COVID-19ワクチン接種はメンタルヘルスを改善しない?

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが人々のストレスとなり、メンタルヘルスの悪化につながることが懸念されている。それに対してワクチン接種を受けると、感染や重症化リスクが低下するという安心感から、メンタルヘルスが改善するとの期待がある。しかし実際には、そのような影響は見られないとする研究結果が4月12日、「Neuropsychopharmacology Reports」に短報として掲載された。東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野の佐々木那津氏、川上憲人氏らによる報告。

 この研究は、企業や医療機関の労働者を対象に、国内でワクチン接種が始まった初期段階で実施された。2021年2月4~10日、および同年6月22~29日に、職業性ストレス簡易調査票(brief job stress questionnaire;BJSQ)を用いたweb調査を行い、ワクチン接種前と接種後で、労働者のメンタルヘルス状態に変化が生じているか否かを検討した。BJSQは18項目からなり、活力の低下、怒りの感じやすさ、倦怠感、不安、うつレベルをスコア化し、18~72点の範囲で評価する。なお、国内では同年2月17日に医療従事者のワクチン先行接種が始まり、6月21日から職域接種がスタートしていた。

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 前記2回の調査の両方に回答した948人のうち105人(11.1%)が、2回目の調査時点で少なくとも1回のワクチン接種を受けていた。ワクチン接種を受けていた群は未接種群に比べて、女性や医療福祉従事者、所属組織の規模が大きい労働者が多く、教育歴が長いという差が見られた。また、医療従事者は54.4%が1回以上のワクチン接種済みであるのに対して、非医療従事者ではその割合が5.8%と少なかった。

 BJSQのスコアは、ワクチン接種者では1回目の調査が41.8±10.9、2回目の調査が42.0±11.9、未接種者では同順に41.2±11.4、41.2±11.6であり、両群ともに経時的な変化がなく、群間差もなかった(反復測定分散分析による時間と群間の交互作用P=0.833)。性別や年齢、婚姻状況、教育歴、慢性疾患、所属組織の規模、業種、医療従事者か非医療従事者かを調整後も、ワクチン接種者は41.4±1.7、42.4±1.8、未接種者43.3±1.2、43.4±1.2であり、ワクチン接種の有意な影響は認められなかった(P=0.446)。また、BJSQのサブスケールである、活力の低下、怒りの感じやすさなどを個別に検討しても、有意性は確認されなかった。

 この結果を基に著者らは、「COVID-19ワクチン接種は、日本人労働者のメンタルヘルスに顕著な影響を与えないと考えられる。よって組織管理者は、ワクチン接種率が上昇した後も、従業員にメンタルヘルスケアの提供を続けることが重要」と結論付けている。なお、結果がネガティブであったことに関して、ワクチンの有効性が今ほど周知されていない時期の調査であることや、2回目の接種を終えていない人が含まれていたことなどが、背景にあるのではないかとの考察が述べられている。また、パンデミックに伴いCOVID-19感染の恐れとは異なる、社会経済的問題のためにメンタルヘルスに影響が及んでいた可能性もあるという。

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HealthDay News 2022年6月6日
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