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7月 22 2025 糖尿病患者では血清脂質レベルと黄斑体積が相関か
糖尿病(DM)の深刻な合併症として、糖尿病網膜症(DR)が挙げられるが、今回、糖尿病患者で血清中の脂質レベルと網膜黄斑体積が関連するという研究結果が報告された。DMがあるとDRがなくても網膜黄斑体積が減少し、また、DMがなくても血清脂質が高いと体積は減少することが示された。さらに、DRがあり、かつ血清脂質が高いと網膜黄斑体積が病的に増加する可能性が示唆されたという。研究は慶應義塾大学医学部眼科の虫賀庸朗氏、永井紀博博士、および同眼科にも籍を置く藤田医科大学東京先端医療研究センターの小沢洋子教授らによるもので、詳細は「PLOS One」に6月4日掲載された。
血糖値のコントロールがDRの進行予防に有効であることは以前から報告されているが、近年では、脂質異常症の管理にも注目が集まっている。国内の「糖尿病網膜症診療ガイドライン」では、脂質異常症を適切に管理することでDRの進行を予防できる可能性が示唆されている。しかし、血清中の脂質レベルと網膜神経組織との潜在的な関係は依然として明らかになっていない。このような背景を踏まえ、著者らは視力の判定基準となる黄斑部の網膜組織体積と血清中脂質濃度の関係を評価することを目的として、健常対照群、DM患者、DMでDRを合併している患者を比較する横断的観察研究を実施した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究は2020年10月1日から2022年9月30日にかけて実施され、解析対象にはDM患者29名と、年齢をマッチさせた健常者12名の計41名が含まれた。解析は全参加者の右目41眼を対象に行った。網膜黄斑部の厚みは、光干渉断層撮影(OCT)を用いて撮影された。撮影は訓練を受けた視能訓練士によって行われ、各スキャンは4回の平均化で画像の質を高めた。撮影後、直径3mmの範囲内で網膜神経線維層(RNFL)、神経節細胞層(GCL)、神経網膜層(NRL)の厚みや体積が自動的に測定され、画像および自動解析の精度は、2名の網膜専門医により確認された。血液採取はOCTの実施と同日に行われ、HbA1c、総コレステロール(TC)、低密度リポ蛋白コレステロール(LDLC)、マロンジアルデヒド修飾LDL(MDA-LDL)、高密度リポ蛋白コレステロール(HDLC)が測定された。
全参加者41名の平均年齢は49.1歳であり、うち男性は23名であった。DM患者29名のうち、14名(14眼)にはDRは認められず(DM群〔DRなし〕)、15名(15眼)にはDRが認められた(DM群〔DRあり〕)。DM群(DRなし)では、対照群と比較して、GCL(P=0.023)およびNRL(P=0.013)の平均体積が有意に減少していた。DM群(DRあり)では、対照群との比較でGCLの体積が有意に減少していた(P=0.067)。
血液検査の結果、MDA-LDLの平均値は、DM群(DRなし)およびDM群(DRあり)で、対照群より有意に高かった(それぞれP=0.046、P=0.021)。一方、HDLC平均値はDM群(DRなし)およびDM群(DRあり)で対照群より低かった(それぞれP=0.004、P<0.001)。
次に各層の黄斑体積と血清中脂質レベルとの相関を解析した。対照群では、TC値はGCL(P=0.014)およびNRL(P=0.041)体積と負の相関を示した。一方、DM群(DRあり)群では、TC値はRNFL(P=0.001)およびNRL(P=0.013)体積と正の相関を示した。さらに、対照群ではLDLC値がGCL体積と負の相関を示し(P=0.005)、RNFL(P=0.060)およびNRL(P=0.051)体積とも同様の負の相関傾向が認められた。しかし、DM群(DRあり)群では、LDLC値はRNFL(P=0.002)、GCL(P=0.034)、およびNRL(P=0.002)体積と正の相関を示した。また、対照群ではMDA-LDL値がGCL(P=0.055)およびNRL(P=0.052)体積と負の相関傾向を示したが、DM群(DRあり)では、MDA-LDL値はRNFL(P<0.001)およびNRL(P=0.006)体積と正の相関を示した。
本研究について著者らは、「網膜黄斑部の体積は、糖尿病により減少し、糖尿病がなくても血清脂質が高いと減少する可能性が示唆された。ただし、糖尿病網膜症発症後に血清脂質が上昇すると、逆に黄斑部の体積が増加する可能性があることが分かった。これは、糖尿病網膜症の患者の場合、血液網膜関門の破壊が進行しているため、網膜内に脂質の蓄積が起こり、結果として黄斑部の体積が増加するというメカニズムが考えられる」と述べている。
なお、本研究は千寿製薬株式会社と聖路加国際病院での共同研究として開始され、その後千寿製薬株式会社と藤田医科大学での共同研究として引き継がれた。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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9月 19 2024 糖尿病黄斑浮腫へのSGLT2阻害薬使用で注射回数減
糖尿病黄斑浮腫患者に対するSGLT2阻害薬の使用は、ステロイド薬のトリアムシノロンアセトニド(TA)注射頻度の減少と関連しており、非侵襲的かつ低コストの補助療法となる可能性があるとの研究結果が発表された。君津中央病院糖尿病・内分泌・代謝内科の石橋亮一氏と千葉大学眼科、糖尿病・代謝・内分泌内科、人工知能(AI)医学による研究チームによる研究であり、「Journal of Diabetes Investigation」に6月14日掲載された。
増殖糖尿病網膜症による失明は、近年減少傾向ではあるが、糖尿病黄斑浮腫は、中高年の社会生活の質を低下させる重要な視力障害の原因となっている。糖尿病黄斑浮腫の第一選択薬は抗血管内皮増殖因子(VEGF)薬の硝子体内注射だが、眼球への頻回の注射と、高額な医療費が患者の負担となり、また奏功しない患者の存在も次第に明らかとなり、ステロイドテノン嚢下注射(STTA)なども選択される。ただし、TA投与も侵襲的な局所注射療法であり、眼圧上昇などの特有の副作用がある。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。一方、2型糖尿病などに広く用いられている経口薬のSGLT2阻害薬は、糖尿病黄斑浮腫への治療効果が報告されている。著者らの過去の研究では、抗VEGF薬投与歴のある糖尿病黄斑浮腫患者において、SGLT2阻害薬の使用が抗VEGF薬の投与頻度の減少と関連することを明らかにした。
著者らは今回の研究では、糖尿病黄斑浮腫へのTA投与に着目し、SGLT2阻害薬の有効性を評価するため、日本の保険請求データベースを用いた後ろ向きコホート研究を行った。糖尿病黄斑浮腫を合併する糖尿病患者を対象とし、他の眼疾患(加齢黄斑変性、網膜静脈閉塞症、脈絡膜新生血管など)への抗VEGF薬投与歴のある患者などは除外した。2014年以降のSGLT2阻害薬または他の糖尿病治療薬の使用開始日を指標日とし、指標日以降のTAのテノン嚢下または硝子体への投与頻度などを解析した。
傾向スコアマッチングを行い、SGLT2阻害薬使用群1,206人(平均年齢54±9歳、男性63%)と非使用群1,206人(同54±10歳、61%)が選択された。平均追跡期間はSGLT2阻害薬使用群が2.3±1.5年(2,727人年)、非使用群が3.4±2.1年(4,141人年)だった。観察開始時点で糖尿病関連眼疾患を合併していた患者は、SGLT2阻害薬使用群で852人(71%)、非使用群で858人(71%)、抗VEGF薬投与歴のある患者は同順に46人(3.8%)、15人(1.2%)、TA投与歴のある患者は55人(4.6%)、56人(4.6%)だった。
TAの投与頻度は、SGLT2阻害薬使用群で1,000人年当たり63.8回、非使用群で同94.9回だった。生存時間解析を行ったところ、SGLT2阻害薬は、初回のTA投与(ハザード比0.66、95%信頼区間0.50~0.87)、2回目のTA投与(同0.53、0.35~0.80)、3回目のTA投与(同0.44、0.25~0.80)が必要となるリスクをそれぞれ有意に低下させることが明らかとなった。さらに、さまざまな臨床背景によりサブグループ解析を行った結果、SGLT2阻害薬によるTAの投与頻度の減少効果は一貫して認められた。また硝子体手術の頻度も初回は2群間で差はなかったものの、2回目で有意に減少していた(同0.51、0.29~0.91)。
以上の結果から著者らは、「SGLT2阻害薬は、糖尿病黄斑浮腫に対する新たな非侵襲的かつ低コストの補助療法となる可能性がある」と結論付けている。SGLT2阻害薬の効果の基礎となるメカニズムとしては、局所代謝の改善、虚血の改善、浮腫の軽減などが考えられると説明した上で、SGLT2阻害薬の併用は糖尿病黄斑浮腫の発症予防などの報告もされていることから、より早期の糖尿病黄斑浮腫でより有効な可能性を指摘し、今後さらなる研究が必要だとしている。
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糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。
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