• 男性部下の育休に対する上司の怒り、背景に職場の不公平感とストレス

     男性が育児休業(育休)を取りにくい職場の空気はどこから生まれるのか。今回、男性の育休に対する上司の怒りは、業務負担や部下に対する責任感といった職場ストレスが原因となり、不公平感を介して生じている可能性があるとする研究結果が報告された。研究は筑波大学人間系の尾野裕美氏によるもので、詳細は「BMC Psychology」に7月1日掲載された。

     日本では男性の育児休業制度は国際的にみても手厚く整備されており、法的には長期間の取得が可能で、一定の所得補償も用意されている。しかし現実には、男性の育休取得率やその取得期間は依然として低く、制度が十分に活用されているとは言いがたい。従来の研究では、育休取得によるワークライフバランスの向上や仕事満足度の向上といった肯定的側面に主に焦点が当てられてきた。一方で、制度活用が職場内で生じさせる不公平感や、上司が感じる感情的な負担といった側面には、これまで十分な検討がなされてこなかった。そこで本研究では、男性部下の長期育休取得に対する上司の否定的感情が、職場におけるストレッサー(不明確な役割や能力を超えた業務など)を通じてどのように形成されるのかを明らかにすることを目的とした。不公平感が怒りの媒介要因となるという仮説モデルに基づき、その相互関係を検証するためのオンライン調査を実施した。

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     2024年3月にインターネット調査会社を通じて、30~60歳の民間企業の管理職400名(男女各200名)からデータを収集した。質問項目は、男性育休への怒り、男性の育休に関する不公平感喚起状況(育児関与の希薄さ、手厚い恩恵の享受、自身の仕事量の増加)、職場のストレッサー(質的負荷、量的負荷、部下に対する責任)、属性情報(性別、年齢、職業など)で構成された。

     性別と子の有無を要因とする二元配置分散分析を行った結果、「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」において性別の主効果が有意で、女性の得点が高かった。一方、怒りと不公平感喚起状況との交互作用は認められなかった。職場ストレッサーでは「部下への責任感」にのみ有意な交互作用が認められた。単純主効果検定により、子どものいない男女間では男性が有意に高く、また女性では子ありの方が有意に高かった。一方、「質的負荷」「量的負荷」には交互作用・主効果ともに認められなかった。怒りは、男性育休に関する「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」「自身の業務負担の増加」の3つの不公平感要因および職場ストレッサーと正の相関を示し、不公平感要因は職場の様々なストレッサーとも関連した。

     次に共分散構造分析により、職場のストレスが不公平感を介して上司の怒りに至る理論モデルを検証した。質的・量的負担や部下への責任感が、「育児関与の希薄さ」「手厚い恩恵の享受」「自身の仕事量の増加」といった男性育休に関する不公平感を高め、これらのうち「育児関与の希薄さ」「自身の仕事量の増加」が怒りと有意に関連した。また、量的負担は怒りに直接影響し、責任感は怒りを抑制する効果を示した。モデルの適合度指標はいずれも良好で、仮説モデルの妥当性が確認された。

     本研究について著者は、「職場のストレスにより、男性社員の育休取得に対して上司が不公平だと感じ、それが怒りにつながることがある。ワークライフバランス施策には、意図しない負の影響が生じる場合もあり、本研究は、男性の育休に対する職場の反応がどのように職場環境に左右されるかを示すことで、職場の公平性に関する理解を深める手がかりとなる」と述べている。

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    HealthDay News 2025年8月18日
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  • 硬膜外カテーテル、13%で位置ずれ? 経験豊富な医師でも注意が必要

     硬膜外麻酔時のカテーテル挿入には、高い技量と経験が要求される。しかし、今回、熟練の麻酔科によるカテーテル挿入でも、その先端が適切な位置に届いていないとする研究結果が報告された。カテーテル先端の位置異常が見られた症例では、担当麻酔科の経験年数が有意に長かったという。研究は富山大学医学部麻酔科学講座の松尾光浩氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に6月26日掲載された。

     硬膜外麻酔は高度な技術を要し、経験豊富な麻酔科医でも約3割の症例で鎮痛が不十分となる。成功率向上の鍵となるのがカテーテル先端の正確な挿入位置だが、その実際の到達部位を客観的に評価した報告は乏しい。本研究では、術後CT画像を用いてカテーテル先端の位置不良の頻度を明らかにするとともに、術者や患者の特性との関連を後ろ向きに検討した。

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     解析対象は、2005年1月1日~2022年12月31日までの間に、富山大学附属病院にて硬膜外麻酔を伴う全身麻酔が施行された1万1,559人とした。これらの患者のうち、手術当日を含む術後5日以内に胸部CTまたは腹部CTが撮影された患者を特定した。術後CT画像より、カテーテル先端が黄色靭帯を貫通していなかった場合を「位置異常」と定義した。群間比較にはχ²検定とMann-Whitney U検定を用い、カテーテル位置異常を従属変数、麻酔科医の卒後年数を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。

     最終的な解析対象は、術後の胸部または腹部CT画像で硬膜外カテーテルの挿入が確認された189人であった。患者の年齢中央値は71歳(範囲:15~89歳)、女性は全体の41%を占めた。すべての患者において、硬膜外カテーテルは左側臥位で傍正中アプローチにより挿入され、主な挿入部位は胸椎中部(48%)および胸椎下部(49%)であった。挿入を担当した医師の卒後経験年数の中央値は5.7年(2.0~35.4年)であった。

     硬膜外カテーテルの位置異常は24人で認められた(12.7%、95%信頼区間〔CI〕8.3~18.3)。これらの症例では、カテーテルの先端は椎骨(椎弓:9、肋横突起:2、棘突起:1)、浅層軟部組織(脊柱起立筋内:5、皮下:4)、深層軟部組織(椎間孔内:2、背側胸膜下腔:1)に確認された。

     正常なカテーテル位置群と位置異常群での特性の違いを調べたところ、患者の年齢やBMI、挿入部位による相違は認められなかったが、位置異常群の麻酔科医は卒後の経験年数が有意に長かった(中央値5.6年 vs. 10.1年、P=0.010)。ロジスティック回帰分析を用いて、カテーテルの位置異常と経験年数の相関を解析した結果、カテーテルの位置異常の発生率は麻酔科医の経験年数の増加に伴い有意に増加することが示された(卒後1年あたりのオッズ比1.08、95%CI 1.02~1.15)。

     本研究について著者らは、「術後CTで確認された硬膜外カテーテル先端の位置不良は全体の約13%に認められた。挿入を担当した麻酔科医の卒後年数が長いほど位置異常のリスクが高くなる傾向があり、経験豊富な医師であっても適切な挿入位置の確認が重要である」と述べている。

     なお、経験年数の増加に伴い、カテーテルの位置異常の発生率が上昇する理由としては、1)経験に伴う不注意や過信による一次的な位置異常、2)経験を積んだ麻酔科医が皮膚へのカテーテル固定に十分な注意を払わなくなり、結果として患者の体動により生じる二次的な位置異常、の2つの可能性が指摘されている。

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    HealthDay News 2025年8月4日
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  • 出所受刑者の再犯率と一般市民の認識に乖離

     法務省では、広く国民に再犯防止についての関心と理解を深めてもらうため、毎年7月を「再犯防止啓発月間」として定めている。再犯の背景には孤立・貧困・障害・高齢・依存症などの「生きづらさ」があることが多いとされる。新たな被害者を生まないためにも社会全体での理解と支援が不可欠とされているところ、今回、日本人の一般市民の認識と実際の再犯率との間に大きな乖離があるとする研究結果が報告された。この乖離は、性犯罪、強盗、薬物犯罪で顕著だったという。研究はお茶の水女子大学コンピテンシー育成開発研究所/生活科学部心理学科の高橋哲氏によるもので、詳細は「International Journal of Offender Therapy and Comparative Criminology」に6月20日掲載された。

     法務省は、刑務所を出所した受刑者が一定期間内に再び犯罪を犯し再収監された割合(再入率)で再犯を集計している。2019年に刑期を終えて出所した約2万人の元受刑者の追跡調査では、5年以内の再入率は34.1%だった。2022年に出所した元受刑者では、2年以内の再入率は男性13.2%、女性10.8%で、高齢者ほど高い傾向が見られた。犯罪を行った者の社会復帰には地域住民の支援が不可欠であるが、誤った認識が更生支援に悪影響を与えることがある。再犯率を過大評価すれば厳罰化が進み、かえって更生を妨げる可能性がある。一方、過小評価は安全対策の欠如を招きかねない。こうした背景から高橋氏は、日本において一般市民が推定する再犯率の値と公式統計の値の乖離を明らかにするため、ウェブ調査を実施した。

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     オンライン調査会社によって実施された本調査は、登録モニターから男女200人ずつ計400人を,20~60歳代の年齢層別に均等になるよう抽出し実施された。また、質問に対して十分な注意を払っていない回答者を除外するための設問も含まれていた。調査では、参加者に7種の犯罪(殺人、強盗、放火、覚せい剤取締法違反〔薬物犯罪〕、強制性交・強制わいせつ致傷〔性犯罪〕、傷害・暴行〔暴力犯罪〕、窃盗〔財産犯罪〕)および犯罪全般の再犯率を推定させた。その際、犯罪白書の再入率の定義と同一になるよう平易に書き下し、公式統計の定義に則り、再犯は必ずしも同一罪名に限定されるものではなく、また、未遂事案も含まれることを明示して回答を求めた。推定再犯率は性別・年齢層別に算出され、令和5年版『犯罪白書』(法務省、2023)の出所受刑者の5年以内再入率の値と比較された。推定値は平均と95%信頼区間(CI)で示され、CIに公式値が含まれない場合は「乖離している」と判断した。

     最終的に381人(平均年齢44.85±13.83歳)から有効な回答を得た。性別ごとの調査結果では、男女ともに7種類の犯罪すべてにおいて参加者の推定再犯率が公式統計を上回った。特に性犯罪、強盗、薬物犯罪で乖離が顕著で、それぞれ27.35、23.11、18.54パーセントポイントの差が認められた(全体集団との比較)。年齢層別に見ると、40代・50代の推定再犯率は全般的に公式統計を上回った。特に50代における性犯罪の推定再犯率が54.62%と高く、公式統計の21.0%と比べて33.64パーセントポイントの大きな乖離が認められた。

     性別および年齢層を独立変数とする二要因分散分析の結果、いずれの犯罪においても、推定再犯率に性別による有意な影響は認められなかった。一方、年齢層は薬物犯罪の推定再犯率に有意な影響を与えていた(F〔4,371〕=3.13、P=0.015、η²=0.033)。事後検定の結果、40代の推定再犯率は20代と比較して有意に高いことが明らかになった。

     また、分散分析の結果、放火、暴力犯罪、財産犯罪の推定再犯率には、性別と年齢の交互作用が認められた。特に40代男性は、同年代の女性や30代男性と比べて、放火の再犯率を高く見積もる傾向があった。暴力犯罪や財産犯罪においても、40代男性は同年代の女性や20代男性より再犯率を高く見積もる傾向があり、複数の犯罪にわたって再犯率を過大評価する傾向が40代男性に認められた。

     本研究について高橋氏は、「本研究は、日本においても犯罪種別を問わず再犯率が過大推定される傾向があることを示した。特に性犯罪での過大推定が顕著で、中年男性が特定犯罪の再犯率を高く見積もる傾向があった。欧米の先行研究は再犯の定義が不明確であったり、比較対象となる公式統計が全国的には整備されていなかったりするなど方法論上の不備があるところ、本研究はそれらの結果を補うものであり、また、日本の文化的特徴を踏まえた貴重な知見を提供していると考える。元受刑者の円滑な社会復帰を促進させるためには、こうした認識のギャップを解消するためのさらなる研究が必要である」と述べている。

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    HealthDay News 2025年7月28日
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  • 産婦人科医が授業に、中学生の性知識が向上か

     インターネットは、性に関する知識を求める若者にとって主要な情報源となっているが、オンライン上には誤情報や有害なコンテンツが存在することも否定できない。このような背景から、学校で行われる性教育の重要性が高まっている。今回、婦人科医による性教育が、日本の中学生の性に関する知識と意識の大幅な向上につながる、とする研究結果が報告された。ほとんどの学生が産婦人科医による講義を肯定的に評価していたという。研究は、日本医科大学付属病院女性診療科・産科の豊島将文氏らによるもので、詳細は「BMC Public Health」に5月28日掲載された。

     インターネットへのアクセスが容易になり、子どもたちの性的な内容への露出に対する懸念が高まったことにより、多くの国々が国際的なガイドラインを導入し、包括的な性教育(CSE)プログラムを推進するようになった。2000年には、汎米保健機構(PAHO)と性の健康世界学会(WAS)は、世界保健機構(WHO)と共同で「セクシュアル・ヘルスの推進 行動のための提言」を作成し、全ての人にCSEを提供することを提案した。

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     日本でも、この提言に呼応し、適切な性に関する知識を得るためのCSEプログラムが求められている。また、世界的に多くのCSEプログラムでは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン接種が重要な要素として含まれている。これは、HPVと子宮頸がんとの関連が確立されており、子宮頸がんは「予防可能」であることに由来する。このような背景を踏まえ著者らは、専門医による性教育の講義が、日本の中学生の経口避妊薬(OC)、避妊、子宮頸がん、HPVワクチン接種に関する知識と意識に与える影響を評価することとした。授業の前後にアンケート調査を実施し、知識と意識の変化を調査した。

     本研究では、日本国内の公立および私立の中学校37校に通う中学3年生の男女を対象とした。講義で取り上げたトピックは、文部科学省のCSEガイドラインに従い、1:男女の体の違い、2:月経の問題とその管理、3:避妊方法、4:LGBTQやデートDVに関する問題、5:性感染症、6:子宮頸がんとHPVワクチン、の6つとした。生徒は講義の前後にアンケートに回答し、講義内容に関する知識と意識を評価された。

     事前アンケートには5,833名、事後アンケートには5,383名が回答し、男女比はほぼ均等だった。講義に先立ち実施した事前アンケートでは、性に関する情報源と現状の知識について回答を得た。情報源として「インターネットやYouTube」と回答した生徒の割合が最も多かったが、男女別に見ると男子学生の割合が有意に高かった。女子学生は「学校の先生や授業」や「両親・家族」を情報源として挙げる割合が高かったのに対し、男子学生では、「友人」や「この種の情報を得たことがない」と回答する割合が高かった。また、講義前はOC、子宮頸がん、HPVに関する知識が乏しく、多くの学生がHPVワクチンに対して不安を抱いていた。

     講義後、OCに関する知識(使用可能年齢や副作用など)が向上し、生理痛の緩和など避妊以外のメリットを認識する学生が増えた。また、避妊方法の理解も著しく深まり、「避妊は男性が責任を持つべき」と考える学生の数は減少した。さらに、子宮頸がんやHPVに関する知識も大幅に向上し、HPVワクチンの接種を希望する学生の割合も増加した。

     講義後に実施したアンケートでは、ほとんどの学生が今回の講義を肯定的に評価し、5段階評価で4または5を選択した。男子学生よりも女子学生の方が、わずかに高い評価をしていた。

     本研究について著者らは「本研究は、国際機関や先行研究の提言を踏まえ、日本の若者にとって包括的でアクセスしやすい性教育の必要性を明確にした。婦人科医などの専門医が関与することで、性に関する幅広い健康トピックについて正確かつ最新の情報を提供でき、こうした介入の効果をさらに高めることができるだろう」と述べている。

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    HealthDay News 2025年7月7日
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  • 家庭における犬と猫の共存、その成功因子が明らかに

     近年、先進国では犬と猫の両方を飼っている世帯が増加している。今回、日本国内で犬と猫の両方を飼っている飼い主のほとんどは、両者が友好的であると認識しているとする研究結果が報告された。両者の同居開始年齢が若いほど、友好的な関係が予測されるという。研究は大阪大学大学院人間科学研究科の千々岩眸氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に5月15日掲載された。

     2023年に一般社団法人ペットフード協会が実施した調査によると、国内で飼われている犬と猫の総個体数はそれぞれ700万匹と900万匹とされており、世帯全体のうち9.1%が犬を、8.7%が猫を飼っていると報告されている。また、日本の保険会社が2019年に実施した調査では、「犬・猫」を飼っている1776人の回答者のうち、11.1%(123人)が犬と猫の両方を飼っていると回答している。異なる特徴を持つ種が共存する場合、そこにはしばしば衝突が発生するが、近年、欧米諸国で実施された調査では、同居する犬と猫の間には概ね良好な関係が見出されている。この関係性は、同居開始年齢と猫特有の要因が影響しているという。しかし、日本や他のアジア諸国でこの関係性について調査した研究はない。また、多様な文化的背景における犬と猫の関係のダイナミクスを探ることは、両者の福祉(怪我やストレスの軽減、遺棄の防止など)にとって重要である。このような背景を踏まえ、著者らはオンライン調査を通じて、日本の犬・猫の飼い主が家庭内で両者の関係をどのように認識しているかを評価し、両者の共存に影響を与える様々な要因について検討した。

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     オンライン調査は、犬と猫の両方を飼っている国内在住の18歳以上の成人を対象とし、2021年12月14日から24日にかけて実施された。質問票は、(1)参加者に関する基本情報、(2)犬に関する基本情報、(3)猫に関する基本情報、(4)犬と猫に関する情報、(5)犬と猫の友好に関する評価(1~10までのリッカート尺度評価)の5つのセクションで構成されていた。犬と猫の友好に関連する因子を特定するために、質問票の各セクションについて個別にステップワイズ法による線形回帰分析を実施した。

     オンライン調査では1,981人の参加者から回答を収集し、そのうち777人の回答が有効とされた。最も年齢層が高かったのは40~49歳(27.5%)であり、未就学児がいない家庭が多かった(81.9%)。「X(犬または猫)の前でY(犬または猫)は快適に過ごしているか?」という問いに対し、多くの飼い主が互いに快適に過ごしていると回答した(犬:79.8%、猫:76.7%)。

     両者の友好の予測因子として、環境的側面では、食事場所が近いこと(標準化係数〔β〕-0.78、統計量〔t〕-9.14)、猫を犬に会わせた時の年齢が若いこと(β -0.32、t -3.84)、犬を猫に会わせた時の年齢が若いこと(β -0.25、t -2.37)などが明らかになった。また、「犬側の要因」では、犬が猫の前で快適に過ごしていること(β 0.62、t 7.37)、犬が猫に見せるためにおもちゃを拾ってくること(β 0.40、t 5.56)などが両者の友好の予測因子となった。一方、「猫側の要因」では、猫が犬の前で快適に過ごしていること(β 0.72、t 8.36)、猫が犬を威嚇しないこと(β -0.33、t -4.87)などが両者の友好の予測因子となっていた。欧米での報告では主に「猫側の要因」が重要であることが示唆されていたが、今回の研究から、「犬側の要因」と「猫側の要因」の両方が、(飼い主の)犬と猫との友好に対する認識に影響を与えることが明らかになった。

    本研究の結果について著者らは、「今回の研究では、先行研究とは異なり、『犬側の要因』は『猫側の要因』と同じくらい両者の友好的な関係に影響を与えることが示された。これは、小型犬や柴犬が屋内で飼育されているという日本特有の環境に起因するのかもしれない。また、犬と猫の関係が文化によってどのように異なるか、そしてそこから得られた知見をどのように活用できるかを検証するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。

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    HealthDay News 2025年6月23日
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  • 衝突被害軽減ブレーキは歩行者の重傷事故リスクを低減させる

     乗用車に搭載されている衝突被害軽減ブレーキ(AEB)は、警告音や自動のブレーキ制御によって、衝突事故の回避や被害の軽減を支援する装置である。国内では、2021年11月から国産の新型車にAEBの搭載が義務化されている。今回、AEBは事故発生時に歩行者の重傷度を軽減する可能性があるとする研究結果が報告された。東京大学医学部・大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学の稲田晴彦氏らの研究によるもので、詳細は「Accident
    Analysis & Prevention」に5月10日掲載された。

     2023年のWHOの報告では、交通事故による年間死亡者数は119万人(人口10万人あたり15人)と推定されている。これらの死亡者のうち、約30%は歩行者および自転車利用者が占めているが、日本国内でも同様の傾向が見られる。2024年に警察庁交通局の発表したデータによると、2023年の衝突事故後30日以内に死亡した3,263人のうち、1,211人(37%)が歩行者であり、500人(15%)が自転車利用者だった。こうした交通事故の被害軽減のため、自動車メーカーはAEBのような衝突回避システムを搭載した車両の開発・普及を進めてきた。過去には、AEBが歩行者や自転車利用者の事故の重傷度を軽減することがシミュレーション研究では示されているものの、現実世界の事故データを用いた研究ではサンプルサイズや効果推定値の信頼区間の問題から決定的な結論を出すには至っていない。このような背景を踏まえ、筆者らは、AEBが交通事故における歩行者と自転車利用者の負傷重傷度を軽減しているかどうかを検証するために、警察庁の報告データを用いた横断研究を実施した。

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     警察に報告された交通事故に巻き込まれた歩行者と自転車利用者数に関するデータは、公益財団法人交通事故総合分析センターを通じて入手した。本研究では、2016年~2019年までの車両対歩行者および車両対自転車のうち、車両の運転手に主な過失が認められた負傷事故データに限定した。対象車種はオプションでAEBシステムを搭載するベストセラーの6車種(具体的な車種名は非公開)とした。

     調査期間中、4,131人の歩行者と6,659人の自転車利用者が対象6車種のいずれかで負傷事故に巻き込まれていた。歩行者4,131人のうち、2,760人がAEB搭載車、1,371人がAEB非搭載車と衝突事故を起こしていた。歩行者の「死亡または重傷」の割合は、AEB搭載車で16.7%(461/2,760)非搭載車で21.3%(292/1,371)だった。自転車利用者については、この割合は、AEB搭載車、非搭載車でそれぞれ8.0%(350/4,392)、8.1%(184/2,267)だった。

     次に、AEBの有無と事故による負傷重傷度(死亡または重傷)との関連を検討した。車種、運転者の性・年齢、回避操作時の速度、歩行者または自転車利用者の性・年齢、時間帯、天候、路面状況を調整し、多変量ロジスティック回帰分析を行った。その結果、歩行者ではAEBと「死亡または重傷」との関連性を示す調整オッズ比は0.80(95%信頼区間
    0.64~0.996)であり、衝突車両にAEBが搭載されていた場合、歩行者の「死亡または重傷」のオッズが20%低減することが示された。一方自転車利用者では、この調整オッズ比は0.91(95%信頼区間
    0.74~1.14)であり、AEBと「死亡または重傷」の間に有意な関連は認められなかった。

     本研究の結果について著者らは、「本研究より、AEBシステムは、現実世界の歩行者に対して、衝突が避けられない場合でも傷害の重傷度を軽減する可能性が示唆された。今後の研究では、自転車利用者を検知する新しいAEBシステムの効果を評価するとともに、運転者の特性による効果の違いについても検討する必要がある」と述べている。

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    HealthDay News 2025年6月16日
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  • 術後の吐き気、アロマセラピーで改善か

     術後の悪心・嘔吐(PONV)は、全身麻酔による手術を受けた患者の約30%で発生する。口腔外科手術では、PONVの発生する割合がさらに上がることが報告されているが、今回、アロマセラピーにより術後悪心(PON)の重症度が軽減されるという研究結果が報告された。北海道大学大学院歯学研究院歯科麻酔学教室の石川恵美氏らの研究によるもので、詳細は「Complementary Therapies in Medicine」に3月26日掲載された。

     PONVの管理は、全身麻酔での手術後の予後と患者の治療満足度にとって重要な要素の1つだ。海外のPONVのガイドラインでは、女性や、高リスクの手術、揮発性吸入麻酔薬の使用といった複数のリスク因子を有する患者に対しては、3~4つの対策を講じることが望ましいとされている。しかし、国内では保険適用可能な薬剤の数が限られており、これらの高リスク患者のPONV管理においては、複数の対策を講じるための代替となる新しい手段の検討が必要である。

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     PONVおよびPONの予防・治療に関しては、携帯性が高く、処方箋不要で、比較的低コストで、副作用のリスクが少ないといった観点から、アロマセラピーの活用がこれまでに研究されてきた。しかし、PONVおよびPONの管理に関して、高いエビデンスに基づいた研究は限られている。このような背景を踏まえ、著者らは口腔外科手術後のPON発症に対するアロマセラピーの効果を検討する単施設のランダム化比較試験を実施した。

     試験には、2022年7月16日から2023年12月31日の間に、北海道大学病院で全身麻酔下による口腔外科手術を受けた20歳以上の成人患者182人が含まれた。患者は1:1でアロマ群(93人)と対照群(89人)に割り付けられた。アロマ群には、ペパーミント・ショウガ・ラベンダーの3種類のエッセンシャルオイルからなる希釈液を吹き付けた綿がジッパー付きの袋に入れて渡された。対照群の袋には精製水を吹き付けた綿が入れられた。患者はPONの初回発症時に、渡された袋を開き2分間の深呼吸を行うよう指示された。PONの重症度は視覚アナログスケール(VAS)を用いて評価した。連続変数、順序変数(および名義変数)の比較にはそれぞれt検定、フィッシャーの正確確率検定を使用した。

     アロマ群で32人、対照群で25人の患者がそれぞれPONを発症した。この中から、麻酔中に予防的制吐剤を投与されていた患者、介入前にレスキュー制吐剤を使用した患者を除外し、アロマ群と対照群でそれぞれ26人と21人が最終的な解析に含まれた。介入前から介入後2分までのVASの変化量は、アロマ群で-19.15±3.67、対照群で-2.00±1.08であり、アロマセラピーにより有意にPONの重症度が軽減されることが示された(P<0.001)。

     PON発症後にレスキュー制吐剤が使用された患者の割合は、アロマ群(30.77%)が対照群(52.38%)よりも低かったものの、統計的に有意な差は認められなかった。

     試験終了時に行われた、5段階のリッカート尺度による治療満足度の評価では、満足度が高い(4または5)と回答した患者の割合は、アロマ群(79.23%)が対照群(14.29%)より有意に高かった(P<0.001)。なお、試験期間中に有害事象は観察されなかった。

     本研究の結果について著者らは、「本研究では、アロマセラピーが全身麻酔下での口腔外科手術後のPONの重症度と患者満足度を大幅に改善することが示された。したがって、その利点を考慮すると、アロマセラピーは複数の制吐策の1つとして有望なのではないか」と述べている。

     なお、本研究の限界点については、アロマセラピーの性質上、精製水との比較において患者の盲検化ができないこと、単施設の研究であったことなどを挙げている。

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    HealthDay News 2025年5月12日
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  • 普通車と軽自動車、どちらが安全?

     人はそれぞれ、価格、燃費、デザイン、安全性などを基準に車を選ぶが、軽自動車は普通車と比べ、交通事故後の院内死亡率が上昇するという研究結果が報告された。また軽自動車では、頭頸部、胸部、腹部、骨盤および四肢に重度の外傷、重傷を負うリスクが高かったという。神戸大学大学院医学研究科外科系講座災害・救急医学分野の大野雄康氏らによるこの研究結果は、「PLOS One」に2月5日掲載された。

     軽自動車は「ミニカー」とも呼ばれ、日本だけでなく海外での人気も高まっている。人気の理由の1つとして、車体のコンパクトさが挙げられるが、それは車内空間が狭まることも意味する。車内空間が狭くなると、衝突時の衝撃による変形に対して乗員がダイレクトに危険に晒されることになる。しかしながら、車内空間の狭さが生存率の低下や、重度の外傷にあたえる影響については十分に検証されてこなかった。こうした背景から、大野氏らは過去に自動車事故で負傷・入院した患者を対象とした単施設の後ろ向きコホート研究を行った。主要評価項目は事故後の院内死亡率とした。

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     本研究の対象患者は、2002年1月1日~2023年12月31日の間に、太田西ノ内病院(福島県郡山市)にて受け入れた交通事故で負傷したすべての車両乗員とした。普通車と軽自動車以外の車両(自転車、オートバイ、大型トラックなど)に乗っていた外傷患者は除外し、5,331名(普通車群2,947名、軽自動車群2,384名)を対象に含めた。最終的に1対1の傾向スコア(PS)マッチングを行い、1,947組を解析対象とした。

     PSマッチングを行い、事故後の院内死亡率を比較した結果、軽自動車群で院内死亡率の上昇が認められた(2.6 vs 4.0%、p=0.019)。院内死亡のリスクについても軽自動車群で上昇していた(オッズ比1.53〔95%信頼区間1.07~2.19〕)。また、軽自動車群の院内死亡率の上昇は、シートベルトをしていた患者、運転席にいた患者、エアバッグが展開した事故に巻き込まれた患者のサブグループで特に顕著だった。

     次に車両の種類と、特異的な外傷の部位の関連について解析を行った。PSマッチング後、軽自動車群で、外傷重症度スコア(ISS)>15で定義される重症外傷を負うリスクが高くなり、部位別では頭頸部、胸部、腹部および骨盤内臓器、四肢および骨盤に重症外傷を負うリスクが高まっていた。この傾向は、シートベルトをしていた患者、エアバッグの展開した患者のサブグループで特に顕著だった。

     生理学的重症度については、軽自動車群で昏睡、ショック(収縮期血圧90mmHg未満に低下)のリスク増加が認められた。また、救急のための気管内挿管、緊急手術を必要とした患者の割合も軽自動車群で有意に増加することが示された(各p=0.046、p=0.001)。

     研究グループは、本研究について、「軽自動車の乗員は、有害な転帰のリスクが高く、緊急の外科的介入や追加の医療資源が必要になる可能性がある。シートベルトを着用していた患者、エアバッグの展開した患者で、院内死亡率と部位特異的な外傷が増加していたが、この結果は、軽自動車の乗員に対してより安全な拘束システムの必要性を示唆している。今回の研究データは、購入する側とメーカーの両者に、車両の安全性に関する客観的事実を考えてもらうために利用されるべきだ」と総括した。

    また、本研究の限界点については、単一施設での観察研究であり結果の一般化には限界があること、搬送患者は重症患者に偏っていた可能性があることなどを挙げている。

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    HealthDay News 2025年3月17日
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  • 犬を強く愛している飼い主ほど健康になれる?

     犬と暮らす人の中でも、犬への愛着が強い人ほど身体活動量が高くなっていることが明らかになった。国立環境研究所の谷口優氏と東京都健康長寿医療センター研究所の池内朋子氏による論文が、「PLOS One」に11月27日掲載された。同氏らは、「犬と暮らすことで得られる健康効果を説明する要因として、犬への愛着の強さが鍵を握っているのではないか」と述べている。

     近年、犬の飼い主は健康状態が良好な人が多いとする研究結果が複数報告されてきている。谷口氏らも既に、犬と暮らす高齢者は身体機能が高いことや、フレイル(虚弱)や死亡に至るリスクが低いことを報告している。また、犬と暮らす高齢者の中でも、散歩などの運動習慣がある人において認知症の発症リスクが低くなることも報告している。しかし、なぜ犬と暮らす人の中で、運動習慣に差が生じるのかについては不明であった。

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     今回の研究は、一般社団法人ペットフード協会が2023年に実施したインターネット調査のデータを用いて行われた。この調査には日本各地に居住している20~79歳の犬猫飼育者1,683人が回答。このうち犬を飼っている1,041人を解析対象とした。

     対象者の主な特徴は、平均年齢が52.5歳、女性57.5%、既婚者71.1%、戸建ての持ち家居住者70.0%、独居者10.4%で、平均年収は500~600万円であった。また犬の散歩の頻度は、1日2回以上が25.1%、1日1回から2回が3.8%、週3回から7回が45.8%、週3回未満が25.3%だった。国際標準化身体活動質問票で評価した中高強度身体活動量の平均値は、41.4METs時/週であった。

     飼い犬への愛情の強さの評価には、既存の質問票(the CENSHARE Pet Attachment Survey)を用いた。この質問票は、「ペットとの遊びや運動に時間を使うか?」、「ペットはあなたの気分の変化に気づくか?」、「ペットを家族だと思うか?」などの六つの質問から成り、最大スコア24点で回答を評価し、点数が高いほど愛着が強いと判定する。本研究の対象者の平均値は18.8点だった。

     犬への愛着の強さと散歩の頻度および身体活動量との関連性について、重要な交絡因子(年齢、性別、婚姻状況、同居家族、収入、自宅の形態)の影響を統計学的に調整した結果、犬への愛着が強いほど散歩の頻度が高いことが明らかになった(B=0.04、P<0.01)。そして、犬への愛着が強いほど、中高強度身体活動量が高いことも認められた(B=1.43、P<0.01)。

     著者らは本研究を、「犬に対する愛着の強さと身体活動量の関連を明らかにした初の研究」と位置づけている。研究の限界点として、横断研究であるため愛着と身体活動量の因果関係は不明であることなどを考察した上で、「犬への愛着の強さが、日々の世話を通じて飼い主の運動習慣につながり、その結果、飼い主に健康障害が発生するリスクが低下すると考える」と総括。他方、「単に犬と暮らすだけでは、健康上のメリットを得られない可能性があることも示された」と付け加えている。

    軽度認知障害(MCI)のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    軽度認知障害を予防し認知症への移行を防ぐためには早期発見、早期予防が重要なポイントとなります。そこで、今回は認知症や軽度認知障害(MCI)を早期発見できる認知度簡易セルフチェックをご紹介します。

    軽度認知障害(MCI)のリスクをセルフチェックしてみよう!

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    HealthDay News 2025年2月3日
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  • 高血圧、脂質異常症、糖尿病で服薬遵守率が高い疾患は?

     高血圧、脂質異常症および糖尿病患者の服薬遵守率を、同一対象内で比較した結果が報告された。慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教室の松元美奈子氏、武林亨氏らの研究によるもので、詳細は「Pharmacoepidemiology and Drug Safety」に8月15日掲載された。服薬非遵守の関連因子が、疾患ごとに異なることも明らかにされている。

     過去にも服薬遵守率に関する研究報告は少なくない。しかし、異なる診療環境で治療を受けている多数の患者集団を対象として、複数の疾患治療薬の服薬遵守率を比較検討した研究は限られている。これを背景として松元氏らは、山形県鶴岡市で進行中の鶴岡メタボロームコホート研究(TMCS)のデータを医療請求データにリンクさせて、心血管疾患の主要リスク因子である、高血圧、脂質異常症、糖尿病の患者の服薬遵守状況に関する検討を行った。

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     TMCSは2012~2014年度に、35~74歳の鶴岡市内の住民コホートおよび被雇用者コホート、計1万1,002人が参加登録し、非感染性疾患のリスクに関する追跡調査が続けられている。なお、同市に居住している当該年齢人口の89%がTMCSの住民コホートに参加している。

     今回の研究では、TMCS住民コホートのうち、2016~2019年度の追跡調査に参加し、データ欠落のない7,538人から、前記3疾患いずれかの治療薬が処方され継続的に受診していた3,693人を解析対象とした。そのうち男性が47.5%で、65歳以上の高齢者が80.9%であり、BMI25以上の肥満が36.5%、高血圧が73.2%、脂質異常症が57.2%、糖尿病が17.9%だった。また、自記式質問票に含まれていた既往症を問う質問に対して、処方薬に一致した病名が正しく回答されていた場合を「服薬理解度良好」と判定したところ、87.4%がこれに該当した。

     服薬遵守率は、追跡開始から1年以内の処方日数カバー比率(PDC)で評価した。PDCは、ある期間において患者が処方薬を受け取った日数の比率であり、1(100%)であれば患者は飲み忘れることなく服用を続けていると推測される。心血管疾患リスク因子の管理において、PDC0.8以上をアドヒアランス良好の目安とすることが多いため、本研究でも0.8以上/未満で遵守/非遵守と二分した。なお、服薬の中断が連続180日以上の場合は「休薬」と判断した。ただしその該当者は51人とわずかだった。

     解析の結果、併存疾患がない患者では、高血圧のみの場合の服薬遵守率が90.2%で最も高く、次いで糖尿病のみが81.2%、脂質異常症のみが80.8%であり、高血圧のみの患者と脂質異常症のみの患者の服薬遵守率に有意差が認められた。併存疾患のある患者における服薬遵守率は86.7~89.0%の範囲で有意差は見られず、一部の組み合わせの遵守率は脂質異常症のみの患者よりも有意に高かった。

     次に、多変量解析により、性別、高齢(65歳以上)、自記式質問票で把握した生活習慣や服薬理解度などを説明変数とした上で、3疾患それぞれの服薬非遵守に独立して関連する因子を検討したところ、以下の結果が得られた。

     まず、高血圧については、朝食欠食が非遵守の正の関連因子であり(調整オッズ比〔aOR〕1.90〔95%信頼区間1.13~3.21〕)、服薬理解度良好は負の関連因子であった(aOR0.48〔同0.26~0.89〕)。脂質異常症については、男性(aOR0.71〔0.52~0.97〕)、併存疾患あり(aOR0.64〔0.49~0.82〕)、心疾患の既往(aOR0.51〔0.33~0.79〕)という三つが、全て負の関連因子として抽出された。糖尿病については、睡眠の質が良くないこと(aOR2.06〔1.02~4.16〕)と朝食欠食(aOR2.89〔1.19~7.00〕)の二つが、いずれも正の関連因子だった。喫煙・飲酒・運動習慣、教育歴、行動変容ステージ、摂食速度、夕食の時間帯などは、いずれの治療薬の非遵守とも独立した関連はなかった。

     著者らは、本研究では被雇用者コホートの医療費請求データを利用できなかったため、解析対象が高齢者の多い住民コホートのみであったことなどを研究の限界点として挙げた上で、「高血圧、脂質異常症、糖尿病に対する治療薬は、全体として高い服薬遵守率が示されたが、治療状況による違いも認められた。また、非遵守に関連する因子は、疾患によって異なった。これらの知見は、服薬アドヒアランスを高めるサポートに生かせるのではないか」と結論付けている。

     なお、朝食欠食が高血圧と糖尿病における服薬非遵守の関連因子であったことについて、「欠食習慣のある患者では『朝食後に服用』と指示すると遵守率が低下する懸念がある。低血糖を来し得る薬剤を除き、『食事を食べない朝も服用してよい』と伝えることが推奨される」といった考察が述べられている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

    糖尿病のセルフチェックに関連する基本情報

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    HealthDay News 2024年9月30日
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