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1月 15 2025 自傷行為に関する誤った認識が少なくない――日本人対象web調査
自傷行為に関する人々の認識を調査した結果が報告された。固定観念を持つ人が少なくないこと、自傷行為を行う人に適切に対応できる自信があると答えた人ほど、かえってその傾向が強いことなどが明らかにされている。お茶の水女子大学生活科学部心理学科の高橋哲氏らの研究であり、詳細は「PCN Reports」に11月5日掲載された。
青少年の6人に1人が自傷行為の経験を有するというデータがある。自傷行為自体は自殺を意図しない行為であり、用いられる方法や予期する結果や機能などの点で自殺と区別して考えられるものの、同時に、既往者はその後の人生で自殺を試みるリスクが高いとする報告があり早期の介入が重要とされる。しかし、自傷行為に関する誤った認識が人々の間で広くいきわたっているとされ、一例を挙げると、自傷行為は単に他者からの注目を集めたいがために行われるといったものがある。このような誤解は偏見を助長し、当事者がサポートを求める妨げとなる可能性がある。高橋氏らは、自傷行為に関する人々の認識を把握するとともにその認識に関連する要因を検討するため、webを用いた横断研究を実施した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。この研究は、2023年12月に、オンライン調査会社のパネル登録者を対象に実施された。教示を十分に読んでいないなど回答に際して十分な注意を払っていない者を除外した上で、20~60歳代(10歳ごと)の男女、計10カテゴリーの有効回答数が各200件に達するまで回答を受け付け、合計2,000人を解析対象とした。調査内容は、主に先行研究の結果に基づいてリスト化された、自傷行為に関してよく聞かれることのある14項目の誤解や信念を掲げ、それらに対する同意の程度を1~6点(全くあてはまらない~よくあてはまる)のリッカート尺度で回答してもらうというもの。解析に際しては、1~3点を非同意、4~6点を同意とした。
解析対象者の主な特徴は、平均年齢が44.6±14.3歳、既婚者52.0%、子どもありが38.7%で、13.5%は家族や知人に自傷行為を繰り返している人がおり、5.3%は対人援助職(医師、看護師、教師、心理士、カウンセラーなど)としての勤務経験があり、9.1%は自傷行為を行う人がいたら適切に対応できる自信があると回答した。
14項目の誤解・信念への同意率は、21.0~68.7%の範囲だった。同意率が高い項目は、「自傷行為の経験を友人や知人に打ち明ける未成年者は非常に少ない(68.7%)」、「リストカットをはじめとする自傷行為は、自殺未遂の一形態である(68.3%)」、「自傷行為の大半はリストカットである(51.4%)」、「自傷行為は、精神疾患を患っている人の行為である(48.9%)」、「自傷行為はまわりの注目を集めるために行われる(40.8%)」などだった。
それぞれの誤解・信念を従属変数、性別、年齢層、および、家族や知人に自傷行為を繰り返している人の有無、対人援助職経験の有無、自傷行為を行う人への対応能力の自信の有無などを独立変数とするロジスティック回帰分析を施行。その結果、男性は「自傷行為は、めったにみられない現象である」への同意が女性より多く(調整オッズ比〔aOR〕1.45〔95%信頼区間1.17~1.79〕)、一方で女性は「自傷行為はもっぱら刺激を求めて行われる」(男性のaORが0.77〔同0.62~0.96〕)を含む複数の誤解・信念への同意が男性より多かった。
年齢層との関連を見ると、若年層は「自傷行為はもっぱら刺激を求めて行われる」と捉える傾向が認められた(20~29歳を基準として他の年齢層はaOR0.25~0.59で有意)。また、対人援助職経験を有することは、「自傷行為はまわりの注目を集めるために行われる」の同意と関連していた(aOR1.62〔1.07~2.46〕)。
このほか、自傷行為を行う人へ適切に対応する自信があると回答した人は、誤解にむしろ同意する傾向が強かった(14項目中10項目に関連)。この点について著者らは、自己能力の過大評価により複雑な現象を単純化して解釈しやすくなることなどが関与している可能性を指摘し、「偏った認識に基づく善意のサポートが当事者には逆効果になり得る」と注意を喚起。論文の結論は、「本研究により自傷行為の予防介入に関する新たな知見を得られた。自傷行為に関する固定観念を持つことや早急な解釈の一般化を避けること、および研究者からの正確な情報の発信が、この社会課題の解決と当事者のサポートに不可欠である」と述べられている。
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12月 16 2024 スポーツの「観戦」にも有意な健康効果――日本人対象の縦断的研究
スポーツを「する」のではなく、「見る(観戦する)」ことも、健康増進につながることを示した、国内での縦断的研究の結果が報告された。観戦頻度の高い人は1年後のメンタルヘルスや生活習慣の指標が良好だったという。ただし、テレビなどのメディアでの観戦では、一部の身体疾患のリスクが上昇する可能性も示唆されたとのことだ。公益財団法人明治安田厚生事業団体力医学研究所の川上諒子氏らの研究によるもので、詳細は「Preventive Medicine」12月号に掲載された。
スポーツを含む身体活動を実践することの健康効果については、膨大なエビデンスの裏付けがある。しかし、スポーツを観戦することが健康に与える影響については、因果関係の証明にはならない横断研究の報告があるものの、因果関係を検討可能な長期間の縦断研究は過去に行われていない。これを背景として川上氏らは、健診受診者対象の前向きコホート研究「明治安田ライフスタイル研究(MYLSスタディ)」のデータを用いた縦断的解析を行った。
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ベースライン時点から1年後、身体的な健康や生活習慣、幸福感などに関する20項目のアウトカムを評価。結果に影響を及ぼし得る因子(年齢、性別、教育歴、就労状況、婚姻状況、独居/同居、暮らし向き、高血圧・糖尿病・脂質異常症・高尿酸血症・睡眠障害に対する処方薬数)を調整後、以下のような関連が明らかになった。
まず、現地でのスポーツ観戦が過去1年間に1日もなかった群(65.5%)に比較して、2日以上観戦していた群(21.7%)は、中等度の心理的ストレスを抱えるリスクが17%低く(リスク比〔RR〕0.83〔95%信頼区間0.72~0.95〕)、重度の心理的ストレスの該当者も有意に少なかった(オッズ比0.43〔同0.23~0.79〕)。
また、現地での観戦頻度が高いほど心理的ストレスを抱えるリスクが低下するという関連が認められた(傾向性P値が中等度ストレスについては0.011、重度ストレスは0.016)。同様に、現地で観戦した人は脂質異常症のリスクが低く(1年間に2日以上観戦でRR0.89〔0.79~1.00〕、傾向性P=0.049)、さらに生活習慣の改善に前向きであった(行動変容ステージが前熟考期であることのRRが0.77〔0.64~0.93〕、傾向性P=0.005)。
次に、メディアでの観戦が過去1カ月間に1日もなかった群(41.6%)に比較して、週に1日以上観戦していた群(27.8%)は、身体活動不足であることが少なく(RR0.94〔0.88~1.00〕、傾向性P=0.038)、朝食欠食が少なく(RR0.85〔0.75~0.96〕、傾向性P=0.008)、幸福感が高かった(RR1.08〔1.00~1.17〕、傾向性P=0.048)。
ただし、メディアでの観戦は、BMIの上昇(β=0.03〔0.00~0.05〕、傾向性P=0.025)のほか、高血圧(RR1.09〔1.01~1.19〕、傾向性P=0.026)や糖尿病(RR1.16〔1.02~1.31〕、傾向性P=0.018)のリスク上昇と関連していた。
著者らは本研究を「スポーツ観戦の頻度と健康状態などとの関連を、大規模かつ縦断的に解析した初めての研究」と位置づけ、「現地観戦でもメディアでの観戦でも、スポーツを見ることでメンタルヘルスや生活習慣が良好になる可能性が示された。一方で、メディアでの観戦には肥満や生活習慣病のリスクが潜んでいることも示唆された」と総括している。なお、メディア観戦がいくつかのアウトカムに負の影響を及ぼし得る点については、「座ったままで飲食をしながら観戦するという、いわゆる“カウチポテト”になりやすいことの影響も考えられる」と考察している。
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社員の生活習慣とメンタルヘルス関連の欠勤率や離職率に有意な関連
運動習慣のある社員や良好な睡眠を取れている社員の割合が高い企業ほど、メンタルヘルス関連での欠勤者や離職者が少ないという有意な関連のあることが明らかになった。順天堂大学医学部総合診療科学講座の矢野裕一朗氏らの研究結果であり、詳細は「Epidemiology and Health」に8月2日掲載された。
メンタルヘルスは世界各国で主要な健康課題となっており、日本人のメンタルヘルス不調の生涯有病率は20%を超えるというデータも報告されている。メンタルヘルス不調者の増加はその治療のための医療費を増大させるだけでなく、欠勤やプレゼンティズム(無理して出勤するものの生産性が上がらない状態)を介して間接的な経済負担増大につながる。このような社会課題を背景に経済産業省では、企業の健康経営を推進するため、健康経営優良法人の認定や健康経営銘柄の選定などを行っており、それらの基礎資料とするため「健康経営度調査」を行っている。

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健康経営度調査では、喫煙者率、習慣的飲酒者率のほかに、普通体重(BMI18.5~25)の社員や運動習慣(1回30分、週2回以上)のある社員の割合、よく眠れている社員の割合、および、メンタルヘルス関連の欠勤率や離職率などが調査されている。矢野氏らは、2020年度の同調査のデータを用いた横断的検討を行った。この年の回答者数は1,748社で、社員数は合計419万9,021人、女性が26.8%、勤続年数は平均14.4±4.6年であり、メンタルヘルス関連の欠勤率は1.1±1.0%、離職率は5.0±5.0%だった。
交絡因子未調整の粗モデルの解析では、メンタルヘルス関連の欠勤率に関しては普通体重者の割合を除いて、前記の因子の全てが有意に関連していた。交絡因子(業種、上場企業か否か、勤続年数、および全ての生活習慣関連指標)を調整すると、習慣的飲酒者率との関連は有意性が消失したが、その他の因子は以下のように引き続き有意だった。まず、運動習慣のある社員が1パーセントポイント(PP)多いと、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.005%低く(P=0.021)、よく眠れている社員が1PP多いことも同様に欠勤率が0.005%低いという関連があった(P=0.016)。また、喫煙者率が1PP高いことも、メンタルヘルス関連の欠勤率が0.013%低いことと関連していた(P<0.001)。
次に、離職率について見ると、粗モデルでの段階で、普通体重者の割合と運動習慣のある社員の割合は関連が非有意だった。前記同様の交絡因子を調整後、喫煙者率と習慣的飲酒者率については有意性が消失し、よく眠れている社員の割合のみが有意な因子として残り、その割合が1PP多いと離職率が0.020%低かった(P=0.034)。
著者らは、本研究が横断研究であるため因果関係の解釈は制限されるとした上で、「運動の奨励や睡眠習慣の指導は、社員のメンタルヘルス関連の欠勤や離職を防ぐ介入として有用といえるのではないか」と述べている。なお、喫煙者率が高いほどメンタルヘルス関連の欠勤が少ないという結果について、「今回のような一時点での横断解析では、先行研究においても、喫煙がストレスを軽減するというデータがある。しかし、経時的に評価した縦断研究では喫煙がメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことや、禁煙介入によりメンタルヘルスが改善されることがシステマティックレビューからも報告されている。本研究は観察的および横断的なデザインであり、因果関係を立証することはできず、この点は限界点として認識すべき」と考察を述べている。
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