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12月 22 2025 降圧治療後の血圧管理に地域差、医療専門職の偏在が背景か
高血圧は脳心血管疾患の最大のリスク因子であり、治療によりそのリスクを低減できる。しかし、今回、全国の健診データを解析した結果、高血圧の降圧治療を受けた患者でも血圧管理の達成割合には都道府県間で地域差があることが分かった。その背景には、医師や薬剤師といった医療専門職の地域偏在が影響している可能性が示唆されたという。研究は東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の岩部悠太郎氏、佐藤倫広氏、目時弘仁氏らによるもので、詳細は11月18日付で「Hypertension Research」に掲載された。
日本国内の高血圧人口は、潜在患者を含め約4300万人と推定される。降圧治療で血圧管理は可能だが、依然として目標値に達していない患者が多い。この治療ギャップは医師が目標超過でも治療を強化しない「臨床イナーシャ(clinical inertia)」が一因とされる。治療開始前の血圧や地域ごとの医療資源の偏在も血圧の管理達成割合に影響する可能性がある。「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では全年齢で推奨する降圧目標を130/80mmHg未満としており、実態把握の重要性が高まっている。しかしながら、降圧治療後の血圧管理に地域差がどれほどあるのか、また医療資源との関連は十分に調べられていなかった。そこで本研究では、全国健康保険協会(協会けんぽ)の健診データを用い、治療前後の血圧変化と地域差を詳細に検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、協会けんぽデータベースを用い、2015年4月1日~2023年3月31日までに収集された健診データを用いた。対象は、継続的な健康診断に基づき降圧治療を開始した40~74歳までの131万8,437人とした。治療後の血圧管理達成割合(収縮期/拡張期血圧が130/80mmHg未満と定義)については、都道府県ごとの差を評価した。さらに、都道府県単位の生態学的分析により、調整後の血圧管理達成率と脳血管疾患の死亡率、そして医師偏在指標(人口10万人あたりの医師数)を含む6つの医療資源指標との関連を検討した。
治療開始前の患者の平均年齢は55.2歳で、71.1%が男性だった。血圧管理の達成率は全国平均でわずか26.7%にとどまった。この達成率は都道府県間で最大10.2%の差があった。患者の性別、年齢、BMI、健康診断の検査値、高血圧治療ガイドライン2019改訂前後、治療前健診時収縮期血圧値などで調整したが、依然として最大7.4%の血圧管理達成割合の地域差が認められた。
次に、患者特性で調整した都道府県ごとの血圧管理達成割合を指標として、生態学的分析を行った。その結果、男女ともに血圧管理達成割合が高い都道府県ほど、年齢調整後の脳血管死亡率が低い傾向にあった。血圧管理達成割合が1%増加するごとに、年齢調整死亡率は男女ともに人口10万人当たり3.5人減少することが示唆された。
さらに、医療資源との関連を重回帰分析で検討した。説明変数には、医師偏在指標、外来での24時間自由行動下血圧測定の算定回数、1日平均外来患者数、各都道府県の保険料率、特定健診受診率、病院病床数などを用いた。その結果、血圧管理達成割合と有意に関連していたのは医師偏在指標のみだった(P=0.0015)。医師偏在指標を病院薬剤師偏在指標に置き換えても、同様の結果が得られた(P=0.0023)。
著者らは、「本研究で観察された血圧管理の地域差は、医師や病院薬剤師などの医療従事者の地域偏在と関連する可能性が示された。高血圧を専門とする医師による管理が目標達成に結び付くことが報告されている一方で、診療の大半を担う一般医のもとでいかに血圧コントロールを改善できるかが重要である」と述べている。
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12月 22 2025 拡張型心筋症患者に対する早期心リハの有用性、傾向スコアマッチングを用いた全国規模解析
拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM)は、心臓の筋肉が弱まり、心臓が拡張して十分に血液を送り出せなくなる病気で、心不全の主要な原因の一つとされる。このDCM患者に対し、入院早期から心臓リハビリテーション(心リハ)を開始すると、90日死亡率が有意に低下することが、日本の全国入院データベースを用いた研究で明らかになった。解析では、早期に心リハを始めた患者群では早期から心リハを受けなかった群と比べて90日以内の死亡リスクが低く、退院時の日常生活動作(ADL)もやや高値であったという。研究は大阪大学/奈良県立医科大学の安福祐一氏らによるもので、詳細は10月24日付で「Scientific Reports」に掲載された。
DCMは、心筋の収縮低下と左室拡張を特徴とし、一部の患者は慢性心不全や急性増悪を繰り返す進行性心筋疾患である。心リハは、機能回復や再入院予防を目的として行われる運動療法や生活指導などを含んだ包括的な治療プログラムであり、急性心不全患者への早期導入も行われている。しかし、DCM患者に対する早期心リハの有効性を検証した報告は限られており、十分なエビデンスは得られていない。本研究では、日本の全国入院データベースを用い、症候性心不全を呈するDCM患者における早期心リハ開始と90日以内の死亡率との関連について検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、2010年7月1日から2020年3月31日までのDPCデータベースから、DCMおよび心不全(NYHA心機能分類Ⅱ~Ⅳ度)と診断された患者を解析対象とした。患者は入院後3日以内に心リハを開始したかどうかに基づき、早期心リハ群と遅延または非心リハ群に分類した。主要評価項目は入院後90日以内の死亡率とし、副次評価項目は退院時のADLスコアと在院日数とした。欠測値は多重代入法を用いて統計的に補完し、患者背景や2015年度病床機能報告から取得した入院施設の医療機能の違い等を調整するため1対1の傾向スコアマッチングを行った。
本研究では、早期心リハ群3,130名および遅延または非心リハ群2万7,166名の計3万296名を適格患者と判定した。遅延または非心リハ群のうち7,340名(27%)が入院後3日目以降に心リハを受けていた。1対1の傾向スコアマッチングを行った結果、最終的に各群3,129名(計6,258名)が解析対象となった。
多重代入および傾向スコアマッチングの結果、入院後90日以内の死亡率は遅延または非心リハ群に比べて早期心リハ群で有意に低かった(オッズ比:0.70、95%信頼区間〔CI〕:0.53~0.93、P値=0.01)。また、早期心リハ群では退院時ADLスコアも若干高かった(平均差〔Average Treatment Effect on the Treated;ATT〕:0.43、95%CI:0.08~0.78、P値=0.02)が、在院日数には有意な差は認められなかった(ATT:−2.1日、95%CI:−4.7~0.5日、P値=0.11)。
著者らは、「今回の研究の意義は、これまで世界的にもエビデンスが乏しかったDCM患者に対する早期心リハの短期予後(90日以内の死亡率)に対する効果を明らかにした点にある。今後は、本研究で得られた結果の背景にある生理学的メカニズムや、特に有効であった心リハの具体的なプログラム、個々の患者属性の違いにより生じる心リハの効果の異質性等を解明し、より個別化された効果的な心リハプログラムを開発する必要がある」と述べた。
なお本研究の限界点として、DPCデータベースに含まれる指標の制約により、心エコーや生理学的検査等の交絡因子の調整が制限されたこと、心リハの具体的なプログラムの差異による影響の違いについて検討していないこと、詳細な身体・精神機能や入院中の有害事象に対する早期心リハの影響について検討していないこと等が挙げられる。
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心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。