• 運動による記憶力向上は少なくとも8週間続く

     運動することで記憶力が向上し、運動しない場合との有意差は少なくとも8週間維持されるとする研究結果が報告された。北海道教育大学岩見沢校スポーツ文化専攻の森田憲輝氏らが、学生対象クロスオーバー試験で明らかにしたもので、詳細は「Journal of Science and Medicine in Sport」に11月4日掲載された。

     記憶は、数秒から数十秒ほど保持される短期記憶と、数時間から場合によっては生涯にわたって保持される長期記憶に分類される。後者の長期記憶の中でも、本人が意識的に思い出すことができ、言葉などで表現することのできる記憶は「陳述記憶」と呼ばれ、この陳述記憶がより長期間保持されるほど、学業や就業において有利になると考えられている。

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     これまでの研究で、運動に陳述記憶の保持効果があることが示されているが、その効果の持続時間は、最長で1週間と報告されている。ただし、検証が十分行われていないだけで、実際には効果がそれよりも長期間維持される可能性もある。これを背景として森田氏らは、追跡期間11カ月に及ぶ研究を実施した。

     研究デザインは、15個の単語を覚える前に自転車エルゴメーターを使い中強度(心拍数が最大値の50%になる強度)で20分間の負荷を加える条件と、安静状態で覚えるという条件(対照条件)を、試行順序をランダム化した上で参加者全員に課すというクロスオーバー法。単語を覚える作業の終了直後、24時間後、4週間後、6週間後、8週間後、および11カ月後に、単語をいくつ覚えているかをテストした。研究参加者は同大学から募集された51人で、追跡期間中の脱落者を除き44人(平均年齢19.7±0.8歳、男性29人)が解析対象とされた(11カ月時点ではさらに3人が脱落)。

     記憶作業終了直後のテストでは、運動条件で覚えていた単語が12.9±1.9個、対照条件では12.7±2.3個で有意差はなかった。また、24時間後にも両条件ともに約83%の単語を記憶しており、有意差はなかった。それ以降は時間の経過とともに記憶している単語の数が少なくなっていき、4週間後は運動条件の方が覚えている単語が多いという有意水準未満の差(P=0.14)が観察された。そして6週間後には、覚えている単語の数に1.52個(95%信頼区間0.43~2.61)、8週間後には1.17個(同0.11~2.22)の有意な差が生じていて、いずれも運動条件の方が多かった。しかし11カ月後には再び有意差がなくなっていた。

     著者らは、本研究の対象が認知機能正常の若年者のみであり、得られた結果をそのまま一般人口に外挿できるわけではないことなどを留意点として挙げた上で、「1回の運動で記憶維持効果が少なくとも8週間維持されることが示された。この結果は、運動が長期記憶を強化する効果的な介入法であり、学業や職業上のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があることを示唆している。ただし、1年近く経過した時点では有意差が見られなかったことから、時間の経過に伴う効果の変動を理解するための研究が必要とされる」と総括している。

     なお、運動が記憶力を向上させるメカニズムについては「いまだ詳細が不明」としつつ、先行研究に基づく考察として、「運動によってドーパミンなどの神経伝達物質や脳由来神経栄養因子の産生が増加することが関与しているのではないか」と述べられている。

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    HealthDay News 2025年1月27日
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  • 2週間の有酸素運動で冷え性の症状と睡眠の質が改善――日本人女性での検討

     冷え性の女性に対してウォーキングなどの有酸素運動を2週間続けてもらったところ、冷感が和らぎ睡眠の質が改善したとする研究結果が報告された。皮膚温や深部体温には有意な変化が生じず、一方で脳波検査からα波の増強が認められたことから、運動によって冷えに対する脳での感受性が低下したことによる効果と推測されるという。山口県立大学看護栄養学部の山崎文夫氏らの研究結果であり、詳細は「Journal of Physiological Anthropology」に9月29日掲載された。

     快適と感じる温度には個人差があり、寒さに敏感な場合は「冷え性」と呼ばれ、男性より女性に多い。冷え性の症状は特に下肢に強く現れやすく、下肢の冷感のために睡眠が妨げられることも少なくない。他方、運動には血流改善効果があり、それによって冷えの症状が軽減されると報告されている。これらを背景として山崎氏らは、運動により下肢の冷えとともに睡眠の質も改善する可能性を想定し、そのメカニズムとして冷えに対する感受性の変化が関与するとの仮説の下、脳波検査を含む詳細な検討を行った。なお同氏らは、冷え性の人はα波(リラックス時に現れやすい脳波)が弱く、β波(緊張している時に現れやすい脳波)が強い傾向のあることを以前に報告している。

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     この研究の対象は、冷え性ではあるが健康で、過去1年間に習慣的な運動をしていなかった20~21歳の女性16人。冷え性の有無は精度検証済みのスクリーニングツールで確認した。全体を無作為に運動群と対照群に分け、前者に対しては1日の歩数を5千歩増やして、そのうち15分間は速歩またはジョギングとするという運動を、1週間に4日以上、2週間続けてもらい、対照群は普段どおりの生活を続けるよう指示した。

     運動介入の効果は、下肢の皮膚温、深部体温、下肢や全身の温冷感や快適感および全身11部位の冷感についての主観的評価、睡眠の質、ポータブル脳波計で測定した睡眠時脳波などから検証。これらは介入直前と介入終了直後に、いずれも自宅で記録してもらい解析に用いた。この研究は冬季(12~2月)に行い、室温は18℃、就床時刻は23~1時とし、かつ就床の3時間前までに夕食、1時間前までに入浴(浴槽に浸かる時間は10分以内)を終え、寝具は同じものを用いることとした。

     介入前の身長、体重、運動量(歩数と消費エネルギー量)、睡眠の質は、両群間で有意差がなかった。また、睡眠、入浴、食事の時間帯もほぼ同等だった。介入によって運動群では、1週目に歩数が4,105±2,713歩/日、消費エネルギー量が170±96kcal/日、2週目は同順に3,133±1,574歩/日、137±53kcal/日、それぞれ有意に増加していた。対照群の運動量には有意な変化が観察されなかった。

     結果について、まず下肢の皮膚温と深部体温に着目すると、運動群、対照群ともに有意な変化はなく、介入前/後ともに群間差が非有意だった。一方、下肢および全身の温冷感と快適感のビジュアルアナログスケール(VAS)スコアは2週目に入ると運動群で有意に上昇し、介入後の値に有意な群間差が生じていた。また、運動群では介入後に指先、下肢、つま先の冷感が有意に減弱しており、下肢とつま先の冷感については対照群との間に有意差が認められた。

     睡眠については、運動群で中途覚醒が10.3±9.7分から2.4±3.3分へと有意に減り、深い睡眠(ステージN3の睡眠)は54.1±16.9分から84.3±22.2分へと有意に増加。VASスコアによる睡眠の質の評価も運動群で有意に改善していた。睡眠時間や睡眠潜時(就床から入眠に要する時間)は、両群ともに有意な変化がなかった。

     脳波については、運動群で睡眠前α波のパワー(脳波活動に占める割合)が7.9±6.3%から12.5±10.3%へと有意に増加していた。睡眠前のβ波や睡眠中の脳波には有意な変化はなかった。一方、対照群では睡眠前のα波も含めて全て、有意な変化は見られなかった。

     これらの結果を著者らは、「冷え性のある若年女性に対する2週間の有酸素運動による介入は、四肢の末梢部の冷感を改善し、睡眠の質を向上させた。この変化は1週目では非有意だったことから、改善の自覚には2週間以上の運動継続が必要なようだ」と総括している。また、皮膚温や深部体温に有意な変化が見られなかったにもかかわらず、冷感や睡眠の質の改善効果が認められたことのメカニズムとして、「冷えを感じ取る脳の感受性が運動によって低下したためではないか。睡眠前のα波の増強はそれを表していると考えられる」と考察している。

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    HealthDay News 2023年11月6日
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  • 生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関係が明らかに

     特定健診データを利用した解析から、生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関連が明らかになった。喫煙習慣の有無にかかわらず、身体活動の低下は呼吸器疾患関連死の独立したリスク因子である可能性などが示された。山形大学医学部第一内科の井上純人氏らの研究によるもので、詳細は「Scientific Reports」に5月22日掲載された。

     生活習慣と心血管代謝性疾患リスクとの関連については数多くの研究がなされているが、呼吸器疾患については、喫煙と肺がんやCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の関連を除いてほとんど明らかにされていない。これを背景として井上氏らは、2008~2010年の7都道府県の特定健診受診者、66万4,926人のデータを用いた縦断的解析により、生活習慣と呼吸器疾患による死亡リスクとの関連を検討した。

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     解析対象者の主な特徴は、平均年齢62.3±8.8歳、男性42.76%、BMI23.4±3.5、喫煙者15.56%、習慣的飲酒者46.50%。7年間の追跡で8,051人の死亡が記録されていた。死因のトップは悪性新生物で4,159人(51.66%)であり、呼吸器疾患は437人(5.43%)で4位だった。死因としての呼吸器疾患には、ウイルスまたは細菌感染症(202人)、間質性肺炎(126人)、閉塞性肺疾患(42人)、誤嚥(30人)などが含まれていた。

     悪性新生物の中の「気管支及び肺の悪性新生物」による死亡(826人)を加えた計1,263人を「呼吸器疾患による死亡」として、特定健診の健診項目データとの関連を検討すると、単変量解析では、高齢、男性、収縮期血圧高値、喫煙・飲酒習慣などが、オッズ比上昇と有意な関連があり、反対にBMI高値や運動習慣はオッズ比低下と有意な関連が認められた。

     単変量解析で有意な関連が認められた因子を説明変数とする多変量解析の結果、呼吸器疾患による死亡リスクに正の独立した関連のある因子とそのハザード比(HR)は、高齢(1歳ごとに1.106)、男性(3.750)、喫煙習慣(1.941)、HbA1c(1%高いごとに1.213)、尿酸(1mg/dL高いごとに1.056)、尿蛋白陽性(1.432)、および脳血管疾患の既往(1.623)となった。反対に、負の独立した関連因子は、BMI(1高いごとに0.915)、運動習慣(0.839)、飲酒習慣(0.617)、歩行速度が速いこと(0.518)、LDL-コレステロール(1mg/dL高いごとに0.995)だった。

     次に、「気管支及び肺の悪性新生物による死亡」を除く437人で多変量解析を行うと、高齢(1.141)、男性(3.898)、HbA1c(1.241)、尿酸(1.066)、尿蛋白陽性(1.876)、eGFR(1mL/分/1.73m2高いごとに1.006)および脳血管疾患の既往(2.049)が正の独立した関連因子、BMI(0.831)、運動習慣(0.591)、歩行速度が速いこと(0.274)、LDL-コレステロール(0.995)が負の独立した関連因子として抽出された。喫煙習慣や飲酒習慣は、単変量解析の段階で有意な関連が示されなかった。

     続いて、「気管支及び肺の悪性新生物による死亡」の826人のみで多変量解析を行うと、独立した正の関連因子は、高齢(1.096)、男性(3.607)、喫煙習慣(3.287)、HbA1c(1.209)であり、独立した負の関連因子は歩行速度が速いこと(0.629)とヘモグロビン(1g/dL高いごとに0.884)が抽出された。

     著者らは、上記3パターンの解析のいずれにおいても、運動習慣を有することや歩行速度が速いことと死亡リスクの低さとの強い関連が認められたことから、「日本人60万人以上を対象とする大規模なサンプルを用いた解析から、喫煙習慣の有無にかかわらず、運動は呼吸器疾患による死亡リスクを抑制するための重要な因子と考えられる」とまとめている。

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    HealthDay News 2023年7月24日
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