• 62万人の解析で見えてきた、日本人のバレット食道リスクとは

     「バレット食道」は、胃酸などの逆流によって食道の粘膜が本来とは異なるタイプの細胞(円柱上皮)に置き換わる状態を指す。この状態は、将来的に食道腺がんの発生母地になることが知られている。今回、日本人約62万人の大規模データを解析した研究から、胃食道逆流症(GERD)や食道裂孔ヘルニアなどが、日本人におけるバレット食道のリスク因子である可能性が示された。研究は、静岡県立総合病院消化器内科の平田太陽氏、静岡社会健康医学大学院大学の菅原照氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏らによるもので、詳細は2月6日付で英科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

     近年、欧米を中心に食道腺がんの増加が報告されており、その主要な前段階とされるバレット食道への関心が高まっている。日本を含む東アジアでは、長い範囲に及ぶ長区域バレット食道(LSBE)や、それを背景とした食道腺がんは従来まれと考えられてきたが、近年は増加傾向が指摘されている。これまで、バレット食道のリスク因子として、高齢、男性、肥満、喫煙に加え、GERDや食道裂孔ヘルニアなどが報告されてきた一方、ヘリコバクター・ピロリ(以下ピロリ菌)感染は保護的に働く可能性も示唆されている。しかし、生活習慣やピロリ菌の疫学は欧米と日本で異なり、日本人集団における大規模な検証は限られていた。そこで本研究では、日本人一般集団62万人超のデータを用い、バレット食道の発症率とリスク因子を検討した。

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     健康保険請求データや健診情報などを統合した静岡県市町国保データベース(SKDB)を用い、後ろ向きコホート研究を実施した。対象は2012年4月~2021年9月に市町村国保へ加入し、12カ月以上の連続加入が確認され、バレット食道の既往がない個人とした。新規発症は保険請求データで定義し、年齢、性別、併存疾患、生活習慣、GERDや食道裂孔ヘルニア、ピロリ菌感染歴、プロトンポンプ阻害薬(PPI)やカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)、ならびにヒスタミン-2受容体拮抗薬(H2RA)などの酸分泌抑制薬の使用を調整した、時間の経過を考慮して発症リスクを評価する統計手法(Cox比例ハザードモデル)を用いて解析した。

     本研究の最終的な解析対象は62万125人となり、追跡期間の中央値は6.2年だった。観察期間中に1,577人がバレット食道と診断され、新規発症率は10万人年あたり46.4例だった。

     まず1つずつの因子との関連を検討し(単変量解析)、そのうえで複数の要因を同時に調整した解析(多変量解析)を行った。GERDと酸分泌抑制薬使用は互いに関連が強い(強力な酸分泌抑制薬であるPPI/P-CABはGERDの第一選択薬である)ため、両者を別々に含めた2つの解析モデルで検討した。その結果、年齢(50~79歳)、男性、末梢血管疾患、肝疾患、食道裂孔ヘルニア、ならびにGERDまたはPPI/P-CAB使用が一貫して発症リスクの上昇と関連していた。一方、ピロリ菌感染歴やH2RA使用については、モデルによって関連の有無が異なった。なお、酸分泌抑制薬使用やピロリ菌感染歴がリスク上昇と関連した点について著者らは、薬やピロリ菌そのものが直接リスクを高めると単純に解釈すべきではないとし、背景にあるGERDの重症度や、ピロリ菌除菌後の胃酸分泌の変化などが影響している可能性を指摘している。また、身体活動は単変量解析では関連したものの、多変量解析では有意差を示さなかった。

     著者らは、「バレット食道の発症リスク因子について、本研究においては肥満や喫煙、飲酒といった生活習慣因子は他の要因を調整すると明確な関連は認められず、GERDや食道裂孔ヘルニアなどの逆流関連因子の影響がより重要である可能性が示唆された」と述べている。これらの結果は、日本人における内視鏡サーベイランスの対象選択に新たな視点を与える可能性があるとしている。

     本研究での発症率(10万人年あたり46.4例)は、数値上は欧米の報告と同程度だが、診断基準の違いに注意が必要である。日本では、全長の短い短区域バレット食道(SSBE)が主流で、内視鏡医の判断で1cm未満の非常に短いものまで診断に含まれることがある。一方、欧米では一般に1cm以上の長さと組織検査による確認という厳格な基準が用いられる。そのため、発症率やリスク因子の単純な国際比較には慎重な解釈が求められる。

     なお、本研究の限界として、診断は保険請求データに基づいており、組織学的情報が含まれていない点や、短区域バレット食道(SSBE)と長区域バレット食道(LSBE)の区別ができない点、診断漏れの可能性などが挙げられる。また、家族歴や遺伝的素因といった臨床情報や、ピロリ菌感染状態(現在感染か除菌後かなど)を詳細に評価できていない点も限界である。さらに、本研究は観察データに基づくものであるため、因果関係を断定することはできない。

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    HealthDay News 2026年3月16日
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