• 精神科受診勧奨で自殺が減った可能性――日本医科大学

     国内の自殺者数は、新型コロナウイルス感染症の影響という不確定要素はあるものの近年、減少傾向にある。このような傾向に、希死念慮を抱く自殺リスク者の精神科受療率の向上が寄与している可能性を示すデータが報告された。日本医科大学精神医学教室の舘野周氏らの研究によるもので、詳細は「BMC Psychiatry」に3月29日掲載された。

     国内の自殺者数は1998年に急増し高止まりしていたが、2012年以降は漸減している。自殺者数減少の理由は複合的なものと考えられるが、その一つとして、リスクのある人への精神科受診勧奨が多くの場面でなされるようになったことの影響が考えられる。ただし、それを証明するデータは得られていない。

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     日本医科大学付属病院は1977年に国内初の救命救急センター(CCM)を開設し、年間1,600~1,800人の救急患者を受け入れており、その約5%を自殺未遂者が占めている。舘野氏らは、同院CCMに入院した自殺未遂者の精神科受療率の動向と、都内の自殺者数の推移とを比較することで、精神科受診と自殺行動との関連を検討した。

     解析対象期間は2006~2017年で、この間の都内の自殺者数は3万2,783人だった。解析に必要な年齢が不明なデータを除外した上で、自殺者数の減少が始まる前の2006~2011年(前期)と、自殺者数減少局面にあった2012~2017年(後期)に二分すると、前期の自殺者数は1万7,364人、後期は1万4,888人となった。年齢・性別の検討から、20~39歳の男性と女性、および40歳以上の男性は、前期に比べて後期は自殺者数が有意に減少していた。

     一方、この間の同院CCMの入院者数は2万1,271人だった。自殺未遂のためにCCMに搬送され、少なくとも2日以上の入院を要した患者は942人だった。これを前期と後期に分けると、前期は573人(同期間のCCM入院者数の5.0%)、後期は369人(同3.8%)だった。年齢・性別の検討から、20~39歳では男性・女性ともに、前期に比べて後期は自殺未遂者数が有意に減少していた。

     自殺未遂の前3カ月以内に精神科受診歴がある場合を「精神医学的治療を受けていた」と定義すると、前期は男性の44.6%、女性の69.5%がこれに該当。一方、後期はその割合が男性63.1%、女性74.1%であり、男性の精神科受療率が有意に上昇していた(P<0.001)。女性の変化は有意水準に至らなかった。なお、女性の精神科受療率は、前期(P<0.001)、後期(P=0.025)とも、男性よりも有意に高かった。

     次にこの結果を年齢層別に見ると、男性では、20~59歳の層で、自殺未遂者の精神科受療率が有意に上昇していた。ただし、60歳以上の層では有意な変化が見られなかった。また、女性に関しては、全ての年齢層で有意な変化が見られなかった。なお、60歳以上の精神科受療率は男性・女性で共通して全年齢層中最低で、この傾向は後期においても同様であった。

     続いて20~59歳の男性の自殺者数と精神科受療率との関連を検討した結果、両者に有意な負の相関があることが明らかになった(r=-0.59、P=0.042)。これは、自殺リスクの高い人の精神科受療率の上昇が、自殺者数の減少と関連していることを意味する。

     以上より著者らは、「自殺リスクの高い人の精神科受療率の向上が都内の自殺者数の減少に貢献した可能性がある」と結論付けている。一方で、精神科医療における対応のさらなる充実が必要であると指摘し、精神疾患に対する治療のみならず、「精神科医療従事者がリスクの高い患者を特定した場合に、関係機関と連携して自殺予防に取り組む」などを提案している。

     さらに、自殺者数が多い高齢者層の精神科受療率がいまだ低値であることを重視し、「高齢者は孤立や社会的支援の欠如、身体疾患などの希死念慮につながるリスク因子を有していることが少なくない。自殺者数のさらなる抑制のため、高齢者に対するアプローチが喫緊の課題だ」と述べている。

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    HealthDay News 2022年4月25日
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  • HFpEFはHFrEFよりフレイルが多い――YOSACOI研究

     左室駆出率が保持された心不全(HFpEF)患者は、左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)患者よりも、フレイル該当者が多いことを示すデータが報告された。高知大学医学部老年病・循環器内科学の濱田知幸氏、北岡裕章氏らの研究によるもので、詳細は「ESC Heart Failure」に3月30日掲載された。

     フレイルとは、さまざまなストレスへの耐性が低下していて、要介護リスクが高い状態のこと。要介護への進行を防ぐために、早期発見と運動や食事などへの介入が必要とされる。近年、心不全患者はフレイルリスクが高い可能性を指摘した報告が増えている。他方、心不全はかつて、心臓の血液を送り出す力(左室駆出率)が低下した状態「HFrEF」が大半を占めると考えられていたが、高齢化などを背景に、左室駆出率が保たれているにもかかわらず心不全症状の現れる「HFpEF」が増加し注目されている。しかし、HFrEFとHFpEFとでフレイルリスクに差があるのかは明らかでない。

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     北岡氏らはこの点について、高知県で行われている急性非代償性心不全患者レジストリ「YOSACOI研究」のデータを用いた解析を行った。YOSACOI研究は2017年にスタートした同県での多施設共同研究であり、1,061人が登録されている。今回の検討では、フレイルに関するデータが欠落している患者、左室駆出率が軽度低下(40~49%)したHFmrEF患者などを除き、645人の心不全患者〔年齢中央値81歳(四分位範囲72~87歳)、女性49.1%〕を解析対象とした。

     左室駆出率50%以上をHFpEFとすると、61.2%が該当した。一方、左室駆出率40%未満のHFrEFは38.8%だった。両者の臨床像を比較すると、HFpEF群は高齢で(中央値84対76歳)、女性が多く(61.0対34.8%)、ヘモグロビン値が低い(同11.1対12.7mg/dL)などの有意差が見られた(いずれもP<0.001)。一方、BMIや高齢者栄養リスク指数(GNRI)で評価した栄養状態は有意差がなかった。

     長谷川式認知症スケール(HDS-R)で評価した認知機能スコアは、HFpEF群の方が有意に低かった(26.0対27.0点、P=0.049)。ただし、認知的フレイル(HDS-R20点以下で定義)の割合は有意差がなかった。このほか、HFpEF群は、高血圧、慢性腎臓病、貧血の有病率がHFrEF群より有意に高かった。

     身体的フレイルの判定には、日本版CHS基準(握力、歩行速度、身体活動状況、疲労感、意図しない体重減少の5項目で評価)を用いた。評価項目の該当数は、HFpEF群が中央値3個、HFrEF群が同2個であり、有意差が存在した(P=0.026)。結果として、身体的フレイル有病率はHFpEF群55.2%、HFrEF群46.8%と、HFpEF群が有意に高かった(P=0.043)。フレイル判定の評価項目を個別に見ると、握力は男性(P<0.001)と女性(P=0.041)ともにHFpEF群が有意に低く、歩行速度はHFpEF群が有意に遅かった(P<0.001)。

     身体的フレイルに独立して関連する因子を多変量解析で検討した結果、HFpEFとHFrEFでは異なる因子が抽出された。具体的には、HFpEF群では年齢〔1歳ごとにオッズ比(OR)1.03(95%信頼区間1.010~1.050)〕が抽出され、反対にアルブミン値とは負の関連が認められた〔1mg/dLごとにOR0.334(同0.192~0.582)〕。一方、HFrEF群では年齢やアルブミン値は有意な関連がなく、女性〔OR2.150(同1.030~4.500)〕と貧血〔OR2.840(同1.300~6.230)〕の2つが、それぞれ独立して身体的フレイルに関連していた。

     なお、心不全の重症度の指標である左室駆出率やBNP、NYHAステージ、および、糖尿病、虚血性心疾患、慢性腎臓病といった心不全リスクを高める疾患は、いずれも身体的フレイルに関連する有意な因子として抽出されなかった。

     著者らは、「HFpEFはより高齢患者に多く、HFrEF患者よりも身体的フレイルの有病率が高い。また、心不全の重症度ではなく、アルブミン低値や貧血などが身体的フレイルに関連していることが明らかになった。心不全患者の身体的フレイルの抑止には、それらが介入標的となるのではないか」と述べている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

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    HealthDay News 2022年4月25日
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