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12月 22 2025 降圧治療後の血圧管理に地域差、医療専門職の偏在が背景か
高血圧は脳心血管疾患の最大のリスク因子であり、治療によりそのリスクを低減できる。しかし、今回、全国の健診データを解析した結果、高血圧の降圧治療を受けた患者でも血圧管理の達成割合には都道府県間で地域差があることが分かった。その背景には、医師や薬剤師といった医療専門職の地域偏在が影響している可能性が示唆されたという。研究は東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の岩部悠太郎氏、佐藤倫広氏、目時弘仁氏らによるもので、詳細は11月18日付で「Hypertension Research」に掲載された。
日本国内の高血圧人口は、潜在患者を含め約4300万人と推定される。降圧治療で血圧管理は可能だが、依然として目標値に達していない患者が多い。この治療ギャップは医師が目標超過でも治療を強化しない「臨床イナーシャ(clinical inertia)」が一因とされる。治療開始前の血圧や地域ごとの医療資源の偏在も血圧の管理達成割合に影響する可能性がある。「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では全年齢で推奨する降圧目標を130/80mmHg未満としており、実態把握の重要性が高まっている。しかしながら、降圧治療後の血圧管理に地域差がどれほどあるのか、また医療資源との関連は十分に調べられていなかった。そこで本研究では、全国健康保険協会(協会けんぽ)の健診データを用い、治療前後の血圧変化と地域差を詳細に検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、協会けんぽデータベースを用い、2015年4月1日~2023年3月31日までに収集された健診データを用いた。対象は、継続的な健康診断に基づき降圧治療を開始した40~74歳までの131万8,437人とした。治療後の血圧管理達成割合(収縮期/拡張期血圧が130/80mmHg未満と定義)については、都道府県ごとの差を評価した。さらに、都道府県単位の生態学的分析により、調整後の血圧管理達成率と脳血管疾患の死亡率、そして医師偏在指標(人口10万人あたりの医師数)を含む6つの医療資源指標との関連を検討した。
治療開始前の患者の平均年齢は55.2歳で、71.1%が男性だった。血圧管理の達成率は全国平均でわずか26.7%にとどまった。この達成率は都道府県間で最大10.2%の差があった。患者の性別、年齢、BMI、健康診断の検査値、高血圧治療ガイドライン2019改訂前後、治療前健診時収縮期血圧値などで調整したが、依然として最大7.4%の血圧管理達成割合の地域差が認められた。
次に、患者特性で調整した都道府県ごとの血圧管理達成割合を指標として、生態学的分析を行った。その結果、男女ともに血圧管理達成割合が高い都道府県ほど、年齢調整後の脳血管死亡率が低い傾向にあった。血圧管理達成割合が1%増加するごとに、年齢調整死亡率は男女ともに人口10万人当たり3.5人減少することが示唆された。
さらに、医療資源との関連を重回帰分析で検討した。説明変数には、医師偏在指標、外来での24時間自由行動下血圧測定の算定回数、1日平均外来患者数、各都道府県の保険料率、特定健診受診率、病院病床数などを用いた。その結果、血圧管理達成割合と有意に関連していたのは医師偏在指標のみだった(P=0.0015)。医師偏在指標を病院薬剤師偏在指標に置き換えても、同様の結果が得られた(P=0.0023)。
著者らは、「本研究で観察された血圧管理の地域差は、医師や病院薬剤師などの医療従事者の地域偏在と関連する可能性が示された。高血圧を専門とする医師による管理が目標達成に結び付くことが報告されている一方で、診療の大半を担う一般医のもとでいかに血圧コントロールを改善できるかが重要である」と述べている。
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12月 22 2025 拡張型心筋症患者に対する早期心リハの有用性、傾向スコアマッチングを用いた全国規模解析
拡張型心筋症(dilated cardiomyopathy:DCM)は、心臓の筋肉が弱まり、心臓が拡張して十分に血液を送り出せなくなる病気で、心不全の主要な原因の一つとされる。このDCM患者に対し、入院早期から心臓リハビリテーション(心リハ)を開始すると、90日死亡率が有意に低下することが、日本の全国入院データベースを用いた研究で明らかになった。解析では、早期に心リハを始めた患者群では早期から心リハを受けなかった群と比べて90日以内の死亡リスクが低く、退院時の日常生活動作(ADL)もやや高値であったという。研究は大阪大学/奈良県立医科大学の安福祐一氏らによるもので、詳細は10月24日付で「Scientific Reports」に掲載された。
DCMは、心筋の収縮低下と左室拡張を特徴とし、一部の患者は慢性心不全や急性増悪を繰り返す進行性心筋疾患である。心リハは、機能回復や再入院予防を目的として行われる運動療法や生活指導などを含んだ包括的な治療プログラムであり、急性心不全患者への早期導入も行われている。しかし、DCM患者に対する早期心リハの有効性を検証した報告は限られており、十分なエビデンスは得られていない。本研究では、日本の全国入院データベースを用い、症候性心不全を呈するDCM患者における早期心リハ開始と90日以内の死亡率との関連について検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、2010年7月1日から2020年3月31日までのDPCデータベースから、DCMおよび心不全(NYHA心機能分類Ⅱ~Ⅳ度)と診断された患者を解析対象とした。患者は入院後3日以内に心リハを開始したかどうかに基づき、早期心リハ群と遅延または非心リハ群に分類した。主要評価項目は入院後90日以内の死亡率とし、副次評価項目は退院時のADLスコアと在院日数とした。欠測値は多重代入法を用いて統計的に補完し、患者背景や2015年度病床機能報告から取得した入院施設の医療機能の違い等を調整するため1対1の傾向スコアマッチングを行った。
本研究では、早期心リハ群3,130名および遅延または非心リハ群2万7,166名の計3万296名を適格患者と判定した。遅延または非心リハ群のうち7,340名(27%)が入院後3日目以降に心リハを受けていた。1対1の傾向スコアマッチングを行った結果、最終的に各群3,129名(計6,258名)が解析対象となった。
多重代入および傾向スコアマッチングの結果、入院後90日以内の死亡率は遅延または非心リハ群に比べて早期心リハ群で有意に低かった(オッズ比:0.70、95%信頼区間〔CI〕:0.53~0.93、P値=0.01)。また、早期心リハ群では退院時ADLスコアも若干高かった(平均差〔Average Treatment Effect on the Treated;ATT〕:0.43、95%CI:0.08~0.78、P値=0.02)が、在院日数には有意な差は認められなかった(ATT:−2.1日、95%CI:−4.7~0.5日、P値=0.11)。
著者らは、「今回の研究の意義は、これまで世界的にもエビデンスが乏しかったDCM患者に対する早期心リハの短期予後(90日以内の死亡率)に対する効果を明らかにした点にある。今後は、本研究で得られた結果の背景にある生理学的メカニズムや、特に有効であった心リハの具体的なプログラム、個々の患者属性の違いにより生じる心リハの効果の異質性等を解明し、より個別化された効果的な心リハプログラムを開発する必要がある」と述べた。
なお本研究の限界点として、DPCデータベースに含まれる指標の制約により、心エコーや生理学的検査等の交絡因子の調整が制限されたこと、心リハの具体的なプログラムの差異による影響の違いについて検討していないこと、詳細な身体・精神機能や入院中の有害事象に対する早期心リハの影響について検討していないこと等が挙げられる。
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12月 15 2025 新しい糖尿病治療薬、高コストも合併症リスクは従来薬と変わらず
2型糖尿病の治療では、血糖コントロールと合併症予防のために経口薬が用いられる。比較的新しく登場したSGLT2阻害薬は近年広く使われるようになったが、最新の日本の大規模データを用いた研究で、初期治療においてSGLT2阻害薬は従来のビグアナイド系薬剤(メトホルミン塩酸塩やブホルミン塩酸塩)と比べて、心血管イベントや糖尿病合併症の抑制効果に明確な差がないことが示された。一方で、薬剤費は約50%高く、臨床現場での薬剤選択や医療費の観点から重要な知見となる。研究は、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏、静岡社会健康医学大学院大学の菅原照氏らによるもので、詳細は11月6日付で「PLOS One」に掲載された。
世界では2型糖尿病が急増しており、合併症である心血管・脳血管イベントが死亡と医療費の大部分を占める。このため、初期治療でどの薬を選ぶかは臨床的にも経済的にも重要となる。従来は安価で安全性が高いメトホルミンが第一選択とされてきたが、近年はSGLT2阻害薬が心血管死や心不全、腎機能悪化を減らすことが示され、早期使用が推奨されつつある。ただ、実臨床研究では両者の効果差は一貫せず、日本からのデータは特に乏しい。過去の国内研究では高価な薬剤を初期に用いても合併症は減らず医療費のみ増える可能性が示唆されたが、ビグアナイド系薬剤とSGLT2阻害薬の直接比較は行われていない。そこで本研究は、日本人2型糖尿病患者を対象に、主要心血管イベントを含む長期アウトカムと薬剤の費用差を後ろ向きに検証した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、登録者数250万人以上を有する静岡国保データベース(SKDB)の2023年度版データ(2012年4月1日~2021年9月30日)を用いて解析を行った。解析対象は、ビグアナイド系薬剤またはSGLT2阻害薬のいずれかを初期治療として開始した患者とした。開始後12か月間はもう一方の薬を使用せず、他の血糖降下薬の併用は許容した。追跡は治療開始時点から開始し、12か月以内に比較薬を使用した患者は除外された。人口統計、臨床、検査、生活習慣の変数に基づき1対1の傾向スコアマッチングを行った後、Cause-specific Coxモデルを用いてハザード比(HR)を推定した。また、1日あたりの薬剤費も比較した。主要アウトカムは、開始日から脳血管イベント、心血管イベント、または全死亡を含む複合エンドポイントの初発までの期間とした。副次アウトカムは、開始日から糖尿病関連合併症(糖尿病性腎症、腎不全、糖尿病性網膜症、糖尿病性末梢神経障害)の初発までの期間と設定した。
傾向スコアマッチング後のコホートは、ビグアナイド単剤群623名とSGLT2阻害薬群623名で構成され、追跡期間の中央値は2.9年(最長7.2年)であった。追跡期間中に主要アウトカムのイベントを起こしたのは、ビグアナイド単剤群44名(7.1%)、SGLT2阻害薬群35名(5.6%)であり、治療群間で統計的な有意差は認められなかった(log-rank検定、P=0.314)。さらに、Cox比例ハザードモデルによる解析では、ビグアナイド単剤群とSGLT2阻害薬群のHRは0.80(95%信頼区間〔CI〕 0.51~1.24)であり、リスクはほぼ同等であることが示された。
糖尿病合併症は、ビグアナイド単剤群で86名(13.8%)、SGLT2阻害薬群で78名(12.5%)に発症し、こちらも治療群間で有意な差は認められなかった(Gray検定、P=0.343)。HRは0.88(95%CI 0.70~1.13)であり、ほぼ同等のリスクを示した。
1日あたりの薬剤費の中央値を比較したところ、ビグアナイド治療は124.7円、SGLT2阻害薬治療では184.0円であり、ウィルコクソン順位和検定の結果、この差は統計的に有意であることが示された(P<0.001)。
著者らは、「今回得られた知見は、SGLT2阻害薬を初回の血糖降下薬としてルーチンに使用することの臨床的および経済的意義に疑問を投げかける。今回の費用差は個々の患者レベルでは小さく見えるかもしれないが、長期にわたり多くの患者が服用する場合には、総医療費として財政に大きな影響を及ぼす可能性がある」と述べている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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12月 15 2025 健康診断の新視点、筋肉量指標で高血圧リスクを見える化
従来のBMIでは筋肉量と脂肪量の違いを反映できないという問題がある。今回、男性の除脂肪体重指数(LBMI)を用い、低LBMIが高血圧リスクの増加と関連するという研究結果が報告された。BMIだけでは捉えられないリスク評価の重要性を提示している。研究は、慶應義塾大学医学部内科学教室の畔上達彦氏、東京大学医学部附属病院循環器内科先進循環器病学講座の金子英弘氏らによるもので、詳細は11月10日付で「Hypertension Research」に掲載された。
高血圧は心血管疾患や慢性腎臓病の主要リスク因子であり、世界的に重要な公衆衛生課題となっている。肥満は高血圧リスクの主要因子とされるが、BMIでは脂肪量と除脂肪体重(筋肉量)を区別できず、正確なリスク評価には限界がある。除脂肪体重を正確に測定するには高コストの画像検査が必要だが、近年、身長・体重・ウエストなどから推定できる簡易LBMIが開発され、日常の健康診断データでも評価が可能になった。しかし、この簡易LBMIを用いた高血圧リスク評価はこれまで行われていない。本研究では、健康診断や医療請求データを用いて、男性のLBMIと高血圧発症リスクの関連を後ろ向きに解析した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、国民の行政保険請求データおよび年次健康診断記録を含むDeSCヘルスケア株式会社のデータベース(2014年4月~2022年11月)を用い、健康診断データが利用可能な男性98万5,521人を対象とした。主要評価項目である高血圧の発症は、診療報酬請求データに基づきICD-10コード(I10–I15)で同定した。リスク評価にはCox回帰モデルおよびスプラインモデルを用い、年齢や既往歴などの交絡因子で調整した。さらに、結果の頑健性を確認するため、層別解析および感度解析も実施した。
最終的な解析対象は、38万4,551人(年齢中央値51歳)であり、中央値1,393日の追跡期間中に4万312人(10.5%)が高血圧イベントを経験した。
まず、参加者のLBMIを四分位(Q1~Q4)に分類し、各群間で比較を行った。年齢、収縮期血圧および拡張期血圧、BMI、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒、身体活動を交絡因子として調整した多変量Cox回帰を用いて、LBMIと高血圧発症リスクの関連を評価した。その結果、LBMIが低い四分位に属するほど高血圧発症リスクが高く(ハザード比〔95%信頼区間〕:Q1, 1.20〔1.15~1.26〕;Q2, 1.06〔1.02~1.10〕;Q3, 1.03〔0.99~1.06〕;Q4, 1〔基準値〕)、制限付き三次スプライン回帰モデルでも、LBMIの低下に伴い高血圧リスクが上昇する傾向が確認された。
次に、年齢別(65歳未満または65歳以上)および非肥満者で層別化したサブグループ解析を行った。いずれの層別群においても、多変量Cox回帰の結果、LBMIが低いほど高血圧発症リスクが上昇する傾向が確認された。
さらに、主要解析結果の頑健性を確認する感度解析として、連鎖方程式による多重代入法で欠測値を補完し、50万5,696人を対象に解析を行った。この解析においても、LBMIが低い四分位(Q1)は高血圧発症の有意なリスク因子であった(同1.19〔1.14~1.24〕)。加えて、死亡を競合事象とした競合リスク解析においても、LBMIが低い四分位(Q1)で高血圧発症リスクの上昇が認められた(同1.23〔1.15~1.32〕)。
これらの層別解析および感度解析により、LBMIと高血圧発症リスクとの関連は解析手法や欠測値の扱いにかかわらず一貫して確認された。
本研究について著者らは、「男性においてLBMIが低いことは高血圧リスクの上昇と関連しており、除脂肪体重を指標とした管理の重要性が示唆された。今後は、その増加や維持がリスク低減につながるかどうかの検討が必要である」と述べている。
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肥満という言葉を耳にして、あなたはどんなイメージを抱くでしょうか?
今回は肥満が原因となる疾患『肥満症』の危険度をセルフチェックする方法と一般的な肥満との違いについて解説していきます。
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12月 11 2025 男性患者のED・LUTSに潜む肝線維化、FIB-4 indexによる包括的アセスメントの重要性
男性のEDや下部尿路症状(LUTS)は、前立腺やホルモンの問題として扱われることが多い。しかし、新たな研究で、肝臓の状態もこれらの症状に関係している可能性が示された。男性更年期障害(LOH)のある男性2,369人を対象に、肝線維化指標(FIB-4 index)を用いた解析を行ったところ、FIB-4 indexの上昇とEDおよびLUTSの悪化が有意に関連することが明らかになった。研究は順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科の上阪裕香氏、辻󠄀村晃氏らによるもので、詳細は10月31日付で「Investigative and Clinical Urology」に掲載された。
中高年男性におけるLOHや性機能障害は、代謝異常や動脈硬化と関連することが報告されている。一方、近年の食生活の乱れや飲酒により、男性の肝機能障害が増加しており、早期発見の重要性が高まっている。肝線維化を評価する非侵襲的指標としてFIB-4 indexが注目され、性機能やLUTSとの関連も示唆されているものの、大規模集団を対象とした包括的解析は限られている。こうした背景を踏まえ、本研究ではFIB-4 indexと性機能、LUTS、LOH指標との関係を明らかにするため、診療データを後ろ向きに解析した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、2016年5月〜2024年3月に順天堂大学医学部附属浦安病院および関連クリニックを受診したLOH症状のある男性2,369名を後ろ向きに解析した。LUTS、性機能、LOHの評価には、国際前立腺症状スコア(IPSS)と生活の質指数、勃起機能問診票(SHIM)および勃起の硬度スケール(EHS)、男性更年期障害質問票(AMS)をそれぞれ用いた。内分泌・代謝指標としてDHEA-S、IGF-1、総テストステロン、コルチゾール、HbA1c、中性脂肪を測定し、FIB-4 index は五分位に層別化した。まずFIB-4 indexと各臨床指標との関連をトレンド解析で検討し、続いてFIB-4 indexと有意に関連した内分泌・代謝因子を調整因子として、症状スコアとの関連を多変量解析で評価した。有意であった症状スコアについては、その重症度とFIB-4 indexとの関係も追加で検討した。
患者の平均年齢は50.6歳であった。解析の結果、FIB-4 indexの五分位が上昇するにつれて、年齢や肝酵素値は高くなり、血小板数は低下する傾向が認められた(傾向検定、いずれもP<0.001)。症状スコアについても、FIB-4 indexの上昇に伴い、IPSSおよびAMSは上昇し、SHIMおよびEHSは低下することが示された(同 P<0.001)。
内分泌因子では、DHEA-SおよびIGF-1はFIB-4 indexの上昇に伴い低下し、コルチゾールは上昇した(同P<0.001)。興味深いことに、FIB-4 indexとテストステロン値との間には有意な関連は認められなかった(同P=0.091)。同様に、代謝指標では、FIB-4 indexの上昇に伴いHbA1cは増加した(同P<0.001)が、中性脂肪との関連は見られなかった(同P=0.181)。
さらに、症状スコアをDHEA-S、IGF-1、コルチゾール、HbA1cで補正した多変量回帰解析を実施した。その結果、FIB-4 Indexが上昇するにつれてSHIMスコアは低下し(同P<0.001)、重度のEDの場合(SHIMスコアが低い)ではFIB-4 indexも高値を示した(同P<0.001)。同様に、FIB-4 indexが上昇するほどIPSSは増加し(同P<0.001)、LUTSが重い場合(IPSSが高い)ではFIB-4 indexも高値であった(同P<0.001)。
著者らは、「本研究では、大規模コホートでEDやLUTSがFIB-4 Indexで評価される肝線維化と密接に関連することを示した。この結果は、症状を呈する男性の評価において潜在的肝線維化も考慮した多職種的アプローチの重要性を示唆している。今後は、縦断的なホルモン測定や画像・組織評価を組み込んだ前向き研究が求められる」と述べている。
なお、本研究の限界として、後ろ向き研究であるため生活習慣や併存疾患の影響を十分に評価できなかったこと、また前立腺容積や尿流測定などの客観的泌尿器評価や、ホルモンの縦断的測定も行われなかったことを挙げている。
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12月 11 2025 多発性硬化症と口腔内細菌の意外な関係、最新研究が示す病態理解の可能性
多発性硬化症(MS)は、中枢神経系の神経線維を包むミエリンが自己免疫反応によって障害される希少疾患で、視覚障害や運動麻痺、感覚障害などさまざまな症状を引き起こす。最新の研究で、MS患者の口腔内に存在する特定の歯周病菌、Fusobacterium nucleatum(F. nucleatum)の量が、病気の重症度や進行に関わる可能性が示された。研究は、広島大学大学院医系科学研究科脳神経内科学の内藤裕之氏、中森正博氏らによるもので、詳細は11月3日付で「Scientific Reports」に掲載された。
MSの発症には遺伝的素因に加え、ウイルス感染や喫煙、ビタミン欠乏などの環境因子が関与すると考えられ、近年は腸内細菌の異常も病態形成に影響することが示唆されている。また、口腔内細菌、特に歯周病菌も中枢神経疾患に影響することが報告されており、慢性的な炎症や免疫応答を介してMSの進行や重症度に関与する可能性がある。これまでに歯周病とMSの関連や、MS患者における特定菌種の増加が報告されているものの、臨床指標や再発・進行との具体的な関連や菌種ごとの差異は不明である。こうした背景を踏まえ著者らは、MSや視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)、抗MOG抗体関連疾患(MOGAD)の患者の舌苔サンプルから歯周病菌量を定量し、臨床特徴やMRI所見との関連、さらに菌種ごとの影響を探索する横断的研究を実施した。
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本研究の最終的な解析対象は98人(平均年齢48.6歳、女性77.6%)となった。これらのうち、56人がMS、31人がNMOSD、11人がMOGADとそれぞれ診断された。MS、NMOSD、MOGADで歯周病菌の高相対量に有意差はなく、口腔衛生習慣もほぼ同等であった。
単変量解析により、MS患者における各歯周病菌とEDSSスコアの関係を調べたところ、F. nucleatumの相対量が高いMS患者は、低い患者に比べてEDSSスコアが有意に高く、EDSS ≥4の割合も多かった(61.5% vs 18.6%、P=0.003)。多重比較補正(Benjamini–Hochberg法)を行った後も、MS患者におけるF. nucleatumの高相対量とEDSS ≥4の関連のみが有意であった(P=0.036)。一方、他の歯周病菌の相対量は、EDSS ≥4との有意な関連は認められなかった。また、NMOSDおよびMOGAD患者においても、EDSSスコアと各菌の高相対量との関連は認められなかった。
単変量解析では、MS患者の重症度(EDSS ≥4)に影響を与える要因として、F. nucleatumの高相対量に加え、年齢、MSのサブタイプ、発作回数、罹病期間も示唆された。しかし、これらの因子を考慮した多変量解析では、F. nucleatumの高相対量のみが独立して有意であった(オッズ比10.0、95%信頼区間1.45~69.4、P=0.020)。
著者らは、「本研究は、MS患者において口腔内のF. nucleatum相対量がEDSSスコアと強く関連することを示した。因果関係は示せないが、将来的な研究課題としては、サイトカイン関連機構などの免疫学的メカニズムの解明や、口腔ケアなどの介入による影響の検討が挙げられる」と述べている。
本研究の限界として、単施設の横断的観察研究であり、MS以外の疾患群やF. nucleatum陽性患者が少なくサンプルサイズが限られていたこと、歯周病の臨床評価や抗菌薬使用歴、口腔行動の影響、免疫指標測定が不十分であり、残存交絡や因果関係の推定は困難であったことを挙げている。
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12月 02 2025 健康診断から見える、糖尿病予測の未来
糖尿病は日本人の主要な生活習慣病である一方、予防可能な側面も大きく、発症リスクの理解と適切な介入の実現が課題である。この課題に対し、静岡県の国民健康保険データベースを用いて、健康診断データから2型糖尿病発症リスクを予測する新たなモデルが開発された。Cox比例ハザードモデルを基礎に構築した予測スコアは、検証データセットで良好な識別能を示したという。研究は静岡県立総合病院消化器内科の佐藤辰宣氏、名古屋市立大学大学院医学研究科の中谷英仁氏、静岡社会健康医学大学院大学の臼井健氏らによるもので、詳細は10月30日付で「Scientific Reports」に掲載された。
日本では13人に1人程度が2型糖尿病と診断されているが、生活習慣改善や早期介入が発症リスクの低減に寄与し得ることが指摘されている。地域コホートや各種健康診断制度によって大規模な一般住民データが得られている一方、既存の予測モデルは病院データや職域健診を基盤とするものが多く、一般住民の健診データを活用したモデルは十分に整備されていない。このような背景を踏まえ、本研究では一般住民の健診データを用い、発症までの期間や打ち切り症例を考慮したCox比例ハザードモデルで2型糖尿病発症を予測するモデルを開発・検証した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、登録者数250万人以上を有する静岡国保データベース(SKDB)の2023年度版データ(2012年4月1日~2021年9月30日)を用いて解析を行った。解析対象は、ベースラインの健康診断時点で2型糖尿病(またはHbA1c値6.5%以上)やがんの既往がなく、年1回の健康診断歴を有する40歳以上の成人46万3,248人とした。対象者は2:1の比率で、モデル構築用(30万8,832人)と検証用(15万4,416人)に無作為に分割した。まずモデル構築用コホートにおいて、年齢、性別、BMI、血圧、健診で測定可能な各種血液検査値、喫煙・飲酒・運動習慣などの健康情報を用いてCox比例ハザードモデルにより糖尿病発症に関連する要因を解析し、予測モデルを構築した。続いて、その予測性能を検証コホートにおいてHarrellのc指数を用いて評価した。
モデル構築用データセットでは、中央値5.17年の観察期間中に5万2,152人(16.9%)が2型糖尿病と診断された。このデータセットにおいて、2型糖尿病発症に対する単変量および多変量Cox比例ハザード回帰解析を行った結果、高齢、男性、体格や血圧などの臨床指標、各種血液検査値や肝腎機能の異常、尿蛋白の存在、高血圧・脂質異常症に対する薬物使用、ならびに生活習慣(運動不足や過度の飲酒)が、いずれも発症リスクの上昇と関連していた。次いで、その結果をもとに、2型糖尿病発症を予測するスコアリングモデルを開発した。このモデルではスコアが高いほど発症リスクが高く、モデル構築用データセットではC指数0.652、検証用データセットではC指数0.656と、個人のリスクを良好な識別能をもって判別できることが示された。スコアごとの3年間での累積発症率は、スコア0.5未満で3.0%、スコア2.5以上では32.4%と大きく差があり、健診結果から算出される本スコアを用いることで個人を低リスクから高リスクまで明確に層別化できることが示された。これらの結果は検証用データセットでも同様に確認できた。
著者らは、「今回作成した予測スコアリングモデルは、検証用データセットで良好な識別能を示し、将来的な糖尿病発症リスクの層別化に応用可能である。また、本モデルは日常的に収集される健康診断の変数のみを使用しているため、識別能はやや低下する可能性があるが、実用性は高い」と述べている。さらに今後の展開として、「糖尿病患者では膵臓がんの発症リスクが高いことが報告されている。今後は、糖尿病発症の予防が膵臓がんの発症抑制につながるかといったテーマにも取り組む予定である」としている。
なお本研究の限界については、データベースには静岡県の住民のみが含まれ、一般化には限界があること、参加者を40歳以上に限定しているため若年層への適用が難しいことなどを挙げている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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12月 02 2025 ロボット支援直腸がん手術、国内リアルワールドデータが示す新たな標準治療の可能性
国内約1.8万人分のリアルワールドデータを解析した多施設後ろ向きコホート研究により、進行直腸がんに対するロボット支援手術が、開腹および腹腔鏡手術と比較して短期・長期の両成績で有意に優れていることが示された。5年全生存率はロボット支援手術で94%と最も高く、術後合併症の発症率や総入院費用も最小であったという。研究は東京科学大学消化管外科学分野の花岡まりえ氏、絹笠祐介氏らによるもので、詳細は10月28日付で「Colorectal Disease」に掲載された。
従来の腹腔鏡手術(LRR)は直腸がん治療に有効であるが、長期的な腫瘍学的成績は開腹手術(ORR)と同等で、直腸膜間全切除(TME)が不完全になるリスクがあることが報告されている。ロボット支援手術(RARR)は低侵襲なアプローチとして短期成績に優れるとされる一方、長期成績のデータは限られている。そこで本研究では、国内大規模リアルワールドデータを用いて、進行直腸がん患者に対するORR、LRR、RARRの短期・長期成績を比較することを目的とした。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、国内の大規模診療データベース(メディカル・データ・ビジョン株式会社保有)を用い、2018年4月~2024年6月に直腸切除術を受けた3万7,191人のうち、cT3またはcT4aの患者1万7,793人を解析した。ベースラインのバランスを調整するためオーバーラップ重み付けを行い、有効サンプルサイズは1万4,627人となった。主要評価項目は5年全生存率(OS)および無再発生存率(RFS)で、副次評価項目には周術期成績を設定した。データの分布に応じて、Welchのt検定、Mann–WhitneyのU検定、カイ二乗検定、Fisherの正確確率検定を適用した。生存アウトカム(OSおよびRFS)については、オーバーラップ重み付けを用いてKaplan–Meier曲線を作成し、log-rank検定を行った。
オーバーラップ重み付け後の患者数の内訳は、RARR群で2,247人、LRR群で1万339人、ORR群で2,041人であった。平均年齢は70歳で、男性が66%を占めた。
短期成績では、RARR群は術後合併症の発生率が最も低かった(RARR:16.54%、LRR:19.95%、ORR:29.68%、P<0.001)。また、入院期間も最も短く(RARR:15.69日、LRR:18.87日、ORR:25.38日、P<0.001)、入院から退院までの総医療費も最も低かった(RARR:184万9,029円、LRR:193万4,626円、ORR:201万2,968円、P<0.001)。さらに、90日死亡率もRARR群で有意に低かった(RARR:0.23%、LRR:0.70%、ORR:1.21%、P<0.001)。
5年OSはRARR群で最も高く(94%、95%信頼区間91~97%)、次いでLRR群(86%、同85~88%)、ORR群(78%、同75~81%)の順であった。また、5年RFSもRARR群で最も高く(93%、同91~95%、)、次いでLRR群(83%、同81~84%)、ORR群(74%、同71~77%)の順であり、OSおよびRFSの両方でRARR群が他の2群に比べてそれぞれ良好であった(P<0.001)。これにより、RARR群が一貫して最良の転帰を示すことが示された。
OS不良と関連する因子を多変量Cox回帰分析で検討したところ、TNM分類以外の項目では、ORR(ハザード比〔HR〕4.69 、95%信頼区間3.42~6.43)、LRR(HR 2.50、同1.85~3.37)、男性(HR 1.35、同1.31~1.81)、腹会陰式直腸切断術(APR;HR 1.57、同1.33~1.86)、大学病院以外での手術(HR 3.53、同2.37~5.24)などが同定された(P<0.001)。一方でRARRはLRR,ORRと比べてOSの有意な予後良好因子として同定された。
著者らは、「本研究は進行直腸がんに対して大規模なリアルワールドデータを用いて、RARRの短期・長期アウトカムを評価した初めての研究である。今回の結果は、ロボット支援手術がこの領域における新たな標準治療となり得ることを支持している」と述べている。
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