• 子どもの溺水による心停止、人工呼吸の有無で生存・神経予後に差――全国データ解析

     プール監視や学校現場などで遭遇しうる子どもの溺水では、その場での初期対応が転帰を左右するとされている。今回、日本の全国データを用いた研究で、小児の溺水による心停止において、人工呼吸を伴う心肺蘇生(CPR)は胸骨圧迫のみのCPRと比べて、生存および神経予後の点で良好である可能性が示された。研究は岡山大学学術研究院医歯薬学域地域救急・災害医療学講座の小原隆史氏らによるもので、詳細は3月10日付の「Resuscitation」に掲載された。

     溺水は世界的に不慮の事故死の主要な原因の一つであり、日本でも小児の事故死の上位を占める。溺水による心停止では、体に酸素が行き渡らなくなるため、人工呼吸を含むCPRが重要と考えられてきた。実際、小児や心臓以外が原因の心停止では、人工呼吸を伴うCPRが胸骨圧迫のみのCPRより良好な転帰と関連することが報告されている。一方、近年は簡便さなどから胸骨圧迫のみのCPRが広く行われるようになっているが、こうした変化が溺水による心停止の転帰に与える影響は十分に検討されていない。そこで本研究では、小児の溺水による院外心停止において、一般市民によるCPRの方法の変化と、生存および神経予後との関連を検討した。

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     本研究では、2012~2023年の全国データを用い、小児(17歳以下)の溺水による院外心停止のうち、一般市民によるCPRが実施された症例を解析した。データは全国の院外心停止症例を登録したデータベース(All-Japan Utstein Registry)から取得し、CPRが行われていない症例やCPRの方法が不明な症例は除外した。対象は、人工呼吸を伴うCPRと胸骨圧迫のみのCPRの2群に分類した。主要評価項目は発生から30日以内の死亡とし、副次評価項目として病院到着前に心拍が再開しなかったこと、および30日後の神経予後不良(重度障害、昏睡、または死亡と定義)を設定した。解析には多変量解析を用い、年齢や目撃の有無による層別解析も行った。

     対象となった740例のうち、人工呼吸を伴うCPRは41.6%、胸骨圧迫のみのCPRは58.4%に行われていた。人工呼吸を伴うCPRの割合は、2012年の約45%から2020年以降は約30%に減少していた。人工呼吸を伴うCPRは、特に乳幼児や家族が目撃していたケースで行われることが多かった。

     胸骨圧迫のみのCPRは、人工呼吸を伴うCPRと比べて、30日以内の死亡リスクが約38%高く、病院到着前に心拍再開が得られなかった割合も約22%高かった。また、神経予後も不良となる傾向がみられた。こうした差は、目撃者がいない心停止(溺水の場面を直接見ていないケース)や、1~7歳の子どもで特に顕著であった。この結果は、目撃がない症例であっても発見次第速やかに人工呼吸を開始する重要性を示唆する。一方、目撃されていたケースや8歳以上の子どもでは、死亡の差はそれほど大きくなかったが、神経予後には差が認められた。

     本研究では、小児の溺水による心停止において、人工呼吸を伴うCPRが減少し、胸骨圧迫のみのCPRが増加している実態が示された。一方で、胸骨圧迫のみのCPRは、人工呼吸を伴うCPRと比べて死亡や神経予後の点で不良であった。溺水のように呼吸が保てなくなる心停止では、人工呼吸が重要な役割を果たす可能性が示唆される。こうした結果は、溺水では人工呼吸を含むCPRを推奨する海外のガイドラインとも一致しており、その重要性を裏付けるものといえる。

     著者らは、小児や溺水といった医学的に人工呼吸の効果が期待されるケースにおいても、その重要性が十分に理解されていない可能性を指摘する。その上で、保護者や教職員などを対象に人工呼吸を含むCPR教育を強化することや、救急通報時のオペレーターによる口頭指導において年齢や原因に応じた対応を行うことの重要性を強調している。

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    HealthDay News 2026年4月27日
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  • 乾癬は皮膚だけの病気ではない? 重症度と心血管リスクが関連

     乾癬は皮膚に症状が現れる慢性炎症性疾患だが、近年では全身性炎症を背景に心血管疾患リスクの上昇との関連も指摘されている。今回、日本人乾癬患者を対象に、心血管リスク評価に用いられる久山町スコアで解析した結果、乾癬の重症度が高いほど心血管リスクが高いことが示された。研究は、東北大学大学院医学系研究科皮膚科学分野の小林愛里氏、照井仁氏(現:米カリフォルニア大学サンフランシスコ校)らによるもので、詳細は「Immunological Medicine」に3月17日付で掲載された。

     乾癬は慢性炎症性皮膚疾患であり、近年では心血管疾患との関連が注目されている。乾癬患者では高血圧や脂質異常症などのリスク因子が多く、重症例ほど心血管リスクが高いとされ、日本人においても関連が報告されている。一方で、従来の欧米人での臨床データから作成された評価法では日本人における乾癬患者の心血管リスクを過小評価する可能性がある。そこで本研究では、日本人に適した久山町スコアを用いて乾癬重症度と心血管リスクとの関連を検討した。

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     久山町スコアは福岡県久山町の住民データ(久山町研究)に基づき、日本人の10年間の心血管疾患発症リスクを予測する指標である。本研究では、乾癬患者における心血管リスクと重症度との関連を検討するため、久山町スコアを用いた単施設の後ろ向き研究を実施した。2010年から2022年にかけて東北大学病院を受診した40~79歳の乾癬患者119人を対象とし、糖尿病、慢性腎臓病、心血管疾患など既存疾患のある48人を除外した71人を解析対象とした。乾癬の重症度はPASI(Psoriasis Area and Severity Index)スコアで評価し、血圧、脂質プロファイル、喫煙歴などに基づき、対象者を低・中・高リスク群に分類した。群間比較にはWilcoxon検定を用い、年齢や性別、血圧、脂質プロファイルなどで調整したロジスティック回帰分析により高リスクの予測因子を検討した。

     解析の結果、乾癬の重症度が高いほど心血管リスクが高いことが示され(p=0.003)、特にPASIスコアが10を超える男性では中~高リスク群に分類される割合が高かった(p=0.049)。女性では重症度と心血管リスクとの間に有意な関連は認められなかった。

     血圧や脂質プロファイルなどのリスク因子と心血管リスクとの関連を検討したところ、中~高リスク群では収縮期血圧の上昇(p=0.011)やHDLコレステロールの低下(p=0.017)がみられた。さらにロジスティック回帰分析の結果、収縮期血圧は心血管リスクの独立した予測因子として同定された(p=0.026)。乾癬の罹病期間と心血管リスクとの間に有意な関連は認められなかった。

     さらに、性別や年齢で見ると傾向に違いがみられ、特に40代男性では脂質異常がリスク上昇に関与する可能性が示唆された。

     著者らは、本研究により久山町スコアを用いることで乾癬患者の心血管リスクを把握できることが示されたと述べている。特に若年層では、血圧やコレステロールの管理がリスク低下に重要であると指摘している。また、乾癬は皮膚疾患にとどまらない全身性の病気であることから、皮膚科医はかかりつけ医や循環器医と連携し、積極的にリスク管理を進めることが望ましいと強調している。

     なお、本研究の限界として、単施設の後ろ向き研究で対象が少なく、治療内容や疾患期間の影響も排除できない点が挙げられる。著者らは、より大規模な研究での検証が望まれると指摘している。

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    HealthDay News 2026年4月27日
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  • 不妊治療、保険適用でアクセス改善も公平性に課題

     不妊治療の保険適用で受療機会は広がったのか。日本の大規模レセプトデータ解析によりアクセス改善が示された一方、男性の診断・治療は依然少なく、生殖医療の公平性に課題が残ることが明らかになった。研究は、産業医科大学医学部公衆衛生学教室の大河原眞氏らによるもので、詳細は3月6日付の「Reproductive Medicine and Biology」に掲載された。

     日本では少子化と高齢化が進み、出生数や合計特殊出生率は過去最低水準にある。不妊治療は進歩し、体外受精などの生殖補助医療(ART)による出生も増加してきたが、従来は高額な費用が障壁となり、社会経済的背景によるアクセス格差が指摘されていた。こうした状況を受け、2022年4月にはタイミング法や人工授精といった一般不妊治療、体外受精や顕微授精といったARTを含む不妊治療が公的医療保険の対象となり、受療機会の拡大が期待された。しかし、実際にどの年齢層でどの治療がどの程度利用されたか、また男性と女性での差などの実態は明らかでなかった。本研究はレセプトデータを用い、保険適用初年度における不妊診断の頻度と治療実態を明らかにすることを目的とした。

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     本研究は、産業医科大学産業保健データサイエンスセンターに提供された医療レセプトデータを用いた観察研究である。2022年4月から2023年3月までの期間における14の健康保険組合のデータを解析し、18~69歳の女性約59万人、男性約62万人を対象とした。不妊症の診断や不妊治療の実施状況、関連する合併症については、診断コードや処置コード、薬剤コードに基づき特定した。また本研究では、不妊診断、特異的な不妊治療の実施、さらに薬物療法を含む広義の治療の3つの定義を設定し、レセプトデータの特性を踏まえて解析を行った。さらに、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)など不妊治療に関連する合併症についても評価した。

     解析の結果、最も不妊診断や治療を受けたのは30~34歳の女性で、診断率は5.0%、治療受療率は3.9%、不妊特異的治療は2.6%だった。男性は同年齢で診断率1.9%、治療受療率0.5%、不妊特異的治療0.3%にとどまり、診断・治療の割合は依然低く、治療の種類や処方も限られていた。

     治療の年齢別傾向として、若年女性ではART以外の一般不妊治療が中心で、35歳以上ではARTが主流となった。人工授精は20代後半に多く、採卵は30代後半から40代前半が中心であった。女性の主な処方は、ARTに伴う調節卵巣刺激や黄体機能不全に対して使用されるホルモン製剤であった。

     OHSSは不妊治療を受けた女性のうち8.0%に認められ、ARTを受けた女性では9.6%に達した。この割合は特に20代で高かった。

     これらの結果は、保険適用初年度における年齢・性別による治療選択や診断名登録によって記述された合併症の実態を示している。

     著者らは、「本研究は、不妊治療の保険適用初年度における日本の臨床実態を示したものであり、今後の不妊治療研究の基礎となる知見である。30~34歳の女性のうち2.6~3.9%が何らかの不妊治療を受けていた一方で、男性の受療は女性より少なく、医療相談や検査・治療の認知向上、医療アクセスの改善、治療選択肢の拡充が求められる」と述べている。

     なお、本研究は診療報酬データを用いた観察研究であるため、診断名や受療件数の正確性に限界があり、初年度データや対象集団の偏りにより実際の治療状況を正確に反映できていない可能性がある。著者らは、今後は複数年データや他のデータベースとの比較による検証が必要であると指摘している。

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  • 白内障治療の将来を読む――全国と地方の眼科医供給格差

     白内障は加齢に伴って多くの人にみられ、日本では高齢化の進展とともに手術の需要増加が見込まれている。一方で、地域によって医療資源には偏りがあることも課題となっている。今回、NDBオープンデータや人口推計などを用いた研究で、都道府県ごとの白内障手術の将来需要と眼科医の供給を予測した結果、特に地方で需給バランスが悪化し、医療アクセスの地域格差が拡大する可能性が示された。研究は、国際医療福祉大学の山口浩史氏、アルアリアシーらるび氏、藤田烈氏によるもので、詳細は3月3日付の「BMJ Open Ophthalmology」に掲載された。

     白内障手術は近年増加傾向にあり、日本では過去数十年で手術件数が大きく伸びている一方、眼科医の増加はそれに比べて緩やかにとどまっている。また、眼科医の地域偏在も指摘されており、都市部と地方の格差は拡大している。こうした中、需要と供給を同一の枠組みで定量的に評価した研究は限られている。そこで本研究では、地域ごとの人口動態や医療資源の違いを踏まえ、日本における白内障手術の将来需要と眼科医の供給を予測し、需給バランスを評価することを目的とした。

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     本研究では、厚生労働省のNDBオープンデータ(2014~2022年度)を用い、診療報酬請求件数から年齢別・性別の白内障手術実施率を算出した。NDBは全国民を対象とした医療保険データであり、日本の医療実態を広く反映している。白内障手術の件数は、水晶体再建術(眼内レンズを挿入する手術)の請求件数から算出した。この手術実施率を、総務省の人口推計および国立社会保障・人口問題研究所の将来人口推計に適用し、回帰モデルを用いて2030年、2040年、2050年における手術需要を推計した。一方、眼科医の将来供給については、厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」を基に、線形回帰モデルを用いて予測した。さらに、都道府県ごとに手術需要を眼科医数で割った需給比を算出した。この指標は、眼科医1人あたりが担う手術件数を示すもので、値が高いほど医師不足の程度が大きいことを意味する。将来の需給バランスの変化は、2022年を基準として評価した。

     白内障手術の需要は今後大きく増加すると推計された。手術件数は、2030年に約193万件、2040年に約237万件、2050年には約286万件に達する見込みで、2050年には2022年と比べて約1.7倍に増加する可能性が示された。特に70代および80歳以上の高齢者で顕著な増加が予測され、手術の大半(約7割以上)はこれら高齢層に集中していた。なお、手術件数は一貫して女性で男性を上回っていた。

     一方、眼科医数は多くの都道府県で緩やかな増加が見込まれるものの、一部の地域では減少する可能性が示された。

     その結果、白内障手術の需要を眼科医数で割った需給比は全国的に上昇すると推計された。人口減少が進む地域でも需要の増加が見込まれる中、とりわけ地方での上昇幅が大きく、都市部との地域差が今後さらに拡大する可能性が示唆された。さらに、一部地域では需給比が2倍以上に達する可能性も示された。

     著者らは、公的統計データを用いて都道府県別の白内障手術需要と眼科医供給を推計した結果、手術需要は今後も増加し、特に70代および80歳以上に集中する一方、眼科医数は一部地域で減少する可能性があると報告している。これに伴い需給比は全国的に上昇し、とりわけ地方での増加が大きく、都市部との格差が拡大する可能性があると指摘している。さらに、受診の遅れや待機期間の長期化を防ぐ対策の必要性とともに、より細かな地域単位での需給評価の重要性を挙げている。

     なお、本研究は公的データに基づく推計であり、実際の手術需要や供給能力を十分に反映しない可能性がある。また、都道府県単位の解析のため地域内差や患者移動を考慮できず、将来予測には一定の不確実性がある。

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    HealthDay News 2026年4月20日
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  • 日勤の看護師不足、入院患者の死亡・再入院と関連――日本の病院データ

     看護師の配置不足は入院患者の予後に影響するのか。今回、日本の急性期病院を対象とした研究で、病棟の通常水準を下回る看護師配置、特に日勤帯での不足が、院内死亡や再入院の増加と関連することが示された。約7万7,000件の入院データを解析した結果で、日々の人員配置を適切に維持する重要性が示唆された。研究は、国立保健医療科学院疫学・統計研究部の森岡典子氏、東京科学大学医療本部クオリティ・マネジメント・センターの森脇睦子氏、筑波大学医学医療系社会医学の宮脇敦士氏、英サウサンプトン大学のPeter Griffiths氏らによるもので、詳細は2月25日付で「JAMA Network Open」に掲載された。

     看護師は医療・ケア従事者の中で最大の職種であり、その配置は医療の質や安全性、医療提供体制の効率に大きく関わるとされる。これまでの研究でも、看護師配置が多いほど院内死亡や有害事象が減少するなど、患者アウトカムが改善することが示されてきた。一方で、実際の病棟では適切な人員配置の判断が看護管理者の経験や判断に依存している面もあり、エビデンスに基づく指針は十分とは言えない。さらに、病院単位で集計した患者対看護師比などの固定的な指標では病棟ごとに異なるケアニーズを十分に反映できない可能性がある。そこで本研究では、病棟ごとの通常水準を基準とした入院期間中の看護師不足を、日勤と夜間の時間帯別に評価し、院内死亡や再入院、在院日数との関連を検討した。

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     本研究は、日本の9病院82病棟の診療報酬請求データ(DPC)と病棟ごとの日々の看護師勤務表データを連結して行った後ろ向きコホート研究である。対象は2019年4月~2020年3月に入院した20歳以上の患者で、ICU滞在日は解析から除外した。対象病棟はいずれも、患者7人に対して看護師1人以上を配置する一般急性期病棟で最も手厚い「7対1看護配置」を採用していた。看護師不足(アンダースタッフィング)は、入院期間中の患者1人当たりの看護提供時間(中央値)が各病棟の通常水準(年間中央値)を下回る場合と定義し、24時間全体、日勤帯、夜勤帯(準夜・深夜)で評価した。解析では院内死亡、退院後7日および30日以内の再入院、在院日数を評価項目とし、傾向スコアマッチング(PSM)や病院・病棟の違いを考慮したマルチレベル回帰モデルを用いて解析した。

     解析対象は7万7,289件の入院で、患者の平均年齢は69歳、約半数が手術を伴う入院だった。PSM後は、年齢や併存疾患などの患者背景は両群でほぼ同等となった。

     その後の解析では、24時間全体または日勤帯で看護師不足が生じていた場合、院内死亡率はそうでない場合より高かった(24時間:3.1%対2.8%、日勤帯:3.2%対2.8%)。また、24時間全体で看護師不足があった場合は30日以内再入院率が高く(11.2%対10.5%)、日勤帯で不足があった場合は7日以内再入院率が高かった(2.3%対2.1%)。一方、夜間の看護師不足は院内死亡や再入院と有意な関連を示さなかった。

     在院日数は、24時間全体、日勤帯、夜間のいずれの時間帯で看護師不足があった場合でも長く、平均在院日数はそれぞれ14.6日対13.8日、14.7日対13.7日、14.1日対13.6日だった。多層モデルによる解析でも同様の結果が得られ、24時間の看護師不足は院内死亡リスクの上昇(調整オッズ比1.22)や30日以内再入院(同1.05)と関連していた。

     さらに感度解析でも結果は概ね同様で、看護師不足と院内死亡および在院日数の延長との関連は一貫して認められた。

     著者らは、「急性期病院では、24時間全体または日勤帯で看護師不足が生じている場合、院内死亡や再入院、在院日数の延長と関連する可能性が示された」としている。その上で、日々の看護師配置レベルを継続的に把握し、通常からの逸脱・不足が生じた場合にリリーフ支援などでタイムリーに対応することが、患者アウトカムの改善につながる可能性があると指摘している。

     なお、本研究の限界として、看護師不足の基準を病棟ごとの年間中央値で定義しており最適な配置水準は不明である点、看護師の経験構成など未測定要因の影響を考慮できていない点、さらに大規模公的病院のデータに基づくため結果の一般化に限界がある点が挙げられる。

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  • 肝硬変患者の肝性脳症リスク、フレイル評価で予測可能か

     肝硬変では、肝臓の機能低下に伴い意識障害や認知機能低下を来す「肝性脳症」が生じ、患者の生活の質や予後に大きく影響することが知られている。今回、肝硬変患者を対象とした研究で、簡便なフレイル評価指標であるClinical Frailty Scale(CFS)が、不顕性および顕性肝性脳症の発症リスクの層別化に有用である可能性が示された。研究は、岐阜大学医学部附属病院消化器内科の宇野女慎二氏、三輪貴生氏らによるもので、詳細は2月26日付で「JGH Open」に掲載された。

     不顕性肝性脳症(CHE)は肝硬変患者の約40%に認められ、転倒や事故、死亡リスクの増加などと関連することが知られている。CHEが顕性肝性脳症(OHE)へ進行すると、入院の増加や社会生活への影響など患者や家族に与える負担は大きい。しかしCHEの診断には神経心理検査が必要で、時間や専門人材を要するため臨床現場での実施には限界がある。近年、肝硬変患者ではフレイルが入院や死亡など不良転帰と関連することが報告されている。そこで本研究では、CFSによるフレイル評価が、CHEおよびOHE発症リスクの層別化に有用かを検討した。

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     本研究は、岐阜大学医学部附属病院に入院した肝硬変患者を対象とした後ろ向き観察研究である。OHEの既往がない18~79歳の患者のうち、2004年3月~2023年12月にCHEの評価を受けた症例を解析対象とした。フレイルはCFSを用いて評価し、CFS5以上をフレイルと定義した。CHEは神経心理学的検査により診断し、OHEはWest Haven基準に基づく臨床評価で判定した。CHEとの関連因子はロジスティック回帰分析で検討した。さらに、死亡を競合リスクとして考慮したFine–Gray競合リスク回帰モデルを用いてOHE発症との関連を解析した。

     解析対象は262例で、年齢中央値は65歳(四分位範囲55~74歳)、女性は154例(58.8%)だった。フレイルは25例(9.5%)、CHEは82例(31.3%)に認められた。CHEの有病率は、フレイルあり群でフレイルなし群より有意に高かった(84.0% vs 25.7%、P<0.001)。

     追跡期間中央値2.8年の間に、40例(15.3%)がOHEを発症し、20例(7.6%)が死亡した。コホート全体でのOHE累積発症率は1年7%、3年13%、5年20%だった。OHEの発症率はフレイルあり群で高く、1年、3年、5年時点の累積発症率はそれぞれ25%、33%、36%で、フレイルなし群(5%、11%、18%)より有意に高かった(P=0.009)。

     年齢や肝機能指標などを調整した多変量解析では、CFSがCHEの存在(オッズ比2.13、95%信頼区間1.41~3.37、P<0.001)およびOHE発症(サブディストリビューションハザード比1.38、95%信頼区間1.02~1.87、P=0.037)の独立した関連因子であることが示された。

     本研究の結果から、肝硬変患者ではフレイルを有する場合、CHEの有病率とOHEの発症率が高く、CFSがそれらの独立した関連因子であることが示された。筆者らは、「フレイル評価は肝硬変患者における肝性脳症リスクの層別化に有用である可能性があり、臨床現場でのフレイル評価の重要性を示唆する」と述べている。

     なお、本研究の限界として、単施設の後ろ向き研究である点や、対象患者の病因分布が一般集団と異なる可能性がある点が挙げられ、結果の一般化には注意が必要である。

    軽度認知障害(MCI)のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

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    HealthDay News 2026年4月13日
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  • AIで医療教育は変わるか? 問診評価で指導医の負担軽減の可能性

     医師の働き方改革が進む中、医療教育の現場でも効率化と質の担保の両立が課題となっている。AIを活用した仮想患者による問診評価について、指導医による評価と比較した研究が発表された。AIの評価は指導医と高い一致を示し、評価時間は6割以上短縮されたという。研究は、順天堂大学医学部総合診療科の髙橋宏瑞氏らによるもので、詳細は2月17日付の「JMIR Medical Education」に掲載された。

     適切な臨床面接は正確な診断と患者との信頼関係構築に不可欠であり、従来は実際の患者や模擬患者との実習と指導医の指導によって習得されてきた。近年は、「何年経験したか」ではなく「何ができるようになったか」で評価する能力基盤型医学教育(CBME)が広がり、評価や記録業務の負担が課題となっている。こうした中、大規模言語モデル(LLM)を用いた生成AIによる仮想患者と自動評価の仕組みが登場しているが、専門家評価との一致や妥当性の検証は十分ではない。本研究では、AIによる臨床面接評価と指導医による評価の一致度を比較し、AIが代替可能かを検証するとともに、評価時間の短縮効果や経験差による影響を検討した。

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     標準化された「脚の脱力」の症例をAIの仮想患者として設定し、医学生2人、研修医3人、指導医2人の計7人がそれぞれ問診を行った。面接内容を書き起こしたテキストを、25項目からなる評価尺度を用いて採点した。評価は3つの方法で比較した。まず、GPT-o1 ProとGPT-5 Proは、同じ条件(同じプロンプト)で各テキストを5回ずつ評価し、ハルシネーションや評価のばらつきを確認した。次に、別の臨床指導医5人が同じ基準で独立に採点した。一致度はPearson相関係数(r)や級内相関係数(ICC)などで評価し、1件あたりの所要時間と時間短縮率も算出した。

     平均面接スコアは、AIによる評価と指導医による評価でほぼ同程度だった(GPT-o1 Proを用いたAI評価:平均52.1±6.9点、GPT-5 Proを用いたAI評価:平均53.2±9.2点、人間による評価:平均53.7±6.8点)。

     AI評価と人間評価の一致度は高く(r=0.90、Linの一致相関係数=0.88)、評価の偏りも小さかった(GPT-o1 Pro:平均差0.4±2.7点、GPT-5 Pro:平均差1.5±5.2点。Bland–Altman解析の一致限界はそれぞれ-4.9~5.7、-8.6~11.7)。

     信頼性を示すCronbachのα係数は、GPT-o1 Proで0.81、GPT-5 Proで0.86、人間評価で0.80といずれも高水準だった。一方、ICC(評価者間の一致度を示す指標)はAI評価で0.77および0.82と良好だったのに対し、人間評価では0.38にとどまった。さらに、評価のばらつきを示す変動係数はAI評価が6.6%で、人間評価(13.9%)の約半分だった。

     処理時間は、AIが3~4分程度で完了したのに対し、医師は約10分を要し、最大で約68%の時間短縮に相当した。

     著者らは、GPT-o1 ProおよびGPT-5 Proによる評価が指導医と同等の精度とより高い一貫性を示し、評価時間も大幅に短縮できたと報告している。その上で、「AIは人間評価者を補完または一部代替し得る可能性があるとしつつ、教育現場での活用には慎重な設計と継続的な人間の監督が不可欠だ」と強調している。

     なお、本研究は単一の模擬症例を対象とした小規模な検討にとどまる。著者らは、より多様な症例での検証や学習効果・費用対効果の評価に加え、実際の診療能力との関連を検証する必要があると指摘する。また、高い一致度が直ちに公平性を保証するわけではなく、性別や文化的背景などに関する潜在的なバイアスへの検証も不可欠だとしている。

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    HealthDay News 2026年4月6日
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  • 縦隔腫瘍・重症筋無力症の手術、主流は「低侵襲」へ――全国データ解析

     胸の中央の空間である縦隔に生じる腫瘍(縦隔腫瘍)の手術は、従来は胸を大きく開く開胸手術が主流だった。近年は胸腔鏡やロボットを用いた低侵襲手術の導入が進んでいるが、日本全体での実態は十分に明らかでなかった。今回、全国の医療保険データを解析した研究で、縦隔手術の多くが胸腔鏡で行われ、ロボット手術も増加していることが示された。研究は、稲毛病院整形外科の城戸優充氏、京都府立医科大学呼吸器外科学の岡田悟氏らによるもので、詳細は2月20日付で「International Journal of Clinical Oncology」に掲載された。

     胸腺上皮性腫瘍は発生頻度が低いものの、前縦隔に生じる腫瘍の中で最も多い。標準治療は外科切除であり、近年は胸腔鏡やロボット支援手術など低侵襲手術の導入が進んでいる。また、胸腺摘出術が行われる代表的疾患である重症筋無力症(MG)でも同様の手術手技の変化が報告されている。しかし、日本では縦隔手術の全国的な動向は十分に明らかでない。そこで本研究は、全国の医療保険データベースを用いて過去10年間の縦隔腫瘍手術の推移を解析した。

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     本研究では、日本の保険診療におけるレセプトデータの95%以上を網羅する厚生労働省の匿名医療保険等関連情報データベース(National Database of Health Insurance Claims and Specific Health Checkups:NDB)の公開集計データを用い、2014~2023年に行われた縦隔手術を解析した。手術は疾患区分(良性腫瘍、悪性腫瘍、MG)と手術アプローチ(開胸、胸腔鏡、ロボット支援手術)で分類し、10万人年当たりの手術率を算出した。10年間の経年推移については、手術件数を線形回帰分析、手術率をポアソン回帰分析で評価した。手術率は男性・女性・男女全体に加えて、10歳ごとの各年代についての解析も実施した。年齢調整は2015年標準人口を用いて行った。

     2023年に日本で行われた縦隔手術は全6,214件で、内訳は良性腫瘍54.4%、悪性腫瘍41.6%、MG 4.0%だった。手術アプローチでは、胸腔鏡手術が全体の76.4%を占め、ロボット支援手術は全体の29.4%だった。これは胸腔鏡手術の約4割がロボット支援下で行われていた計算になる。一方で、開胸手術は23.6%にとどまった。手術患者の45.1%は65歳以上だった。

     過去10年間で、全縦隔腫瘍手術の件数は有意に増加した(P=0.0001)。この増加は、悪性腫瘍手術、胸腔鏡手術、ロボット支援手術件数の増加によるもので、いずれも有意な上昇を示した(いずれもP<0.0001)。一方、MGに対する拡大胸腺摘出術と開胸手術件数は有意に減少していた(それぞれP=0.0019、P<0.0001)。良性腫瘍手術件数には有意な増減を認めなかった。

     手術率では、特に悪性縦隔腫瘍に対する手術率が男女ともに増加しており、相対リスクは男性1.051、女性1.065、全体で1.058だった(いずれもP<0.0001)。年代別の解析では、40歳以上の男女で有意に増加していた(P<0.0024)。

     著者らは、「日本では過去10年間で悪性縦隔腫瘍に対する手術が増加しており、手術アプローチは開胸から胸腔鏡やロボットなどの低侵襲手術へと大きく移行している」とまとめている。こうした結果は、今後の医療資源配分や外科医育成などを検討する上で参考となる。

     なお、本研究は保険請求データに基づく解析であり、腫瘍の組織型や病期などの臨床情報は把握できず、非手術症例も含まれない。また、MGに対する拡大胸腺摘出術の件数が過小評価されている可能性もある。

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    HealthDay News 2026年4月6日
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