• 男性患者のED・LUTSに潜む肝線維化、FIB-4 indexによる包括的アセスメントの重要性

     男性のEDや下部尿路症状(LUTS)は、前立腺やホルモンの問題として扱われることが多い。しかし、新たな研究で、肝臓の状態もこれらの症状に関係している可能性が示された。男性更年期障害(LOH)のある男性2,369人を対象に、肝線維化指標(FIB-4 index)を用いた解析を行ったところ、FIB-4 indexの上昇とEDおよびLUTSの悪化が有意に関連することが明らかになった。研究は順天堂大学医学部附属浦安病院泌尿器科の上阪裕香氏、辻󠄀村晃氏らによるもので、詳細は10月31日付で「Investigative and Clinical Urology」に掲載された。

     中高年男性におけるLOHや性機能障害は、代謝異常や動脈硬化と関連することが報告されている。一方、近年の食生活の乱れや飲酒により、男性の肝機能障害が増加しており、早期発見の重要性が高まっている。肝線維化を評価する非侵襲的指標としてFIB-4 indexが注目され、性機能やLUTSとの関連も示唆されているものの、大規模集団を対象とした包括的解析は限られている。こうした背景を踏まえ、本研究ではFIB-4 indexと性機能、LUTS、LOH指標との関係を明らかにするため、診療データを後ろ向きに解析した。

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     本研究では、2016年5月〜2024年3月に順天堂大学医学部附属浦安病院および関連クリニックを受診したLOH症状のある男性2,369名を後ろ向きに解析した。LUTS、性機能、LOHの評価には、国際前立腺症状スコア(IPSS)と生活の質指数、勃起機能問診票(SHIM)および勃起の硬度スケール(EHS)、男性更年期障害質問票(AMS)をそれぞれ用いた。内分泌・代謝指標としてDHEA-S、IGF-1、総テストステロン、コルチゾール、HbA1c、中性脂肪を測定し、FIB-4 index は五分位に層別化した。まずFIB-4 indexと各臨床指標との関連をトレンド解析で検討し、続いてFIB-4 indexと有意に関連した内分泌・代謝因子を調整因子として、症状スコアとの関連を多変量解析で評価した。有意であった症状スコアについては、その重症度とFIB-4 indexとの関係も追加で検討した。

     患者の平均年齢は50.6歳であった。解析の結果、FIB-4 indexの五分位が上昇するにつれて、年齢や肝酵素値は高くなり、血小板数は低下する傾向が認められた(傾向検定、いずれもP<0.001)。症状スコアについても、FIB-4 indexの上昇に伴い、IPSSおよびAMSは上昇し、SHIMおよびEHSは低下することが示された(同 P<0.001)。

     内分泌因子では、DHEA-SおよびIGF-1はFIB-4 indexの上昇に伴い低下し、コルチゾールは上昇した(同P<0.001)。興味深いことに、FIB-4 indexとテストステロン値との間には有意な関連は認められなかった(同P=0.091)。同様に、代謝指標では、FIB-4 indexの上昇に伴いHbA1cは増加した(同P<0.001)が、中性脂肪との関連は見られなかった(同P=0.181)。

     さらに、症状スコアをDHEA-S、IGF-1、コルチゾール、HbA1cで補正した多変量回帰解析を実施した。その結果、FIB-4 Indexが上昇するにつれてSHIMスコアは低下し(同P<0.001)、重度のEDの場合(SHIMスコアが低い)ではFIB-4 indexも高値を示した(同P<0.001)。同様に、FIB-4 indexが上昇するほどIPSSは増加し(同P<0.001)、LUTSが重い場合(IPSSが高い)ではFIB-4 indexも高値であった(同P<0.001)。

     著者らは、「本研究では、大規模コホートでEDやLUTSがFIB-4 Indexで評価される肝線維化と密接に関連することを示した。この結果は、症状を呈する男性の評価において潜在的肝線維化も考慮した多職種的アプローチの重要性を示唆している。今後は、縦断的なホルモン測定や画像・組織評価を組み込んだ前向き研究が求められる」と述べている。

     なお、本研究の限界として、後ろ向き研究であるため生活習慣や併存疾患の影響を十分に評価できなかったこと、また前立腺容積や尿流測定などの客観的泌尿器評価や、ホルモンの縦断的測定も行われなかったことを挙げている。

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    HealthDay News 2025年12月8日
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  • 肝疾患患者の「フレイル」、独立した予後因子としての意義

     慢性肝疾患(CLD)は、肝炎ウイルス感染や脂肪肝、アルコール性肝障害などが原因で肝機能が徐々に低下する疾患で、進行すると肝硬変や肝不全に至るリスクがある。今回、こうした患者におけるフレイルの臨床的意義を検討した日本の多機関共同後ろ向き観察研究で、フレイルが独立した予後不良因子であることが示された。研究は、岐阜大学医学部附属病院消化器内科の宇野女慎二氏、三輪貴生氏らによるもので、詳細は9月20日付けで「Hepatology Reseach」に掲載された。

     CLDは進行すると予後不良となることが多く、非代償性肝硬変患者では5年生存率が約45%と報告されている。このため、将来的な疾患進行や合併症のリスクを減らすには、高リスク患者の早期特定が重要である。一方、最近の研究では、フレイルもCLD患者の予後に影響する独立因子であることが示されており、肝機能だけでなく身体全体の脆弱性を考慮した評価の重要性が指摘されている。Clinical Frailty Scale(CFS)は2005年に開発され、米国肝臓学会もCLD患者のフレイル同定に推奨する評価ツールであるが、これまで日本人CLD患者においてCFSを用いた評価は行われておらず、その臨床的意義は明らかでなかった。こうした背景から、著者らはCFSを用いて日本人CLD患者のフレイルの有病率、臨床的特徴、ならびに予後への影響を明らかにすることを目的とした。

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     本研究では、2004年3月~2023年12月の間に岐阜大学医学部附属病院、中濃厚生病院、名古屋セントラル病院に入院した成人CLD患者とした。CFSスコアは、入院当日の情報に基づき、併存疾患、日常生活動作、転倒リスクに関する質問票を後ろ向きに評価し、スコアが5以上(CFS 5~9)の場合をフレイルと定義した。本研究の主要評価項目は全死亡とした。群間比較には、カテゴリ変数に対してはカイ二乗検定、連続変数に対してはマン・ホイットニーU検定を用いた。生存曲線はカプラン–マイヤー法で推定し、群間差はログランク検定で比較した。フレイルが死亡に与える予後影響はCox比例ハザードモデルで評価し、結果はハザード比(HR)と95%信頼区間(CI)で示した。フレイルと関連する因子は多変量ロジスティック回帰モデルで解析した。

     最終的に、本研究には715人のCLD患者(中央値年齢67歳、男性49.5%)が含まれた。最も多かった病因はウイルス性(38.7%)であり、続いてアルコール性(22.2%)、代謝機能障害関連(9.5%)であった。Child–Pugh分類およびModel for End-Stage Liver Disease(MELD)スコアの中央値はそれぞれ7と9であり、CFSスコアの中央値は3であった。これらの患者のうち、フレイルは137人(19.2%)に認められた。フレイル患者のCFSスコア中央値は6であり、年齢が高く、BMIが低く、肝予備能も低い傾向にあった。

     中央値2.9年の追跡期間中に221人(28.0%)が肝不全などで死亡した。フレイル患者は、非フレイル患者に比べて有意に生存期間が短かった(中央値生存期間:2.4年 vs. 10.6年、P<0.001)。多変量Cox比例ハザード解析の結果、フレイルはCLD患者における独立した予後不良因子であることが示された(HR:1.75、95%CI:1.25~2.45、P=0.001)。

     また、フレイルの決定因子に関して、多変量ロジスティック回帰解析をおこなったところ、高齢、肝性脳症、低アルブミン血症、血小板減少、国際標準比(INR)の延長がフレイルと関連していることが示された。さらにフレイルの有病率はChild–Pugh分類の悪化とともに有意に増加し、Child–Pugh A群では4%、B群では22%、C群では55%の患者にフレイルが認められた。

     著者らは、「本研究から、CLD患者ではフレイルが高頻度に認められ、独立した予後不良因子としての役割を持つことが示された。予後への影響を考慮すると、CLD患者ではフレイルを日常的に評価し、転帰改善を目的とした介入を検討することが望ましい」と述べている。

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    HealthDay News 2025年10月27日
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