• 逆流性食道炎の発症予測因子が明らかに――国内9施設での縦断的研究

     胃酸が逆流して食道に炎症が起きる「逆流性食道炎」の発症につながる因子が明らかになった。名古屋市立大学大学院医学研究科次世代医療開発学の神谷武氏らが行った縦断的デザインでの多施設共同症例対照研究の結果であり、詳細は「Journal of Neurogastroenterology and Motility」1月号に掲載された。

     逆流性食道炎(RE)は、生命予後に影響を及ぼす疾患ではないこともあり、長期的な追跡研究がほとんど行われていない。そのためこれまでのところ、横断研究からREの存在に関連する因子は示されているものの、発症予測因子は不明。そこで神谷氏らは、健診データを用いた後ろ向き症例対照研究により、この点を検討した。

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     国内9施設の2004~2014年度の健診受診者の中から、10年間で4回以上健診を受けていること、少なくとも1回は上部消化管内視鏡検査を受けていることなどを条件として適格データを抽出。このうちREと診断された時点で30歳以上であり、診断前の5年間に3回以上の健診受診歴があって、かつ診断前の2年間に上部消化管内視鏡検査を受けていた患者をRE群として設定。RE群の患者1人に対して、年齢と性別および受診医療機関がマッチする対照群として2人を選び、最終的にRE群2,066人、対照群4,132人のデータセットを作成した。

     この両群のベースライン時(RE群の患者がREと診断された時点)の健診データを比較すると、年齢(平均54歳)と性別(男性75.4%)は両群で一致していた。一方、BMI、腹囲長、空腹時血糖、収縮期血圧、中性脂肪、尿酸値はRE群の方が有意に高く、HDL(善玉)-コレステロールはRE群の方が有意に低かった。また、AST、ALT、γ-GTPはRE群の方が有意に高く、肝機能の低下が示唆された。HbA1cや拡張期血圧、LDL(悪玉)-コレステロールは有意差がなかった。

     生活習慣関連では、飲酒習慣のある人の割合は両群ともに約7割であり群間に有意差がなく、喫煙者率はRE群の方が有意に高かった。症状に関しては、喉の痛みなどの酸逆流症状を訴える割合はRE群11.6%、対照群4.7%、膨満感は8.5%、6.7%でRE群の方が有意に高かった。内視鏡所見では、食道裂肛ヘルニアが同順に23.4%、12.6%でRE群に多く、萎縮性胃炎は35.4%、41.8%で対照群に多く、いずれも群間差が有意だった。バレット食道の有病率は有意差がなかった。

     多変量ロジスティック回帰分析の結果、REの存在に独立して関連する因子として、BMI〔1kg/m2高いごとの調整オッズ比(aOR)1.05〕、ALT(10IU/L高いごとにaOR1.05)、現喫煙(aOR1.15)、酸逆流症状(aOR2.72)、食道裂肛ヘルニア(aOR2.32)が抽出された。反対に萎縮性胃炎(aOR0.66)とは、負の関連が示された。

     次に、RE群の患者がREと診断される前の5年間の健診データをさかのぼって比較。すると、BMI、腹囲長、中性脂肪、ALT、酸逆流症状は5年前時点から連続して群間の有意差が認められ、HDL-コレステロール、AST、γ-GTP、膨満感、食道裂肛ヘルニアは3~4年前から、空腹時血糖は1年前から有意差が生じていた。

     年齢層別(55歳未満/以上)のサブグループ解析からは、横断的解析および縦断的解析のいずれからも、若年者はRE発症に関連する因子の群間差がより大きい傾向が認められた。

     著者らは、「REの発症には生活習慣関連因子の影響が大きいことが明らかになった。REは生活習慣病と言え、健診受診者にはRE発症予防のための指導も必要とされる」とまとめている。また本研究からは、肝機能異常(ALT高値)がREに独立して関連することが明らかになった。これはこれまでの研究では示されていなかった点であり、「今後の研究で留意すべき」と述べている。

     このほか、本研究の解析対象者のうち、ピロリ菌検査が施行されていた人は少数だが、ピロリ菌感染によって有病率が上昇する萎縮性胃炎についてはRE群の方が有意に少なかった。ピロリ菌感染者は酸分泌が低下することが知られていることから、著者らは「ピロリ菌感染者の減少によってRE患者が増加している実態を示すものと言える」と考察している。

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    HealthDay News 2022年2月28日
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