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12月 15 2025 新しい糖尿病治療薬、高コストも合併症リスクは従来薬と変わらず
2型糖尿病の治療では、血糖コントロールと合併症予防のために経口薬が用いられる。比較的新しく登場したSGLT2阻害薬は近年広く使われるようになったが、最新の日本の大規模データを用いた研究で、初期治療においてSGLT2阻害薬は従来のビグアナイド系薬剤(メトホルミン塩酸塩やブホルミン塩酸塩)と比べて、心血管イベントや糖尿病合併症の抑制効果に明確な差がないことが示された。一方で、薬剤費は約50%高く、臨床現場での薬剤選択や医療費の観点から重要な知見となる。研究は、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏、静岡社会健康医学大学院大学の菅原照氏らによるもので、詳細は11月6日付で「PLOS One」に掲載された。
世界では2型糖尿病が急増しており、合併症である心血管・脳血管イベントが死亡と医療費の大部分を占める。このため、初期治療でどの薬を選ぶかは臨床的にも経済的にも重要となる。従来は安価で安全性が高いメトホルミンが第一選択とされてきたが、近年はSGLT2阻害薬が心血管死や心不全、腎機能悪化を減らすことが示され、早期使用が推奨されつつある。ただ、実臨床研究では両者の効果差は一貫せず、日本からのデータは特に乏しい。過去の国内研究では高価な薬剤を初期に用いても合併症は減らず医療費のみ増える可能性が示唆されたが、ビグアナイド系薬剤とSGLT2阻害薬の直接比較は行われていない。そこで本研究は、日本人2型糖尿病患者を対象に、主要心血管イベントを含む長期アウトカムと薬剤の費用差を後ろ向きに検証した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、登録者数250万人以上を有する静岡国保データベース(SKDB)の2023年度版データ(2012年4月1日~2021年9月30日)を用いて解析を行った。解析対象は、ビグアナイド系薬剤またはSGLT2阻害薬のいずれかを初期治療として開始した患者とした。開始後12か月間はもう一方の薬を使用せず、他の血糖降下薬の併用は許容した。追跡は治療開始時点から開始し、12か月以内に比較薬を使用した患者は除外された。人口統計、臨床、検査、生活習慣の変数に基づき1対1の傾向スコアマッチングを行った後、Cause-specific Coxモデルを用いてハザード比(HR)を推定した。また、1日あたりの薬剤費も比較した。主要アウトカムは、開始日から脳血管イベント、心血管イベント、または全死亡を含む複合エンドポイントの初発までの期間とした。副次アウトカムは、開始日から糖尿病関連合併症(糖尿病性腎症、腎不全、糖尿病性網膜症、糖尿病性末梢神経障害)の初発までの期間と設定した。
傾向スコアマッチング後のコホートは、ビグアナイド単剤群623名とSGLT2阻害薬群623名で構成され、追跡期間の中央値は2.9年(最長7.2年)であった。追跡期間中に主要アウトカムのイベントを起こしたのは、ビグアナイド単剤群44名(7.1%)、SGLT2阻害薬群35名(5.6%)であり、治療群間で統計的な有意差は認められなかった(log-rank検定、P=0.314)。さらに、Cox比例ハザードモデルによる解析では、ビグアナイド単剤群とSGLT2阻害薬群のHRは0.80(95%信頼区間〔CI〕 0.51~1.24)であり、リスクはほぼ同等であることが示された。
糖尿病合併症は、ビグアナイド単剤群で86名(13.8%)、SGLT2阻害薬群で78名(12.5%)に発症し、こちらも治療群間で有意な差は認められなかった(Gray検定、P=0.343)。HRは0.88(95%CI 0.70~1.13)であり、ほぼ同等のリスクを示した。
1日あたりの薬剤費の中央値を比較したところ、ビグアナイド治療は124.7円、SGLT2阻害薬治療では184.0円であり、ウィルコクソン順位和検定の結果、この差は統計的に有意であることが示された(P<0.001)。
著者らは、「今回得られた知見は、SGLT2阻害薬を初回の血糖降下薬としてルーチンに使用することの臨床的および経済的意義に疑問を投げかける。今回の費用差は個々の患者レベルでは小さく見えるかもしれないが、長期にわたり多くの患者が服用する場合には、総医療費として財政に大きな影響を及ぼす可能性がある」と述べている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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12月 15 2025 健康診断の新視点、筋肉量指標で高血圧リスクを見える化
従来のBMIでは筋肉量と脂肪量の違いを反映できないという問題がある。今回、男性の除脂肪体重指数(LBMI)を用い、低LBMIが高血圧リスクの増加と関連するという研究結果が報告された。BMIだけでは捉えられないリスク評価の重要性を提示している。研究は、慶應義塾大学医学部内科学教室の畔上達彦氏、東京大学医学部附属病院循環器内科先進循環器病学講座の金子英弘氏らによるもので、詳細は11月10日付で「Hypertension Research」に掲載された。
高血圧は心血管疾患や慢性腎臓病の主要リスク因子であり、世界的に重要な公衆衛生課題となっている。肥満は高血圧リスクの主要因子とされるが、BMIでは脂肪量と除脂肪体重(筋肉量)を区別できず、正確なリスク評価には限界がある。除脂肪体重を正確に測定するには高コストの画像検査が必要だが、近年、身長・体重・ウエストなどから推定できる簡易LBMIが開発され、日常の健康診断データでも評価が可能になった。しかし、この簡易LBMIを用いた高血圧リスク評価はこれまで行われていない。本研究では、健康診断や医療請求データを用いて、男性のLBMIと高血圧発症リスクの関連を後ろ向きに解析した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、国民の行政保険請求データおよび年次健康診断記録を含むDeSCヘルスケア株式会社のデータベース(2014年4月~2022年11月)を用い、健康診断データが利用可能な男性98万5,521人を対象とした。主要評価項目である高血圧の発症は、診療報酬請求データに基づきICD-10コード(I10–I15)で同定した。リスク評価にはCox回帰モデルおよびスプラインモデルを用い、年齢や既往歴などの交絡因子で調整した。さらに、結果の頑健性を確認するため、層別解析および感度解析も実施した。
最終的な解析対象は、38万4,551人(年齢中央値51歳)であり、中央値1,393日の追跡期間中に4万312人(10.5%)が高血圧イベントを経験した。
まず、参加者のLBMIを四分位(Q1~Q4)に分類し、各群間で比較を行った。年齢、収縮期血圧および拡張期血圧、BMI、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒、身体活動を交絡因子として調整した多変量Cox回帰を用いて、LBMIと高血圧発症リスクの関連を評価した。その結果、LBMIが低い四分位に属するほど高血圧発症リスクが高く(ハザード比〔95%信頼区間〕:Q1, 1.20〔1.15~1.26〕;Q2, 1.06〔1.02~1.10〕;Q3, 1.03〔0.99~1.06〕;Q4, 1〔基準値〕)、制限付き三次スプライン回帰モデルでも、LBMIの低下に伴い高血圧リスクが上昇する傾向が確認された。
次に、年齢別(65歳未満または65歳以上)および非肥満者で層別化したサブグループ解析を行った。いずれの層別群においても、多変量Cox回帰の結果、LBMIが低いほど高血圧発症リスクが上昇する傾向が確認された。
さらに、主要解析結果の頑健性を確認する感度解析として、連鎖方程式による多重代入法で欠測値を補完し、50万5,696人を対象に解析を行った。この解析においても、LBMIが低い四分位(Q1)は高血圧発症の有意なリスク因子であった(同1.19〔1.14~1.24〕)。加えて、死亡を競合事象とした競合リスク解析においても、LBMIが低い四分位(Q1)で高血圧発症リスクの上昇が認められた(同1.23〔1.15~1.32〕)。
これらの層別解析および感度解析により、LBMIと高血圧発症リスクとの関連は解析手法や欠測値の扱いにかかわらず一貫して確認された。
本研究について著者らは、「男性においてLBMIが低いことは高血圧リスクの上昇と関連しており、除脂肪体重を指標とした管理の重要性が示唆された。今後は、その増加や維持がリスク低減につながるかどうかの検討が必要である」と述べている。
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肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。