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1月 06 2025 日本人透析導入患者の肥満化が一般人口以上のスピードで進行中
末期腎不全(ESKD)日本人患者のBMIを経年的に解析した結果、年々肥満者の割合が増加していて、その増加率は一般人口を大きく上回っていることが明らかになった。新潟大学大学院医歯学総合研究科臓器連関学寄附講座の若杉三奈子氏、同大学院腎・膠原病内科の後藤眞氏の研究によるもので、詳細が「Nephrology」に10月27日掲載された。
世界的に人々の肥満化が進んでいて、欧米からは新規のESKD患者にもその傾向が見られることが報告されている。しかし日本では、一般男性の肥満化傾向はあるものの女性ではその傾向が認められず、また新規のESKD患者における傾向はよく分かっていない。肥満は直接的に、および糖尿病や高血圧を介して腎機能低下を促進することから、仮に日本人患者も肥満化が進行しているのであれば、今後の透析導入患者数抑制のために体重管理の重要性を強く啓発していく必要がある。若杉氏らは以上を背景として、日本透析医学会が毎年調査を実施し構築している透析患者レジストリー(JRDR)と、厚生労働省「国民健康・栄養調査」のデータを用いて比較解析を行った。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。解析には2006~2019年にわたる14年間のデータを用いた。ESKDは維持透析の開始で定義し、肥満および低体重は透析導入された年の年末調査時のBMIにより判定した。なお、透析導入年齢は2006年が男性66.2±12.9歳、女性68.4±13.5歳、2019年は同順に69.7±13.1歳、72.2±13.2歳と高齢化していた。透析導入の原因疾患は糖尿病性腎症が多いものの、その割合に経年的な変化はなく、男性・女性ともに腎硬化症が年々増加していた。
まず、男性の肥満者(BMI25以上)率の変化を見ると、2006年時点においてESKD群におけるその割合は18.9%であり、年齢を一致させた一般人口における割合は28.1%、2019年には同順に29.5%、32.6%であって、両群ともに増加していた。ただし、年平均変化率(AAPC)として見ると、前者は3.36(95%信頼区間2.70~4.09)、後者は0.87(同0.26~1.42)であり、ESKD群の方が4倍近い速さで肥満者が増えていることが分かった。
続いて女性の肥満者率の変化を見ると、2006年時点においてESKD群におけるその割合は15.7%であり、一般人口における割合は20.6%と、ESKD群の肥満者割合の方が低かった。ところが2019年には同順に24.9%、20.6%であり、一般人口は変化がなくESKD群が逆転していた。AAPCは前者が2.86(1.65~4.19)、後者は0.01(-0.55~0.57)だった。
次に、低体重者(BMI18.5未満)の割合の変化に着目すると、男性は2006年時点においてESKD群は14.4%、一般人口は5.1%、2019年には同順に10.9%、4.0%であり、AAPCは前者が-2.32(-3.58~-1.13)、後者は-1.47(-2.71~-0.21)と、両群ともに減少していて、ESKD群の減少速度の方が速かった。ただし、2019年時点においてもなお、ESKD群の低体重者の割合は一般人口の3倍近くに上った。
女性の低体重者の割合は、2006年時点においてESKD群は24.4%、一般人口は9.8%、2019年には同順に21.0%、12.8%であり、AAPCは前者が-1.59(-3.09~-0.04)、後者は0.87(-0.02~1.78)であり、ESKD群では有意に減少し一般人口では有意な変化がなかった。ただし男性同様に、2019年時点においてもESKD群の低体重者の割合は一般人口より顕著に高かった。
以上を基に著者らは、「日本でもESKD患者の肥満化傾向が認められたが、同時に依然として低体重者が一般人口よりもはるかに多いことが示された。ESKDリスクのある集団に対する公衆衛生施策として、肥満と低体重の回避を促すメッセージを発信する必要がある」と述べている。
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糖尿病の3大合併症として知られる、『糖尿病性腎症』。この病気は現在、透析治療を受けている患者さんの原因疾患・第一位でもあり、治療せずに悪化すると腎不全などのリスクも。この記事では糖尿病性腎病を早期発見・早期治療するための手段として、簡易的なセルフチェックや体の症状について紹介していきます。
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12月 06 2024 国内高齢者の4人に1人、75歳以上では3人に1人がCKD
日本人高齢者の4人に1人は慢性腎臓病(CKD)であり、75歳以上では3人に1人に上ることが明らかになった。広島大学医系科学研究科疫学・疾病制御学分野の福間真悟氏、東京慈恵会医科大学腎臓・高血圧内科学の小林亜理沙氏らが、全国約60万人の健診データを用いて推計した結果であり、詳細は「Clinical and Experimental Nephrology」に10月5日掲載された。
国内のCKD患者数は、2009年に行われた調査を基に「成人の約13%、約1330万人が該当する」とされている。しかしこの調査から15年たち、平均寿命の延伸、CKDリスクに関連のある糖尿病などの生活習慣病の有病率の変化により、CKD患者数も変化していると考えられる。特に腎機能は加齢とともに低下することから、高齢者の最新のCKD有病率を把握することが重要と考えられる。これらを背景として福間氏らは、全国規模の医療費請求データおよび健診データの商用データベース(DeSCヘルスケア株式会社)を用いた新たな解析を行った。
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解析対象者の年齢は中央値69.9歳(四分位範囲67.9~76.2)、女性57.4%で、56.8%が高血圧、48.4%が脂質異常症、14.7%が糖尿病を有していた。基本的に、医療機関を受診するような健康状態が悪い集団は健診を受けにくい。そのため、健診受診者のみを分析する従来の集計方法では、健康状態の良い偏った集団の結果となり、CKDの有病割合を過小評価する可能性があった。本研究では、逆確率重み付け法という統計学的手法により、健診を受けていない群との年齢や性別、保険加入状況、過去の健診受診回数の影響を調整した解析を行い、一般集団のCKD有病割合を適切に推定した。その結果、65歳以上でのCKD有病率は25.3%と、ほぼ4人に1人が該当すると考えられた。
75未満/以上で層別化すると、65~74歳での有病率は11.8%だったが、75歳以上では34.6%と、3人に1人以上が該当した。より細かく5歳刻みで見た場合、65~69歳は9.6%、70~74歳は13.43%、75~79歳は25.47%、80~84歳は36.21%、85~89歳は49.41%だった。
また、CKDステージについては、G2(eGFR60~89mL/分/1.73m2〔腎機能が正常または軽度低下〕)が77.09%と多くを占め、次いでG3a(同45~59〔軽度~中等度低下〕)が17.68%、G3b(30~44〔中等度~高度低下〕)が4.44%だった。蛋白尿区分ではA1(正常)が95.5%、A2(微量アルブミン尿)が4.22%、A3(顕性アルブミン尿)が0.28%だった。
このほか、併存疾患に着目すると、高血圧はCKD群の66.8%、非CKD群の54.8%に見られ、糖尿病は同順に18.2%、13.9%、肥満(BMI25以上)は31.8%、23.0%に認められ、群間差が有意だった(全てP<0.01)。
これらの結果に基づき著者らは、「日本の高齢者人口におけるCKDの有病率は約25%と推計された。この有病率は加齢とともに増加するが、多くの患者は軽度の腎機能低下にとどまっている」と総括。また、CKDは心血管イベントや末期腎不全への進行リスクが高いとは言え、大半の高齢CKD患者は比較的軽症だと明らかになったことから、「特に高齢者では、CKDの基準を満たす者の中で医療介入の必要性がより高い集団を抽出し得る因子の特定が必要」と述べ、このテーマに関する研究を進めることを現在計画しているという。
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12月 03 2024 CKDの早期からうつ病リスクが上昇する
腎機能低下とうつ病リスクとの関連を解析した結果が報告された。推定糸球体濾過量(eGFR)が60mL/分/1.73m2を下回る比較的軽度な慢性腎臓病(CKD)患者でも、うつ病リスクの有意な上昇が認められるという。東京大学医学部附属病院循環器内科の金子英弘氏、候聡志氏らの研究によるもので、詳細は「European Journal of Clinical Investigation」に9月27日掲載された。
末期のCKD患者はうつ病を併発しやすいことが知られており、近年ではサイコネフロロジー(精神腎臓学)と呼ばれる専門領域が確立されつつある。しかし、腎機能がどの程度まで低下するとうつ病リスクが高くなるのかは分かっていない。金子氏らは、医療費請求データおよび健診データの商用データベース(DeSCヘルスケア株式会社)を用いた後ろ向き観察研究により、この点の検討を行った。
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1,218±693日の追跡で4万5,878人(全体の3.0%、男性の2.6%、女性の3.3%)にうつ病の診断が記録されていた。ベースライン時のeGFR別に1,000人年当たりのうつ病罹患率を見ると、90mL/分/1.73m2以上の群は95.6、60~89の群は87.4、45~59の群は102.1、30~44の群は146.5、15~29の群は178.6、15未満の群は170.8だった。
交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、高血圧・糖尿病・脂質異常症)を調整後に、eGFR60~89の群を基準として比較すると、他の群は全てうつ病リスクが有意に高いことが示された。ハザード比(95%信頼区間)は以下のとおり。eGFR90以上の群は1.14(1.11~1.17)、45~59の群は1.11(1.08~1.14)、30~44の群は1.51(1.43~1.59)、15~29の群は1.77(1.57~1.99)、15未満の群は1.77(1.26~2.50)。また、尿タンパクの有無での比較では、陰性群を基準として陽性群は1.19(1.15~1.24)だった。
3次スプライン曲線での解析により、eGFRが65mL/分/1.73m2を下回るあたりからうつ病リスクが有意に上昇し始め、eGFRが低いほどうつ病リスクがより高くなるという関連が認められた。
これらの結果に基づき著者らは、「大規模なリアルワールドデータを用いた解析の結果、CKDの病期の進行とうつ病リスク上昇という関連性が明らかになった。また、早期のCKDであってもうつ病リスクが高いことが示された。これらは、CKDの臨床において患者の腎機能レベルにかかわりなく、メンタルヘルスの評価を日常的なケアに組み込む必要のあることを意味している」と総括。また、「今回の研究結果は、サイコネフロロジー(精神腎臓学)という新たな医学領域の前進に寄与すると考えられる」と付け加えている。
なお、eGFRが90以上の群でもうつ病リスクが高いという結果については、「本研究のみではこの理由を特定することは困難だが、CKD早期に見られる過剰濾過との関連が検出された可能性がある」と考察されている。
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5月 30 2023 CKDに対する集学的治療で腎機能低下が抑制される――国内多施設共同研究
慢性腎臓病(CKD)に対する集学的治療(MDC)の有効性を示すエビデンスが報告された。MDC介入後には腎機能(eGFR)低下速度が有意に抑制されるという。国内多施設共同研究の結果であり、日本大学医学部腎臓高血圧内分泌内科の阿部雅紀氏らによる論文が「Clinical and Experimental Nephrology」に3月31日掲載された。MDCに携わるスタッフの職種数や介入回数が多いほど、腎代替療法や全死亡のリスクが低下するというデータも示されている。
CKDが進行すると生命維持のために腎代替療法(透析または腎移植)が必要となるなど、患者本人のQOLが低下するだけでなく医療経済的な負担も大きくなる。日本は人口当たりの透析患者数が台湾に次いで世界2位であり、CKDの進行を抑える治療戦略の確立が喫緊の課題となっている。CKDの進行抑制には、薬物療法に加えて食事療法や運動療法が重要で、それらをサポートする看護師、管理栄養士、薬剤師や理学療法士などを含む多職種によるMDCが有効と考えられる。国内では2017年に腎臓病療養指導士制度がスタートするなど、MDCを積極的に行う環境が整ってきた。阿部氏らは、国内24施設の多施設共同後方視的コホート研究として、MDCがどのように行われているかという実態の把握と、その有効性を評価した。
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解析対象者のMDC介入時点(ベースライン)の主な特徴は、平均年齢70.5±11.6歳、男性74.2%、eGFRは中央値23.5mL/分/1.73m2(四分位範囲15.1~34.4)、尿タンパクは同1.13g/gCr(0.24~3.1)であり、CKDステージは3が34.5%、4が41.4%、5が24.1%だった。
MDC介入は58.7%が入院で行われ、41.3%は外来で行われていた。入院日数または介入回数(外来)は、入院の場合は中央値7日(四分位範囲6~12)、外来では4回(1~11)で、関与していたスタッフの職種は4職種(3~5)であり、医師以外のスタッフでは管理栄養士(90.4%)、看護師(86.2%)、薬剤師(62.3%)、理学療法士(25.9%)、臨床検査技師(5.9%)、ソーシャルワーカー(2.3%)などが関与していた。
MDC介入前の1年当たりのeGFR低下速度(mL/分/1.73m2/年)は平均-6.02だった。それに対してMDC介入後の6カ月は-0.34、12カ月では-1.40、24カ月では-1.45であり、いずれの時点でも介入前より低下速度が有意に抑制されていた。CKDの原因(糖尿病と糖尿病以外)やベースライン時のCKDステージで層別化した解析でも、全てのサブグループでMDC介入後にeGFR低下速度が有意に抑制されていた。副次的評価項目として設定されていた尿タンパク(g/gCr)も、MDC介入時点で中央値1.13であったものが、介入6カ月後は0.96、12カ月後は0.82、24カ月後は0.78と、いずれの時点でも有意に改善を示していた。
中央値35カ月(20~50)の観察期間中に、24.8%に腎代替療法が行われ、4.9%が死亡していた。それら両者を複合エンドポイントとしたCox比例ハザードモデルによる解析の結果、MDCに関与するスタッフの職種〔1職種多いごとにハザード比(HR)0.85(95%信頼区間0.80~0.89)〕や、介入回数〔1回多いごとにHR0.97(同0.96~0.98)〕の多さが、エンドポイント発生リスクの低さと関連していた。また、MDCに栄養士〔HR0.49(0.36~0.66)〕、理学療法士〔HR0.46(0.22~0.93)〕が関与している場合は、それらのスタッフが関与していない場合よりもエンドポイント発生リスクが有意に低いことが分かった。
以上より著者らは、「CKD患者に対するMDCは、原疾患にかかわりなく効果的であり、また比較的初期の段階での介入も有効と考えられる」と結論付けている。
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