• 病院排水のオゾン処理で細菌と残留抗菌薬の不活化に成功

     病院内の排水貯留槽に含まれる一般細菌や、代謝により尿・便として排泄される残留抗菌薬をオゾン処理によって不活化するシステムの有効性が報告された。1m3の試験排水に対して20分の処理で多くの細菌が不活化され、40分の処理でほぼ全ての抗菌薬についても不活化可能であるという。東邦大学医学部一般・消化器外科/医療センター大橋病院副院長の渡邉学氏、大阪医科薬科大学の東剛志氏、国立感染症研究所の黒田誠氏らによる共同研究の成果が、国際科学誌「Antibiotics」に6月27日掲載された。

     感染症治療には抗菌薬が使用されるが、抗菌薬に対する耐性(antimicrobial resistance;AMR)を獲得した細菌が生まれ、治療困難な感染症の拡大が懸念され、世界中でAMR対策が推進されている。その手段としてこれまで、一般市民へのAMR対策の重要性の啓発活動や、医療現場での抗菌薬適正使用の推進などの措置がとられてきた。しかし、適正使用された抗菌薬であっても一部は薬効を持ったまま体外に排泄され、排水を経由して環境中に拡散している。

    治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     また、国内の水質汚濁防止に関する法律では、大腸菌群については下水道に流す前に排出量(濃度)を一定レベル以下に処理することを定めているが、その他の細菌や抗菌薬の濃度については定めがない。現状では、下水を介して環境中に排泄される薬剤耐性菌や抗菌薬が生態系に影響を及ぼし得るのかというリスク評価のデータは乏しく、今後の調査が重要である。また、環境に放出された薬剤耐性因子をそのままにしておくことで、新たな薬剤耐性菌を生み出してしまう懸念も警鐘されている。

     医療機関からの排水中の細菌や抗菌薬の濃度は、一般家庭などからの排水よりも高い傾向にあり、下水道に流入する前の処理によりそれらを取り除くことが可能であれば、新たなAMR対策手段となり得る。渡邉氏らはこのような背景のもと、東邦大学医療センター大橋病院の下水処理システムにオゾン処理装置を増設し、予備実験で排水中の細菌や抗菌薬を不活化する試みを実施した。病院施設に高度な排水処理システムを応用し、細菌や抗菌薬の不活化効果について科学的な評価を行った成果の報告は、本事業が初めてとのことだ。

     排水中の細菌や抗菌薬を不活化する方法は複数存在する。その中から、同院ではオゾン処理という方法に着目した。この方法には、化学薬品の添加が不要で細菌の不活化や環境汚染物質の除去が可能であり、脱色や脱臭効果にも優れているという特徴がある。ただし、その効果は実験室レベルでの小規模な検討にとどまっていて、病院の排水処理への適用はこれまで検討されていなかったという。

     オゾン処理後の排水を解析した結果、大半の細菌が20分で処理前の0.02%程度のレベルに不活化されることが明らかになった。ただし、病原性の低い環境細菌と想定されるRaoultella ornithinolyticaやPseudomonas putidaなどの一部の細菌は80分のオゾン処理後も若干検出され、オゾンに対する低感受性が認められた。著者らは、「これら一部の細菌は細菌自体が有する特徴としてオゾンに対する抵抗性を持っていると考えられ、環境中でAMRリザーバー(貯蔵庫)としての役割を果たす可能性があるかもしれず、今後注意深く見ていく必要がある」と述べている。

     抗菌薬については、国内での使用量の多い15種類についてオゾン処理の効果が検討され、40分のオゾン処理によって対象とした全ての抗菌薬の96~100%が除去された。セフジニル、レボフロキサシン、クロルテトラサイクリン、バンコマイシンについては10分以内に90%が除去された。また、アンピシリンとクラリスロマイシンは、20分後にも20〜22%検出されたが、40分後には96〜99%が除去された。

     以上の結果から著者らは、「ろ過や生物学的な前処理を行わず、病院排水に直接的なオゾン処理を行うことで、薬剤耐性菌と残留抗菌薬が同時にかつ効率的に不活化されることを明らかにした。どの病院からもある一定数の耐性菌が一般下水へ排出されていると推察され、社会的な対策の必要性が求められつつある。東邦大学医療センター大橋病院として排水浄化の取り組みを世界に先駆けて実施し、オゾン処理が効果的であることを実証した。これらの成果をもとに社会実装を視野に入れ、病気の治療にとどまらず、人々の健康や安全に責務のある病院としてさらなるクリーンな環境作りに貢献したい」と述べている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年8月1日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • ガイドライン改訂とパンデミックで日本人の血圧はどう変わった?

     健診データを用いて、2015~2020年度に日本人の血圧がどのように変化したかを解析した結果、2019年のガイドライン改訂や2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックの影響が確認されたとする論文が報告された。東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の佐藤倫広氏らの研究結果であり、詳細は「Hypertension Research」に6月20日掲載された。

     近年の日本では国民の血圧に影響を与え得る二つの出来事があった。一つは2019年に日本高血圧学会がガイドラインを改訂し、75歳未満の成人の降圧目標を以前の140/90mmHg未満から130/80mmHg未満(いずれも診察室血圧)に引き下げたこと。もう一つは2020年のCOVID-19パンデミックで、生活様式の変化やストレスが、人々の血圧に影響を及ぼしている可能性が指摘されている。佐藤氏らは、健康保険組合および国民健康保険の健診データを用いた後ろ向きコホート研究によって、一般住民の血圧の変化を調べた。

    COVID-19に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     2015~2020年度に定期健診を複数回受診していて、血圧の変化を把握可能な15万7,510人(平均年齢50.9±12.3歳、男性67.5%)を解析対象とした。後期高齢者医療制度の対象である75歳以上は含まれていない。解析対象者は、高血圧治療を受けていない男性が56.2%、同女性が27.9%、高血圧治療を受けている男性が11.0%、同女性4.9%で構成されていた。

     まず、ガイドライン改訂前までの2015~2018年度の変化を、季節による血圧の影響を除外するため健診を受けた月を調整して検討した結果、収縮期血圧は前記の4群の全てで有意な上昇が観察された。血圧に影響を及ぼし得る季節以外の交絡因子(年齢、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、腎疾患・虚血性心疾患・脳血管疾患の既往、および血清脂質・血糖・肝機能関連指標などの健診で把握可能な全ての因子と時間依存性共変量)を調整すると、高血圧治療を受けている男性のみ、2015~2018年度にかけて有意な収縮期血圧の低下が観察された。一方でその他の3群の収縮期血圧は、いずれも有意に上昇していた(治療を受けていない女性は+0.33mmHg、同男性は+0.15mmHg、治療を受けている女性は+0.43mmHg、同男性は-0.24mmHgの変化)。

     次に、ガイドライン改訂の影響を調べるため、2018年度と2019年度の差を見ると、前記の全交絡因子を調整したモデルでは、高血圧治療を受けていない女性を除く3群で、有意な収縮期血圧の低下が認められた(治療を受けていない男性は-0.16mmHg、治療を受けている女性は-1.01mmHg、同男性は-0.25mmHgの変化)。治療を受けていない女性は有意な変化が認められなかった。

     続いて、パンデミックの影響を調べるため、2019年度と2020年度の差を前記の全交絡因子を調整したモデルで見ると、全群で有意な収縮期血圧の上昇が認められた(治療を受けていない女性は+2.13mmHg、同男性は+1.62mmHg、治療を受けている女性は+1.82mmHg、同男性は+1.06mmHgの変化)。

     まとめると、日本人の血圧は、2019年のガイドライン改訂後にわずかに低下し、2020年のパンデミック後に収縮期血圧が1~2mmHg程度上昇していた。パンデミックによる血圧の上昇について著者らは、「一般住民で認められたこの血圧上昇幅は、米国からの報告とほぼ一致している。一人一人で見ればわずかな変化と言えるかもしれないが、全国規模では合併症罹患率などに大きな影響を及ぼす可能性がある」と述べている。

     また、パンデミック後の血圧上昇幅が、男性よりも女性で大きいことの背景として、「パンデミックが女性に対して、より大きな精神的ストレスを与えていることを表しているのではないか」との考察を加えている。

    治験に関する詳しい解説はこちら

    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

    治験・臨床試験についての詳しい説明

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2022年8月1日
    Copyright c 2022 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。