脊髄くも膜下麻酔後の悪心・嘔吐――機械学習で関連因子を解析
術後悪心・嘔吐(PONV)は、手術後にみられる頻度の高い合併症の一つで、患者満足度の低下や入院期間の延長にもつながる。今回、脊髄くも膜下麻酔で手術を受けた患者のPONVについて、5種類の機械学習アルゴリズムを用いた解析で、術後のフェンタニル使用が最も強く関連する因子として特定された。研究は、東北大学大学院歯学研究科歯科口腔麻酔学分野の星島宏氏らによるもので、詳細は8月5日付の「PLOS One」に掲載された。
脊髄くも膜下麻酔下で下肢や下腹部の手術、帝王切開を受けた患者におけるPONVの発生率は5~42%と報告されている。これまでの研究では、女性、麻酔の穿刺レベル、術中低血圧などがリスク因子として挙げられているが、全身麻酔後のPONVで知られているリスク因子とは異なることから、見解は一致していない。近年、医療分野ではAI技術が進展し、機械学習を用いた解析も広がっている。そこで著者らは今回、脊髄くも膜下麻酔下で手術を受けた患者を対象に、機械学習を用いてPONVのリスク因子を検討した。

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本研究は後ろ向き観察研究で、東北大学病院で2010~2022年に脊髄くも膜下麻酔下の手術を受けた20歳以上の患者を対象とした。診療記録から、性別、年齢、BMI、手術・麻酔時間、麻酔方法、使用薬剤、術後フェンタニル使用など31項目を収集した。PONVの有無による背景因子の偏りを抑えるため傾向スコアマッチングを行った。PONVの発生確率を予測するアンサンブルモデルを構築し、ランダムフォレスト、勾配ブースティングマシン、k近傍法、多層パーセプトロン、決定木の5種類の機械学習アルゴリズムを組み合わせた。各因子の予測への寄与度はShapley値を用いて評価した。
解析対象となった4,574人のうち、269人(5.9%)がPONVを発症した。傾向スコアマッチング後、PONV群269例と非PONV群269例の計538例を解析した。
機械学習によるアンサンブルモデルのPONV識別能を示すAUCは0.81で、比較対象としたモデルを上回った。PONVへの寄与度は、術後のフェンタニル使用が最も高く、次いで手術時間、BMI、総尿量、麻酔時間の順だった。
PONVの関連因子として、患者関連では女性、BMI(25未満)が、麻酔・手術関連では手術時間(60分未満)、麻酔時間(100分未満)、帝王切開、術後フェンタニル使用、脊髄くも膜下腔へのフェンタニル/モルヒネ投与、硬膜外麻酔の穿刺レベル(Th7~12)が特定された。一方、年齢、出血量、輸血量、輸液量、脊髄くも膜下麻酔の穿刺レベル、鎮静薬や昇圧薬などの使用には明確な関連は認められなかった。
著者らは、今回のAI解析はPONVのリスク因子を特定するのに十分な精度を示し、将来的なPONVの発生予測に活用できる可能性があるとしている。一方、本研究では、傾向スコアマッチング後の症例数が少なく一部の因子を十分に解析できなかったこと、単施設研究で外部検証を行っていないこと、帝王切開の割合が高いこと、鎮静薬の影響を十分に考慮できなかったことなどを限界として挙げている。
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