• 朝食後の歯みがきは高血圧リスクの独立した予測因子か

     高血圧は生活習慣に大きく左右される疾患であり、予防には日常行動の改善が重要とされる。今回、地域住民を対象とした横断研究で、朝食後に歯を磨く習慣が高血圧の有病率低下と独立して関連することが示された。研究は鹿児島大学大学院医歯学総合研究科心臓血管・高血圧内科学の手塚綾乃氏、窪薗琢郎氏らによるもので、詳細は10月9日付で「Scientific Reports」に掲載された。

     高血圧は心血管疾患(CVD)の最大の危険因子であり、その予防には血圧管理が不可欠である。しかし、日本では依然として十分な管理が行われておらず、生活習慣の改善余地が大きい。近年、歯周病をはじめとする口腔内の健康がCVDと関連することが報告されており、歯周治療により血管機能や動脈硬化マーカーが改善することも示されている。さらに、歯みがき頻度の低さがCVDリスクに関連するとの報告もあるが、歯みがきのタイミングと高血圧との関係は明らかでない。そこで本研究では、地域住民を対象に、歯みがき習慣と高血圧との関連を検討した。

    高血圧に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     本研究では、鹿児島大学と垂水市による共同研究「垂水研究」の横断データを用い、垂水市在住の40歳以上の住民1,024人を対象とした。歯みがき習慣を調べるため、参加者には起床時、朝食前後、昼食後、夕食前後、就寝前の各タイミングにおける歯みがきの有無と頻度を質問票で回答してもらった。高血圧は、収縮期血圧140mmHg以上、拡張期血圧90mmHg以上、または降圧薬使用者と定義した。群間比較にはt検定とカイ二乗検定を用い、歯数の比較にはウィルコクソンの順位和検定を用いた。高血圧を従属変数、歯みがき習慣を独立変数として、単変量および多変量ロジスティック回帰解析(モデル1:年齢・性別で調整、モデル2:BMIや喫煙歴・薬物使用・総エネルギー摂取量などの生活習慣で追加調整)を実施した。

     最終的な解析対象には940人(男性361人、平均年齢67歳)が含まれた。このうち、529人(56.3%)が高血圧群、411人(43.7%)が非高血圧群に分類された。

     全体の歯みがき実施率は、起床時33%、朝食前8%、朝食後69%、昼食後48%、夕食前4%、夕食後42%、就寝前51%であった。歯を1日3回以上磨く参加者は合計476人(51%)であった。高血圧群は非高血圧群に比べ、朝食後(P<0.001)・昼食後(P<0.001)・就寝前(P=0.022)の歯みがき頻度が低く、また1日3回以上磨く頻度の高い参加者も少なかった(P<0.001)。単変量ロジスティック回帰解析では、朝食後(オッズ比[OR]0.577、95%信頼区間[CI]0.433~0.768、P<0.001)、昼食後(OR 0.571、95%CI 0.441~0.741、P<0.001)、就寝前(OR 0.737、95%CI 0.569~0.955、P=0.021)の歯みがき、さらに1日3回以上の歯みがき頻度(OR 0.554、95%CI 0.427~0.719、P<0.001)が、いずれも高血圧リスクの低下と有意に関連していた。

     次に多変量ロジスティック回帰解析を実施した。年齢・性別のみ調整したモデル1では、朝食後の歯みがき(OR 0.604、95%CI 0.444~0.823、P=0.001)および1日3回以上の歯みがき(OR 0.735、95%CI 0.554~0.973、P=0.032)が、高血圧リスクの低下と有意に関連していた。さらに、追加調整したモデル2では、朝食後の歯みがきのみが独立して高血圧リスクの低下と関連していた(OR 0.688、95%CI 0.496~0.954、P=0.025)。

     著者らは、本研究が横断研究であることや、任意参加であったため選択バイアスの可能性などの限界に言及しつつ、「歯みがき習慣、特に朝食後の歯みがきは、高血圧リスクの低下と独立して関連しており、日常的な口腔ケアが循環器疾患予防の一助になる可能性がある」と述べている。

    慢性心不全のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。

    心不全のセルフチェックに関連する基本情報

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2025年11月25日
    Copyright c 2025 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。
  • 代謝異常を伴う脂肪肝「MASLD」、慢性腎臓病の独立リスクに

     新しい脂肪肝の概念「MASLD;代謝機能障害関連脂肪性肝疾患」が、慢性腎臓病(CKD)の独立したリスク因子であることが国内研究で示された。単一施設の約1.6万人の健康診断データを解析したもので、MASLDの早期発見や管理の重要性が改めて示された。研究は京都府立医科大学大学院医学研究科内分泌・代謝内科学の大野友倫子氏、濵口真英氏、福井道明氏、朝日大学病院の大洞昭博氏、小島孝雄氏らによるもので、詳細は10月17日付で「PLOS One」に掲載された。

     日本では食生活の欧米化に伴い肥満が増加し、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)の有病率も上昇している。NAFLDは主に内臓脂肪やインスリン抵抗性と関連し、糖尿病や心血管疾患などの代謝異常を伴うことが多い。2020年には、こうした代謝背景を重視する形でNAFLDはMAFLDとして再定義され、日本の大規模コホート研究ではCKDの独立したリスク因子であることが報告された。さらに2023年、国際的専門家パネル(Delphiコンセンサス)により、より包括的でスティグマの少ない概念としてMASLDへと名称が変更され、少なくとも1つの心血管代謝リスク(BMI、血糖値、HDL-C値など)を伴う脂肪肝と定義された。本研究は、この新しい定義によるMASLDがCKD発症の独立したリスク因子となるかを明らかにすることを目的に、人間ドック受診者を対象とした縦断的コホート解析として実施された。

    脂肪肝に関する治験・臨床試験(新しい治療薬)情報はこちら
    郵便番号を入力すると、お近くの治験情報を全国から検索できます。

     本研究では、岐阜県の朝日大学病院で実施されているNAFLDの縦断的解析(NAGALA Study)に基づき、1994~2023年の間に人間ドックを受けた1万5,873人を解析対象とした。ベースライン時点で肝疾患を有する者、またはCKD(推算糸球体濾過量〔eGFR〕<60 mL/分/1.73 m2、もしくはタンパク尿〔+1~+3〕が少なくとも3か月持続)と診断された者は除外した。参加者はアルコール摂取量、心血管代謝リスク、脂肪肝の有無によりグループ1~8までのカテゴリーに分類された。主要評価項目は、5年間の追跡期間中におけるCKDの新規発症率とし、ロジスティック回帰分析によりMASLDとCKD発症との関連を評価した。

     解析対象の9,318人(58.7%)が男性で、平均年齢は43.7歳だった。追跡期間中のCKD新規発症率は、アルコール摂取が閾値以下で心血管代謝リスクおよび脂肪肝を認めないグループ1で最も低く(4.7%)、MASLDと診断されたグループ8で最も高かった(9.5%)。

     次に、ベースライン時の年齢、性別、eGFR、喫煙習慣、運動習慣で調整した多変量解析を実施した。その結果、グループ1と比較して、MASLDと診断されたグループ8でのみCKD新規発症のオッズ比(OR)が有意に上昇した(OR 1.37、95%信頼区間〔CI〕1.12~1.67、P=0.002)。さらに、年齢(OR 1.04、95%CI 1.03~1.05、P<0.001)およびベースライン時のeGFR(OR 0.88、95%CI 0.87~0.89、P<0.001)も、CKDの有意な予測因子として同定された。

     著者らは、「MASLDは、これまでのNAFLDを包含する新しい疾患概念として、CKD発症リスクを独立して高める可能性がある。特に日本に多い『非肥満型MASLD』では、腎機能低下リスクに注意が必要だ。今後は、筋肉量の影響を受けない腎機能指標を用いたリスク評価や、個別化された介入の検討が求められる」と述べている。

     なお、本研究の限界点としては、参加者が岐阜県の人間ドック受診者に限られ、選択バイアスの可能性があること、食事内容や食後血糖などのデータが欠如している点などを挙げている。

    糖尿病性腎症のセルフチェックに関する詳しい解説はこちら

    糖尿病の3大合併症として知られる、『糖尿病性腎症』。この病気は現在、透析治療を受けている患者さんの原因疾患・第一位でもあり、治療せずに悪化すると腎不全などのリスクも。この記事では糖尿病性腎病を早期発見・早期治療するための手段として、簡易的なセルフチェックや体の症状について紹介していきます。

    糖尿病性腎症リスクを体の症状からセルフチェック!

    参考情報:リンク先
    HealthDay News 2025年11月25日
    Copyright c 2025 HealthDay. All rights reserved. Photo Credit: Adobe Stock
    SMTによる記事情報は、治療の正確性や安全性を保証するものではありません。
    病気や症状の説明について間違いや誤解を招く表現がございましたら、こちらよりご連絡ください。
    記載記事の無断転用は禁じます。