• 2型糖尿病のHbA1cコントロールにピアサポートアプリが有効か

     糖尿病患者の血糖管理においてHbA1cは重要な指標となるが、今回、デジタルピアサポートアプリの活用により2型糖尿病患者のHbA1cが統計学的に有意に低下する可能性が示唆された。アプリ内のチャットを通じたコミュニケーションが患者個人の意思決定や行動に影響を与えている可能性があるという。研究は北里大学大学院 医療系研究科の吉原翔太氏によるもので、詳細は「JMIR Formative Research」に5月20日掲載された。

     HbA1cは過去2~3か月間の平均血糖値を反映し、糖尿病合併症のリスクを予測するためのゴールドスタンダードとされている。しかし、2型糖尿病患者にとっては、健康的な行動を自ら採用し維持することが困難な場合もあり、HbA1cの適切な管理が難しい患者も少なくない。ピアサポートは、共通の経験や課題を持つ個人同士が互いに支援し合うことと定義されており、2型糖尿病患者の健康的な行動を促進するための効果的な戦略となる可能性が示唆されている。デジタルヘルスの技術進歩により、ピアサポートもアプリ上で行うことが可能となりつつある。しかし、このようなアプリが2型糖尿病の管理に及ぼす影響については、十分な検討がなされていない。このような背景を踏まえ、著者らは2型糖尿病患者のHbA1cコントロールに対するデジタルピアサポートアプリの効果を検証するために、前向きの単群パイロット研究を実施した。

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     本研究は、「TRY! YAMANASHI! 実証実験サポート事業」の一環として、2021年12月から2022年6月にかけて実施された。解析対象は、スマートフォンを所有する、山梨県内の医療機関を受診した2型糖尿病患者とした。参加者は医師からデジタルピアサポートアプリ「みんチャレ」(エーテンラボ株式会社)を紹介され、アプリ内の糖尿病管理グループに登録した。介入期間は3ヵ月間とし、参加者は糖尿病の標準治療に加え、このアプリの使用を奨励された。このアプリは、参加者がチャット機能を通じて活動記録や懸念を共有し、相互の関与と励ましによってHbA1c値の改善を図ることを可能にした。主要評価項目は、ベースラインからのHbA1cの変化量とした。

     本研究には、21名の参加者(年齢中央値56歳)が含まれ、うち13名(61.9%)が女性だった。3ヵ月間の介入の結果、参加者のHbA1cはベースラインの7.1(±0.6)%から6.9(±0.1)%へと有意に減少した(P<0.05、ウィルコクソンの符号順位検定)。同様に、体重も70.7(±12.7)kgから69.9(±12.4)kgに減少した(P<0.05、ウィルコクソンの符号順位検定)。血圧に関しては、128.2(±12.5)mmHgから126.0(±12.9)mmHgへとわずかに減少したものの、統計的に有意ではなかった。また、1日1時間以上の身体活動を行う参加者の割合は、23.5%から58.5%へと増加した(P<0.05、マクネマー検定)。

     本研究について著者らは、「2型糖尿病の標準治療に加え、デジタルピアサポートアプリを使用することで健康的な行動が促進され、患者のHbA1c値が改善する可能性があることが示唆された。この結果は、リマインダーやチャット機能といったアプリの特定の機能に起因している可能性がある。チャットを通じたコミュニケーションは、個人の意思決定や行動に影響を与え、健全な行動を維持するためのオンラインコミュニティ内での行動規範形成に寄与している可能性もある」と述べている。

     本研究の限界点については、サンプル数の少ない単群介入研究であったこと、主要評価項目にHbA1c値を採用したため、行動変化と検査値の間にタイムラグがあることなどを挙げている。

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    糖尿病でいちばん恐ろしいのが、全身に現れる様々な合併症。深刻化を食い止め、合併症を発症しないためには、早期発見・早期治療がカギとなります。今回は糖尿病が疑われる症状から、その危険性を簡単にセルフチェックする方法をご紹介します。

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  • 腹腔鏡下手術vs.ロボット支援下手術、直腸がんの術後転帰に差

     直腸がんの手術では、狭い骨盤内での作業が必要となる。そのため、多関節アームやモーションスケーリング機能を備えたロボット支援下手術(RALS)を採用するメリットは大きい。今回、直腸がんにおけるRALSは、従来の腹腔鏡下手術(CLS)と比較して術後転帰が改善されるとする研究結果が報告された。出血量、術後C反応性蛋白(CRP)値、入院期間の点でCLSよりも有意な転帰の改善を示したという。研究は神戸大学大学院医学研究科外科学講座食道胃腸外科学分野の安藤正恭氏、松田武氏らによるもので、詳細は「Langenbeck’s archives of surgery」に5月21日掲載された。

     直腸がんに対する低侵襲手術としてはCLSが導入されてきたが、骨盤の狭い患者や肥満の患者に対しては、直腸間膜の全切除や適切な環状切除マージンの確保が難しいケースがある。この課題を解決するためにRALSが確立された。しかし、過去に行われたCLSとRALSの比較を目的とした複数のランダム化比較試験では、短期的な転帰について一貫した結果が得られていない。そのため、RALSの安全性と実行可能性には、なお議論の余地があることが示唆されている。このような背景を踏まえ、著者らは直腸がんに対するRALSの安全性と実行可能性をCLSと比較するため、過去にCLSまたはRALSを受けた患者を対象に後ろ向き研究を実施した。

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     本研究には、2009年1月から2023年12月の間に神戸大学医学部附属病院にて、前方切除術またはハルトマン手術を受けた直腸がん患者702名が含まれた。組み入れ基準は、腺癌、扁平上皮癌、神経内分泌腫瘍などの原発性直腸がん患者で、CLSまたはRALSを受けた患者とした。2群間の患者および腫瘍特性の差によるバイアスを最小限にするため、傾向スコアマッチング(PSM)を実施した。カテゴリ変数の比較にはカイ二乗検定またはFisherの正確確率検定を、ノンパラメトリック連続変数の比較にはMann-Whitney検定を用いた。疾患特異的生存率(CSS)、無再発生存率(RFS)、局所再発の累積発生率(LRR)はKaplan-Meier法で推定し、群間比較にはlog-rank検定が用いられた。

     本研究では、リンパ節郭清、多発がん、データ欠損などの理由で症例を除外した結果、CLS群は313名、RALS群は75名が解析対象となった。PSM後、最終的にCLS群とRALS群でそれぞれ140名と70名がマッチングされた。両群間の患者および腫瘍特性は均衡しており、受けた手術の割合(前方切除またはハルトマン手術)も同程度であった。CLS群と比較すると、RALS群では手術時間の中央値が延長されたものの、出血量の中央値は有意に少なかった(P<0.001)。

     術後の短期転帰の解析において、RALS群のCRP値の中央値はCLS群と比較して、術後1日目(4.00 vs. 5.24mg/dL、P<0.001)および術後3日目(5.49 vs. 7.08mg/dL、P=0.006)で有意に低下していた。術後入院期間の中央値は、RALS群で12.5日、CLS群で15.0日であり、RALS群では有意に短縮されていた(P=0.006)。また、グレード1以上の合併症(Clavien-Dindo分類)の発生頻度は両群間で有意な差は認められなかった。

     中期転帰の解析において、CSS、RFS、LRRのいずれのKaplan-Meier曲線でも、統計的に有意な群間差は認められなかった。

     本研究について著者らは、「RALS群の手術時間の延長は、初期導入の学習期間が含まれていた点を考慮する必要があるが、CLS群と比較して手術時の出血量と術後のCRP値の減少、術後入院期間の短縮というベネフィットが認められた。また、中期的な腫瘍学的転帰もCLS群と同様に良好であった。今後は、大規模かつ長期にわたる研究が必要だが、今回の知見は、直腸がんに対するRALSの実行可能性と安全性を支持するものと考える」と述べている。

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  • 家庭における犬と猫の共存、その成功因子が明らかに

     近年、先進国では犬と猫の両方を飼っている世帯が増加している。今回、日本国内で犬と猫の両方を飼っている飼い主のほとんどは、両者が友好的であると認識しているとする研究結果が報告された。両者の同居開始年齢が若いほど、友好的な関係が予測されるという。研究は大阪大学大学院人間科学研究科の千々岩眸氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に5月15日掲載された。

     2023年に一般社団法人ペットフード協会が実施した調査によると、国内で飼われている犬と猫の総個体数はそれぞれ700万匹と900万匹とされており、世帯全体のうち9.1%が犬を、8.7%が猫を飼っていると報告されている。また、日本の保険会社が2019年に実施した調査では、「犬・猫」を飼っている1776人の回答者のうち、11.1%(123人)が犬と猫の両方を飼っていると回答している。異なる特徴を持つ種が共存する場合、そこにはしばしば衝突が発生するが、近年、欧米諸国で実施された調査では、同居する犬と猫の間には概ね良好な関係が見出されている。この関係性は、同居開始年齢と猫特有の要因が影響しているという。しかし、日本や他のアジア諸国でこの関係性について調査した研究はない。また、多様な文化的背景における犬と猫の関係のダイナミクスを探ることは、両者の福祉(怪我やストレスの軽減、遺棄の防止など)にとって重要である。このような背景を踏まえ、著者らはオンライン調査を通じて、日本の犬・猫の飼い主が家庭内で両者の関係をどのように認識しているかを評価し、両者の共存に影響を与える様々な要因について検討した。

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     オンライン調査は、犬と猫の両方を飼っている国内在住の18歳以上の成人を対象とし、2021年12月14日から24日にかけて実施された。質問票は、(1)参加者に関する基本情報、(2)犬に関する基本情報、(3)猫に関する基本情報、(4)犬と猫に関する情報、(5)犬と猫の友好に関する評価(1~10までのリッカート尺度評価)の5つのセクションで構成されていた。犬と猫の友好に関連する因子を特定するために、質問票の各セクションについて個別にステップワイズ法による線形回帰分析を実施した。

     オンライン調査では1,981人の参加者から回答を収集し、そのうち777人の回答が有効とされた。最も年齢層が高かったのは40~49歳(27.5%)であり、未就学児がいない家庭が多かった(81.9%)。「X(犬または猫)の前でY(犬または猫)は快適に過ごしているか?」という問いに対し、多くの飼い主が互いに快適に過ごしていると回答した(犬:79.8%、猫:76.7%)。

     両者の友好の予測因子として、環境的側面では、食事場所が近いこと(標準化係数〔β〕-0.78、統計量〔t〕-9.14)、猫を犬に会わせた時の年齢が若いこと(β -0.32、t -3.84)、犬を猫に会わせた時の年齢が若いこと(β -0.25、t -2.37)などが明らかになった。また、「犬側の要因」では、犬が猫の前で快適に過ごしていること(β 0.62、t 7.37)、犬が猫に見せるためにおもちゃを拾ってくること(β 0.40、t 5.56)などが両者の友好の予測因子となった。一方、「猫側の要因」では、猫が犬の前で快適に過ごしていること(β 0.72、t 8.36)、猫が犬を威嚇しないこと(β -0.33、t -4.87)などが両者の友好の予測因子となっていた。欧米での報告では主に「猫側の要因」が重要であることが示唆されていたが、今回の研究から、「犬側の要因」と「猫側の要因」の両方が、(飼い主の)犬と猫との友好に対する認識に影響を与えることが明らかになった。

    本研究の結果について著者らは、「今回の研究では、先行研究とは異なり、『犬側の要因』は『猫側の要因』と同じくらい両者の友好的な関係に影響を与えることが示された。これは、小型犬や柴犬が屋内で飼育されているという日本特有の環境に起因するのかもしれない。また、犬と猫の関係が文化によってどのように異なるか、そしてそこから得られた知見をどのように活用できるかを検証するには、さらなる研究が必要だ」と述べている。

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  • がんサバイバーの脳卒中・心血管死リスク、大規模コホート研究で明らかに

     がんと診断された人(がんサバイバー)は、そうでない人と比較して心血管系疾患(CVD)を発症するリスクが高いことが報告されている。今回、がんサバイバーの虚血性心疾患・脳卒中による死亡リスクは、一般集団と比較して高いとする研究結果が報告された。大阪大学大学院医学系研究科神経内科学講座の権泰史氏らの研究によるもので、詳細は「Journal of the American Heart Association;JAHA」に5月15日掲載された。

     近年、医療の進歩により、がん患者の生存率は大幅に向上している。しかし、その一方で、CVDが新たながんサバイバーの懸念事項として浮上している。CVDはがんサバイバーでがんに次ぐ死因であることが明らかになっており、疫学研究では、CVDによる死亡リスクが一般集団の約2倍であることも報告されている。従来の研究では、CVD全体による死亡リスクが調査されてきたが、特定のCVDに焦点を当てた研究は限られていた。そのような背景を踏まえ、筆者らは「全国がん登録(NCR)」データベースを用いて、国内のがん患者におけるCVDによる死亡リスクを調査するコホート研究を実施した。CVD全体のリスク評価に加え、虚血性心疾患、心不全、大動脈解離・大動脈瘤、虚血性脳卒中、出血性脳卒中といった特定のCVDについても解析を行った。

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     解析対象は、NCRデータベースに含まれる、2016年1月~2019年12月の間にがんと診断された患者とした。対象者の死因は、国際疾病分類第10版(ICD-10)に基づき、死亡診断書に記載された情報からNCRに登録されたコードを用いて特定された。がん患者と一般集団のCVD死亡リスクを比較するため、標準化死亡比(SMR)とその95%信頼区間(CI)を算出した。また、特定のCVDにおいてもがん種ごとのSMRを算出した。

     本研究には397万2,603人(うち女性は45.8%)の患者が含まれ、621万2,672人年の追跡調査が行われた。CVDのSMRは2.39(95%CI 2.37~2.41)で、がん患者は一般人口集団と比較してCVD死亡リスクが2.39倍高かった。SMRは男性より女性で高くなっていた。CVD死亡リスクをがん種別にみると、全てのがん種でSMRが1.0を超えて上昇していた。SMRは非リンパ系造血器悪性腫瘍が最も高く(4.32〔95%CI 4.15~4.50〕)、前立腺がんが最も低かった(1.52〔95%CI 1.48~1.57〕)。

     次にがん種ごとに特定のCVDのSMRを調べた。その結果、特定のCVDのSMRはがん種によって異なることが明らかになった。虚血性心疾患と心不全では非リンパ系造血器悪性腫瘍のSMRが最も高かった(それぞれ3.15〔95%CI 2.87~3.45〕、7.65〔95%CI 7.07~8.27〕)。虚血性脳卒中、大動脈解離・大動脈瘤、出血性脳卒中ではそれぞれ膵臓がん(5.39〔95%CI 4.79~6.05〕)、喉頭がん(3.31〔95%CI 2.29~4.79〕)、肝がん(3.75〔95%CI 3.36~4.18〕)のSMRが最も高くなっていた。

     本研究の結果について著者らは、「がん患者はCVDによる死亡リスクが高く、非リンパ系造血器悪性腫瘍ではその傾向が顕著だった。また、死亡リスクは、がんの種類やCVDの種類によって大きく異なることが明らかになった。特定のがん種と心血管疾患関連の死亡率との関連性を理解することは、高リスク集団を特定し、がんサバイバーに対する長期的な管理戦略の策定に役立つだろう」と述べている。

     本研究の限界点については、NCRに記載のICD-10コードはまれに不正確であること、本研究が観察研究であり、がんとCVDの因果関係を確立するできないこと、などを挙げている。

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    肺がんは初期の自覚症状が少ないからこそ、セルフチェックで早めにリスクを確かめておくことが大切です。セルフチェックリストを使って、肺がんにかかりやすい環境や生活習慣のチェック、症状のチェックをしていきましょう。

    肺がんのリスクを症状と生活習慣からセルフチェック!

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    HealthDay News 2025年6月23日
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  • 衝突被害軽減ブレーキは歩行者の重傷事故リスクを低減させる

     乗用車に搭載されている衝突被害軽減ブレーキ(AEB)は、警告音や自動のブレーキ制御によって、衝突事故の回避や被害の軽減を支援する装置である。国内では、2021年11月から国産の新型車にAEBの搭載が義務化されている。今回、AEBは事故発生時に歩行者の重傷度を軽減する可能性があるとする研究結果が報告された。東京大学医学部・大学院医学系研究科公衆衛生学/健康医療政策学の稲田晴彦氏らの研究によるもので、詳細は「Accident
    Analysis & Prevention」に5月10日掲載された。

     2023年のWHOの報告では、交通事故による年間死亡者数は119万人(人口10万人あたり15人)と推定されている。これらの死亡者のうち、約30%は歩行者および自転車利用者が占めているが、日本国内でも同様の傾向が見られる。2024年に警察庁交通局の発表したデータによると、2023年の衝突事故後30日以内に死亡した3,263人のうち、1,211人(37%)が歩行者であり、500人(15%)が自転車利用者だった。こうした交通事故の被害軽減のため、自動車メーカーはAEBのような衝突回避システムを搭載した車両の開発・普及を進めてきた。過去には、AEBが歩行者や自転車利用者の事故の重傷度を軽減することがシミュレーション研究では示されているものの、現実世界の事故データを用いた研究ではサンプルサイズや効果推定値の信頼区間の問題から決定的な結論を出すには至っていない。このような背景を踏まえ、筆者らは、AEBが交通事故における歩行者と自転車利用者の負傷重傷度を軽減しているかどうかを検証するために、警察庁の報告データを用いた横断研究を実施した。

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     警察に報告された交通事故に巻き込まれた歩行者と自転車利用者数に関するデータは、公益財団法人交通事故総合分析センターを通じて入手した。本研究では、2016年~2019年までの車両対歩行者および車両対自転車のうち、車両の運転手に主な過失が認められた負傷事故データに限定した。対象車種はオプションでAEBシステムを搭載するベストセラーの6車種(具体的な車種名は非公開)とした。

     調査期間中、4,131人の歩行者と6,659人の自転車利用者が対象6車種のいずれかで負傷事故に巻き込まれていた。歩行者4,131人のうち、2,760人がAEB搭載車、1,371人がAEB非搭載車と衝突事故を起こしていた。歩行者の「死亡または重傷」の割合は、AEB搭載車で16.7%(461/2,760)非搭載車で21.3%(292/1,371)だった。自転車利用者については、この割合は、AEB搭載車、非搭載車でそれぞれ8.0%(350/4,392)、8.1%(184/2,267)だった。

     次に、AEBの有無と事故による負傷重傷度(死亡または重傷)との関連を検討した。車種、運転者の性・年齢、回避操作時の速度、歩行者または自転車利用者の性・年齢、時間帯、天候、路面状況を調整し、多変量ロジスティック回帰分析を行った。その結果、歩行者ではAEBと「死亡または重傷」との関連性を示す調整オッズ比は0.80(95%信頼区間
    0.64~0.996)であり、衝突車両にAEBが搭載されていた場合、歩行者の「死亡または重傷」のオッズが20%低減することが示された。一方自転車利用者では、この調整オッズ比は0.91(95%信頼区間
    0.74~1.14)であり、AEBと「死亡または重傷」の間に有意な関連は認められなかった。

     本研究の結果について著者らは、「本研究より、AEBシステムは、現実世界の歩行者に対して、衝突が避けられない場合でも傷害の重傷度を軽減する可能性が示唆された。今後の研究では、自転車利用者を検知する新しいAEBシステムの効果を評価するとともに、運転者の特性による効果の違いについても検討する必要がある」と述べている。

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  • 妊娠中のカルシウム摂取量が子供のうつ症状に関連か

     栄養バランスの偏りや特定の栄養素の不足は、うつ症状の発症リスクを高める可能性があるとされている。今回、妊娠中の母親のカルシウム摂取量が、子供のうつ症状の発症リスクと関連しているとする研究結果が報告された。妊娠中の母親のカルシウム摂取量が多いほど、生まれた子の13歳時うつ症状に予防的であることを示したという。愛媛大学大学院医学系研究科疫学・公衆衛生学講座の三宅吉博氏らの研究によるもので、詳細は「Journal
    of Psychiatric Research」に5月6日掲載された。

     2017年に実施された5つの研究を含むメタ解析では、カルシウム摂取量とうつ病のリスクとの間には有意な負の関連が認められている。さらに、国内の九州・沖縄母子研究(KOMCHS)のデータから、カルシウム摂取量と妊娠中のうつ症状の有病率との間に負の関連があることが示された。しかし、妊娠中の母親のカルシウム摂取量と生まれた子のうつ症状との関連を検討した研究は存在しない。また、思春期は精神衛生上きわめて重要な時期であり、この時期に発症するうつ症状の修正可能なリスク因子を特定することで、若年層の精神疾患の増加を抑えられる可能性がある。このような背景から筆者らは、KOMCHSのデータを活用し、妊娠中の母親のカルシウム摂取量と13歳時うつ症状のリスクとの関連を前向きに検討した。

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     KOMCHSは母子の健康問題に関するリスク要因と予防要因を特定することを目的とした前向きの出生前コホート研究である。KOMCHSでは、2007年4月から2008年3月にかけて、九州7県および沖縄県に在住していた妊婦1,757名がベースライン調査に参加した。ベースライン後の追跡調査は、出産時、産後4ヵ月時、1、2、3、4、5、6、7、8、10、11、12、13歳の時点で実施した。本研究では13歳時追跡調査に参加した873組の母子を対象とした。13歳時追跡調査では、子供がCenter
    for Epidemiologic Studies Depression
    Scale(CES-D)の日本語版に回答し、うつ症状の評価を行った。CES-Dスコアのカットオフ値は16点とした。また、母親の妊娠中の食習慣に関するデータは、自記式食事歴法質問票(DHQ)を用いて収集した。

     873組において、子供の13歳時うつ症状の有症率は23.3%であった。ベースライン調査時の平均妊娠週は17.0週目、母親の平均年齢は32.0歳であり、約18%が妊娠中にうつ症状を呈していた。1日のカルシウム摂取量の中央値は482.5mgであった。

     次に、ベースライン時の母親の年齢、妊娠週、両親の教育歴などで補正した多重ロジスティック回帰分析により、妊娠中の母親のカルシウム摂取量別にみた、13歳時の子供のうつ症状に対するオッズ比(OR)を算出した。その結果、妊娠中の母親のカルシウム摂取量の第1分位(最低摂取量)を基準として比較した場合、第2、第3、第4分位における子供のうつ症状の補正OR(95%信頼区間)は0.63(0.39~0.99)、0.91(0.58~1.41)、0.58(0.36~0.93)であった(P=0.10〔傾向性P値〕)。

     本研究の結果について筆者らは、「本研究では、妊娠中の母親のカルシウム摂取量を増やすことで、13歳時の子供がうつ症状を発症するリスクが低下する可能性が示唆された。この知見は、小児期のうつ症状を予防する手段として、妊娠中の母親のカルシウム摂取量の増加がもたらす潜在的なメリットを明らかにしている」と述べている。

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  • 高齢者の夜間頻尿、改善のカギは就寝時間か

     夜間頻尿は特に高齢者を悩ませる症状の一つであり、睡眠の妨げとなるなど生活の質(QOL)に悪影響を及ぼすことがある。今回、適切な時刻に規則正しく就寝する生活を送ることで、高齢者の夜間頻尿が改善する可能性があるとする研究結果が報告された。研究は、福井大学医学部付属病院泌尿器科の奥村悦久氏らによるもので、詳細は「International
    Journal of Urology」に4月26日掲載された。

     夜間頻尿は、夜間に排尿のために1回以上起きなければならない症状、と定義されている。主な原因としては、夜間多尿、膀胱容量の減少、睡眠障害が知られている。疫学研究により、夜間頻尿はあらゆる年齢層における主要な睡眠障害の一因であり、加齢とともにその有病率が上昇することが示されている。加齢に伴う睡眠障害の一つの特徴として、就寝時間が早まる傾向がある。その結果、高齢者では総睡眠時間は延長するものの眠りが浅くなり、軽い尿意で覚醒するようになる。しかし、睡眠障害の治療が夜間頻尿の改善につながることを示唆する前向き臨床試験の報告は限られている。このような背景を踏まえ著者らは、就寝時刻を調整することで高齢者の夜間頻尿が改善するという仮説を立てた。

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     本研究では、睡眠・覚醒活動を測定するウェアラブルデバイスを患者に装着して就寝してもらった。得られた1週間分の就寝時刻、中途覚醒時間のデータから、最急降下法を応用して考案した独自のアルゴリズム(特許出願中)を用いて患者ごとに適切な就寝時刻を決定し、その時刻に就寝する生活を続けることによる夜間頻尿の変化を検証した。解析対象は、2021年4月~2023年12月にかけて、夜間頻尿を主訴として福井大学附属病院とその関連病院を受診した患者33名とした。患者を交互割り付けで4週間毎の介入→非介入群と非介入→介入群の2群に分け、それぞれに対し2週間のウォッシュアウト期間を設けるクロスオーバー試験を実施した。介入期間中は、上記方法で決定した個別の就寝時刻に就寝してもらい、排尿状態は各期間の前後3日に記録した排尿日誌を、睡眠の質はピッツバーグ睡眠質問票(PSQI)を用いてそれぞれ評価した。主要評価項目は夜間排尿回数(Nocturnal
    urinary frequency;NUF)の変化量とし、副次評価項目は夜間尿量(Nocturnal urine
    volume;NUV)、就寝から第一覚醒までの時間(Hours of undisturbed sleep;HUS)、NUV(NUV per
    hour;NUV/h)、PSQIなどの変化量と設定した。変化量はrepeated measures ANOVAで評価した。

     解析対象は、新型コロナウイルス感染症流行に伴う移動制限、生活習慣の変化などの理由により9名を除外した24名となった。対象の平均年齢は79.7±5.6歳であり、男性17名、女性7名であった。介入前の対象群の平均就寝時刻は21時30分で、介入後は22時11分となり、24人中22人が就寝時間を遅らせる結果となった。

     介入期間中のNUFは、非介入期間と比較して有意に減少した(-0.90回 vs
    -0.01回、P<0.01)。さらに、Spearmanの順位相関検定の結果、NUFの変化量と就寝時間の変化量の間には有意な相関が認められた(r=-0.58、P=0.003)。

     また非介入期間と比較して、介入期間においてHUSは有意に延長し(62.8分 vs.
    12.7分、P=0.01)、NUVは有意に減少した(-105.6mL vs.
    4.4mL、P=0.04)。特にHUSまでのNUV/hが有意に減少し(-28.4mL/h vs.
    -0.17mL/h、P=0.04)、さらにPSQIも有意な改善を認めた(-2.4 vs. 1.2、P=0.02)。

     本研究の結果について著者らは、「夜間頻尿を有する高齢者は最適な就寝時刻より早く就寝している傾向にある可能性が高い。しかし、適切な時刻に規則正しく就寝する生活を送ることで、睡眠の質にとって非常に重要な要素であるといわれる『就寝から第一覚醒までの時間』が有意に延長され、これに伴い夜間尿量、特に『就寝から第一覚醒までの時間』における単位時間あたりの尿量が有意に減少し、結果として夜間排尿回数が有意に減少する可能性がある。これらの結果は、就寝時刻の調整が夜間頻尿に対する有効な行動療法となる可能性を示唆している。また、実際の就寝時刻と最適な就寝時刻の差が大きい患者ほど介入の有効性が高い可能性がある」と述べている。

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    治験・臨床試験は新しいお薬の開発に欠かせません。治験や疾患啓発の活動を通じてより多くの方に治験の理解を深めて頂く事を目指しています。治験について知る事で治験がより身近なものになるはずです。

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  • 説明可能な人工知能による潰瘍性大腸炎の予後因子

     潰瘍性大腸炎(UC)は慢性の炎症性腸疾患であり、その病態生理は多岐にわたる。そのため、症例ごとに最適な治療法を選択することが大切だ。今回、全国規模のレジストリを説明可能な人工知能(日立製作所)を用いて解析することで、難治性UCの予後因子を特定できることが報告された。レジストリ登録時の偽ポリープが存在することが、寛解と有意に負の相関を示したという。研究は東海大学医学部消化器内科の佐野正弥氏らによるもので、詳細は「Annals
    of Medicine」に5月5日掲載された。

     UCは、重度の下痢、血便、激しい腹痛、発熱を特徴とし、再発と寛解を繰り返す難治性の炎症性腸疾患だ。UCの寛解を目指す場合、コルチコステロイド(CS)の導入が有効とされるが、CSには長期使用による有害事象のリスクがあり、早晩にCSに依存しない薬剤への切り替えが不可欠と考えられる。そのため、従来の研究では、どの治療がどの疾患型に対してより高い寛解率をもたらすかが検討されてきた。しかし、UCの疾患の多様性が影響し、包括的な予測モデルの開発は困難となっている。このような背景を踏まえ、著者らは、全国の医療記録に基づく機械学習モデルを用いて、難治性UCの予後因子を特定することとした。

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     解析対象は2003年4月から2012年3月(日本で生物学的製剤が普及する前)の期間に、全国レジストリに登録された新規UC症例7万9,096名とした。この中から3年分のデータがあり、初回診断時のMayoスコアが3以上で、登録以来CSを使用している4,003名(うち1,373名が3年以内に寛解達成)を最終的な解析対象とした。機械学習にはポイントワイズ線形モデル(PWLモデル)を用いて、3年後の寛解誘導と患者の層別化を予測した。モデルのパフォーマンスを示すスコアとして、曲線下面積(AUC)とF値を用いた。

     長期寛解(3年以上持続)を予測するために、登録時、登録後1年、登録後2年までのデータに基づき開発された3つのPWLモデルが評価された。登録時、登録後1年目、登録後2年目のAUCはそれぞれ0.628、0.641、0.774であり、増加が認められた。また、登録後2年後までのテストデータセットにおける、適合率、再現率、F値はそれぞれ0.55、0.70、0.62だった。

     次にk-means+法を用いて患者を予測される寛解率の高いグループと低いグループに分類した。さらに、登録時データのみを使用して寛解に関連する重要な因子の相関係数を調べたところ、偽ポリープ(0.695)、腹痛(0.689)、S字結腸炎(0.578)、5-ASAの使用(0.513)などいくつかの因子が相関していることが分かった。これらの因子の重み値は、偽ポリープ(-0.056)、腹痛(-0.054)で負の値を、S字結腸炎(0.054)、5-ASAの使用(0.049)で正の値を示した。登録後1年目までのデータを解析した結果、重要な因子として、偽ポリープ(0.982)、手術(0.964)、血球成分除去療法(0.940)が特定された。重み値は偽ポリープ(-0.159)が負の相関を示し、手術(0.094)と血球成分除去療法(0.109)が正の相関を示した。登録後2年までのデータでは、偽ポリープ(0.893)、2年目の日常生活(0.743)、1年目におけるCSの使用(0.736)が重要な因子となっていた。

     本研究の結果について著者らは、「登録後2年目までの臨床データを組み込むことで、過学習のリスクなしにモデルの精度が向上した。さらに、3つ全ての予測モデルにおいて、登録時の偽ポリープの存在が寛解導入の成功を阻害することが示された。UCのように炎症と寛解を繰り返す疾患では、長期予後を予測する際に時系列データの影響を考慮する必要があるが、従来の統計手法には一定の限界がある。このような背景から、PWLモデルは予後予測とその影響因子の特定に有効なのではないか」と述べている。

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    潰瘍性大腸炎は主にお腹の症状が中心となる炎症性の病気です。潰瘍性大腸炎の症状に焦点を当てながら潰瘍性大腸炎のセルフチェックに役立つ情報をご紹介していきます。

    もしかしたら?症状からみる潰瘍性大腸炎のセルフチェック方法

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    HealthDay News 2025年6月9日
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  • 歯周病の進行が動脈硬化と相関か

     歯周病は40歳以上の成人における歯の喪失の主な原因と考えられているが、2000年代の初頭からは他の全身疾患との関連性も報告されるようになった。今回、アテローム性動脈硬化と歯周病の進行が相関しているとする研究結果が報告された。研究は鹿児島大学大学院医歯学総合研究科予防歯科学分野の玉木直文氏らによるもので、詳細は「Scientific Reports」に4月18日掲載された。

    アテローム性動脈硬化は血管疾患の主な原因の一つであり、複数のメタ解析により歯周病との関連が報告されている。長崎大学は2014年に、離島における集団ベースの前向きオープンコホート研究である長崎諸島研究(Nagasaki Islands Study;NaIS)を開始した。このコホート研究でも以前、動脈硬化が歯周病の進行に影響を与えるという仮説を立て、横断研究によりその関連性を調査していた。しかし、両者の経時的な関連性を明らかにする縦断研究はこれまで実施されていなかった。そこで著者らは、追跡調査を行い、動脈硬化と歯周病の関連性を検討する3年間のコホート研究を実施した。

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     本研究は長崎県五島市で実施されたフィールド調査で口腔内検査を受けた40歳以上の成人597人のうち、ベースライン時の健康診断と3年後に実施された追跡健康診断の両方のデータ(潜在性動脈硬化症、潜在的交絡因子、口腔内検査)がそろっている222人を最終的な解析対象とした。潜在的なアテローム性動脈硬化の指標として、頸動脈内膜中膜厚(cIMT)が1mm以上、足関節上腕血圧比(ABI)が1.0未満、心臓足首血管指数(CAVI)が8以上の者を、高リスク者と定義した。歯周病の進行は、歯肉辺縁から歯周ポケット底部までのプロービング ポケット デプス(PPD)と、セメントエナメル境から歯周ポケット底部までのクリニカル アタッチメント レベル(CAL)を測定することで評価した。

     ベースライン時における参加者の平均年齢は64.5±10.3歳であり、歯周病が進行した対象者58人(26.1%)が含まれた(進行群)。歯周病進行群と非進行群のベースライン時点での比較では、性別が男性であること、年齢が高いこと、現存歯数が少ないこと、PPDとCALが深いこと、喫煙者、高血圧、cIMTの厚さ、cIMTが1mm以上の者の割合、およびCAVIの値に有意な差が認められた。

     3年間の追跡調査におけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)の変化を調べたところ、CAVIの値は歯周病進行群(P<0.001)、非進行群(P=0.007)でともに有意に増加していたが、CAVIが8以上の者の割合は進行群でのみ62.1%から81.0%へ有意に増加していた(P=0.024)。

     次に、年齢と性別を調整した上で、多重ロジスティック回帰分析を実施し、アテローム性動脈硬化(前述の通りcIMT、ABI、CAVIによって定義)に対する歯周病進行のオッズ比(OR)を算出した。その結果、cIMTが1mm以上であった群は歯周病進行のORが有意に高かった(OR2.35、95%信頼区間〔CI〕:1.18, 4.70、P<0.05)。この有意傾向は、喫煙状況や高血圧などの追加の共変量を調整した後も維持された。

     また、多重線形回帰分析により、ベースラインにおけるアテローム性動脈硬化指標(cIMT、ABI、CAVI)とPPDおよびCALの変化との相関を検証した。年齢および性別で調整した結果、CAVIはCALの変化と正の相関(β=0.046、95%CI:0.008, 0.083、P=0.017)を示し、ABIはPPDの変化と負の相関(β=-0.667、95%CI:-1.237, -0.097、P=0.022)を示した。この有意傾向は、すべての共変量を調整した後も維持された。

     本研究の結果について著者らは、「本研究より、日本の地域在住の中高齢者において、歯周病の進行とアテローム性動脈硬化が有意に関連していることが示唆された。従って、潜在性のアテローム性動脈硬化を予防することで、歯周病の状態を改善できる可能性がある。」と述べている。

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    心不全のセルフチェックに関連する基本情報。最善は医師による診断・診察を受けることが何より大切ですが、不整脈、狭心症、初期症状の簡単なチェックリスト・シートによる方法を解説しています。

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    HealthDay News 2025年6月2日
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  • AIは眼科医の緑内障診断に影響を与える

     近年、人工知能(AI)による画像診断アルゴリズムは眼科疾患の診断精度を向上させているが、医師の判断に影響を及ぼし、バイアスを引き起こす可能性もある。今回、眼底写真に基づく緑内障診断において、AIの診断結果は医師の判断に影響を及ぼすという研究結果が報告された。特に、経験の浅い医師ほどAIの診断結果の影響を受けやすいことが示されたという。研究は、山梨大学医学部眼科学教室の柏木賢治氏らによるもので、詳細は「PLOS One」に4月16日掲載された。

     緑内障は自覚症状が少ない場合が多く、疾患による障害は不可逆的であるため、早期発見が極めて重要だ。近年、緑内障の診断においてAIが有用であることを示す研究報告が多数発表されている。しかし、AIの利用が拡大するにつれ、眼科医の診断がAIの結果に影響を受け、診断を誤ってしまう可能性も懸念される。実際、皮膚病変の診断においてAIが誤診した際、その診断に異議を唱える皮膚科医は少なかったとの報告がある。一方、緑内障に関しては、AIの診断が医師の判断に及ぼす影響について十分な検証が行われてこなかった。こういった背景を踏まえ、著者らは眼底写真を用いた緑内障の検出および重症度評価に対するAIの影響を検討した。

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     本研究では、2021年1~6月の間に山梨大学医学部附属病院眼科を受診した40~70歳の患者の眼底写真が用いられた。画像は各30枚ずつ正常眼、軽度緑内障眼、中等度緑内障眼、重度緑内障眼の4つの重症度に振り分けられた。画像評価には45名の眼科専門医(臨床経験5年以上)および眼科研修医(臨床経験2年以内)が参加した。

     45名の眼科医は、まず4つの重症度分類に属する画像(各分類30枚、計120枚)をランダムに提示され、その重症度を評価した。この試験より少なくとも1週間後に、2回目の試験を行った。2回目の試験では眼底画像の横に「AIによる診断結果」を追記し、同様に重症度の評価を行った。この「AIによる診断結果」には意図的に誤った情報が30%含まれた。群間比較の有意水準はP<0.05とした。

     全参加者の1回目の試験の正答率は48.4±24.8%だったが、2回目の試験では59.6±20.3%となり、その正答率は大幅に改善された(P<0.001)。正答率の改善は、専門医(8.6±11.4%)よりも研修医(14.2±19.0%)で大幅に大きくなっていた(P=0.04)。

     次に、「AIによる診断結果」の正誤別の正答率を比較した。全参加者のAI診断が正しかった場合の正答率(63.9±20.6%)は、誤っていた場合(47.9±26.6%)よりも大幅に高くなっていた(P<0.0001)。研修医と専門医に分けて比較したところ、研修医では、AI診断が正しかった場合の正答率(66.5±18.5%)は、誤っていた場合の正答率(41.5±18.5%)よりも大幅に高かった(P<0.0001)。一方専門医では、AI診断が正しかった場合と誤っていた場合の正答率の変化は研修医よりも軽度であった(62.3±22.4% vs 52.7±27.1%、P=0.017)。

     また参加者の画像診断にかかる時間を調べたところ、参加者全体で1回目の試験(10.8±4.3秒)よりも2回目の試験(9.0±2.5秒)で有意に短縮されていた(P=0.0005)。この傾向は、専門医より研修医で顕著に認められた。AIが正答を示した場合(8.2±2.0秒)に比べて誤答を示した場合(9.7±2.7秒)の方が回答時間は有意に長かった(P=0.003)。

     本研究の結果について著者らは、「今回の結果から、AIによる診断が眼科医の診断に影響を与える可能性が示唆された。AI診断の正誤に関わらず、研修医の診断にかかる時間は専門医よりも短かった。これは、研修医がAIの判断に頼りがちになることを示しているのかもしれない。医師は、AIの診断システムが完全ではないことを十分に理解したうえで、適切に活用することが重要である」と述べている。

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    HealthDay News 2025年6月2日
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