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5月 26 2025 スポーツを現地観戦する高齢者は幸福感が高い
主観的な幸福感を高めることは、高齢者が晩年を健康的に過ごすために極めて重要だが、今回、年数回のスポーツ現地観戦をすることで高齢者の幸福感が向上する可能性がある、とする研究結果が報告された。テレビ・インターネットではなく、会場で観戦することが重要だという。研究は千葉大学予防医学センター社会予防医学研究部門の河口謙二郎氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に4月9日掲載された。
世界でも高い水準で高齢化が進んでいる日本においては、高齢者がいかに幸福度を維持しながら老後を過ごしていくかが課題の一つとなっている。過去には、スポーツによる身体活動だけでなく、スポーツ観戦といった受動的な参加によっても主観的幸福感が向上することが報告されてきた。しかし、スポーツ観戦においては、現地、テレビ、インターネットなどでそれぞれ幸福感との関係が異なる可能性も示唆されており、既存の研究の中では十分な検討がなされていない。そのような背景を踏まえ、著者らはスポーツ観戦をする高齢者は、観戦しない高齢者よりも幸福感が高いという仮説を立て、現地、テレビ・インターネットでのスポーツ観戦と幸福感との関連を大規模疫学研究のデータを用いて検討することとした。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。解析対象には、地域在住の65歳以上を対象とした日本老年学的評価研究(JAGES)データベースより、2019年と2022年の両方でスポーツ観戦に関する質問に回答した1万1,265人が含まれた。研究における幸福感は、0~10までの間で全体的な幸福感を評価してもらいスコア化した。スポーツ観戦の頻度は、「現地観戦(プロ、アマ含む)」、「プロスポーツの現地観戦」、「テレビ・インターネットでの観戦」それぞれについて、「全く観戦しない」、「年に数回」、「月に1~3回以上」、「週に1回以上」の選択肢の中から回答してもらい集計した。カテゴリごとに十分なサンプル数を確保するために、各選択肢は、「全く観戦しない」、「年に数回」、「月に1回以上」という3つのグループに分類した。
解析対象1万1,265人の平均年齢(±標準偏差)は73.6±5.6歳であり、女性は5,883人(52.2%)含まれた。年齢、性別などの交絡因子を調整後、スポーツ観戦と幸福感に関する線形回帰分析を行った結果、「現地観戦」では「年に数回」の観戦をした高齢者は、「全く観戦しない」高齢者よりも幸福感スコアが高かった(偏回帰係数B 0.11〔95%信頼区間0.03~0.19〕)。「プロスポーツの現地観戦」に関しても、「年に数回」の観戦は幸福感スコアの上昇と有意に関連していた(B 0.12〔0.02~0.22〕)。「テレビ・インターネットでの観戦」については、観戦頻度に関わらず、スポーツ観戦と幸福感スコアの間に有意な関連は認められなかった。
次に、スポーツ観戦と高い幸福感スコア(スコア8以上)の出現割合比(PR)について検討を行った。交絡因子を調整後、修正ポアソン回帰分析を行った結果、「現地観戦」では「年に数回」および「月に1回以上」観戦をした高齢者では、「全く観戦しない」高齢者よりPRが有意に高かった(それぞれPR 1.07〔1.03~1.12〕、PR 1.07〔1.00~1.14〕)。「プロスポーツの現地観戦」では、「全く観戦しない」高齢者に比べ、「年に数回」の観戦でPRが有意に高くなっていた(PR 1.06〔1.01~1.12〕)。「テレビ・インターネットでの観戦」に関しては、観戦頻度に関わらず、有意なPRの上昇は認められなかった。
「スポーツの現地観戦、プロスポーツの現地観戦において年に数回の観戦が幸福感の高さと関連する」というこの傾向は、スポーツクラブへの参加の有無、年齢、性別の層別解析により、スポーツクラブ不参加、男性、および75歳未満の高齢者でより顕著であることが分かった。
本研究について著者らは、「本研究の強みは大規模データベースを用いた点、幸福な人がスポーツ観戦を好むという逆因果関係の可能性を低減する工夫をした点にある。今回得られた結果は、高齢者の幸福感を高めるには、スポーツ観戦へのアクセスを促進する、的を絞った介入策が重要であることを示唆しているのではないか」と述べている。
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5月 26 2025 腫瘍内細菌叢が肺がんの予後を左右する
細菌は外的因子としてがんの発生に寄与するが、近年、腫瘍の中にも細菌(腫瘍内細菌叢)が存在していることが報告されている。今回、肺がん組織内の腫瘍細菌叢の量が、肺がん患者の予後と有意に関連するという研究結果が報告された。研究は、千葉大学大学院医学研究院分子腫瘍学(金田篤志教授)および呼吸器病態外科学(鈴木秀海教授)において、越智敬大氏、藤木亮次氏らを中心に進められ、詳細は「Cancer Science」に4月11日掲載された。
近年、がんの予後と腫瘍内細菌叢の関係が注目されている。その中でも、肺がんに関する研究は、喀痰や気管支肺胞洗浄液に含まれる腫瘍外部の細菌に焦点を当てたものがほとんどであり、腫瘍内細菌叢とその予後への影響について検討したものは限られている。そのような背景を踏まえ著者らは、腫瘍内細菌叢が肺がん患者の予後に与える影響を評価するために、単施設のコホート研究を実施した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究では、最も一般的な肺がんの2つの組織型、肺腺がん(LUAD)と肺扁平上皮がん(LUSC)が解析された。肺がんの腫瘍サンプルは、千葉大学医学部付属病院で2016年1月~2023年12月の間に手術を受けた507人(LUAD 369人、LUSC 138人)より採取された。再発手術と術前化学療法を行った症例は除外した。腫瘍内細菌叢のゲノムDNA(bgDNA)の定量はqPCR法により行い、bgDNAが大量に検出された症例については、蛍光in situ ハイブリダイゼーション法(FISH)により、腫瘍組織内の局在が確認された。
腫瘍サンプルのqPCRの結果、391サンプル(77.1%)で、定量範囲下限以上のbgDNAが検出された。LUADおよびLUSCサンプルを用いたFISH解析により、組織中に細菌が存在することが示されたが、LUSCにおいては、細菌は間質に多く存在していた。
次に性別、病期(Ⅰ~Ⅲ)、組織型(LUAD、LUSC)などの患者特性ごとに、細菌叢のbgDNAのコピー数を調べた。その結果、他の患者特性では有意な差は認められなかったが、組織型では、LUSCと比較しLUADで有意に細菌叢のbgDNAのコピー数が多いことが分かった(P=1×10-7)。
定量化された391の検体は、bgDNAの定量値に基づき、細菌叢高容量群、低容量群、超低容量群の3群に分類し、全生存率(OS)と無再発生存率(RFS)との相関が検証された。その結果、LUADでは、細菌叢の量はOSやRFSのいずれとも有意に相関していなかった。しかしLUSCでは、Cox比例ハザードモデルを用いた単変量および多変量解析の結果、OSおよびRFSと有意に関連し、病期とは独立した予後因子として特定された。
本研究について金田教授は、「腫瘍内細菌叢は組織型に差異はあるものの、多くの肺がん組織で認められた。この細菌叢の量は、予後の悪い肺扁平上皮がんを層別化する上で有用なマーカーとなる可能性がある」と述べており、鈴木教授は、「これら細菌の肺がん発症や進展への寄与については今後さらなる研究が必要である」と付け加えた。
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肺がんは初期の自覚症状が少ないからこそ、セルフチェックで早めにリスクを確かめておくことが大切です。セルフチェックリストを使って、肺がんにかかりやすい環境や生活習慣のチェック、症状のチェックをしていきましょう。
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5月 19 2025 若い女性の不定愁訴、魚介類の摂取不足が原因か
女性は男性よりも原因不明の体調不良(不定愁訴)を訴える可能性が高い。今回、日本の若い女性における不定愁訴と抑うつ症状の重症度が、魚介類の摂取量と逆相関するという研究結果が報告された。研究は和洋女子大学健康栄養学科の鈴木敏和氏らによるもので、詳細は「Nutrients」に4月3日掲載された。
不定愁訴は、器質的な疾患背景を伴わない、全身の倦怠感、疲労感、動悸、息切れ、脳のもやもやなどの症状を指す。これらの症状は、検査で原因が特定できない場合が多く、心身のストレスや自律神経の乱れが関与していると考えられている。過去50年間に行われた様々な横断研究より、不健康なライフスタイルとそれに伴う栄養摂取の影響が不定愁訴に関連することが報告されている。しかし、不定愁訴と特定の食品、栄養素との関連は未だ明らかにされていない。このような背景を踏まえ、著者らは不定愁訴および抑うつ症状を定量化し、これらの症状の重症度と関連する栄養素や食品を特定することを目的として、日本の若年女性を対象とした横断的調査を実施した。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。質問調査は2023年6~12月にかけて行われた。和洋女子大学に所属する18~27歳までの学部生86人が対象となり、参加者は同日に微量栄養素欠乏症関連愁訴質問票(MDCQ)、食物摂取頻度調査票(FFQg)、日本版ベック抑うつ質問票(BDI-Ⅱ)の3種類の質問票に回答した。MDCQのスコアは26をカットオフとし、スコア26以下の参加者を愁訴の訴えが少ない群(LC群)、スコア27以上を訴えが多い群(HC群)とした。HC群では微量栄養素欠乏症の可能性があることを示す。BDI-Ⅱスコアは、13をカットオフとし、13以下の参加者を抑うつ度の低い群(LD群)、14以上を抑うつ度の高い群(HD群)に分類した。2群間の比較にはMann-WhitneyのU検定を用いた。
FFQgから得られた86人の体組成、栄養摂取量は、2019年の国民健康・栄養調査報告(厚生労働省)から引用した20~29歳の日本人女性のそれとほぼ同等であった。参加者はMDCQスコア(≤26:LC群、≥27:HC群)とBDI-Ⅱスコア(≤13:LD群、≥14:HD群)に基づいて2つのグループに分類された。摂取していた栄養素について、HC群とLC群およびHD群とLD群を比較したところ、HC群とHD群ではエイコサペンタエン酸(EPA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ビタミンD、ビタミンB12の摂取量が有意に少ないことが分かった。これらの栄養素は日本人において主に魚から摂取されているため、両群の魚介類の摂取量を比較した。その結果、HC群の魚介類の摂取量(中央値〔範囲〕)は有意にLC群より低かった(35.9〔0~107.7〕g vs 53.8〔2.6~148.7〕g、P=0.005)。HD群とLD群を比較した場合でも、同様の低下が認められた(35.9〔0~107.7〕g vs 53.8〔0~148.7〕g、P=0.006)。
参加者はさらに、愁訴の訴えが少なくかつ抑うつ度の低いLC-LD群(MDCQ≦26かつBDI-II≦13)と愁訴の訴えが多くかつ抑うつ度の高いHC-HD群(MDCQ≧27かつBDI-II≧14)の2群に分けられた。両群の栄養素・食品摂取量を比較したところ、HC-HD群のEPA、DHA、ビタミンD、ビタミンB12の摂取量はLC-LD群よりも有意に低かった。さらに、HC-HD群では、亜鉛、セレン、モリブデン、パントテン酸といったその他の微量栄養素も有意に減少していた。食品摂取量に関しては、HC-HD群の魚介類の摂取量は、LC-LD群よりも75%低かった(12.8〔0~107.7〕g vs 53.8〔2.6~148.7〕g、P=0.001)。
本研究について著者らは、「本研究から、魚介類の摂取量は、不定愁訴の重症度および抑うつ状態に関連があることが分かった。魚介類の摂取または、EPA、DHA、ビタミンDなどの摂取が、精神神経疾患の不定愁訴およびうつ病の予防・管理に有効であるかどうかを検証するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。
本研究の限界点については、推定された栄養素および食品量は絶対値でなく概算値であったこと、食事の質や抑うつ症状の有病率に影響する社会経済的地位のような共変量を考慮していないことなどを挙げている。
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5月 19 2025 日本人の糖尿病関連腎臓病、研究で病原性変異が明らかに
糖尿病関連腎臓病(DKD)は2型糖尿病の長期合併症であり、心血管系合併症や死亡率の高さに関連している。今回、日本国内におけるDKD患者の病原性変異について明らかにした研究結果が報告された。研究は東京大学医学部附属病院腎臓・内分泌内科の羽柴豊大氏らによるもので、詳細は「Journal of Diabetes Investigation」に4月8日掲載された。
DKDは、長期の糖尿病罹病期間と糖尿病網膜症の合併に基づき、腎生検を必要とせずに臨床的に診断される。糖尿病患者の中には、同様に血糖コントロールを行っているにもかかわらず、腎機能障害を発症する患者としない患者がいることから、遺伝的要因が糖尿病およびDKD発症の根底にある可能性がある。実際、2021年には米国の1型および2型糖尿病を患うDKD患者370名を対象とした研究から、白人患者の22%で病原性変異が特定されている。しかし、この割合は民族やデータベースの更新状況によって異なっている可能性も否定できない。このような背景を踏まえ、著者らは最新のデータベースを用いて、日本の2型糖尿病を伴うDKD患者のサンプルから全ゲノム配列解析(WGS)を実施し、病原性変異を持つ患者の割合を決定することとした。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。本研究には、東京大学糖尿病性腎疾患コホートよりWGSの検体提供に同意した79人(平均年齢72歳)のDKD患者が組み入れられた。全体の25名(31.6%)に糖尿病網膜症が認められ、9名(11.4%)に腎臓病の家族歴があった。
WGSの結果、27人(34.1%)の患者で、24の遺伝子(29の部位)に位置する病原性変異が同定された。すべての変異はヘテロ接合型であり、ホモ接合型は検出されなかった。同定されたヘテロ接合型病原性変異は、大きく、糸球体症関連(23.7%)、尿細管間質性腎炎関連(36.8%)、嚢胞性腎疾患/繊毛病関連(10.5%)、その他疾患関連(28.9%)に分類された。
27人の患者で同定された変異のうち、常染色体顕性(優性)遺伝パターンに関連し、疾患の発症に潜在的に影響を及ぼすものを「診断的変異」と定義した。診断的変異は7つの遺伝子(ABCC6、ALPL、ASXL1、BMPR2、GCM2、PAX2、WT1)において10人(12.7%)の患者で認められた。これらの遺伝子はすべて常染色体顕性遺伝性疾患と関連していた。
本研究の結果について著者らは、「日本では、相当数のDKD患者において腎臓関連のヘテロ接合型病原性変異が特定された。これらの知見は、この変異に民族間の差異が存在する可能性を示唆しており、データベースの更新が変異検出に与える影響を浮き彫りにしている」と述べている。今回、DKD患者で認められた変異の臨床的意義については、「依然として不明であり、その意義をさらに検討するためにはより大規模なコホート研究が必要」と付け加えた。
本研究の限界点として、サンプル数が少なく、日本国内の単一施設のコホート研究であったことから、一般化に制約があることが挙げられる。また、WGS解析はDKD集団のみを対象としており、健常者や腎障害のない糖尿病患者との比較が行われなかったため、本研究は記述的研究にとどまるものとされている。
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糖尿病の3大合併症として知られる、『糖尿病性腎症』。この病気は現在、透析治療を受けている患者さんの原因疾患・第一位でもあり、治療せずに悪化すると腎不全などのリスクも。この記事では糖尿病性腎病を早期発見・早期治療するための手段として、簡易的なセルフチェックや体の症状について紹介していきます。
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5月 13 2025 術後の吐き気、アロマセラピーで改善か
術後の悪心・嘔吐(PONV)は、全身麻酔による手術を受けた患者の約30%で発生する。口腔外科手術では、PONVの発生する割合がさらに上がることが報告されているが、今回、アロマセラピーにより術後悪心(PON)の重症度が軽減されるという研究結果が報告された。北海道大学大学院歯学研究院歯科麻酔学教室の石川恵美氏らの研究によるもので、詳細は「Complementary Therapies in Medicine」に3月26日掲載された。
PONVの管理は、全身麻酔での手術後の予後と患者の治療満足度にとって重要な要素の1つだ。海外のPONVのガイドラインでは、女性や、高リスクの手術、揮発性吸入麻酔薬の使用といった複数のリスク因子を有する患者に対しては、3~4つの対策を講じることが望ましいとされている。しかし、国内では保険適用可能な薬剤の数が限られており、これらの高リスク患者のPONV管理においては、複数の対策を講じるための代替となる新しい手段の検討が必要である。
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郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。PONVおよびPONの予防・治療に関しては、携帯性が高く、処方箋不要で、比較的低コストで、副作用のリスクが少ないといった観点から、アロマセラピーの活用がこれまでに研究されてきた。しかし、PONVおよびPONの管理に関して、高いエビデンスに基づいた研究は限られている。このような背景を踏まえ、著者らは口腔外科手術後のPON発症に対するアロマセラピーの効果を検討する単施設のランダム化比較試験を実施した。
試験には、2022年7月16日から2023年12月31日の間に、北海道大学病院で全身麻酔下による口腔外科手術を受けた20歳以上の成人患者182人が含まれた。患者は1:1でアロマ群(93人)と対照群(89人)に割り付けられた。アロマ群には、ペパーミント・ショウガ・ラベンダーの3種類のエッセンシャルオイルからなる希釈液を吹き付けた綿がジッパー付きの袋に入れて渡された。対照群の袋には精製水を吹き付けた綿が入れられた。患者はPONの初回発症時に、渡された袋を開き2分間の深呼吸を行うよう指示された。PONの重症度は視覚アナログスケール(VAS)を用いて評価した。連続変数、順序変数(および名義変数)の比較にはそれぞれt検定、フィッシャーの正確確率検定を使用した。
アロマ群で32人、対照群で25人の患者がそれぞれPONを発症した。この中から、麻酔中に予防的制吐剤を投与されていた患者、介入前にレスキュー制吐剤を使用した患者を除外し、アロマ群と対照群でそれぞれ26人と21人が最終的な解析に含まれた。介入前から介入後2分までのVASの変化量は、アロマ群で-19.15±3.67、対照群で-2.00±1.08であり、アロマセラピーにより有意にPONの重症度が軽減されることが示された(P<0.001)。
PON発症後にレスキュー制吐剤が使用された患者の割合は、アロマ群(30.77%)が対照群(52.38%)よりも低かったものの、統計的に有意な差は認められなかった。
試験終了時に行われた、5段階のリッカート尺度による治療満足度の評価では、満足度が高い(4または5)と回答した患者の割合は、アロマ群(79.23%)が対照群(14.29%)より有意に高かった(P<0.001)。なお、試験期間中に有害事象は観察されなかった。
本研究の結果について著者らは、「本研究では、アロマセラピーが全身麻酔下での口腔外科手術後のPONの重症度と患者満足度を大幅に改善することが示された。したがって、その利点を考慮すると、アロマセラピーは複数の制吐策の1つとして有望なのではないか」と述べている。
なお、本研究の限界点については、アロマセラピーの性質上、精製水との比較において患者の盲検化ができないこと、単施設の研究であったことなどを挙げている。
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5月 13 2025 自閉スペクトラム症の光過敏に新知見
自閉スペクトラム症(ASD)は、聴覚過敏や視覚過敏などの感覚異常を伴うことが知られているが、今回、ASDでは瞳孔反応を制御する交感神経系に問題があることが新たに示唆された。研究は帝京大学文学部心理学科の早川友恵氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に4月1日掲載された。
ASDは、様々な状況における社会的コミュニケーションの障害、ならびに行動や興味に偏りが認められる複雑な神経発達症の一つだ。発達初期に現れるこれらの症状に加え、聴覚・嗅覚・触覚などの問題に併せ、光に対する過敏性(羞明)に悩まされることが多い。
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本研究は、自閉症者コミュニティより募集したASD17名(ASD群)と参加者募集会社により集められた定型発達23名(TD群)で実施した。両群の感覚特性は日本版青年・成人感覚プロファイル(AASP-J)によって評価された。刺激呈示には24インチのLCDモニターを使用し、瞳孔反応のデータ取得にはサンプリングレート60Hzのアイトラッキングシステムを使用した。実験1では、薄暗い画面(2.75cd/m2)を10秒間提示した後、5秒間隔で明条件(89.03cd/m2)と暗条件(0.07cd/m2)が交互に合計24セット繰り返された。続いて行われる実験2では、薄暗い画面を10秒間提示した後、30秒間隔で明/暗条件が交互に合計10セット繰り返された。
参加者の平均年齢(±標準誤差)は、ASD群とTD群でそれぞれ38.7(±2.3)歳と37.9(±2.0)歳であり、両群間に差はなかった。また、男女比、日本版ウェクスラー成人知能検査による知能検査にも両群間で有意な差は認められなかった。AASP-Jテストでは、ASD群で「感覚過敏」および「感覚回避」スコアが高く、TD群との間に有意差が認められた(t検定、各p<0.01)。
ASD群の瞳孔反応は、特に明暗が急速に切り替わる実験1で瞬きによるデータの欠損が有意に多く(p<0.01)、その結果、評価対象例数が減少した。実験1の薄暗い状態での瞳孔径は、ASD群とTD群で有意差は認められなかった(5.7±0.5mm vs 5.8±0.3mm、p=0.8)ものの、続いて行われた実験2の薄暗い状態での瞳孔径は、ASD群が大きいままなのに対し、TD群で有意に小さくなっていた(5.9±0.3mm vs 4.9±0.3mm、p=0.01)。
明暗刺激時における、ベースラインから瞳孔径の最大変化量(最大振幅)とそれに至るまでの時間(潜時)は両群間で有意な差は認められなかった。しかし、暗条件下の散瞳開始初期の速度は、ASD群で有意に速かった。実験1では、最大振幅の37%に到達するまでの潜時はASD群で有意に速く(p=0.01)、実験2の最大振幅の37%と63%に到達するまでの潜時もASD群で有意に速かった(各p=0.03)。
本研究について著者らは「羞明を伴うことの多いASDでは、薄暗い状態で瞳孔径が大きく、暗条件では散瞳の速度が速い傾向にあることが示された。これらの結果から、ASDでは瞳孔を制御する交感神経の過剰な興奮で散瞳状態にあり、その背景として散瞳と縮瞳をバランスする青斑核の働きに問題があると考えられる。ASDの羞明は、周囲の光に合わせて瞳孔径を適切に調整できないことに起因するのかもしれない」と述べている。
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