベースには静岡県の住民のみが含まれ、一般化には限界があること、参加者を40歳以上に限定しているため若年層への適用が難しいことなどを挙げている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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12月 02 2025 ロボット支援直腸がん手術、国内リアルワールドデータが示す新たな標準治療の可能性
国内約1.8万人分のリアルワールドデータを解析した多施設後ろ向きコホート研究により、進行直腸がんに対するロボット支援手術が、開腹および腹腔鏡手術と比較して短期・長期の両成績で有意に優れていることが示された。5年全生存率はロボット支援手術で94%と最も高く、術後合併症の発症率や総入院費用も最小であったという。研究は東京科学大学消化管外科学分野の花岡まりえ氏、絹笠祐介氏らによるもので、詳細は10月28日付で「Colorectal Disease」に掲載された。
従来の腹腔鏡手術(LRR)は直腸がん治療に有効であるが、長期的な腫瘍学的成績は開腹手術(ORR)と同等で、直腸膜間全切除(TME)が不完全になるリスクがあることが報告されている。ロボット支援手術(RARR)は低侵襲なアプローチとして短期成績に優れるとされる一方、長期成績のデータは限られている。そこで本研究では、国内大規模リアルワールドデータを用いて、進行直腸がん患者に対するORR、LRR、RARRの短期・長期成績を比較することを目的とした。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、国内の大規模診療データベース(メディカル・データ・ビジョン株式会社保有)を用い、2018年4月~2024年6月に直腸切除術を受けた3万7,191人のうち、cT3またはcT4aの患者1万7,793人を解析した。ベースラインのバランスを調整するためオーバーラップ重み付けを行い、有効サンプルサイズは1万4,627人となった。主要評価項目は5年全生存率(OS)および無再発生存率(RFS)で、副次評価項目には周術期成績を設定した。データの分布に応じて、Welchのt検定、Mann–WhitneyのU検定、カイ二乗検定、Fisherの正確確率検定を適用した。生存アウトカム(OSおよびRFS)については、オーバーラップ重み付けを用いてKaplan–Meier曲線を作成し、log-rank検定を行った。
オーバーラップ重み付け後の患者数の内訳は、RARR群で2,247人、LRR群で1万339人、ORR群で2,041人であった。平均年齢は70歳で、男性が66%を占めた。
短期成績では、RARR群は術後合併症の発生率が最も低かった(RARR:16.54%、LRR:19.95%、ORR:29.68%、P<0.001)。また、入院期間も最も短く(RARR:15.69日、LRR:18.87日、ORR:25.38日、P<0.001)、入院から退院までの総医療費も最も低かった(RARR:184万9,029円、LRR:193万4,626円、ORR:201万2,968円、P<0.001)。さらに、90日死亡率もRARR群で有意に低かった(RARR:0.23%、LRR:0.70%、ORR:1.21%、P<0.001)。
5年OSはRARR群で最も高く(94%、95%信頼区間91~97%)、次いでLRR群(86%、同85~88%)、ORR群(78%、同75~81%)の順であった。また、5年RFSもRARR群で最も高く(93%、同91~95%、)、次いでLRR群(83%、同81~84%)、ORR群(74%、同71~77%)の順であり、OSおよびRFSの両方でRARR群が他の2群に比べてそれぞれ良好であった(P<0.001)。これにより、RARR群が一貫して最良の転帰を示すことが示された。
OS不良と関連する因子を多変量Cox回帰分析で検討したところ、TNM分類以外の項目では、ORR(ハザード比〔HR〕4.69 、95%信頼区間3.42~6.43)、LRR(HR 2.50、同1.85~3.37)、男性(HR 1.35、同1.31~1.81)、腹会陰式直腸切断術(APR;HR 1.57、同1.33~1.86)、大学病院以外での手術(HR 3.53、同2.37~5.24)などが同定された(P<0.001)。一方でRARRはLRR,ORRと比べてOSの有意な予後良好因子として同定された。
著者らは、「本研究は進行直腸がんに対して大規模なリアルワールドデータを用いて、RARRの短期・長期アウトカムを評価した初めての研究である。今回の結果は、ロボット支援手術がこの領域における新たな標準治療となり得ることを支持している」と述べている。
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