抗菌薬の使用量と下水中の濃度からの推計値が一致

 下水中の抗菌薬の濃度から、各薬剤の使用実態を推測可能なことが分かった。大阪医科薬科大学薬学部の東剛志氏、国立国際医療研究センターの小泉龍士氏、松永展明氏、大曲貴夫氏らが、厚生労働省「環境中における薬剤耐性菌及び抗微生物剤の調査法等の確立のための研究」及び日本医療研究開発機構(AMED)「環境中の薬剤耐性菌のモニタリングによる院内感染リスクの早期探知と環境負荷軽減策の開発に係る研究」の一環として、同大学医学部、相愛大学人間発達学部、国立国際医療研究センターとの共同研究により行った成果であり、「Antibiotics」4月号に論文が掲載された。研究グループではこの技術を、抗菌薬による環境負荷の把握や薬剤耐性(AMR)対策に役立てられるのではないかと述べている。

 これまでにも、下水中から抗菌薬や薬剤耐性菌が検出されることが報告されている。下水中のそれらの濃度の高い状態が続いた場合、抗菌薬の環境への拡散により生態系に影響が及ぶことが懸念される。また、新たな薬剤耐性菌の出現リスクが高まる可能性も考えられる。その対策を確立する第一歩として、東氏らは下水中の抗菌薬の濃度を測定し、その値から各薬剤の使用実態の把握が可能かを検討した。

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 研究に使用した下水サンプルは、淀川水系に位置する下水を処理している施設から季節ごとに通年で採取した。検討した抗菌薬は、アンピシリン、クラリスロマイシン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン、テトラサイクリン、バンコマイシンなど国内の臨床現場で使用されている10種類。それらの下水中の濃度を測定した上で、製薬メーカーが公表している売上高、厚労省「薬事工業生産動態統計」に収載されている出荷量、および厚労省「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」の処方量という3種類の数値との関連を検討した。

 下水中から検出されたのは、検討した10種類の抗菌薬のうち7種類であり、濃度は11ng/L~4.3μg/Lの範囲だった。検出されなかった3種類の抗菌薬は、アンピシリン、セフジニル、セフポドキシムプロキセチルであり、全てβ-ラクタム系抗菌薬だった。著者らによると、β-ラクタム構造を持つ抗菌薬は環境中で分解されやすいことに起因している可能性が考えられるという。

 厚労省のデータから把握した各抗菌薬の出荷量と処方量は類似しており、有意差がなかった。また、出荷量、処方量ともに、下水中濃度からの推測使用値との比の対数値が1前後に集約し、これらはよく一致していた。10種類の抗菌薬の推測使用量と出荷量や処方量との間には、正の相関が見られた(出荷量とはr=0.72、処方量とはr=0.79)。

 ただし、製薬メーカーが公表している売上高は、厚労省データから把握した出荷量や処方量、および下水中濃度からの推測使用量に比べて全体的に低値だった。例えば、クラリスロマイシンは推測使用量の約5分の2、バンコマイシンは約10分の1、レボフロキサシンは約50分の1程度だった。これは、これら3剤が多数のメーカーから供給されており、製剤別売上高を公表していないメーカーが多いためと考えられるという。

 これらの結果を基に著者らは、「国内で一般的に用いられている抗菌薬の使用量を、下水中の抗菌薬の濃度から高い精度で推測できることが明らかになった。抗菌薬の過剰な使用が環境に影響を及ぼすことを示唆する研究報告が増えつつある現在、そのリスク評価や対策立案の際に、本手法が有用となり得るのではないか」と結論付けている。

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HealthDay News 2022年5月23日
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