ピロリ菌が重いつわりを長引かせる可能性、妊婦を対象とした研究から示唆
妊娠中の「つわり」は多くの人が経験する症状であるが、中には吐き気や嘔吐が重く、入院が必要になるケースもある。こうした重いつわり(悪阻)で入院した妊婦164人を解析したところ、ヘリコバクター・ピロリ菌(以下ピロリ菌)に対する抗体(IgG)が陽性である人は入院が長引く傾向があることが分かった。妊娠前や妊娠初期にピロリ菌のチェックを行うことで、対応を早められる可能性があるという。研究は、日本医科大学武蔵小杉病院女性診療科・産科の倉品隆平氏、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は10月6日付けで「Journal of Obstetrics and Gynaecology Research」に掲載された。
妊娠悪阻は妊娠の0.3〜2%にみられる重度のつわりで、持続する嘔吐や体重減少により入院を要することも多い。進行すると電解質異常や肝・腎機能障害、ビタミンB₁欠乏によるウェルニッケ脳症(意識障害やふらつきを伴う急性脳症)などを生じることがある。原因としてヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)や胎盤容積の大きさなどが知られるが、近年はピロリ菌感染との関連も指摘されている。しかし、日本人妊婦における感染と重症度や入院期間との関係は十分に検討されていない。本研究では、重度妊娠悪阻で入院した症例を対象に、入院時の各種指標とピロリ菌に対するIgG抗体の有無が入院期間に及ぼす影響を後ろ向きに検討した。

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本研究では、2011年1月~2023年6月までに日本医科大学付属病院または日本医科大学武蔵小杉病院で入院治療を要した重度妊娠悪阻患者164人が含まれた。患者はまず、抗H. pylori IgG抗体の有無(陽性群 vs 陰性群)に基づき2群に分けられた。その後、すべての患者を長期入院群(21日以上)と短期入院群(21日未満)に分類して、二次解析が行われた。統計手法には、マン・ホイットニーのU検定、t検定、フィッシャーの正確確率検定、ロジスティック回帰分析が適宜用いられた。
解析対象164人中、抗H. pylori IgG抗体陽性の患者は23人(14.0%)、陰性は141人(86.0%)であった。これら2群の入院期間を比較したところ、抗H. pylori IgG抗体陽性群の入院中央値(範囲)は24日(6〜70日)であり、陰性群の中央値15日(2〜80日)と比べて有意に長かった(P=0.032)。
次に長期入院群と短期入院群を比較したところ、長期入院群では尿ケトン体強陽性(3≦)の割合(P=0.036)や抗H. pylori IgG陽性の割合(P=0.022)が有意に高かった。入院時の検査所見を比較すると、長期入院群では血清遊離サイロキシン(FT4)値が有意に高かったが、その他の検査項目に有意差は認められなかった。
多変量ロジスティック回帰分析の結果、単変量解析で有意だった因子を調整後も、入院長期化の独立したリスク因子として確認されたのは抗H. pylori IgG陽性のみであった(オッズ比〔OR〕 4.665、95%信頼区間〔CI〕 1.613~13.489、P=0.004)。尿ケトン体強陽性は入院期間延長の傾向を示したが、統計的有意差は認められなかった(OR 2.169、95%CI 0.97~4.85、P=0.059)。一方、尿ケトン体強陽性の有無で患者を層別すると、陽性群の入院中央値は19日(4〜80日)、陰性群の12日(2〜55日)であり、有意に入院期間が延長されていた(P=0.001)。
著者らは「今回の研究結果から、抗H. pylori IgG抗体の検査で、重度の悪阻で入院が長引きやすい妊婦を特定できる可能性が示唆された。抗体陽性の妊婦は、入院中により注意深く観察されることで、体調管理の助けになると考えられる。また、妊娠前からの準備(プレコンセプションケア)が、悪阻の予防策として有効かもしれない」と述べている。
また、著者らは、妊娠前のピロリ菌スクリーニングや除菌の有効性については現時点では仮説にすぎず、本研究はその可能性を示すにとどまると説明している。今後は、ガイドラインや保険制度の見直しを含め、前向き研究で有効性や費用対効果を検証することが重要だとしている。
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