降圧治療後の血圧管理に地域差、医療専門職の偏在が背景か

 高血圧は脳心血管疾患の最大のリスク因子であり、治療によりそのリスクを低減できる。しかし、今回、全国の健診データを解析した結果、高血圧の降圧治療を受けた患者でも血圧管理の達成割合には都道府県間で地域差があることが分かった。その背景には、医師や薬剤師といった医療専門職の地域偏在が影響している可能性が示唆されたという。研究は東北医科薬科大学医学部衛生学・公衆衛生学教室の岩部悠太郎氏、佐藤倫広氏、目時弘仁氏らによるもので、詳細は11月18日付で「Hypertension Research」に掲載された。

 日本国内の高血圧人口は、潜在患者を含め約4300万人と推定される。降圧治療で血圧管理は可能だが、依然として目標値に達していない患者が多い。この治療ギャップは医師が目標超過でも治療を強化しない「臨床イナーシャ(clinical inertia)」が一因とされる。治療開始前の血圧や地域ごとの医療資源の偏在も血圧の管理達成割合に影響する可能性がある。「高血圧管理・治療ガイドライン2025」では全年齢で推奨する降圧目標を130/80mmHg未満としており、実態把握の重要性が高まっている。しかしながら、降圧治療後の血圧管理に地域差がどれほどあるのか、また医療資源との関連は十分に調べられていなかった。そこで本研究では、全国健康保険協会(協会けんぽ)の健診データを用い、治療前後の血圧変化と地域差を詳細に検討した。

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 本研究では、協会けんぽデータベースを用い、2015年4月1日~2023年3月31日までに収集された健診データを用いた。対象は、継続的な健康診断に基づき降圧治療を開始した40~74歳までの131万8,437人とした。治療後の血圧管理達成割合(収縮期/拡張期血圧が130/80mmHg未満と定義)については、都道府県ごとの差を評価した。さらに、都道府県単位の生態学的分析により、調整後の血圧管理達成率と脳血管疾患の死亡率、そして医師偏在指標(人口10万人あたりの医師数)を含む6つの医療資源指標との関連を検討した。

 治療開始前の患者の平均年齢は55.2歳で、71.1%が男性だった。血圧管理の達成率は全国平均でわずか26.7%にとどまった。この達成率は都道府県間で最大10.2%の差があった。患者の性別、年齢、BMI、健康診断の検査値、高血圧治療ガイドライン2019改訂前後、治療前健診時収縮期血圧値などで調整したが、依然として最大7.4%の血圧管理達成割合の地域差が認められた。

 次に、患者特性で調整した都道府県ごとの血圧管理達成割合を指標として、生態学的分析を行った。その結果、男女ともに血圧管理達成割合が高い都道府県ほど、年齢調整後の脳血管死亡率が低い傾向にあった。血圧管理達成割合が1%増加するごとに、年齢調整死亡率は男女ともに人口10万人当たり3.5人減少することが示唆された。

 さらに、医療資源との関連を重回帰分析で検討した。説明変数には、医師偏在指標、外来での24時間自由行動下血圧測定の算定回数、1日平均外来患者数、各都道府県の保険料率、特定健診受診率、病院病床数などを用いた。その結果、血圧管理達成割合と有意に関連していたのは医師偏在指標のみだった(P=0.0015)。医師偏在指標を病院薬剤師偏在指標に置き換えても、同様の結果が得られた(P=0.0023)。

 著者らは、「本研究で観察された血圧管理の地域差は、医師や病院薬剤師などの医療従事者の地域偏在と関連する可能性が示された。高血圧を専門とする医師による管理が目標達成に結び付くことが報告されている一方で、診療の大半を担う一般医のもとでいかに血圧コントロールを改善できるかが重要である」と述べている。

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HealthDay News 2025年12月22日
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