• 緑茶は脳を守る?12年間の追跡調査が示した認知症のリスク低下

     お茶は世界中で広く消費されている飲料であり、含まれるカテキンやポリフェノールにはさまざまな健康効果が報告されている。今回、新たに、緑茶の摂取量が多いほど認知症のリスクが低下することを示す研究結果が報告された。緑茶の摂取が1杯増加するごとに4.8%のリスク減少が示唆されたという。研究は新潟大学大学院医歯学総合研究科環境予防医学分野の中村和利氏らによるもので、詳細は「The Journal of Nutrition, Health and Aging」に6月24日掲載された。

     お茶には抗酸化作用や抗炎症作用に加え、様々な神経保護作用があることが報告されている。特に緑茶は紅茶の約4倍のカテキンを含み、認知症予防効果が期待される。最近のメタアナリシスでは、お茶の摂取量が多いほど認知症リスクが減少する線形の関連が示されたが、対象の多くは紅茶であり、緑茶に特化した研究は限られている。著者らは、2011年から実施している「村上コホート研究」の一環として8年間の追跡調査を行い、コーヒー摂取が認知症リスクと明確な逆相関を示すことを明らかにした。一方で、この調査では緑茶の摂取と認知症リスクとの関連や、緑茶とコーヒー摂取の相互作用については明らかにできなかった。そこで今回、中高年の日本人を対象に、緑茶摂取と認知症リスクの関連性、およびコーヒー摂取との相互作用を明らかにすることを目的として、村上コホート研究の12年間の追跡調査結果を解析した。

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     村上コホート研究では、新潟県の村上市、関川村、粟島浦村に在住の40~74歳の住民14,364人を対象とした。ベースライン調査は2011~2013年にかけて実施され、自記式のアンケート調査により、性別、年齢、BMI、既往歴などの情報を収集した。お茶(緑茶、紅茶、ウーロン茶)とコーヒーの摂取量に関しては、質問票を用いて1日あたりの摂取量を定量的に評価した。認知症の症例は介護保険データベースを用いて特定した。

     本研究の最終的な解析対象は13,660人(平均年齢59.0歳、男性48.1%)で、参加者の平均追跡期間は11.5年であった。緑茶の1日あたりの摂取量を四分位(94mL未満、94~299mL、300~599mL、600mL以上)に分類し、性別、年齢、既往歴などを調整して解析した結果、緑茶の摂取量が多いほど認知症のハザード比(HR)が低下する傾向が示された(多変量傾向P値=0.0178)。最低四分位を基準とした場合、最高四分位の多変量HRは0.75となり、認知症リスクの低下が認められた。緑茶の摂取量が1杯増加するごとに(1杯=150 mLと定義)、認知症の多変量HRは0.952(95%信頼区間0.92-0.99、傾向P値=0.0160)となった。この値は、緑茶を1杯多く飲むことで認知症リスクが約4.8%低下することを示している。

     また、緑茶とコーヒーの摂取量の組み合わせに基づき、摂取量が異なる9つのグループを作成して解析を行った。全体として、緑茶およびコーヒーの摂取量が増加するにつれて認知症のHRが低下する傾向が示された一方で、緑茶600mL/日以上かつコーヒー300mL/日以上という、それぞれの最高四分位の組み合わせにおいては、認知症リスクの低下との有意な関連は認められなかった(交互作用のP値=0.0210)。

     本研究について著者らは、「日本の中高年者において、緑茶の摂取量が多いほど認知症リスクの低下と関連しており、コーヒー摂取との相互作用も確認された。ただし、両方を過剰に摂取することは推奨されず、今後は緑茶摂取量の上限と認知症予防効果についての研究が求められる」と述べている。

     なお、本記事は『The Journal of Nutrition, Health and Aging 2025;29(8):100615』掲載論文(CC BY 4.0ライセンス)に基づいて作成された。

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    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2025年8月4日
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  • 硬膜外カテーテル、13%で位置ずれ? 経験豊富な医師でも注意が必要

     硬膜外麻酔時のカテーテル挿入には、高い技量と経験が要求される。しかし、今回、熟練の麻酔科によるカテーテル挿入でも、その先端が適切な位置に届いていないとする研究結果が報告された。カテーテル先端の位置異常が見られた症例では、担当麻酔科の経験年数が有意に長かったという。研究は富山大学医学部麻酔科学講座の松尾光浩氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に6月26日掲載された。

     硬膜外麻酔は高度な技術を要し、経験豊富な麻酔科医でも約3割の症例で鎮痛が不十分となる。成功率向上の鍵となるのがカテーテル先端の正確な挿入位置だが、その実際の到達部位を客観的に評価した報告は乏しい。本研究では、術後CT画像を用いてカテーテル先端の位置不良の頻度を明らかにするとともに、術者や患者の特性との関連を後ろ向きに検討した。

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     解析対象は、2005年1月1日~2022年12月31日までの間に、富山大学附属病院にて硬膜外麻酔を伴う全身麻酔が施行された1万1,559人とした。これらの患者のうち、手術当日を含む術後5日以内に胸部CTまたは腹部CTが撮影された患者を特定した。術後CT画像より、カテーテル先端が黄色靭帯を貫通していなかった場合を「位置異常」と定義した。群間比較にはχ²検定とMann-Whitney U検定を用い、カテーテル位置異常を従属変数、麻酔科医の卒後年数を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。

     最終的な解析対象は、術後の胸部または腹部CT画像で硬膜外カテーテルの挿入が確認された189人であった。患者の年齢中央値は71歳(範囲:15~89歳)、女性は全体の41%を占めた。すべての患者において、硬膜外カテーテルは左側臥位で傍正中アプローチにより挿入され、主な挿入部位は胸椎中部(48%)および胸椎下部(49%)であった。挿入を担当した医師の卒後経験年数の中央値は5.7年(2.0~35.4年)であった。

     硬膜外カテーテルの位置異常は24人で認められた(12.7%、95%信頼区間〔CI〕8.3~18.3)。これらの症例では、カテーテルの先端は椎骨(椎弓:9、肋横突起:2、棘突起:1)、浅層軟部組織(脊柱起立筋内:5、皮下:4)、深層軟部組織(椎間孔内:2、背側胸膜下腔:1)に確認された。

     正常なカテーテル位置群と位置異常群での特性の違いを調べたところ、患者の年齢やBMI、挿入部位による相違は認められなかったが、位置異常群の麻酔科医は卒後の経験年数が有意に長かった(中央値5.6年 vs. 10.1年、P=0.010)。ロジスティック回帰分析を用いて、カテーテルの位置異常と経験年数の相関を解析した結果、カテーテルの位置異常の発生率は麻酔科医の経験年数の増加に伴い有意に増加することが示された(卒後1年あたりのオッズ比1.08、95%CI 1.02~1.15)。

     本研究について著者らは、「術後CTで確認された硬膜外カテーテル先端の位置不良は全体の約13%に認められた。挿入を担当した麻酔科医の卒後年数が長いほど位置異常のリスクが高くなる傾向があり、経験豊富な医師であっても適切な挿入位置の確認が重要である」と述べている。

     なお、経験年数の増加に伴い、カテーテルの位置異常の発生率が上昇する理由としては、1)経験に伴う不注意や過信による一次的な位置異常、2)経験を積んだ麻酔科医が皮膚へのカテーテル固定に十分な注意を払わなくなり、結果として患者の体動により生じる二次的な位置異常、の2つの可能性が指摘されている。

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    HealthDay News 2025年8月4日
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