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2月 17 2025 日本人の頭内爆発音症候群の有病率は1.25%で不安・不眠等と関連――忍者睡眠研究
目覚める直前に、頭の中で爆発音のような音が聞こえることのある頭内爆発音症候群(exploding head syndrome;EHS)の有病率が報告された。EHSが、不安や不眠、疲労感などに影響を及ぼす可能性も示された。滋賀医科大学精神医学講座の角谷寛氏らの研究によるもので、詳細は「Sleep」に1月10日掲載された。
EHSは、睡眠から覚醒に近づいている最中に、頭の中で大きな音が知覚されるという症状で、睡眠障害の一つとして位置付けられている。この症状は通常自然に消失するため良性疾患と考えられているが、EHSを経験した本人は不安を抱き、生活の質(QOL)にも影響が生じる可能性が指摘されている。しかし、EHSには不明点が多く残されており、有病率についても信頼性の高いデータは得られていない。角谷氏らは、日本人のEHS有病率の推定、およびEHSと不安や不眠等との関連について、「Night in Japan Home Sleep Monitoring Study;Ninja Sleep study(忍者睡眠研究)」のデータを用いて検討した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。忍者睡眠研究は、滋賀県甲賀市の市職員2,081人を対象とする睡眠に関する疫学調査で、今回の研究ではデータ欠落者、および、てんかんの既往のある人を除いた1,843人(平均年齢45.9±12.9歳、女性61.7%)を解析対象とした。EHSの有無は、「睡眠障害国際分類 第3版(ICSD-3)」に準拠して作成したアンケートにより判定した。具体的には、(A)覚醒から睡眠への移行時または夜間の覚醒時の、突然の大きな音または頭の中での爆発感覚、(B)その事象の後に覚醒して多くの場合は恐怖感を伴う、(C)激しい痛みは伴わない――という3項目の全てが該当する場合を「EHS」群、(A)のみが該当する場合を「爆発音のみ」群とした。
調査の結果、(A)が該当するのは46人(2.49%)であり、その半数(各23人、1.25%)ずつが、EHS群および爆発音のみ群に分類された。EHS群とその他の群(非EHS群〔爆発音のみ群も含む〕)を比較した場合、年齢、性別の分布、BMI、現喫煙・飲酒習慣、睡眠時間、睡眠薬の服用、睡眠時無呼吸の既往などに有意差はなかった。
続いて、EHSとメンタルヘルス状態やQOLとの関連を検討。するとEHS群は、抑うつや不安、不眠、疲労といった症状が有意に多く認められた。詳しく見ると、抑うつについてはPHQ-9という評価指標が10点以上の割合がEHS群50.0%、非EHS群16.4%、不安についてはGAD-7が10点以上の割合が同様に47.4%、12.7%、不眠はAISが10点以上の割合が33.3%、12.1%、疲労はCFSが22点以上の割合が47.8%、22.0%だった。また、QOLの評価指標のうち、メンタル面のQOLが良好(SF-8MCSが50点以上)な割合は、21.7%、42.2%でEHS群が有意に少なかった。身体面のQOLは有意差がなかった。
年齢、性別、BMI、および睡眠時間の影響を調整した解析でも、EHS群は非EHS群に比べて、抑うつ(オッズ比〔OR〕1.197〔95%信頼区間1.125~1.274〕)、不安(OR1.193〔同1.114~1.277〕)、不眠(OR1.241〔1.136~1.355〕)、疲労(OR1.112〔1.060~1.167〕)が多く認められた。なお、EHS群と爆発音のみ群を合わせて1群として、その他の群と比較した解析の結果も、ほぼ同様だった。
著者らは本研究を、「日本人のEHS有病率に関する初の研究」と位置付けている。一方、調査対象が1自治体の公務員のみであり一般化が制限されること、横断研究であるためEHSとメンタルヘルス状態との関連の因果関係は不明であることなどの限界があるとし、さらなる研究の必要性を指摘している。
なお、本研究で示されたEHSの有病率1.25%という数値は、海外での先行研究に比べてかなり低い値だという。この乖離の理由として、先行研究の多くは睡眠関連疾患の患者を対象としていたりオンライン調査であったりするため、EHS既往者が多く含まれている集団で調査されていた可能性が高いこと、および、本研究のようなICSD-3の定義に準拠した方法ではなく、EHSの有無を一つの質問のみにて判定していることによる精度差などが考えられるとのことだ。
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2月 17 2025 COVID-19陰謀論を信じる人の特徴
日本人の約4人に1人は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する何らかの陰謀論を信じているとする調査結果が報告された。旭川医科大学社会医学講座の佐藤遊洋氏、東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の田淵貴大氏らの研究によるもので、詳細は「PLOS One」に12月30日掲載された。収入や保有資産が多い人、正規雇用されている人に陰謀論を信じている人が多いという、海外とは異なる傾向が観察されたとのことだ。
COVID-19パンデミック以降、製薬会社が利益を得るためにウイルスを作成した、世界人口を減らすためにウイルスがばらまかれたといった、さまざまな陰謀論が拡散された。そのような陰謀論、または不正確な情報の流布と支持の高まりのために、社会不安の拡大、あるいは公衆衛生対策への悪影響が生じ得ることが指摘されている。例えば国内では、陰謀論とは異なるが、偏った報道の影響でヒトパピローマウイルスワクチンの積極的勧奨一時中断に至り、子宮頸がん対策が遅延した。よってCOVID-19陰謀論についても、今後への備えとして、国内でそれを信じる人の割合や特徴の傾向を明らかにしておく必要がある。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。以上を背景に佐藤氏らは、COVID-19パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)」のデータを用いた解析を行った。JACSISは、インターネット調査会社のパネル登録者対象のweb調査として、パンデミック発生以降継続的に行われている。今回の研究では、2021年9~10月に行った調査で得られた2万8,175人(年齢範囲16~81歳)の有効回答を解析対象とした。
英オックスフォード大学での先行研究に基づき、1. 大手製薬会社が、ワクチンで利益を上げるために新型コロナウイルス感染症を作った、2. 新型コロナウイルス感染症は、全ての人々にワクチン接種を余儀なくさせるために作られた、3. このワクチンを使って、大規模な不妊化を実行しようとしている――という3項目を、COVID-19陰謀論として採用。これらについて、「強く賛成する」、「多少賛成する」、「どちらでもない」、「多少反対する」、「強く反対する」の五つから選択してもらい、前二者を選択した場合に「その説を信じている」と判定した。このほかに、COVID-19に関する情報源、行政発情報への信頼の強さなども調査した。
その結果、全体の10.2%は前記の陰謀論のうち一つを信じており、6.5%は二つ、7.3%は三つ全てを信じていた。年齢や性別、居住地、婚姻状況、世帯収入、教育歴などを日本の人口構成に一致させて調整すると、日本人の約4人に1人(24.4%)が何らかの陰謀論を信じていることが分かった。信じている陰謀論の数と背景因子との関連を線形回帰モデルで検討した結果、教育歴、世帯収入、資産額、雇用状況、行政発情報への信頼などと、以下のような有意な関連が認められた。
教育歴については高校卒を基準として、教育歴が長い場合(修士または博士課程修了でΒ=-0.066)と短い場合(中学卒でΒ=-0.089)の双方で、信じている陰謀論が少ないという負の関連が見られた。世帯収入については高収入者において、信じている陰謀論が多いという正の関連が見られた(400~500万円を基準として800万円以上でΒ=0.069)。資産については100万円未満を基準として900~2000万円(Β=0.060)で正の関連が見られた(2000万円以上では非有意)。雇用状況については正規雇用者を基準として、失業・退職者(B=-0.078)、専業主婦・主夫(B=-0.086)、パートタイム(B=-0.051)、自営業(B=-0.102)のいずれも、負の関連が見られた。
COVID-19の情報源に関しては、政府機関のウェブサイトの利用者は非利用者よりも、信じている陰謀論が少なかった(B=-0.109)。一方、X(旧Twitter)以外のSNS(Facebook、Instagram、YouTube、LINE)利用者は非利用者に比べて、信じている陰謀論が多かった(B値は0.053~0.093の範囲)。このほか、日本政府を信頼している人はそうでない人に比べて、信じている陰謀論が多いことも分かった(B=0.175)。
以上の結果に基づき著者らは、「日本においてCOVID-19陰謀論は24.4%の人に支持されている」と推定している。また本調査で明らかになった特筆すべき点として、海外での先行研究とは逆の傾向が示されたことを指摘している。即ち、高収入、高資産、正規雇用が陰謀論の支持と正の関連があり、一方、高学歴とともに教育歴が短いことも、陰謀論の支持と負の関連が認められたことから、「このような日本特有の傾向の根底にあるメカニズムの解明が求められる」と付言している。
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2月 17 2025 日本人の食事関連温室効果ガス排出量と死亡リスクにU字型の関連
食習慣に伴う温室効果ガス排出量と死亡リスクとの関連が明らかになった。温室効果ガス排出量が多い食習慣の人だけでなく、排出量が少ない食習慣の人も死亡リスクが高い可能性があるという。早稲田大学スポーツ科学学術院の渡邉大輝氏、筑波大学医学医療系社会健康医学の村木功氏(研究時点の所属は大阪大学)らの研究によるもので、詳細は「Environmental Health Perspectives」に11月7日掲載された。
人類が生み出す温室効果ガスの21~37%は食事関連(食糧生産・流通・調理など)が占めるとされており、人々が地球の健康も考えた食事スタイルを選択することが重要となっている。これまでに欧米諸国からは、個人の食習慣に伴う温室効果ガス排出量(diet-related greenhouse gas emissions;dGHGE)が死亡リスクとJ字型またはU字型の関連があると報告されているが、アジア人でのデータはない。渡邉氏らは、1980年代後半にスタートした国内一般住民対象の多施設共同大規模コホート研究(JACC研究)のデータを用いて、日本人のdGHGEと死亡リスクとの関連を検討した。
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中央値19.3年(四分位範囲11.4~20.8)の追跡で、1万1,508人(19.8%)の死亡が記録されていた。dGHGEの五分位数で5群に分類し、交絡因子(年齢、性別、BMI、喫煙・飲酒・運動習慣、摂取エネルギー量、居住地域、教育歴、婚姻・就業状況、高血圧・糖尿病の既往、テレビ視聴時間、睡眠時間)を調整後に、第4五分位群を基準として死亡リスクを比較した。
その結果、全死亡(あらゆる原因による死亡)については、dGHGEが最も少ない第1五分位群(ハザード比〔HR〕1.11〔95%信頼区間1.05~1.18〕)、dGHGEが最も多い第5五分位群(HR1.09〔同1.03~1.17〕)において、有意なリスク上昇が認められた。また心血管死亡については、第1五分位群(HR1.23〔1.10~1.38〕)、第2五分位群(HR1.12〔1.00~1.25〕)、第5五分位群(HR1.22〔1.08~1.37〕)で、有意なリスク上昇が認められた。がん死亡や呼吸器疾患による死亡については、dGHGEとの関連が見られなかった。
次に、タンパク質源として1食分の赤肉を他のタンパク質食品に置き換えた場合のdGHGEと死亡リスクに与える影響を検討すると、dGHGEについては、卵(-367g-CO2eq/kg/日)や豆類(-347g-CO2eq/kg/日)をはじめ、魚類や鶏肉などに置き換えた場合にも有意に減少すると予測された。一方、死亡リスクについては、豆類に置き換えた場合にのみ、有意に低下すると考えられた(HR0.96〔0.93~0.99〕)。
これらの結果に基づき著者らは、「日本人のdGHGEと死亡リスクの間には、U字型の関連が認められる。この知見は、人々の健康と環境の改善を意図した持続可能な食糧政策の策定に役立つのではないか」と結論付けている。なお、論文の考察において、「dGHGEが高い場合の死亡リスク上昇には動物性食品の摂取量が多いこと、dGHGEが低い場合の死亡リスク上昇にはタンパク質の不足や栄養不良が関与していると考えられる」と述べられている。
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2月 17 2025 便秘が心不全再入院リスクと関連――DPCデータを用いた大規模研究
心不全による再入院のリスクに便秘が関与している可能性が報告された。東京都立多摩総合医療センター循環器内科/東京大学ヘルスサービスリサーチ講座の磯貝俊明氏らの研究によるもので、詳細は「Circulation Reports」11月号に掲載された。
便秘は血圧変動などを介して心不全リスクを高める可能性が想定されているが、心不全の予後との関連を調べた研究は限られている。磯貝氏らは、便秘が心不全による再入院リスクに関連しているとの仮説の下、診断群分類(DPC)医療費請求データベースを用いた後ろ向きコホート研究を実施した。
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主要評価項目として設定した「退院後1年以内の心不全による再入院」は、10万2,221人に発生しており、発生率は便秘あり群24.0%、なし群18.6%だった。副次評価項目として設定した「退院後1年以内の心不全による再入院および全ての再入院中の死亡」という複合エンドポイントは11万4,661人に発生し、発生率は前記の順に26.6%、20.6%だった。
60項目の共変量(年齢、性別、BMI、併存疾患、入院中の管理・治療、退院時処方薬、入院した年度、入院期間、退院時の日常生活動作〔ADL〕、病院の特徴〔大学病院か否か、年間心不全入院患者数〕など)を調整したCox比例ハザードモデルでの解析により、便秘あり群は便秘なし群に比べ、高い心不全再入院リスクと関連していた(調整後ハザード比〔aHR〕1.08〔95%信頼区間1.06~1.10〕)。また、死亡も含めた副次評価項目についても便秘と有意な関連が認められた(aHR1.09〔1.07~1.10〕)。
著者らは、本研究がDPCデータに基づく解析のため把握不能な臨床指標があること、退院後の増悪時に初回の入院先とは異なる病院に入院したケースを追跡できていないことなどを研究限界として挙げた上で、「心不全患者の便秘有病率は高く、便秘を有することは再入院リスクと関連している。今後の研究では、便秘に対する介入が再入院リスクの抑制につながるかどうかの検証が求められる」と総括している。
なお、便秘が心不全の増悪リスクを高める機序については、排便時のいきみによる血圧上昇、不快感のストレスによる交感神経系の亢進、便秘に伴う腸内細菌叢の変化を介した動脈硬化の進展などが考えられるという。
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心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。